仕事に支障をきたす薬の副作用について

精神疾患の当事者の方が療養生活を終え社会復帰を目指したり、服薬しながら薬物治療を続ける時に気になるのが、薬の副作用だと思います。療養に専念していた頃はあまり気にならなかったけれど、社会生活や職場での復帰に際し躊躇してしまうことがあるかもしれません。
本稿では、「双極症の方が仕事あるいは復職するとき」に焦点を当て、どんな薬のどのような副作用が問題となりやすいか。またその対処法について、まとめてみました。
特定の精神疾患の薬剤について生じる副作用で仕事に支障をきたしてしまうということもあります。例えば、リーマス(炭酸リチウム)は、頻尿や手の震えなどの副作用が見られることがありますが、効果が現れる服薬量と副作用が生じてしまう服薬量が近く、ある程度の副作用は我慢して服薬を続けている方もおられるかと思います。
仕事中、ひっきりなしにトイレに立たなくてはならないようでは集中ができませんし、手が震えて字がうまくかけなかったり、細かい作業がやりづらいのも問題です。他人の目も気になってしまいます。
精神疾患の薬剤の副作用として便秘のある方の場合、下剤として酸化マグネシウムなどを服薬している方もいらっしゃるかと思います。下剤は量の加減をうまく行わないと下痢になってしまい、ひどいと便を漏らしてしまうのではと気になり仕事が手につかなくなる方もいらっしゃたりします。
また、直接的な薬の副作用ではないのですが、人前で薬を飲むのが恥ずかしい、他人に見られたくないというのも社会人として薬物治療を継続する上で支障となる要因かもしれません。
さて、こういった薬剤の副作用については、どの薬剤が原因になっているのかを把握することである程度対処することができます。新たな副作用を感じた時は、新しく処方された薬剤に起因することが疑われますので、追加された薬剤あるいは増量になった薬剤はないか確認しましょう。
また、新しい薬剤に体が慣れてくると自然と副作用も収まってくることがあります。どうしても我慢ができない症状でなければ2週間程度は様子を見てみましょう。
では、薬剤の種類ごとに考えていきましょう。処方について検討するとき、薬剤の種類を変更する場合はもちろんですが、薬剤を飲むタイミングを変更する場合も医師または薬剤師に相談し了承を得た上で行うようにしてください。
※ 主治医がいつも忙しそうで相談しづらい時は薬剤師に相談してみましょう。
抗精神病薬の副作用について
抗精神病薬の眠気などの副作用は、血中濃度が高い時に起こります。従って、勤務時間中に血中濃度が高くなりすぎないよう工夫をすることによって、副作用を軽減することが出来るかもしれません。
そのための方法を4つ紹介します。以下の項目について主治医、または薬剤師に相談してみてください。
1)抗精神病薬を朝食後に服用している場合、朝食後ではなく夕食後または就寝前に服薬できないかどうか。1日2回、朝夕食後で服用していた場合も1日1回、夕食後または就寝前に服用できないかどうか。
2)薬の成分の吸収をゆっくりにする工夫をした薬剤、すなわち徐放剤への変更の可能性。例えばセロクエル(クエチアピン)を服用している方の場合、同じ成分で徐放性のあるビプレッソに変更できないかどうか。
3)他の眠気の起こりにくい薬剤に変更できないか。
4)抗精神病薬のいくつかは、2~4週間に1度注射するLAI(エルエイアイ・持続性注射剤)というタイプの薬剤が出ています。(下記の通り)LAIは通常の注射剤と異なり、筋肉内から徐々に薬剤が放出されるようにできていて、急激に血中濃度が高くならないので比較的眠気は出にくいと考えられます。
通常薬剤商品名 | LAI商品名 |
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・(インヴェガ) ・リスパダール ・セレネース ・フルメジン ※ インヴェガは徐放性製剤 | ・エビリファイ・エビリファイLAI ・ゼプリオン ・リスパダールコンスタ ・ハロマンス ・フルデカシン |
抗不安薬について
抗不安薬の服用で眠気が問題になることがありますが、以下の項目について主治医または薬剤師に相談してみてください。
1)半減期が長いタイプのメイラックス(ロフラゼプ酸エチル 半減期は122時間で、1日1、2回の服薬が可能)などは穏やかに効果を発揮します。
※ 半減期:薬剤が体から排泄されるスピードはそれぞれ異なります。血液中の薬物の濃度が半分になる時間を半減期といいます。
2)定期的な服薬ではなく、症状が生じたときに服薬する頓服薬に変更できないか。
頓服薬としては、効果が出るのが早くしっかり効いた感じがするデパス、レキソタン、ワイパックス、ソラナックス・コンスタンが用いられることが多いです。
頓服薬は、「アレルギーの薬だから」とか言って飲むか、離席して飲むのが良いでしょう。
3)眠気が出にくい薬剤、例えばリーゼ(クロチアゼパム)などに変更できるかどうか。
長時間作用型および超長時間作用型の抗不安薬
商品名 | 一般名 |
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・セパゾン ・バランス、コントール ・メンドン ・レスミット ・セレナール ・メレックス ・メイラックス ・レスタス | ・セルシン、ホリゾン・クロキサゾラム ・クロルジアゼポキシド ・クララゼプ酸二カリウム ・メダゼパム ・オキサゾラム ・メキサゾラム ・ロフラゼプ酸エチル ・フルトプラゼパム | ・ジアゼオアム
※ 長時間作用型 半減期24時間以上
超長時間作用型 半減期90時間以上
リーマス(炭酸リチウム)について
リーマスは効果が現れる服薬量と副作用が生じてしまう服薬量が近い薬剤です。リチウムの血中濃度が少し高めになっただけでも手の震えや頻尿、下痢などを起こしてしまう方もいるのではないでしょうか?
