双極症の心理教育:NGワードを超えて「なぜ」を考える 第3回 寛解状態の人への言葉かけを考える

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長

認定専門公認心理師

社会福祉士

国際双極症学会 評議員

木野内南(布団ちゃん)

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長

薬剤師

藤田剛(窓師)

うつの人に言ってはいけない言葉、躁の人に言ってはいけない言葉。ネットや巷にはそういった情報がたくさん溢れています。ではどうしてその言葉を言ってはいけないのでしょうか? このコラムのシリーズでは、この点について深く分析してゆきます。

双極症の方は、躁/軽躁状態、抑うつ状態、混合状態、寛解状態と気分の状態が変化します。気分の状態に応じて周囲がかける言葉も違ってきます。言葉がけとは単に一方通行の言葉の投げ付けではありません。言葉を発する側、言葉を受け止める側、この双方のコミュニケーションに齟齬が生じた時「言ってはいけない言葉」が生まれるのではないでしょうか? そんな視点からこのシリーズを読んでいただければ幸いです。

今回は、寛解状態の人への言葉がけを考えます。「えっ、寛解状態の人に言ってはいけない言葉なんてあるの?」と思った方、ぜひこのコラムを読んでみてください。

NGワードを超えて、「なぜ」を学ぶ――寛解状態の人への言葉かけを考える

「もう元気そうなのに、なぜ戻れないの?」――見えにくい回復の途中を理解する心理教育

抑うつ状態を抜け、表情が戻り、普通に会話ができるようになった。

周囲はほっとします。そして、こう思うかもしれません。

「もう元気そうだ」
「そろそろ仕事や学校に戻れるのではないか」
「いったいいつまで、周囲は気を使えばよいのだろう」

一方、本人も同じように考えています。

「気分は安定しているのに、なぜ以前のように動けないのだろう」
「もう症状はないはずなのに、なぜ仕事に戻るのが怖いのだろう」

寛解状態は、躁・軽躁状態や抑うつ状態ほど外から分かりやすくありません。そのため、本人と周囲の見ている景色が、静かに、しかし深くすれ違うことがあります。

寛解状態の言葉かけが難しいのは、誰かが回復を望んでいないからではありません。

本人も周囲も、回復を望んでいます。ただし、何をもって「回復」と考えるか、どのくらいの速さで戻れると考えるかが違います。

そして、見た目の回復、気分症状の回復、思考力や体力の回復、仕事や人間関係の回復は、必ずしも同じ速さでは進みません。

病人扱いしすぎない。しかし、回復を急がせすぎない。

第3回では、この二つの間にある難しさを、当事者と周囲の両方の立場から丁寧に考えます。

寛解とは「すべて元どおり」という意味ではありません

寛解とは、躁・軽躁・抑うつなどの症状がなくなった、または診断上大きな問題とならない程度まで落ち着いた状態を指します。

ただし、寛解は「治癒」や「発症前と全く同じ状態」を意味するものではありません。再発予防のための治療や生活管理を続けながら、日常生活、社会参加、自信、人間関係などを取り戻していく時間が必要なことがあります。

双極症では、気分症状が落ち着いた後にも、集中力、処理速度、記憶、計画を立てる力などに困難が残る人がいます。一方で、そのような困難がほとんどない人もいます。個人差は大きく、「双極症なら必ず認知機能が低下する」と決めつけることも適切ではありません。

また、薬の影響、睡眠、体力低下、長期療養による生活リズムの変化、再発への不安、職場や人間関係での経験など、複数の要因が重なって社会復帰を難しくすることがあります。

回復には、いくつかの側面があります

回復の側面
症状の回復躁・軽躁・抑うつの症状が落ち着く
身体的な回復睡眠、疲れやすさ、体力、生活リズムが整う
認知的な回復集中、記憶、判断、作業の切り替えが戻る
生活機能の回復家事、金銭管理、外出、予定管理が安定する
社会機能の回復仕事、学業、人間関係、社会的役割に戻る
心理的な回復自信、希望、自己理解、病気との折り合いを取り戻す

