ケトジェニックダイエットと双極性障害(双極症):脳の健康への新たなアプローチ

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糖質制限から始まる、心と体の変革

「ケトジェニックダイエット」という言葉を良く聞くようになりました。このダイエット法は、単なる体重管理だけでなく、脳の健康にも良い影響を与える可能性があると言われています。特に、てんかんから双極性障害(双極症)まで、さまざまな神経系の疾患に対する効果が研究されています。

ケトジェニックダイエットとは?

ケトジェニックダイエットは、糖質を極端に制限し、代わりに脂質を多く摂取する食事法です。通常、カロリーの70-80%を脂質から、20-25%をタンパク質から、5-10%を炭水化物から摂取します。これにより、体はケトーシス状態に入り、エネルギー源として糖質ではなくケトン体を利用するようになります。この状態が、脳に良い影響を与えると考えられています。

ケトジェニックダイエットの具体的実践方法

ケトジェニックダイエットは一般的に以下のような方法が取られます。

  1. 炭水化物を極限まで制限(1日20-50g程度)
  2. 脂質を積極的に摂取(カロリーの70-80%)
  3. タンパク質は適度に(カロリーの20-25%)
  4. 主な食材:
    • 肉類、魚介類
    • 卵、チーズ、バター
    • アボカド、ナッツ類
    • 低糖質野菜(葉物野菜など)
  5. 避けるべき食品:
    • 穀物類(米、パン、麺類)
    • 果物(少量のベリー類は可)
    • 砂糖を含む食品
  6. 十分な水分摂取を心がけます。
  7. 必要に応じてサプリメントを検討(電解質、ビタミンなど)
  8. 開始前に医師に相談し、定期的な健康チェックを行います。

注意:個人の健康状態や目的に応じて調整が必要です。

というような少々極端な方法ではあります。しかし脳関連の病気に関して実際に医療機関で適用されている方法であるのも事実です。

てんかん治療からの出発

ケトジェニックダイエットの医療応用は、まずてんかん治療から始まりました。2008年の研究「The ketogenic diet for the treatment of childhood epilepsy: a randomised controlled trial」では、小児てんかん患者にケトジェニックダイエットを実施したところ、発作の頻度が有意に減少したことが報告されています。この研究では、3か月間のケトジェニックダイエット実施後、38%の患者で発作が50%以上減少しました。

日本の国立精神・神経医療研究センター(NCNP病院)でも、てんかんとケトン食の関連性について言及されています。ケトン食療法は、特に薬剤抵抗性てんかんに対して効果的であると報告されています。

神経保護効果の可能性

2021年の研究「Neuroprotection by the Ketogenic Diet: Evidence and Controversies」では、ケトジェニックダイエットがアルツハイマー病などの神経変性疾患に対して神経保護効果を持つ可能性が示唆されました。この研究では、ケトン体が脳のエネルギー代謝に与える影響や、抗炎症効果について詳細な検討が行われています。

ケトン体は脳内の抗酸化作用を高め、ミトコンドリアの機能を改善し、神経伝達物質のバランスを整えることで、神経保護効果を発揮する可能性があると報告されています。

双極性障害(双極症)への応用

最新の研究では、双極性障害(双極症)に対するケトジェニックダイエットの効果が注目されています。2023年のパイロット研究「Pilot study of a modified ketogenic diet in euthymic bipolar disorder」では、双極性障害の安定期(ユーサイミア)にある患者を対象に6-8週間のケトジェニックダイエットを試みました。

この研究では、27人の参加者のうち20人が6-8週間のダイエットを完了しました。結果は以下の通りです。

  1. 気分の改善:参加者の多くが気分の安定化を報告しました。特に、軽躁状態や抑うつ状態の症状が軽減したとの報告がありました。
  2. 認知機能の向上:一部の参加者が、集中力や記憶力の向上を経験しました。
  3. エネルギーレベルの上昇:多くの参加者が、日中のエネルギーレベルが向上したと報告しました。
  4. 睡眠の質の改善:いくつかのケースで、睡眠の質が向上したとの報告がありました。
  5. 体重減少:多くの参加者で体重減少が観察されました。これは双極性障害の薬物療法による体重増加の副作用を相殺する可能性があります。
  6. 副作用:報告された副作用は軽度で調整可能でした。主な副作用には、初期の疲労感、便秘、軽度の頭痛などがありました。

