ISBD2025_世界の舞台で「当事者がつくる心理教育」について発表しました

布団ちゃん

こんにちは。ネット心理の布団ちゃんこと木野内南です。
私は認定専門公認心理師、社会福祉士、そして双極症の当事者です。

2025年9月国際双極症学会(ISBD)で発表した内容の報告を、まだしていなかったので、かなり遅い報告になりますが記事にいたします。
今回の記事では、ネット心理教育の活動や、心理教育についてを話した報告をします。

それとは別で、ウーマン・イニシアチブの登壇の記事はこちらです。

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ウーマン・イニシアチブ」は双極症について取り組む or 双極症を持つ当事者や研究者、臨床家が「女性と双極症」にまつわる課題や経験を共有する場で、海外の先生方と一緒に議論できた貴重な機会でした。

目次

日本の双極症当事者団体の活動とこれから

さて、今回の記事では「日本の双極症当事者団体の活動とこれから」に関するシンポジウムでの発表について報告します。

国際双極症学会はもちろん毎年世界の様々な場所で開催されますが、今年は日本で開催されたので、「日本の双極症当事者団体の活動とこれから」というテーマのシンポジウムが企画されたのだと思います。

一緒に登壇した先生は、ノーチラス会の理事長の鈴木 映二先生、双極はたらくラボ編集長の松浦 秀俊さんです。

座長と共同座長は、埼玉医科大学の松尾 幸治先生、杏林大学の渡邊 衡一郎先生です。

双極はたらくラボの松浦さん目線でのシンポジウムの記録はこちらのnoteから!

国際双極症学会レポ(後編)- 人生初の英語プレゼンと、その先に見えたもの

note(ノート)
国際双極症学会レポ(後編)- 人生初の英語プレゼンと、その先に見えたもの|松浦秀俊 / 双極はたらくラボ... このnoteは2025年9月24日のvoicyの音源、「双極ラジオ〜躁うつでゆるりと働く〜」の内容をもとに作成しています。 前回に続き、「国際双極症学会」のレポートをお届けしま...

ネット心理教育の10年

前置きが長くなりましたが、木野内目線の内容に入っていきましょう。

国際双極症学会(ISBD2025)にて、ネット心理教育の取り組みについて発表する機会をいただきました。今回の登壇は、私たちが約10年間続けてきた活動を、国際的な場で初めて体系的に共有できた大きな節目となりました。

私は、公認心理師社会福祉士博士課程の大学院生であると同時に、双極症の当事者でもあります。こうした複数の立場を率直に語ることは、海外の研究者にも関心をもって受け止められ、当事者が専門家として発信することの意義を改めて実感しました。

ネット心理教育の活動は、薬剤師の藤田(まどっち)が精神科の薬物療法についてオンラインで情報発信をしていた時期に始まりました。2017年頃に、木野内(布団ちゃん)が心理・社会的側面を組み合わせたいと提案したことが大きなきっかけとなり、やがて現在の形へと発展していきました。

2019年には、バルセロナ・プログラム(”Psychoeducation Manual for Bipolar Disorder”)をもとに、日本の医療制度や生活文化に合うよう内容を調整し、体系的な心理教育をオンラインで提供し始めました。2023年にはNPOとして法人化し、2025年の国際双極症学会(ISBD)での発表は、活動の国際的な展開に向けた第一歩となりました。

どうしてオンライン?

オンラインで提供する意義は、日本における心理教育のアクセスの偏りと深く関係しています。外来診察の時間には限りがあるため、心理教育に十分な時間を割くことが難しく、デイケアでは複数の精神疾患の患者を集めてでのプログラムが多いため、双極症に特化した学びが得にくい状況があります。地域によっては心理教育のプログラムそのものが存在しないケースもあります。こうした「必要な知識が届かない」という状況を補う手段として、オンラインで標準化された内容を提供することには大きな意味があると考えています。

私たちは当初、バルセロナ・プログラムに沿って21回のプログラムを実施していました。しかし、気分や体調の変化が大きい双極症の当事者にとって、約6ヶ月の長期間にわたり定期的に心理教育に参加し続けることは難しいことだと痛感しました。

その経験を踏まえ、2025年からは全8回構成の短縮版を新たに設計しました。講義とグループワークを組み合わせ単発での参加がしやすくなったことで、参加率は上がりました。また、毎回のプログラム後に自由参加の交流時間を設け、より自然に参加者同士がつながれるよう工夫しました。

