双極症の動画図書館:第11回双極症と睡眠はなぜ関係が深い?――睡眠は、気分の波を整えるための土台です

双極症の動画図書館|第11回 解説コラム

NPO法人ネット心理教育ピアサポート
理事長 薬剤師 藤田剛(窓師)
双極症では、気分の波だけでなく、睡眠、生活リズム、予定、疲れなど、毎日の暮らしの変化が大切な手がかりになります。 なかでも睡眠は、躁・軽躁やうつの前ぶれとして変化することがあり、逆に睡眠の乱れが気分の波の引き金になることもあります。
今回は、第11回「双極症と睡眠はなぜ関係が深い?」の内容をもとに、 睡眠を「気合いでどうにかするもの」ではなく、主治医と相談しながら整えていくセルフケアの土台として整理します。
診断は医療機関で
この記事は、双極症について学ぶための一般的な心理教育情報です。 診断や治療方針の決定は、主治医や医療機関で行われます。 自己判断で薬を変更・中止しないでください。
症状の悪化、強い不眠、著しい気分の高まりや落ち込み、自傷他害のおそれがある場合は、 心理教育だけで対応しようとせず、早めに主治医・医療機関・地域の相談窓口に相談してください。 今すぐ安全が心配な場合は、救急受診や救急要請を含めて、安全を優先してください。

双極症の動画図書館について
NPO法人ネット心理教育ピアサポートでは、双極症の方に信頼できる情報をYoutube動画、Web解説コラムとして総合的に提供する目的で「双極症の動画図書館」の構築を進めています。詳細は以下のコラムをご覧ください。


この記事でわかること
- 双極症と睡眠・生活リズムが関係しやすい理由
- 「眠れない」と「眠らなくても平気」の違い
- 睡眠が乱れた時に、どのように記録し相談につなげるか
- ご家族・周囲の方が気づきやすい睡眠変化の見方
動画はこちら
第11回「双極症と睡眠はなぜ関係が深い?」をYouTubeで見る
いきなり結論:睡眠と気分の波は深くかかわっています
双極症では、睡眠の変化が躁・軽躁やうつの前ぶれになることがあります。 たとえば、睡眠が短くても平気になる時は、躁・軽躁のきざしとして現れることがあります。 反対に、長く寝ても疲れが取れない時は、うつ状態のサインかもしれません。
また、睡眠が乱れること自体が、躁・軽躁やうつの引き金になることもあります。 睡眠と概日リズム、つまり体内時計の乱れは、双極症の臨床で重要なテーマとして研究されています (睡眠・概日リズムと双極症に関するレビュー)。
眠れない、寝すぎる、寝る時間がずれる時は、早めに睡眠を見直し、必要に応じて主治医に相談しましょう。

睡眠は、気分の波とつながっています

双極症では、気分だけでなく、睡眠も大きく変化することがあります。 これは、睡眠が「体を休める時間」というだけでなく、生活リズムや活動量、ストレスへの耐えやすさとも関係しているためです。
日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023や、 一般向け資料の「双極症とつきあうために Ver.11」でも、 双極症では気分の波に気づき、再発予防につなげることが重要な視点として扱われています。
| 睡眠の変化 | 考えられる見方 | 相談につなげるポイント |
|---|---|---|
| 睡眠が短いのに平気 | 躁・軽躁のきざしとして現れることがあります。 | 「何時間眠ったか」「日中の活動量が増えていないか」をメモします。 |
| 長く寝ても疲れが取れない | うつ状態のサインとして現れることがあります。 | 睡眠時間だけでなく、疲労感、起床のつらさ、日中の動けなさも記録します。 |
| 寝る時間・起きる時間がずれる | 生活リズム全体の乱れにつながることがあります。 | 昼夜逆転、夜更かし、徹夜が続いていないかを確認します。 |
“眠れない”だけでなく、“眠らなくても平気”にも注意

不眠というと、つらくて眠れない状態を思い浮かべる方が多いと思います。 もちろん、眠れないつらさは大切な相談サインです。 ただし双極症では、それとは別に、眠らなくても元気に動ける状態にも注意が必要です。
本人には「調子がいい」「やる気が出てきた」と感じられることがあります。 そのため、気分の高まりとしては気づきにくく、睡眠時間の記録が手がかりになります。 DSM-5-TRに基づく解説でも、躁状態・軽躁状態の特徴として「睡眠欲求の減少」が挙げられています (Royal College of Psychiatrists 日本語版「双極性障害」も参照)。
見分けるヒント
- 眠れない:眠りたいのに眠れず、つらい。日中も疲れている。
- 眠らなくても平気:睡眠が短いのに、活動できる。予定や連絡が増えることもある。
どちらが良い・悪いではなく、「いつもの自分と違う睡眠の変化」として主治医に伝えることが大切です。
睡眠は、生活リズム全体の中心です

