双極症の治療の変化と心理社会的支援の大切さ

目次

はじめに

双極症の治療は、ここ10年で大きく変わってきました。特に最近では、薬による治療だけでなく、心理的なサポートの重要性が注目されています。このコラムでは、治療方法の変化と、実際に私たちができることについてお話しします。

治療ガイドラインの歴史的変遷

2011年:心理療法導入期の課題

日本うつ病学会による双極性障害治療ガイドラインが初めて発行された2011年は、心理社会的療法に関する研究基盤が十分に整っていない状況でした。当時のメンタルクリニックでは、薬物療法が中心で、心理療法の実施は限定的でした。この時期は、心理社会的支援の重要性が認識され始めた黎明期といえます。

2017年:模索期における評価

2017年版のガイドラインでは、双極症の治療において心理教育、対人関係・社会リズム療法、家族焦点化療法、認知行動療法などが再発予防に有効である可能性が示唆されました。しかし、23ページという限られた内容の中で、一部の療法については再発予防効果が認められないという報告も併記され、その評価は慎重なものでした。精神分析療法や来談者中心療法については、有効性の証明がないとされていました。

2020年から2023年:大きな転換期

2020年版では前版と同様の内容でしたが、2023年版では「双極症ガイドライン」と名称を変更し、159ページという大幅な増量となりました。特に心理社会的治療は「心理社会的支援」という名称に改められ、17ページにわたる詳細な説明が加えられました。

最新の治療アプローチ

エビデンスに基づく効果

2023年版ガイドラインでは、通常治療のみと比較して、心理的支援を加えることで約1年以内の再発率が有意に低下することが示されました。具体的には、心理社会的支援を受けることで再発率が44%低下するというデータが提示されています。この数値は、心理社会的支援の重要性を客観的に示す重要なエビデンスとなっています。

新しい治療モデル

双極症は、高血圧や糖尿病と同様に、服薬を含めた患者自身による自己管理を重視する「慢性疾患の治療モデル」に準じて治療することで、より高い効果が期待できるとされています。特に重要なのは、医療者と患者が協働的に適切な治療を見出す共同意思決定(SDM:Social Decision Making)のプロセスです。

生活管理の重要性

日常生活のリズム維持

双極症の方にとって、規則正しい生活リズムの維持は症状管理の核となります。睡眠時間、食事時間、活動時間などの日常的なルーティンを保つことで、気分の安定性が高まることが、国際的な研究でも示されています。特に、生活パターンが変化しやすい休暇期間や季節の変わり目には、より慎重な管理が必要です。

医療者とのコミュニケーション

効果的な治療のためには、医師との適切なコミュニケーションが不可欠です。診断時には、双極症Ⅰ型とⅡ型の違い、推奨される治療法、処方薬の目的と副作用、生活習慣上の注意点、他の健康状態との管理方法などについて、詳しく相談することが推奨されます。これらの対話を通じて、より個別化された効果的な治療計画を立てることができます。

今後の課題と展望

治療環境の整備

日本では、構造化された心理療法を受けられる環境が十分に整っていないという課題があります。特に、双極症向けの認知行動療法(CBT)などの集中的な精神療法の実施体制が限られているのが現状です。この状況を改善するためには、専門家の育成や医療機関での実施体制の整備が必要です。

継続的なケアの重要性

双極症の治療は長期的な視点が必要です。薬物療法をベースとしながら、心理社会的支援を組み合わせた包括的なアプローチが求められます。また、定期的な経過観察と治療計画の見直しを行うことで、より効果的な症状管理が可能となります。

情報リソース

双極性障害のガイドライン(日本うつ病学会作成)について(2011) https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1130090863.pdf…

日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ 双極性障害 2017 https://secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/180125.pdf…

日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ 双極性障害 2020 https://secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2020.pdf…

日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症) 2023 https://secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2023.pdf…

Bipolar disorder in Japan and cognitive-behavioral therapy https://sciencedirect.com/science/article/abs/pii/B9780323857260000193…

Hackアンケート結果 https://docs.google.com/spreadsheets/d/1uFZwzNPYwnljRKbcX8ZJHsSig2VjYJTYE9eX_wmLktY/edit#gid=115610252

コラムの更新をメールで通知

メールアドレスを登録すれば、コラム更新をメールで受信できます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

双極性障害Ⅱ型の当事者「ハック "Hack"」と言います。私自身の安定のためにも、「ハック」を収集しています。この病気は一生続きます。だから皆の知恵を集めて知りたい。知ることが必ずしも治療を意味しないかもしれません。でも、より良い安定への道を照らすかも。みんなで学び、共感し、サポートし合いたいです!

目次