これらは同時に回復するとは限りません。気分は安定していても、社会復帰にはまだ準備が必要なことがあります。反対に、仕事へ戻っていても、内心では再発への強い不安を抱えている場合もあります。

寛解状態だからこそ、傷つきやすくなることがあります

「元気になったのだから、傷つきにくくなる」と思われがちです。しかし、必ずしもそうとは限りません。

症状が強い時には、周囲を見る余裕や、起きたことを振り返る力が十分でない場合があります。寛解状態になり、思考力や感受性が戻ってくると、次のような現実を以前よりはっきり受け止めることがあります。

  • 病気の間に仕事や人間関係で起きたこと
  • 家族に負担をかけたという思い
  • 失った時間、役割、収入、信用
  • 以前の自分と今の自分の違い
  • 周囲からどのように見られているか
  • 再発するかもしれないという不安

つまり寛解状態は、単に楽になる時期ではありません。現実を見つめ直し、自分の生活を再構成していく、心理的にとても繊細な時期でもあります。

当事者と周囲に見えている景色

当事者から見えている景色

  • 気分は安定したが、体力や集中力がまだ戻っていない。
  • 家ではできるのに、仕事や学校の場面を考えると強い不安がある。
  • 休み続けることへの罪悪感がある。
  • 周囲に甘えていると思われている気がする。
  • 早く戻りたいが、再発するのも怖い。
  • 病人扱いされたくないが、配慮を突然なくされるのも困る。
  • 以前の自分と比べて、自信を失っている。

周囲から見えている景色

  • 普通に話し、笑い、外出もできている。
  • 家ではテレビやスマートフォンを長時間見ている。
  • 体調が安定しているなら、少しずつ役割に戻れるように見える。
  • 家計、家事、仕事などの負担が長く続いている。
  • いつまで待てばよいか、見通しが分からない。
  • 普通に接すると無理をさせそうで、配慮すると病人扱いになりそうで迷う。
  • また再発するのではないかと、常に緊張している。

どちらの景色も現実です。第3回では、どちらかを我慢させるのではなく、その違いを言葉にすることを目指します。

ケースから考える寛解状態の言葉のすれ違い

ケース1 「もう元気そうだね」

本人は表情が明るくなり、家族との会話も増えました。近所への買い物にも行けるようになっています。家族は回復を喜びました。

「もう元気そうだね。よかった」
喜びの言葉が、なぜ負担になることがあるのでしょうか?
周囲の気持ち
本当にうれしい。つらかった時期を知っているので、回復を一緒に喜びたい。少し安心したことを伝えたい。
当事者には、こう聞こえることがあります
「もう配慮は必要ない」「もう働ける」「これ以上休む理由はない」「元気に見え続けなければならない」。
なぜ、すれ違うのでしょうか

「元気そうだね」という言葉自体が悪いわけではありません。回復を喜んでもらい、うれしいと感じる人もいます。

しかし、本人がまだ疲れやすさや社会復帰への不安を抱えている時には、周囲から「回復完了」と判定されたように感じることがあります。

特に、その後に「では仕事に戻れるね」「もう家事は全部できるね」と続く経験があると、「元気そう」という言葉だけで身構えるようになることがあります。

別の伝え方の例
「少し表情が戻ってきたように見えて、うれしいよ。自分では今、どのくらい回復した感じがする?」
「できることが増えてきたね。まだ負担に感じることは何かある?」
伝わらなかった時のフォロー
「もう全部元どおりだと言いたかったわけではないよ。回復してきた部分を一緒に喜びたかった。まだつらい部分も聞かせてほしい」と伝え直します。

ケース2 「家では普通にできているのに、なぜ仕事に戻れないの?」

本人は自宅では会話ができ、食事や買い物もしています。動画を見たり、趣味に取り組んだりする日もあります。しかし、復職の話になると不安が強くなり、「まだ無理だと思う」と答えます。

