双極症といわれたら、まず知ってほしい生活のこと

暮らしを整えるための知識と、主治医との相談のコツ

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長・薬剤師 藤田 剛(窓師)

目次

この記事で伝えたいこと

  • 心理教育は、双極性障害とともに暮らすための「生活の知恵」に、医学的・心理社会的な意味づけを与える支援です。
  • 睡眠、生活リズム、服薬、再発サインなどを学ぶことは、自己責任論ではなく、早めに支援へつながるための準備になります。
  • 心理教育は診療と対立するものではなく、主治医と当事者が一緒に考えるSDM(共同意思決定)を支える共通言語になります。

はじめに

心理教育とは、当事者や家族・支援者が、病気や治療、再発予防、生活上の工夫について学び、病気とともに暮らしていくための力を育てる心理社会的支援の一つです。日本うつ病学会診療ガイドライン 双極症2023でも、双極症の支援において重要な要素として位置づけられています。

こころの病気とともに生きるとき、私たちの毎日には、いわば「養生訓」のような知恵が必要になります。よく眠ること。生活リズムを大きく崩さないこと。無理を重ねすぎないこと。気分や体調の変化を早めに振り返ること。調子がよいときほどペースを整えること。必要なときに周囲へ助けを求めること。こうした日々の工夫は、多くの当事者が経験の中で大切だと感じてきた生活の知恵です。

ただ、その知恵が「気をつけましょう」「無理しないようにしましょう」という一般論のままだと、つらい時期には支えになりにくいことがあります。なぜ睡眠が大事なのか。なぜ生活リズムの乱れが再発につながることがあるのか。なぜ早めの相談や受診が必要なのか。そこに納得できる説明がなければ、生活管理は努力論や自己責任として受け取られやすくなってしまいます。

心理教育の重要な役割は、こうした生活の知恵に、病気の成り立ちや再発予防に関する知見を結びつけ、本人が「自分の暮らしの意味」として理解できるようにすることです。心理教育は、診療の外側から何か別の正解を持ち込むものではありません。医療で示された方針や、長い経過の中で確かめられてきた生活上の工夫を、本人と家族が引き受けやすい言葉へと翻訳し、日常の実践へつなげる営みです。

心理教育は「養生訓」に科学の裏打ちを与える

とりわけ双極症の領域では、心理教育は薬物療法を補う重要な介入として位置づけられてきました。NICEの双極症ガイドラインは、双極症のケアにおいて、薬物療法だけでなく心理学的・社会的・教育的支援を含む幅広い介入を提供できる体制を求めています[1]。また、日本うつ病学会の双極症診療ガイドラインでも、維持期における心理教育は再発予防に有用であり、日常生活で実践できる「Minimal Essentials(最小限の重要事項)」として、悪化リスクを高める行動を減らし、健康的な行動を増やすこと、自己モニタリングに基づく対話的支援を行うことが重視されています[2]

ここで大切なのは、生活管理を精神論にしないことです。たとえば「早く寝たほうがいいらしい」という助言が、「自分にとって睡眠は再発予防の柱なのだ」という理解に変わること。「予定を詰め込みすぎないほうがよい」という一般論が、「負荷の蓄積は、あとから気分の波として現れることがある」という見通しに変わること。「悪くなる前に相談しましょう」が、「初期サインに気づいて早めに医療へつながることは、症状が深くなる前の大切な対応なのだ」という意味づけに変わること。そこに、心理教育の価値があります。

双極症における心理教育の系統的レビューでも、心理教育は服薬アドヒアランス(治療薬を納得して継続すること)の改善や再発予防に関連しうることが示されており、少なくとも「知識を届けるだけ」で終わらない、治療継続とセルフマネジメントを支える介入として評価されています[3][4]。もちろん、心理教育だけで症状の波を完全に防げるわけではありません。それでも、気分の変化、睡眠、ストレス、活動量、対人関係、服薬、副作用といった要素を、本人が自分のこととして観察し、振り返り、言葉にできるようになることは、再発予防と早期対応の基盤になります。

この違いは小さくありません。生活管理が気合いや根性の問題ではなく、再発予防と回復のための実践として理解されるとき、当事者は自分を責めにくくなります。うまくできなかったときにも、「自分が弱いから」ではなく、「いまは支えや調整が必要なのだ」と考えやすくなります。心理教育は、経験則として語られがちな生活上の工夫を、理解可能で再現可能なセルフマネジメントへと変えていきます。

主治医と人生を歩むための、SDMの知識コミュニケーション

心理教育のもうひとつの重要な役割は、SDM(Shared Decision Making:共同意思決定)の土台をつくることです。SDMとは、医療者が一方的に決めるのでも、当事者が孤立して背負うのでもなく、医学的な知見と本人の価値観、希望、生活背景を持ち寄って、治療や支援の方向をともに考えていく営みです。NICEのSDMガイドラインも、医療者とサービス利用者が協働して治療やケアの意思決定を行うことを、日常診療の中核として位置づけています[5]

ここで必要になるのは、単なる情報提供ではありません。必要なのは、当事者が自分の状態を言葉にできること、選択肢の意味や利点・不利益をある程度理解できること、何を大切にしたいかを主治医に伝えられることです。つまり、知識を一方的に教え込むのではなく、知識を介して対話ができるようにすることです。私はこれを「知識コミュニケーション」と呼びたいと思います。

