心理教育導入ガイド:第5回 体系的な双極症集団心理教育プログラム——バルセロナ・プログラムとライフゴールズ・プログラム


NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長
認定専門公認心理師
社会福祉士
国際双極症学会 評議員
木野内南(布団ちゃん)

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
薬剤師
藤田剛(窓師)
はじめに――双極症の心理教育導入ガイドについて
心理教育は、同じ内容を同じ深さで、すべての人に一度に伝えればよいものではありません。 その人が今どの段階にいるのかによって、必要な情報、伝え方、支援の優先順位は変わります。
心理教育は「長く丁寧に行えばよい」「短くすれば参加しやすい」という単純な二択ではありません。 大切なのは、当事者や家族の生活と体調に合わせて、必要な時に学び、離れても戻れる仕組みをつくることです。
双極症の心理教育導入ガイドは、双極症の心理教育や集団心理教育の導入を検討している医療機関、医療・福祉関係者に向けて作成しました。
この記事について
この記事は、双極症の心理教育を医療機関や地域、NPO活動で導入する際に、プログラムの長さや継続方法をどう設計するかを考えるためのコラムです。
個別の治療方針を示すものではありません。治療内容や参加の可否については、主治医や支援者と相談してください。
第5回の要点
- バルセロナ・プログラムは全21回で、疾患・薬物療法・再発予防を体系的に学びます。
- ライフゴールズ・プログラムは、自己管理の後に本人の生活目標へ取り組みます。
- 両者とも薬物療法に追加する、マニュアルに基づく集団心理教育です。
- バルセロナ・プログラムは、寛解・維持期の長期再発予防について比較的明確な研究があります。
- 短縮・改変した場合は、原プログラムそのものではなく独自版として記録・評価します。
目次
1.体系的な集団心理教育とは
日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極症2023』は、維持期に検討する高強度型の集団心理教育として、バルセロナ・プログラムとライフゴールズ・プログラムを挙げています。[1]
ここでは、バルセロナ・プログラムとライフゴールズ・プロクラムそれぞれについての解説と両者の比較を説明します。
両者は講義を聴くだけの患者教室ではありません。参加者が病歴を振り返り、早期警告サインを特定し、行動計画を作り、グループで検討する、マニュアルに基づく治療的介入です。
原法の実施には、対象者選定、継続参加、研修された実施者、危機対応、スーパービジョンが必要です。
2.バルセロナ・プログラム
スペインのHospital Clínic BarcelonaのColom、Vietaらが開発しました。薬物療法を継続し、状態が安定した双極Ⅰ型・Ⅱ型の外来患者を主な対象として研究されています。
| 形式 | 全21回、原則週1回、1回約90分 |
|---|---|
| 人数 | おおむね8~12人 |
| 実施者 | 原研究では、双極症と集団療法の経験を持つ心理職2名 |
| 対象時期 | 急性症状が落ち着いた寛解・維持期 |
| 中心目標 | 疾患理解、服薬継続、早期警告サイン、生活の規則性、再発予防 |
中心となる4つの目標
- 病気への気づきを深める
- 治療を適切に継続する
- 再発の前兆を早く発見する
- 睡眠・生活リズムを整える
説明に加え、ライフチャート、早期警告サイン、問題解決などのワークを行います。
3.21セッションの主な構成
| 回 | 主なテーマ | 日本での実施上の注意 |
|---|---|---|
| 1 | 導入・グループのルール | 守秘、欠席、緊急時の対応 |
| 2 | 双極症とは何か | Ⅰ型・Ⅱ型、個人差 |
| 3 | 原因と誘発要因 | 本人・家族を責めない生物心理社会モデル |
| 4 | 躁・軽躁 | 肯定的に感じる側面とリスク |
| 5 | 抑うつ・混合状態 | 自殺・自傷、焦燥への相談先 |
| 6 | 経過と予後 | 回復と再発予防を伝える |
| 7~12 | 薬剤、血中濃度、副作用、妊娠等 | 日本の最新ガイドライン・添付文書へ更新 |
| 13 | 治療中断 | 中断を責めず、理由と相談方法 |
| 14 | アルコール・薬物 | カフェイン、市販薬、サプリも検討 |
| 15 | 躁・軽躁の早期発見 | 睡眠、活動、金銭、会話、SNS |
| 16 | うつ・混合状態の早期発見 | 孤立、焦燥、希死念慮 |
| 17 | 病相への対応 | 具体的な連絡・受診基準 |
| 18 | 生活の規則性 | 勤務、予定、光、睡眠・覚醒 |
| 19 | ストレス管理 | ストレスを単一原因としない |
| 20 | 問題解決 | 問題を小さく分ける |
| 21 | まとめ | 再発予防計画と今後の支援 |
※ 薬剤情報の更新と日本個別情報のローカライズ
原プログラムは2000年代に体系化されました。薬剤、妊娠・授乳、安全性、制度は、現在の日本の情報へ更新して実施するのが良いでしょう。
4.バルセロナ・プログラムのエビデンス
原研究では、薬物療法を受け、状態が安定した双極Ⅰ型・Ⅱ型患者120人が、21回の集団心理教育または非構造化グループへ割り付けられました。心理教育群では2年間の追跡で再発、再発回数、入院回数・期間が少なく、再発までの期間が延長しました。[2]
5年間の追跡でも、再発回数、症状のある期間、入院に関する利益が報告されています。[3]