家で活動できることと、仕事に戻れることは、なぜ同じではないのでしょうか?
「家では普通にできているじゃない。仕事もできるでしょう?」
周囲の気持ち
本人には力が戻っているように見える。復職への自信を持ってほしい。生活や家計の見通しも立てたい。
当事者には、こう聞こえることがあります
「家で休んでいるのは怠けだ」「趣味ができるなら働けるはずだ」「できないと言う自分は信用されていない」。
なぜ、すれ違うのでしょうか

自宅では、疲れたら横になれます。活動する時間を選び、難しい作業を避けることもできます。対人評価や期限、責任が少なく、調子の悪い日は予定を変更できます。

一方、仕事では、決まった時間に出勤し、一定時間働き続け、複数の情報を処理し、優先順位を判断し、人間関係を調整し、ミスへの責任を負うことが求められます。調子が揺れても、その場ですぐ休めるとは限りません。

短時間できることと、毎日、安定して、責任を伴って続けられることは別です。

自宅での活動仕事・学業で求められること
自分のペースで始められる決められた時間に開始する
疲れたら休める一定時間、活動を持続する
好きな作業を選べる不得意な仕事も処理する
失敗の影響が比較的小さい責任や評価が伴う
調子に合わせて予定を変えられる継続性や予測可能性が求められる
別の伝え方の例
「家でできることは増えてきたね。仕事に戻ると考えた時、何が一番負担になりそう?」
「復職できるか、できないかの二択ではなく、生活リズム、通勤、短時間の作業から確認してみない?」
「主治医やリワークのスタッフとも、今の力を一緒に評価してもらおう」
フォロー
「家で活動できることを、すぐ仕事ができる根拠にしてしまった。働くには別の力が必要なことを十分考えていなかった」と伝えます。

ケース3 「いったいいつまで休んでいるの?」

療養が長くなっています。周囲は家事、生活費、職場への説明などを担ってきました。本人も申し訳なさを感じていますが、復帰の見通しはまだはっきりしません。

周囲が見通しを求めることは当然です。なぜ、この言葉は関係を傷つけるのでしょうか?
「もう落ち着いているんでしょう。いったいいつまで休んでいるの?」
周囲の気持ち
責めたいだけではない。生活設計のために、今後を知りたい。自分の負担にも限界があり、出口が見えないことが苦しい。
当事者には、こう聞こえることがあります
「休んでいる自分は許されない」「早く戻れなければ居場所を失う」「回復の遅さは自分の責任だ」。
なぜ、すれ違うのでしょうか

周囲が必要としているのは、必ずしも「今すぐ復帰せよ」という答えではありません。家計、家事、職場対応などについて、見通しを持ちたいのです。

しかし「いつまで休むの」という言葉では、生活上の相談と病気の回復期限が一緒になります。本人には、自分の意思で治る日を決めるよう求められたように聞こえます。

別の伝え方の例
「復帰日を今すぐ決めてほしいわけではない。でも、来月の生活費や家事分担を一緒に考えたい」
「回復の見通しは主治医にも相談しよう。今日は、次の診察までに確認することを整理しない?」
「私も少し疲れている。あなたを責めるのではなく、支える方法を増やしたい」
フォロー
「早く治れと責める言い方になってしまった。私が困っている具体的なことを伝えず、全部あなたの回復の問題にしてしまった」と説明します。

ケース4 「もう病気のことは気にしなくていいよ」

本人は睡眠時間を守り、気分を記録し、予定を入れすぎないようにしています。家族は、病気を意識しすぎるより、普通に暮らしてほしいと思いました。

前向きに生きてほしいという言葉が、なぜ否定として届くのでしょうか?
「もう安定しているんだから、病気のことは気にしなくていいよ」
周囲の気持ち
病気に縛られず、以前のように生活してほしい。不安ばかりを考えないでほしい。
当事者には、こう聞こえることがあります
「再発予防を気にするのは神経質だ」「自分が積み重ねている工夫を理解してもらえていない」「再発しても自己責任だ」。
なぜ、すれ違うのでしょうか

