双極症(双極性障害)治療におけるマインドフルネスの効果:新たな希望の光
双極症(双極性障害)を抱える方々にとって、日々の症状管理は大きな課題です。従来の薬物療法に加え、近年注目を集めているのが心理社会的支援の一つ、マインドフルネスです。この記事では、マインドフルネスが双極症治療にもたらす可能性について、研究結果と共に探っていきます。
マインドフルネス:認知行動療法から生まれた心理社会的支援
マインドフルネスは、現在の瞬間に意識を向け、判断を加えることなく自分の思考や感情、身体感覚に気づきを向ける心の練習法です。元々は仏教の瞑想法に由来しますが、現代では科学的なアプローチとして認知行動療法の一部に取り入れられています。
双極症の治療において、マインドフルネスは薬物療法を補完する心理社会的支援として注目を集めています。特に、マインドフルネスに基づく認知療法(MBCT)が、双極症患者の症状改善に効果を示しているのです。
マインドフルネスの効果:研究が示す希望の光
複数の研究結果から、マインドフルネスが双極症(双極性障害)の治療に有効であることが示唆されています。特に注目すべき点は以下の通りです。
- 鬱症状の改善:双極症Ⅰ型、Ⅱ型いずれにおいても、マインドフルネスが鬱症状を軽減する効果が報告されています。例えば、2020年に発表された実現可能性試験では、MBCTが双極性障害の鬱症状を持つ患者にも実行可能な方法論であることが示されました。
- 認知機能の向上:2011年の研究では、MBCTが双極症患者の認知機能改善に寄与することが示されました。この研究では、MBCTが双極性障害の鬱症状の改善に効果的であり、認知機能の向上にも寄与することが結論付けられています。
- 生活の質の向上:2022年に発表された研究では、マインドフルネスの実践が双極症患者の全体的な生活の質を向上させる可能性が示唆されました。特に、マインドフルネスが鬱症状の改善と生活の質向上に寄与することが明らかになりました。
- 躁症状への影響:躁症状に関しては、研究結果が分かれています。一部の研究では限定的な効果が示されていますが、全体的にはまだ確定的な結論に至っていません。例えば、日本で行われた研究では、マインドフルネス介入が双極性障害の鬱症状および躁症状の両方に効果があることが示唆されています。
これらの研究結果は、双極症を長期にわたって経験している方々にとって、新たな治療法としてのマインドフルネスの可能性を示唆しています。特に鬱症状に対しては一貫して改善の効果が見られ、希望をもたらす結果となっています。
日常生活にマインドフルネスを取り入れる
マインドフルネスを双極症(双極性障害)の管理に役立てるため、以下の5つのステップを日常生活に取り入れることができます。
- 体を意識する:呼吸に注意を向け、体の各部位に意識を集中させることで、自分の身体をより深く理解し、リラックスします。
- 感覚を観察する:触覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚を通じて得られる情報に意識を向けます。これにより、現在の瞬間に焦点を合わせ、ストレスを減少させることができます。
- 思考に気づく:自分の考えや感情を観察し、それらが一時的なものであることを認識します。これにより、感情や考えに振り回されることなく、客観的な距離を保つことができます。
- 行動を選択する:自動反応ではなく、意識的な選択をすることで、自分の行動に対するコントロールを高めます。
- 現在の瞬間に意識を向ける:意図的に姿勢を正し、現在の瞬間に意識を集中させます。「今、私の経験は何か」を考え、思考、感情、身体の感覚に注意を向けます。
さらに、トロント大学の心理学教授、ジンデル・V・シーガル博士が考案した3ステップの瞑想法も効果的です:
- 意識を現在に向ける:直立で堂々とした姿勢をとり、目を閉じて現在の瞬間に意識を集中させます。
- 呼吸に集中する:呼吸に完全に注意を向け、一つ一つの吸い込みと吐き出しに意識を集中します。
- 意識の範囲を体全体に拡大する:呼吸を中心に意識の範囲を広げ、体全体、姿勢、顔の表情を含めるようにします。
マインドフルネスを始めるには
マインドフルネスを始めるのは、思ったより簡単です。YouTubeで「マインドフルネス」と検索すると、3分程度の短い動画も含め、多くの実践ガイドを見つけることができます。初心者にとっては、これらの短い動画から始めるのが良いでしょう。
また、「Awarefy」のような認知行動療法アプリを使用することで、日常的にマインドフルネスを実践することができます。AIがリマインドしてくれるので、継続的な実践に役立ちます。
筆者自身も、当初はマインドフルネスに懐疑的でした。しかし、実際に試してみると、その効果に驚かされました。科学的なエビデンスに裏付けられたこの手法は、双極症(双極性障害)を抱える方々に新たな希望をもたらす可能性があります。
まとめ
マインドフルネスは、双極症(双極性障害)の治療において効果を示しています。特に鬱症状の改善に効果があり、認知機能の向上や生活の質の改善にも寄与する可能性があります。日々の生活にマインドフルネスを取り入れることで、症状の管理や全体的な well-being の向上が期待できます。
ただし、個々の状況に応じて医療専門家と相談しながら、適切に実践することが重要です。マインドフルネスは既存の治療法を補完するものであり、決して置き換えるものではありません。
双極症(双極性障害)との付き合い方は人それぞれですが、マインドフルネスという新たなツールを持つことで、より良い生活を送るためのサポートとなるかもしれません。ぜひ、一度試してみてはいかがでしょうか。
参考文献
- Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Bipolar Disorder: Effects on Cognitive Functioning
- Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Bipolar Disorder: A Feasibility Trial
- Mindfulness, mood symptom tendencies and quality of life in bipolar disorder: An examination of the mediating influence of emotion regulation difficulties
- マインドフルネスに基づく介入が双極性障害に及ぼす効果
- Body & Brio: Relaxed in the Moment