みんなもう読んだ?!『躁うつの波と付き合いながら働く方法』
こんにちは。ネット心理教育のまどっちです。
今日は皆様に、双極はたらくラボなどでご活躍なさっている松浦秀俊さんのご著書である
『ちょっとのコツでうまくいく! 躁うつの波と付き合いながら働く方法』の感想を書きたいと思います。
躁うつの波と付き合いながら働く方法
このタイトルは、まさに、本を届けたい当事者にダイレクトに伝わると思いました。
今まで双極症関連の解説書で「働くこと」にスポットを当てた書籍といえば、秋山剛先生著・編の『「はたらく」を支える! 職場×双極性障害』だけだったように思います。
『躁うつの波と付き合いながら働く方法』の著者である松浦氏も、前述の書籍をバイブルにしていたと記憶しています。
『「はたらく」を支える!〜』の書籍は、双極症の当事者を雇用する側などを対象に、職場での対応などが書かれていたのに対して、『躁うつの波と付き合いながら働く方法』では、双極症の当事者が働く上で取り組む内容が書かれています。
また、本書では各章の冒頭には松浦氏を表した人物の漫画があり、とっかかりがつかみやすくなっています。
また時々松浦氏の1人称での説明や当事者のコラムが入るのも親しみが湧き、各テーマをリアルに考えることができました。本文は全ての記述の重要箇所にグレーの傍線が引かれており、ポイントの理解の助けになるでしょう。
以下、各章について解説します。
序章
混合状態の一日の例が時間の経過で示されているのは初めて見ました。
あまり知られていませんが双極Ⅱ型の人の混合状態の比率は軽躁状態よりも高いので、この言及は参考になると思います。
躁やうつの説明は多いのですが、混合状態の具体的経過の説明はレアだと思います。
また、躁状態と混合状態が1日の流れを図示しているのに対し、
うつ状態については1週間の流れになっているところなど当事者の感覚、実情をよく反映したものになっています。
双極症の病態についての丁寧な分析を感じます。
第1章 双極症とはどんな病気か
双極症について読者である当事者はだいたい知っていることを想定したうえで、教科書的な話の進め方ではなく、今まで当事者も気になってはいたけれど、書籍では言及されていなかった疑問点を含め端的にまとめられています。
例えばほとんどの当事者は気分の不調を周囲に訴えると「そんなの誰にでもあるよ」などと言われ戸惑った経験があるかもしれません。この問題について最初のセクション『気分の浮き沈みと双極症の違い』でその答えが簡潔に説明されていたりします。
さらに『双極症の診断は難しく時間がかかりやすい』のはなぜか? 具体的には「最初うつ病と診断され後に双極症と診断名が変わった。診断がつくまで10年以上かかった。もっと早く診断してほしかった」と感じている方へ説明されています。
現在双極症の認知度は徐々に広がっているそうです。双極症の治療についても従来の薬物療法に加え、次第に注目されるようになってきた再発予防の重要性、心理社会的支援とその種類について丁寧に説明されています。
『双極症への対処法(松浦の場合)』
治療法はやや専門的で具体的なイメージが湧きづらい人もいるかもしれません。
ここでは著者松浦氏の具体例を上げながら、どのように治療をすすめるのかがイメージできました。
うまくいった話ばかりでなく、失敗例、勘違い、ためらいなども隠すことなく記述されており、
成功例ではなくむしろこちらのほうが役に立つのではないかと感じました。
ポイントは、
1.定期的に通院する
2.社会リズムを整える
3.双極トリセツの作成
です。特に双極トリセツの作成は本書の核心であり第4章で詳しく説明されています。
『医師との関わり方を知ろう』
医師との良好な関係を築くことが最初に強調されています。
これは当事者本人が意識しなければいけない事項ですね。
さらにSDM(Shared Dicsision Making:共同意思決定)という最近の精神科治療における概念や、
診察の際メモを取ることなどの受診テクニックまで丁寧に説明されています。
さらに、そもそも医師をどこで見つけるのか? についても本書では、日本うつ病学会双極症委員会のリンクを参照することを推奨しています。
『双極症を抱えながら働いている人は多い』
本書のテーマである『躁うつの波と付き合いながら働く方法』の根拠となる疫学データについて引用し、
就業している当事者は決して珍しくないことが主張されています。