グループワークでは、「それ、私も!」という気づきがよく起こります。症状のきざし生活リズム薬の飲み方などを語り合う中で、同じ経験を持つ人の言葉が、医学的な説明よりも深く届く場面があります。また、ファシリテーターも当事者であるため、治療に対する揺れや生活上の不安など、医療者には話しにくいことも率直に語られやすくなります。こうした「当事者性に根ざした安心感」は、ネット心理教育の大きな強みになっています。

参加者の中には、「自分も活動に関わりたい」と声をあげてくださる方が少なくありません。知識を学び、日常生活で試し、その効果を実感した人が、今度は同じ悩みを持つ誰かの力になりたいと願うことがあります。こうした自然な流れの中でスタッフが増えていき、現在のNPOの体制が形作られました。YouTubeのサムネイル作成、広報、共同ファシリテーション、研究発表への挑戦など、スタッフが担う役割は多様で、オンライン活動で得たスキルが日常生活や仕事にも活きているという声も増えています。

ネット心理教育の特徴

藤田と木野内の協働は、生物(Bio)、心理(Psycho)、社会(Social)の三つの視点が結びついた「バイオ・サイコ・ソーシャルモデル」そのものです。

当事者としての経験と専門職としての知識が重なり合うことで、単なる情報提供ではなく、生活に根ざした「知識の実践」を伝えられると感じています。

YouTubeで公開している25本の心理教育動画は、複数のデイケアで教材として利用されており、医療機関側の負担を軽減しながら、質の高い心理教育を提供するための現実的なツールとなりつつあります。最近では英語版の動画公開も始め、国際的な利用可能性も広がっています。

おわりに

今回の発表を通して、ネット心理教育は単なる知識伝達の場ではなく、「当事者が学び、支え合い、自らの経験を次の人へ渡していく場」であることを改めて確認しました。

今後は、双極症の方々へ継続して心理教育を届けること、医療者や一般の方々にその重要性を広く知っていただくこと、そしてグループ心理教育の価値を社会に認識してもらうことを目指して活動を進めてまいります。

写真

左から
共同座長: 渡邊 衡一郎 先生(杏林大学 教授、日本うつ病学会 理事長)
登壇者:鈴木 映二 先生(東北医科薬科大学 教授、ノーチラス会 理事長)
登壇者:松浦 秀俊さん(株式会社リヴァ、双極はたらくラボ 編集長)
登壇者:木野内 南 (名古屋大学、NPO法人ネット心理教育ピアサポート)
座長:松尾 幸治 先生(埼玉医科大学 教授、ISBD 理事)
コメント:Andrea Vassilev 先生(ISBD 理事、当事者専門職;Experts by Experience)

Eduard Vieta 先生
『双極性障害の心理教育マニュアル』(バルセロナ・プログラム/Psychoeducation Manual for Bipolar Disorder)の先生!! 握手してもらえたし、日本のプチお土産も渡せました。きゃー! ってお気持ちです。

アンドレアと松浦さんと。
今回のISBD参加の全てのきっかけは、双極症の当事者で心理学者のアンドレアに情熱的な自己紹介のメールを送ったことでした。
ちょっとだけテンション高いことは、たまに役にたつこともある。もちろん高すぎるとトラブルの元でしかない。

お疲れ様の夜ご飯。飲み会ではなく、夜ご飯。
この学会中は、松浦さんが適度に&意識的に休憩を取っているのを見て、とても嬉しい気持ちになった。松浦さんも普通に人間なんだと思った。布団ちゃんも真似っこして、大会の会期中、休憩いっぱい取った。

運営団体

NPO法人ネット心理教育ピアサポート

双極症や他の精神疾患をもつ当事者・ご家族に向けて、オンラインでの情報提供や心理教育を行っています。

公式サイト:https://shinrikyoiku.com/

YouTube:https://www.youtube.com/@shinrikyoiku

X:https://x.com/shinrikyoiku

注意事項

本コラムは、双極症に関する経験や知識をもとに執筆されたものであり、すべての方に当てはまる内容ではありません。個別の診断や治療については、必ず主治医等の専門家とご相談ください。

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この記事を書いた人

NPO法人。ネット心理教育では、双極性障害の知識や治療法の情報をYouTube動画とZoomのグループワークで広めています。心理教育とは、病気や治療に関する知識を身につけ『生きる力』にするための心理療法の一つです。

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