寛解状態を保つためには、服薬、睡眠、生活リズム、ストレスへの対処、早期兆候への気づきなどを続けることが重要です。

病気を意識しすぎて生活が狭くなることへの注意も必要ですが、病気を忘れることと、病気に支配されないことは同じではありません。

別の伝え方の例
「病気のことだけで生活がいっぱいにならないようにしたいね。でも、安定を守る工夫は大切にしよう」
「今続けている中で、役立っていることと、負担になっていることは何?」
フォロー
「病気を忘れろという意味ではなかった。病気だけが生活の中心にならないでほしいと思ったけれど、再発予防の努力まで否定する言い方になってしまった」と伝えます。

ケース5 「また調子を崩すんじゃない?」

本人が旅行や新しい仕事への挑戦を考えています。家族は再発を経験した時のことを思い出し、不安になりました。

心配からの言葉が、なぜ「病人扱い」や監視に感じられるのでしょうか?
「そんなことをしたら、また調子を崩すんじゃない?」
周囲の気持ち
以前のつらい状況を繰り返したくない。本人を守りたい。自分も再び支えきれるか不安だ。
当事者には、こう聞こえることがあります
「何をしても再発する人だと思われている」「自分には挑戦する資格がない」「回復しても信用は戻らない」。
なぜ、すれ違うのでしょうか

再発への備えは重要です。しかし、リスクをゼロにするためにすべての挑戦を止めると、本人は病気の役割から出られなくなります。

大切なのは、「するか、しないか」だけでなく、どのように安全に挑戦するかを一緒に考えることです。

別の伝え方の例
「挑戦したい気持ちは応援したい。一方で、睡眠や負担が増えることは少し心配している」
「どんな早期兆候が出たら予定を減らすか、先に決めておかない?」
「全部止めるのではなく、期間や量を小さく始める方法はある?」
フォロー
「再発が怖くて、あなたの挑戦そのものを否定する言い方になった。できない理由ではなく、安全に進める方法を一緒に考えたい」と伝え直します。

ケース6 「以前のあなたに戻ってほしい」

家族やパートナーは、発症前の活発だった本人を知っています。寛解状態になっても、以前より慎重で、予定を減らし、生活を大きく変えています。

愛情から出た言葉が、なぜ現在の本人を否定することになるのでしょうか?
「早く、以前のあなたに戻ってほしい」
周囲の気持ち
本人らしい笑顔や活動を取り戻してほしい。以前の関係を懐かしく思う。病気に人生を奪われてほしくない。
当事者には、こう聞こえることがあります
「今の自分には価値がない」「以前と同じにならなければ愛されない」「病気を経験した自分は受け入れてもらえない」。
なぜ、すれ違うのでしょうか

本人自身も、以前の自分に戻りたいと思っていることがあります。だからこそ、その言葉は深く刺さります。

一方、回復とは必ずしも過去への完全な復帰ではありません。病気の経験を踏まえて、働き方、人間関係、生活の優先順位を変え、新しい安定の形を作ることもあります。

別の伝え方の例
「以前のあなたの好きだったところも、今のあなたが大事にしていることも、どちらも知りたい」
「元どおりになることだけを目標にせず、これから無理なく暮らせる形を一緒に考えたい」
フォロー
「今のあなたを否定したかったわけではない。私も以前の生活を失った寂しさがあって、その気持ちをあなたに背負わせる言い方になってしまった」と伝えます。