この研究結果は、ケトジェニックダイエットが双極性障害(双極症)の症状管理に潜在的な効果があることを示唆しています。ただし、これはあくまでもパイロット研究であり、より大規模な研究が必要であることに注意が必要です。

個人的な体験から

双極性障害(双極症)の鬱期に体重が増加し、糖質制限ダイエットを始めた筆者は、結果的にケトジェニックダイエットに近い食生活を送っていました。最近、頭も身体も調子が良いと感じているのは、このダイエットの効果かもしれません。

実際、多くの双極性障害(双極症)患者が、ケトジェニックダイエットによって気分の安定化や認知機能の向上を経験したと報告しています。ただし、これらの個人的な体験は科学的な証明ではないため、慎重に解釈する必要があります。

双極性障害(双極症)の症状改善につながる可能性があります。

注意点

ケトジェニックダイエットには反対意見もあります。また、現在の日本の医療では、双極性障害(双極症)に対する一般的な治療法としては確立していません。医師の指導の下で適切な治療を受けることが重要です。

ケトジェニックダイエットを始める前に、以下の点に注意が必要です。

  1. 医師との相談:既存の治療や薬物療法との相互作用を確認する必要があります。
  2. 栄養バランス:極端な食事制限は栄養不足を引き起こす可能性があります。
  3. 副作用:初期段階で「ケトフル」と呼ばれる症状(頭痛、疲労感など)が現れることがあります。
  4. 持続可能性:長期的に継続できるか慎重に検討する必要があります。

まとめ

ケトジェニックダイエットは、双極性障害(双極症)を含む様々な神経系疾患に対して潜在的な効果を持つ可能性があります。てんかんでの成功例や最近の研究結果は、この食事療法が脳の健康に良い影響を与える可能性を示唆しています。

特に双極性障害(双極症)に関しては、気分の安定化、認知機能の向上、エネルギーレベルの上昇などの効果が報告されています。しかし、これらの結果はまだ初期段階の研究に基づいており、より大規模で長期的な研究が必要です。

ケトジェニックダイエットを検討する際は、必ず医療専門家と相談し、個々の状況に応じた適切なアプローチを見つけることが重要です。この食事療法は従来の治療法に代わるものではなく、補完的なアプローチとして考えるべきでしょう。

今後の研究により、ケトジェニックダイエットの双極性障害(双極症)に対する効果がさらに明らかになることが期待されます。同時に、個々の患者にとっての安全性と有効性を慎重に評価していく必要があります。

参考URL

  1. The ketogenic diet for the treatment of childhood epilepsy: a randomised controlled trial https://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(08)70092-9/fulltext
  2. NCNP病院 てんかんとケトン食について https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/special/epilepsy-column_11.html
  3. Neuroprotection by the Ketogenic Diet: Evidence and Controversies https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnut.2021.782657/full
  4. Pilot study of a modified ketogenic diet in euthymic bipolar disorder https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37814952/
  5. ケトジェニックダイエットに関する反対意見 https://www.kanro.co.jp/sweeten/detail/id=1975
  6. The ketogenic diet for bipolar disorder: A systematic review https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165032720328160
  7. Ketogenic diet in bipolar illness https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165032712007769

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この記事を書いた人

双極性障害Ⅱ型の当事者「ハック "Hack"」と言います。私自身の安定のためにも、「ハック」を収集しています。この病気は一生続きます。だから皆の知恵を集めて知りたい。知ることが必ずしも治療を意味しないかもしれません。でも、より良い安定への道を照らすかも。みんなで学び、共感し、サポートし合いたいです!

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