適用範囲
主要研究は急性症状が落ち着いた人を対象としています。明らかな躁、重度の抑うつ、精神病症状、強い自殺リスクがある急性期へ同じ形式を適用は除外されています。
5.ライフゴールズ・プログラム
Life Goals Program(LGP)は、米国のBauerとMcBrideが開発した、マニュアルに基づく集団心理教育・問題解決プログラムです。(2009)
特徴は、自己管理だけでなく、病気によって中断・制限された仕事、人間関係、学業、社会参加などの生活目標へ取り組む点です。
| 段階 | 内容 | 成果物 |
|---|---|---|
| フェーズⅠ | 原著では5回。病気のパターン、症状、誘因、治療、対処 | 自己管理計画、早期サイン、対処法 |
| フェーズⅡ | 本人に意味がある現実的な生活目標を設定し、問題解決を行う | 段階化した目標と行動計画 |
生活目標の例
- 復職、就労、復学
- 家族や友人との関係
- 金銭管理
- 睡眠、食事、運動
- 趣味、地域活動、社会参加
目標追求が過活動や睡眠不足につながらないよう、気分状態を確認し、小さな行動へ分けます。
LGPとLGCCの違い
- LGP:集団心理教育と問題解決
- Life Goals Collaborative Care:LGPにケアマネジメント、症状モニタリング、多職種連携を加えたモデル
共同ケアの研究結果をLGP単独の効果として説明しないようにします。
6.ライフゴールズ・プログラムの研究
双極症外来患者164人の無作為化比較試験では、LGPと通常治療の間で、主要評価である治療への態度に明確な差は示されませんでした。参加継続などの実装要因が影響した可能性があります。[5]
ライフゴールズの自己管理支援を共同ケアへ組み込んだ研究では、症状、機能、医療利用などが検討されています。生活再建や地域支援と結びつけやすい一方、LGP単独と複合介入を区別して説明します。
7.両プログラムの比較
| 比較項目 | バルセロナ | ライフゴールズ |
|---|---|---|
| 中心理念 | 体系的に学び、再発予防 | 自己管理と生活目標 |
| 構造 | 固定性の高い21回 | 心理教育+目標支援 |
| 医学情報 | 比較的詳細 | 前半へ集約 |
| 個別化 | 共通テーマ内の個人ワーク | フェーズⅡで高い |
| 成果物 | 早期サイン、生活調整、再発予防計画 | 自己管理計画、生活目標、行動計画 |
| 適した場面 | 維持期の体系的学習 | 復職・復学、社会参加、生活再建 |
| 実施負担 | 21週、人員、教材更新 | フェーズⅡの柔軟な継続 |
| 研究 | 長期再発予防の比較的明確な研究 | LGP単独は限定的結果もあり複合介入と区別 |
8.どちらを導入するか
バルセロナ型
- 維持期の再発予防が主目的
- 体系的な疾患・薬物療法教育
- 21回の継続参加と複数実施者を確保
- 専門外来やデイケア
ライフゴールズ型
- 自己管理と生活再建を結びつける
- 復職、復学、家族関係、社会参加
- 地域支援、リハビリ、ケアマネジメント
- 個人目標へ柔軟に対応
治療導入期に低強度型、維持期にバルセロナ型、その後に生活目標支援という段階的設計も考えられます。
9.短縮・改変する場合
6回版、10回版などを作ることは可能ですが、原法を変更した場合は原プログラムそのものではありません。
残したい中核要素
- 双極症の基本理解
- 躁・軽躁・抑うつの自己モニタリング
- 薬物療法の理解と相談
- 個別の早期警告サイン
- 睡眠・生活リズム
- 再発時の行動計画
- ストレスと問題解決
- 本人に意味のある生活目標
変更した内容、理由、参加率、効果、安全性、実施者負担を記録し、実践報告へつなげます。
参考文献・資料
- 日本うつ病学会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023. 参照
- Colom F, et al. Randomized trial of group psychoeducation. Arch Gen Psychiatry. 2003. 参照
- Colom F, et al. Group psychoeducation: 5-year outcome. Br J Psychiatry. 2009. 参照
- Colom F, Vieta E. Psychoeducation Manual for Bipolar Disorder. 2006. 参照
- Sajatovic M, et al. Life Goals Program versus treatment as usual. Psychiatr Serv. 2009. 参照
- Bauer MS, McBride L. Structured Group Psychotherapy for Bipolar Disorder: The Life Goals Program. 2003. 参照
- Rabelo JL, et al. Psychoeducation in bipolar disorder: systematic review. 2021. 参照
医療情報としての注意
本記事は一般的な情報です。個別の診断、治療、処方変更、緊急性の判断は担当医療チームが行ってください。既存マニュアルや図表の利用時は著作権と利用条件を確認してください。