ケース7 「もう普通なんだから、気を使わなくていいよね」

本人の状態は安定しています。家族や職場の人は長く配慮を続けてきました。どこまで配慮を続け、どこから通常どおりに戻すべきか分からなくなっています。

配慮をやめることと、対等な関係に戻ることは同じでしょうか?
「もう普通なんだから、いつまでも気を使わなくていいよね」
周囲の気持ち
いつまで特別な対応を続けるべきか分からない。自分も緊張せずに話したい。以前の自然な関係に戻りたい。
当事者には、こう聞こえることがあります
「今後は困っても言ってはいけない」「配慮を求めるのはわがまま」「普通であり続けることを証明しなければならない」。
なぜ、すれ違うのでしょうか

配慮は、一度決めたら永遠に同じ形で続けるものではありません。しかし、周囲が一方的に「終了」を宣言すると、本人は支えを失う不安を感じます。

必要なのは、病人として扱い続けることでも、突然すべてを元に戻すことでもありません。現在必要な配慮を、本人と定期的に見直すことです。

別の伝え方の例
「以前お願いされていた配慮のうち、今も必要なものと、もう必要ないものを一緒に確認してもいい?」
「気を使い続けるというより、お互いに困った時に言える関係にしたい」
フォロー
「配慮を全部やめたいと言ったように聞こえたかもしれない。今の状態に合う関わり方へ更新したいと思っている」と説明します。

寛解状態では、二つの反対方向の問題が起きます

病人扱いしすぎる

  • 本人の意見を、すぐ症状として扱う
  • 少しの気分変化にも過剰に反応する
  • 本人の判断や選択を信用しない
  • 挑戦をすべて再発リスクとして止める
  • いつまでも保護される側に固定する

回復した人として扱いすぎる

  • もう配慮は不要だと決めつける
  • 発症前と同じ能力や役割をすぐ求める
  • 疲れやすさや不安を甘えとみなす
  • 再発予防の工夫を気にしすぎだと扱う
  • 社会復帰の速度を本人の努力だけの問題にする

目指すのは、この中間です。

本人の力を信じる。ただし、今どの力が戻り、何にまだ支援が必要かを一緒に確かめる。

寛解状態で役立つ「確認する言葉」

寛解状態では、励ます言葉や止める言葉より、本人の現在地を確認する言葉が役立つことがあります。

確認したいこと言葉の例
本人の回復感「自分では、今どのくらい戻ってきた感じがする?」
残っている負担「外からは分かりにくいけれど、まだしんどいことはある?」
できることと続けられること「一度できることと、毎日続けられることを分けて考えてみようか」
必要な配慮「今も必要な助けと、もう自分でやりたいことは何?」
社会復帰への不安「戻りたくないのではなく、何が怖いのかを聞かせて」
再発予防と挑戦の両立「やめるか、無理してやるかではなく、安全に試す方法を考えよう」

当事者から周囲へ伝えられること

寛解状態では、当事者の思考力が戻っているからこそ、自分の状態を説明できる場面も増えます。一方で、説明すればすぐ理解されるとは限りません。短く具体的な表現を準備しておく方法があります。

伝えたいこと表現の例
見た目より回復していない「気分は安定していますが、体力と集中力はまだ戻りきっていません」
家でできても仕事は難しい「自宅では休みながらできます。決まった時間に毎日続ける力はまだ確認中です」
回復を急かされるのがつらい「私も早く戻りたいので、期限を言われると自分を責めてしまいます」
病人扱いもされたくない「全部止めてほしいのではなく、リスクを一緒に考えてほしいです」
配慮を見直したい「この配慮はもう不要です。でも、こちらはもう少し続けてほしいです」

本人だけに説明責任を負わせる必要はありません。主治医、心理職、精神保健福祉士、リワークスタッフ、産業医などに、家族や職場への説明を助けてもらうこともできます。

周囲の人の「いつまで?」も無視しない

このコラムは、当事者に配慮するために、周囲へ無期限の我慢を求めるものではありません。

長期療養では、家族や周囲にも、疲労、経済的不安、孤立、将来への不安が生じます。「いつまで気を使えばよいのか」と思うこと自体を、冷たい、理解がないと責めるべきではありません。