就業している人の職種として、起業家が多いというのも興味深いですね。
働くことに対する不安、人生への否定的な思いにとらわれている当事者にとって救い、そして希望を与えてくれるかもしれません。
『仕事の向き不向きはあるのか?』
非常に気になるテーマです。
ここでは加藤忠史先生の「双極症だからといってどの職業でなければならないということもない」という言葉を引用し説明されています。私もちょっと気持ちが楽になりました。
「双極症に向いている・向いていないではなく、それぞれの方が自分らしい選択ができることが理想」という主張には、激しく共感しました。
『双極症は社会的に後遺症を残す病気である』
後遺症という言葉にはドキッとしてしまいます。
双極症では「社会的後遺症」が問題であり、耳慣れない言葉ですが双極症という病気についての本質を表していると思いました。
この言葉から、人間関係・社会的地位、不本意な転職の増加といった問題に病気として取り組む姿勢の必要性を改めて認識しました。
第2章 躁状態とうまく付き合う
双極症とつきあうための技法が紹介されています。どれも実践的な内容であり効果も期待できるのではないでしょうか。
第2章、第3章については各項目についてタイトルを省略せずに列挙しました。
1.アサーション
2.あえて面倒な手段で連絡してみる
3.周囲に一度相談する
4.1日に予定は1つしか入れない
5・躁に頼らなくてもできる作業を続ける
6.体調や気分でなく実際の仕事量で判断する
7.ペースダウンする前提で前もって計画を立てる
8.「攻めの有給」を取る
9.社内では「ブレストリーダー」になろう
10.余計な発言を防ぐ「脳内コンテスト」のススメ
11.衝動買いをしないよう提案書を作成して判断する
第3章 うつ状態とうまく付き合う
躁状態とつきあう技法と同様に、うつ状態とつきあう技法について列挙しました。
1.人と会う刺激を調整する
2.罪悪感の沼から抜け出す方法
3.「書き出す」と「話す」で不安を軽減する
4.業務を切り分けて無理なく働く
5.自分の記憶力に頼らない
6.すぐに医療機関を受診しよう
2章3章については思い当たることが多く、対処法も自分に当てはまる場合はもちろん、
今はあてはまらなくても必要とされるときに備え、どんなものがあるのかだけでも頭の片隅に入れておくのが良いでしょう。
第4章 「双極トリセツ」をつくる
本書の真骨頂はこのセクションにあると感じました。
2章3章では、躁やうつのいわばワンポイントケアが説明されています。
この章では、双極の症状が時間とともに変化するいわば「波」であることに注目し、
自分自身の精神状態の把握と対処方法を考えます。
まず双極の波とはどのようなものであるのかを理解し、
その上で気分の波が躁にぶれたりうつにぶれる「きざし」を捉え、
その時にどうしたら良いのかを事前に考えておきます。
躁やうつのきざしは人によって違い、そのための対処も人によって違います。
自分用の対処法リストをどのように作り、どう活用するのかがこの章の目標です。
いわゆるワークブック的要素が強いセクションだと感じました。
一見難しそう、あるいは面倒そうに感じる読者もいるかもしれませんが、
ぜひ松浦氏の丁寧な説明を頼りに自分の手を動かして「トリセツ」づくりに取り組んでほしいと思います。
第5章 躁うつの波と付き合いながら生きて行く
最終章では、双極症に関する書籍としては非常に珍しく、
あるいは特異的といえるかもしれない働くこと、人生のとらえ方、人間関係、自分らしい生き方とは?
といった哲学的なテーマについて、松浦氏の率直な考え方、取り組みを主観的に語られています。
こうした抽象的な事項は、病気と向き合う年月、現在の社会的な立ち位置、あるいは年齢によって変化するものであり、
すべての読者に受け入れられるものではないかもしれません。
しかし、松浦氏がご自身の言葉で真摯に語られるこの章を読んで、私は胸が熱くなりました。
まとめ
以上読後の感想を総括すると、一見当事者向けのやさしい入門書に見える本書は松浦氏ご自身の体験や豊富な職場でのノウハウをベースとした入魂の一冊でした(正直なめていました)。
知識を得ることも、病気について考えることも多く、この体験をたくさんの病気に悩んでいる当事者の方と分かち合いたいと思いました。
ご献本いただき、ありがとうございます。
お互い頑張っていきましょう!!
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