双極症と睡眠:当事者のための理解と対策ガイド

目次

はじめに:双極症と睡眠の関係性

双極症(双極性障害)を抱える当事者の多くが、睡眠の問題に直面しています。気分が大きく高揚する「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を交互に繰り返すこの病気において、睡眠の質や規則正しさは症状の安定に重要な役割を果たします。本記事では、一般的な研究結果と最新の研究成果をもとに、その関係性について詳しく解説していきます。

双極症における睡眠の基本的理解

双極症の特徴と気分エピソード

双極症は、気分が大きく揺れ動く状態を特徴とする病気です。躁状態では過度な高揚感や活動性の増加が見られ、うつ状態では強い落ち込みや意欲の低下を経験します。これらの明確な気分の変動期間を「気分エピソード」と呼び、病気の経過を示す重要な指標となっています。

睡眠障害の多様な現れ方

当事者が経験する睡眠の問題は複雑で多岐にわたります。夜になかなか眠れない、夜中に何度も目が覚める、早朝に目が覚めてしまうといった不眠の症状が見られることがあります。一方で、必要以上に長時間眠ってしまう過眠の状態や、日中に強い眠気を感じることもあります。また、体内時計である概日リズムが乱れることで、睡眠と覚醒のタイミングが日々変動してしまうことも一般的です。

睡眠と双極症の関係:研究からの知見

睡眠の質が気分の安定に与える影響

これまでの研究から、双極症当事者の多くが何らかの形で睡眠障害を抱えていることが明らかになっています。特に注目すべきは睡眠時間の「ばらつき」です。毎日の睡眠時間が一定していない状態が続くと、特にうつ状態の再発リスクが高まることが報告されています。これは、規則正しい睡眠が気分の安定に重要な役割を果たしていることを示唆しています。

体内時計の重要性

規則正しい睡眠リズムは、体内時計(概日リズム)の維持に不可欠です。この体内時計は、ホルモンの分泌や神経の働きを調整する重要な機能を持っています。睡眠時間が不規則になると、この体内時計が乱れ、結果として気分エピソードの再発リスクを高める可能性があります。

最新の研究成果:APPLEコホートスタディ

研究の詳細と方法

江崎氏らによる最新の研究(2023年)では、193名の双極症当事者を対象に、連続7日間の睡眠を客観的に測定する画期的な調査が行われました。研究では、アクチグラフと呼ばれる腕時計型の装置を使用し、睡眠中の動きを記録することで、睡眠時間や質を正確に測定しました。その後、2年間にわたって気分エピソードの再発状況が詳しく調査されました。

研究から得られた重要な発見

研究の結果、全体の平均睡眠時間には大きな差が見られなかったものの、毎日の睡眠時間の変動(ばらつき)が大きい当事者ほど、気分エピソード(特にうつ状態)の再発リスクが高いことが明らかになりました。具体的には、睡眠時間が不安定な群では約12.5ヶ月で症状が再発したのに対し、安定していた群では約16.8ヶ月と、より長く安定した状態を維持できていました。

睡眠改善のための具体的なアプローチ

心理的・行動的介入の重要性

睡眠障害が気分の安定に与える影響を考えると、睡眠の質を改善することは双極症の治療において重要な補助療法となります。薬物療法だけでなく、心理的・行動的なアプローチを組み合わせることで、より効果的な治療が期待できます。

実践的な改善方法

睡眠の質を改善するためには、いくつかの効果的な方法があります。朝の光を積極的に取り入れることで体内時計を整える光線療法は、特に効果が期待できる方法です。また、食事や活動の時間を一定に保つ対人的・社会的リズム療法も有効です。就寝前のブルーライト対策として、スマートフォンやパソコンの使用を控えめにすることも推奨されています。さらに、不眠に対する考え方や行動パターンを見直す認知行動療法(CBT)も、睡眠の質を改善する有効な手段となっています。

今後の展望と期待

今後の研究では、より多くの当事者を対象とした調査が進められることで、睡眠改善が気分エピソードの再発予防にどのように貢献できるのかが、さらに詳しく解明されていくことが期待されています。また、個々の当事者に合わせた個別化治療の一環として、睡眠リズムの管理が重要な治療戦略の一つとして確立されていく可能性が高いと考えられています。

参考文献・URL一覧

本記事の作成にあたり、以下の資料を参考にしています:

  1. 日本精神神経学会の学術論文「双極性障害患者における睡眠と気分エピソードとの関連」 https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1260040243.pdf
  2. CareNetによる最新研究報告「睡眠時間のばらつきが双極性障害の再発リスクと関連~APPLEコホート研究」 https://www.carenet.com/news/general/carenet/56501
  3. CareNetの治療アプローチに関する記事「双極性障害の睡眠に対する心理的および行動的介入」 https://www.carenet.com/news/general/carenet/53869

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この記事を書いた人

双極性障害Ⅱ型の当事者「ハック "Hack"」と言います。私自身の安定のためにも、「ハック」を収集しています。この病気は一生続きます。だから皆の知恵を集めて知りたい。知ることが必ずしも治療を意味しないかもしれません。でも、より良い安定への道を照らすかも。みんなで学び、共感し、サポートし合いたいです!

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