大切なのは、その思いを本人の回復責任へ変換しないことです。

「あなたはいつ治るの?」ではなく、

「私たちが今困っていることは何か」
「誰に助けを求められるか」
「次に見直す時期をいつにするか」

を具体的に話し合います。

本人と周囲の両方が支援を受けることが、関係を長く保つために必要です。

「普通」という言葉が難しい理由

寛解状態では、「普通」という言葉が頻繁に使われます。

  • 「もう普通に見える」
  • 「普通の生活に戻って」
  • 「普通なんだから大丈夫」
  • 「いつまで普通にできないの」

しかし、普通とは何でしょうか。

健康な人にも、疲れる日、集中できない日、気分が揺れる日はあります。寛解状態とは、常に一定で、何でもできる完璧な状態ではありません。また、発症前と全く同じ働き方や生き方に戻ることだけが回復でもありません。

本人が自分に合った生活を組み直し、再発を予防しながら、本人なりに納得できる役割や人生を取り戻すことも、大切な回復です。

再び症状が出ている可能性を考える場面

寛解状態だと思われていても、睡眠の変化、活動性の急な増減、強い焦りや落ち込み、浪費、怒りっぽさ、希死念慮などが現れた場合は、再発や残存症状の可能性も考え、早めに主治医へ相談してください。

また、長期間にわたり強い疲労、集中困難、意欲低下などが続く場合には、抑うつ症状、薬の影響、睡眠障害、身体疾患など別の要因がないか、医療者と確認することが大切です。

社会復帰を急ぐことも、必要以上に先送りすることも、どちらも本人のためになるとは限りません。個別の状態を評価し、段階的に進める必要があります。

まとめ――寛解は「出口」ではなく、生活を取り戻す過程です

寛解状態では、症状が目立たないため、本人の困難が見えにくくなります。

  • 気分症状が落ち着いても、体力、認知機能、社会機能、自信の回復には時間差がある。
  • 思考力や感受性が戻ることで、失ったものや周囲の言葉を深く受け止める時期でもある。
  • 周囲には「いつまで待てばよいのか」という現実的な不安と疲れがある。
  • 病人扱いし続けることも、元どおりを急がせることも、本人を苦しめる可能性がある。
  • 本人が今できること、続けられること、まだ支援が必要なことを具体的に確認する。
  • 配慮は続けるか、やめるかではなく、状態に合わせて更新していく。

「もう元気そうだから」と決めつけるのでも、「病気なのだから」と決めつけるのでもなく、本人は今どこまで回復し、何を取り戻そうとしているのかを一緒に確かめることが大切です。

寛解とは、以前の自分へ一気に戻ることではありません。症状が落ち着いた場所から、自分の生活を一つずつ取り戻していく時間です。

参考資料

  1. 日本うつ病学会 気分障害の治療ガイドライン検討委員会 双極性障害委員会.『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』.
    https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2023.pdf
  2. National Institute for Health and Care Excellence. Bipolar disorder: assessment and management(CG185).
    https://www.nice.org.uk/guidance/cg185
  3. Yatham LN, et al. Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments(CANMAT)and International Society for Bipolar Disorders(ISBD)2018 guidelines for the management of patients with bipolar disorder. Bipolar Disorders. 2018;20:97-170.
    CANMAT/ISBD 2018 Guidelines
  4. Miskowiak KW, et al. Methodological recommendations for cognition trials in bipolar disorder by the International Society for Bipolar Disorders Targeting Cognition Task Force. Bipolar Disorders. 2017.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6282834/
  5. Kesavan M, et al. Clinical practice guidelines on cognitive impairment in bipolar disorders. 2025.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11878457/

※本稿は一般的な心理教育を目的としています。個別の診断、復職・復学の時期、治療方針については、主治医、産業医、心理職、精神保健福祉士、リワークスタッフなどにご相談ください。寛解状態での困難や回復の速度には大きな個人差があります。

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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