双極症患者のための認知行動療法(CBT)
心理社会的支援を活用した回復への道のり
双極症(双極性障害)の治療において、とても重要な役割を果たす「認知行動療法(CBT)」について、詳しくお話ししていきたいと思います。
先日実施したXユーザー調査では、認知行動療法の認知度が86.8%と非常に高いことがわかりました。しかし、「名前は知っているけれど、実際にどんなことをするのかわからない」という声も多く聞かれました。特に双極症の患者さんやご家族の方々から、具体的な内容を知りたいという要望が寄せられています。
双極症治療における認知行動療法とは
認知行動療法(CBT)は、双極症の治療において薬物療法と並ぶ重要な治療法の一つです。私はよく、これをRPGゲームの「盾とポーション(回復薬)」に例えて説明しています。ただし、即効性のある魔法のポーションではなく、じっくりと効果を発揮する漢方薬のようなものです。継続的に取り組むことで、心の免疫力を高めていく治療法といえるでしょう。
実は、認知行動療法は単なる「カウンセリング」とは少し異なります。この治療法では、私たちの「考え方(認知)」と「行動」に焦点を当て、それらを少しずつ改善していくことで、結果として「感情」や「身体の状態」を良い方向に導いていきます。
双極症に特化した認知行動療法の特徴
双極症の方に対する認知行動療法には、いくつかの特徴的なアプローチがあります。最も重要なのは「症状モニタリング」です。これは、気分の波を日記のように記録していく作業です。一見、単純な作業に思えるかもしれませんが、この記録によって自分の状態の変化に早めに気づけるようになります。
例えば、躁状態に入る前には、「睡眠時間が徐々に減っている」「やりたいことが急に増える」といった前触れがあることが多いものです。これらの変化に早めに気づくことで、適切な対処が可能になります。
また、双極症の方にとって、規則正しい生活リズムの維持はとても重要です。認知行動療法では、睡眠時間を整えることから、日中の活動の調整まで、細かくサポートしていきます。「今日は気分が良いから夜更かしして作業しよう」という誘惑との付き合い方も、ここで学んでいきます。
具体的な対処法を身につける
認知行動療法の具体的な技法として、まず「認知再構成法」があります。これは、「どうせ私には無理」「また失敗する」といった思考パターンを、より現実的で建設的な考え方に変えていく方法です。特に双極症の方は、気分の波によってこうした考え方が強く影響を受けやすいため、この技法が重要になってきます。
例えば、うつ状態の時によく見られる「何をやっても無駄だ」という考えに対して、「今は調子が悪いだけで、薬の効果と休養で必ず良くなる」という、より現実的な考え方に置き換える練習をします。
また、「行動活性化」という技法も効果的です。これは特にうつ状態の時に重要で、少しずつ活動量を増やしていくことで気分の改善を図ります。大事なのは、無理のない小さな目標から始めることです。「今日は10分だけ散歩する」「洗濯物を干す」といった、達成可能な目標から始めていきます。
実践的なアプローチ
双極症の方への認知行動療法では、躁状態とうつ状態、それぞれに対する具体的な対処法を学んでいきます。例えば、躁状態で買い物が増えそうな時は、「24時間ルール」(欲しい物があっても24時間待ってから購入を決める)といった具体的な対処法を実践します。
うつ状態で布団から出られない時は、「5分ルール」(まずは5分だけ起き上がってみる)から始めて、少しずつ活動を増やしていく方法を学びます。これらの方法は、一人一人の生活状況に合わせて調整していきます。
治療を始めるには
認知行動療法を始めるには、まず主治医に相談することをお勧めします。保険適用となる場合もありますので、相談してみましょう。また、職場復帰を目指している方は、リワークプログラムでCBTを学ぶこともできます。
最近では、スマートフォンアプリを活用する方法も増えてきています。私自身、「Awarefy」というCBTアプリを活用していますが、継続的な使用で効果を実感しています。
おわりに
認知行動療法は、双極症の方々にとって、とても心強い味方となります。即効性は期待できませんが、継続することで確実に効果を実感できる治療法です。ただし、これはあくまでも薬物療法を補完する治療法です。必ず主治医と相談しながら、ご自身に合った形で取り入れていってください。
私たちの生活は、考え方と行動の積み重ねでできています。その一つ一つを少しずつ良い方向に変えていくことで、症状との付き合い方も変わっていきます。焦らず、じっくりと取り組んでいきましょう。