リーマスは血中濃度が変動しやすいため、定期的な血中濃度の把握が必要な薬剤です。副作用の出にくい血中濃度をあらかじめ把握しておき、100mg単位で細かく服薬量を調節しておきましょう。リチウムの血中濃度は、発汗などの他、ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム)やイブ(イブプロフェン)などNSAIDs(消炎鎮痛剤)の服薬によっても変動する場合があります。
副作用が気になった場合の対処法は以下のとおりです。
1)リチウムの血中濃度、薬効や副作用をふまえてわずかに減薬することを検討する。ただし、自己判断で薬を中断してはいけません。
2)手の震えについては、インデラル(プロプラノロール)が有効なことがあります。インデラルはβブロッカーと呼ばれるグループに属する薬剤で、もともと心臓や血圧の治療として用いられてきました。ただし、喘息のある方はインデラルで喘息が悪化することがありますので服薬できません。βブロッカーの中でも、喘息でも使える可能性がある種類があるので医師に相談してみてください。
3)頻尿については、頻尿に伴って口渇が出て、その結果水分を過剰に摂取し、それがまた頻尿をひき起こすという悪循環に陥ることがあります。水分摂取を控えることが有効ですが、摂取を控えすぎるとリチウムの血中濃度が上昇し副作用が強く出ることがありますので主治医の指示に従ってください。
4)薬剤の飲み方について、以下の項目についてを主治医または薬剤師に相談してみてください。
リーマスは一日二回で処方されることが多いようですが、薬が作用する脳内の薬物濃度を見た場合一日一回の服薬でも良いようです。また、夜間の尿意への対策で朝服用する形で処方されることが多いようですが、朝服用で仕事に差し支えがある場合、夕方以降に服薬するパターン、昼食後と夕食後に服薬するパターン、さらに血中濃度が高くなりすぎるのを避けるため夕食後と寝る前に分けて服薬するパターンなどが考えられます。
今の飲み方 | 朝 | 昼 | 夕 | 寝る前 |
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Ⅰ | ||||
Ⅱ |
検討してみる飲み方の例
検討例 | 朝 | 昼 | 夕 | 寝る前 |
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Ⅰ | ||||
Ⅱ | ||||
Ⅲ |
デパケン(バルプロ酸ナトリウム)ついて
デパケンもしばしば眠気の副作用が出る薬剤です。
対策としては、以下の項目についてを主治医または薬剤師に相談してみてください。
1)抗精神病薬の眠気対策と同じ考え方で、今デパケンを服用しているのなら、その徐放剤であるデパケンRの使用に変更できるかどうか。
2)デパケンの有効成分であるバルプロ酸ナトリウムの血中濃度は、てんかんの患者さんにはしっかり一定の値を維持しなくてはなりませんが、双極性障害の場合それほど厳密にコントロールしなくても良いと言われています。デパケンには徐放剤のデパケンRがあり、1日1回もしくは1日2回の服用の服用を検討してみても良いかもしれません。
便秘と下痢について
精神疾患の薬剤のために便秘などの症状が出るため酸化マグネシウムを服薬している場合、服薬量の調整がなかなか微妙でうまくコントロール出来ないことがあるかもしれません。下剤としては酸化マグネシウムだけでなくグーフィス(エロビキシバット)、アミティーザ(ルビプロストン)などの薬剤もあり、場合によっては変更できることもあります。主治医または薬剤師に相談してみてください。
予備の下着を持ち歩くのも安心感につながるかもしれません。
まとめ
以上、しばしば仕事に支障をきたしてしまう副作用と、そういった副作用を起こす可能性のある薬剤を列挙し、その対処法について説明しました。これらの内容については個人差が大きく、対処法についてもこれを実行すれば必ずOKというものではないことをご理解ください。
実際に個別の患者さんの状況を把握し最適な処方と薬の飲み方を検討する場合はぜひ、薬剤師に相談してみてください。
少しの工夫をすることによって社会生活、日常生活がより快適になりますよう、願っています。
(了)
参考文献
1) 各薬剤の添付文書
2) 21世紀のリチウム治療 寺尾岳著 新興医学出版社
3) こころの治療薬ハンドブック第15版 井上猛他著 星和書店
4) ゆるりとはじめる精神科の1冊 別所千枝 中村友喜著 じほう