たとえば、薬の効果や副作用を知ることは、服薬をただ受け入れるためではありません。自分にとって何が困りごとなのか、どの副作用なら耐えられるのか、どの症状を優先して整えたいのかを、主治医と相談するためです。再発のサインを学ぶことも、「ちゃんと自己管理しなさい」と言うためではありません。自分の変化をより早く共有し、治療の調整を一緒に考えるためです。CANMAT/ISBDのガイドラインでも、良好な治療同盟の形成、患者の積極的な治療参加、共有意思決定アプローチの活用、睡眠や機能、生活の質まで含めた継続的モニタリングが重要だとされています[6]

こころの病気の治療は、診察室の中だけで完結するものではありません。仕事、家庭、人間関係、休息、将来の希望といった、その人の人生全体の中で続いていきます。だからこそ、主治医と当事者が「症状をどう抑えるか」だけでなく、「どんな暮らしを守りたいか」「どんな人生を送りたいか」を共有しながら歩むことが大切になります。心理教育は、そのための会話の準備であり、主治医との協働を支える共通言語を育てる作業でもあります。

精神医療におけるSDMは、単なる理想論ではありません。SAMHSAの報告では、SDMはメンタルヘルスケアにおいてリカバリーとウェルネスを前進させる可能性を持ち、利用者の知識や意思決定への安心感を高めるアプローチとして整理されています[7]。当事者が「治療される側」にとどまらず、「治療に参加する人」へと位置づけ直されること。そこに、心理教育とSDMが出会う意味があります。

診療と対立するのではなく、診療を生活につなぐ

その意味で、心理教育は医師の診療と対立しません。むしろ、診療をよりよく受け取り、生活の中で活かしていくための基盤を整えます。診療は、診断や治療方針の決定、薬物療法を含む医療判断を担います。一方、心理教育は、病気や症状、治療、再発予防、生活上の工夫について、本人や家族がわかる形で整理し、理解を深められるよう支えます。役割は異なりますが、その違いがあるからこそ、両者は補い合うことができます。

たとえば、診察室で「睡眠を整えましょう」「調子が上がりすぎる前のサインを見ていきましょう」「薬の副作用で困っているなら相談してください」と説明を受けても、その場では十分に受け止めきれないことがあります。体調が不安定なときには、話を聞くだけでも大きなエネルギーが必要です。だからこそ、あとから振り返り、意味を確かめ、必要に応じて家族や支援者とも共有できる形にしていく支えが必要になります。心理教育は、その隙間を埋めます。

医師の医学的判断があり、そこに当事者の生活実感や価値観が重なり、実際に続けられる治療が形になっていく。その橋渡しをするのが心理教育です。医療に異議を唱えるためのものではなく、医療と生活のあいだにある「わかりにくさ」や「伝わりにくさ」を埋めるためのものだと言ったほうが、実態に近いでしょう。

おわりに――心理教育の価値を、生活と対話の側から捉え直す

私たちが心理教育を大切にするのは、当事者に正しい知識を届けるためだけではありません。当事者が、自分の生活を理解し、自分の変化に気づき、必要な支援を言葉にし、主治医とともに治療を選び取っていくためです。養生訓のように受け継がれてきた生活の知恵に、科学的な意味を与えること。そして、その知識を、主治医と人生をともに歩むための対話へとつなげること。そこに、心理教育の大きな価値があります。

心理教育は、治療の代わりではありません。しかし、治療がその人の人生に根づいていくためには欠かせない支えです。生活管理を努力論から理解にもとづく実践へ、診療を受け身の指示からともに考える営みへ。心理教育は、その両方を静かに、しかし確かに支える力を持っています。

ご注意ください

本稿は一般的な情報提供を目的としたコラムです。症状の悪化、強い不眠、著しい気分の高まりや落ち込み、自傷他害のおそれなどがある場合には、心理教育のみで対応せず、主治医や医療機関、地域の相談窓口に早めにつながることが大切です。

参考文献

  1. National Institute for Health and Care Excellence. Bipolar disorder: assessment and management. NICE guideline CG185. Published 2014. Link
  2. Kato T, Ogasawara K, Motomura K, et al. Practice Guidelines for Bipolar Disorder by the JSMD (Japanese Society of Mood Disorders). Psychiatry Clin Neurosci. 2024;78(11):633-645. Link
  3. Bond K, Anderson IM. Psychoeducation for relapse prevention in bipolar disorder: a systematic review of efficacy in randomized controlled trials. Bipolar Disord. 2015;17(4):349-362. Link
  4. Rabelo JL, Cruz BF, Ferreira JDR, Viana BM, Barbosa IG. Psychoeducation in bipolar disorder: A systematic review. World J Psychiatry. 2021;11(12):1407-1424. Link
  5. National Institute for Health and Care Excellence. Shared decision making. NICE guideline NG197. Published 2021. Link
  6. Yatham LN, Kennedy SH, Parikh SV, et al. Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) and International Society for Bipolar Disorders (ISBD) 2018 guidelines for the management of patients with bipolar disorder. Bipolar Disord. 2018;20(2):97-170. Link
  7. Substance Abuse and Mental Health Services Administration. Shared Decision-Making in Mental Health Care: Practice, Research, and Future Directions. 2010. Link

コラムの更新をメールで通知

メールアドレスを登録すれば、コラム更新をメールで受信できます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

さらにキーワードで検索したい方はこちら!

この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

目次