寝る時間、起きる時間、活動を始める時間は、体と心のリズムに関係します。 徹夜、夜更かし、昼夜逆転が続くと、気分の波が大きくなりやすくなることがあります。
双極症への心理的支援では、生活リズムや社会リズムを整える考え方が重視されてきました。 たとえば、睡眠・覚醒のリズムを整える介入や、規則的な睡眠・起床時刻を扱う心理教育・社会リズム療法の考え方があります (概日リズム介入に関するレビュー、 双極症の睡眠介入に関するレビュー)。
まずは、睡眠をセルフケアの中心として考えましょう。 ただし、急に完璧な生活に変えようとしなくても大丈夫です。 「少しだけ整える」「記録して相談する」ことから始めるのが現実的です。
睡眠の変化は、短く記録してみましょう

睡眠は、あとから振り返ると意外に思い出しにくいものです。 そのため、睡眠時間、寝た時間、起きた時間を短く記録しておくと、変化に気づきやすくなります。
眠気、疲労感、日中の活動量も一緒に見ると、主治医に相談する時の大切な手がかりになります。 『双極性障害の心理教育マニュアル』でも、 睡眠・覚醒リズムや活動の記録は心理教育の実践に関連する内容として紹介されています。
睡眠メモの例
| 日付 | 寝た時間 | 起きた時間 | 睡眠時間 | 日中の様子 | 主治医に相談したいこと |
|---|---|---|---|---|---|
| 例:6/10 | 2:00 | 5:00 | 3時間 | 眠くない。予定を増やした。 | 軽躁の兆しか相談したい。 |
| 例:6/12 | 23:00 | 12:00 | 13時間 | 起きても疲れる。外出できない。 | うつの悪化か相談したい。 |
| 例:6/15 | 5:00 | 13:00 | 8時間 | 昼夜逆転気味。夜に目が冴える。 | 生活リズムの戻し方を相談したい。 |
記録は完璧でなくて大丈夫です。空欄があっても、数日分だけでも、診察で話すきっかけになります。
こんな時は、早めに相談してください
睡眠の問題は、生活の工夫だけでよくなる場合もありますが、双極症では気分の波と重なることがあります。 次のような場合は、早めに主治医や医療機関へ相談してください。
- 睡眠が短いのに平気で、予定・連絡・買い物・活動量が増えている
- 強い不眠が続いている
- 寝すぎてしまい、生活や仕事・家事に大きな支障が出ている
- 昼夜逆転が続き、自分では戻せなくなっている
- 気分の高まり、落ち込み、焦り、イライラ、自傷の考えが強い
つらさが強い時や安全が心配な時は、主治医・救急・地域の相談窓口につながってください。 公的な相談先は厚生労働省の相談先一覧にもまとめられています。
ご家族・周囲の方へ
睡眠の変化は、本人より周囲が先に気づくことがあります。 ただし、「また躁では?」「寝すぎでは?」と決めつけると、本人が責められたように感じることがあります。
伝える時は、評価よりも事実を短く伝えると、相談につながりやすくなります。
| 避けたい言い方 | 伝えやすい言い方 |
|---|---|
| 寝ていないのに元気なんておかしいよ。 | 最近、睡眠が短いのに予定が増えているように見えるよ。診察で相談してみる? |
| 寝すぎ。だらしない。 | 長く寝ても疲れが残っているように見えるよ。つらさを主治医に伝えられそう? |
| 生活リズムをちゃんとしなさい。 | 寝る時間と起きる時間を一緒にメモして、次の診察で相談するのはどうかな。 |
まとめ:睡眠は、気分の波を整えるための土台です

- 双極症では、睡眠の乱れが気分の波と関係しやすい大切なサインです。
- 「眠れない」だけでなく、「眠らなくても平気」にも注意します。
- 長く寝ても疲れが取れない、寝る時間がずれる、といった変化も見ていきます。
- 睡眠時間、寝た時間、起きた時間を短く記録すると、主治医に相談しやすくなります。
- 困った時は、生活の見直しだけで抱えず、主治医に相談してください。
次回は「寝る時間・起きる時間を整える」

次回は、第12回「寝る時間・起きる時間を整える」です。 睡眠の大切さをふまえて、実際にどのように生活リズムを整えるかを学びます。

もっと学びたい方へ
ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について当事者・家族向けに学べる動画や資料を公開しています。 気になるところから、無理のない範囲でご覧ください。

参考文献・参考資料

- 日本うつ病学会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.
- 日本うつ病学会 双極症委員会. 双極症とつきあうために Ver.11. 2024.
- Royal College of Psychiatrists. 双極性障害(日本語版).
- Tonon AC, et al. Sleep and circadian disruption in bipolar disorders. 2024.
- Gold AK, Kinrys G. Treating Circadian Rhythm Disruption in Bipolar Disorder. 2019.
- Harvey AG, et al. Interventions for Sleep Disturbance in Bipolar Disorder. 2015.
- Colom F, Vieta E. 双極性障害の心理教育マニュアル. 秋山剛, 尾崎紀夫 監訳. 医学書院; 2012.
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 当事者ができること(F3).
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 治療について(F2).
※本記事は心理教育を目的とした一般情報です。診断・治療方針は主治医と相談してください。
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