第9回 混合状態って何?――「落ちているのに落ち着かない」は相談するサイン

双極症の動画図書館|第9回 解説コラム

ネット心理教育ピアサポート 認定公認心理師 木野内南(布団ちゃん)

双極症では、「躁・軽躁」と「うつ」がはっきり分かれて見えるとは限りません。 気分は落ち込んでいるのに、内側では焦りやイライラ、考えの止まらなさ、衝動性が強く出ることがあります。 このような状態は、本人にも周囲にも説明しづらく、とても苦しくなりやすい状態です。

今回は、混合状態を「自分で診断するため」ではなく、早めに主治医や相談先につながるためのヒントとして整理します。

目次

診断は医療機関で

この記事は、双極症について学ぶための一般的な心理教育情報です。 診断や治療方針の決定は、主治医や医療機関で行われます。 自己判断で薬を変更・中止しないでください。

強い不眠、著しい気分の高まりや落ち込み、自傷他害のおそれ、生活に大きな支障が出ている場合は、 心理教育だけで対応しようとせず、早めに主治医・医療機関・地域の相談窓口に相談してください。 今すぐ安全が心配な場合は、救急受診や救急要請を含めて、安全を優先してください。

この記事でわかること

  • 混合状態を、当事者にわかりやすく説明する考え方
  • 「落ち込んでいるのに落ち着かない」というサイン
  • イライラ・衝動性・大きな決断に注意が必要な理由
  • 安全面を早めに考え、主治医に伝えるためのメモの作り方

いきなり結論:混合状態は、落ち込みと焦り・イライラが重なる

今日の結論:混合状態は、落ち込みと焦り・イライラが重なる

混合状態では、気分は落ちているのに、内側は落ち着かないことがあります。 焦り、イライラ、考えの止まらなさ、衝動性が強く出ることもあります。

この状態は、自分でも説明しづらく、周囲にも伝わりにくいことがあります。 つらさが強く、精神的にも不安定になりやすいため、早めに主治医や相談先につなげることが大切です。

診断は医療機関で:自己判断で薬を変えないでください

双極症は「上がる・下がる」だけではありません

双極症は、上がる・下がるだけではありません

双極症というと、「躁・軽躁で上がる」「うつで下がる」というイメージを持つ方も多いかもしれません。 しかし、実際にはそれだけではありません。 双極症には、躁状態・軽躁状態、うつ状態、寛解状態に加えて、混合状態があります。

混合状態では、躁・軽躁のサインとうつ状態のサインが入り混じります。 たとえば、気分は落ちているのに、頭の中は忙しい。 体は疲れているのに、焦ってじっとしていられない。 こうした状態は、「元気か、落ちているか」だけでは見えにくいものです。

医学的にも、DSM-5以降は「混合エピソード」という考え方から、 うつ、躁、軽躁のエピソードに重なる「混合性の特徴(mixed features)」として説明されるようになりました。 ただし、ここで大切なのは診断名を覚えることより、今のつらさを主治医に具体的に伝えることです。

落ち込んでいるのに、落ち着かない

落ち込んでいるのに、落ち着かない

混合状態でよくあるのが、落ち込んでいるのに、落ち着かないという感覚です。

  • 気分は沈んでいるのに、そわそわする
  • 休みたいのに休めない
  • 疲れているのに、じっとしていられない
  • 考えが止まらず、頭の中が忙しい
  • 外からは動けているように見えるが、本人の中ではとても苦しい

周囲からは「動けているから大丈夫」に見えることがあります。 でも、動けていることと、本人が楽であることは同じではありません。 動けているから大丈夫、とは限らない点が大切です。

イライラや衝動性が強い時は要注意です

イライラや衝動性が強い時は要注意です

混合状態では、イライラや衝動性が強く出ることがあります。 本人は「今すぐ動いた方がよい」「この判断で間違いない」と感じていても、 後から振り返ると負担が大きかった、ということもあります。

見えやすいサイン具体例安全のための工夫
イライラが強い怒りっぽい、言いすぎる、相手を責めたくなる重要な話し合いを一度延期する。文章を送る前に下書きで止める。
連絡・投稿が増えるSNS投稿、DM、電話、長文メッセージが急に増える送信前に一晩置く。信頼できる人に見てもらう。
大きな決断を急ぎたくなる買い物、契約、退職、転職、引っ越し、人間関係の断絶決断を先送りする。主治医・家族・支援者への相談を優先する。

強い衝動がある時は、決断を先送りし、相談を優先しましょう。 これは「何もしてはいけない」という意味ではなく、後から自分を守るための時間をつくるということです。

安全面への配慮を早めに考えます

安全面への配慮を早めに考えます

混合状態は、本人にとっても説明しづらく、苦しさが強くなりやすい状態です。 特に、活動性が高いにもかかわらず、消えたい気持ちや自傷の考えが強い時は、早めの相談が必要です。

急いで相談したいサイン

  • 「消えたい」「自分を傷つけたい」という考えが強い
  • 衝動が強く、危険な行動を止めにくい
  • 眠れない状態が続き、焦りやイライラが強い
  • 周囲から見ても安全が心配な状態になっている

このような時は、ひとりで判断しないことが大切です。 主治医、医療機関、地域の相談窓口、身近な支援者につながってください。 相談先が分からない場合は、厚生労働省の 「まもろうよ こころ」から、 電話相談や SNS相談の窓口を確認できます。 今すぐ身の安全が心配な場合は、救急受診や救急要請を含めて安全を優先してください。

主治医に伝える時は「躁か、うつか」よりも事実を短く

混合状態では、自分でも「これは躁なのか、うつなのか」と迷いやすくなります。 しかし、診察で大切なのは、診断名を自分で決めることではありません。 いつから、何が、どのくらい変わったかを短く伝えることです。

メモ例

  • 3日前から落ち込みが強い。でも頭の中が忙しくて休めない。
  • 睡眠が短い。焦りが強く、SNS投稿と連絡が増えている。
  • 消えたい気持ちがある。衝動的に大きな決断をしそうで怖い。
  • 退職や契約を急ぎたくなっている。判断を先送りしたいが不安。

診察で使えるメモテンプレート

項目書き方の例
いつから3日前から/先週末から/睡眠が崩れてから
気分落ち込みが強い/悲しいより焦りが強い/イライラする
体と行動休めない/じっとしていられない/連絡や投稿が増えた
判断・衝動大きな買い物・契約・退職などを急ぎたくなる
安全面消えたい気持ちがある/自傷の考えがある/危険を感じる
相談したいこと混合状態か相談したい/薬や受診間隔について相談したい

ご家族・周囲の方へ:責めるより、安全と相談につなげる

混合状態は、本人も説明しづらい状態です。 外からは動けているように見えても、内側では強い焦りや苦しさがあることがあります。 「元気そうだから大丈夫」「怒っているだけ」と決めつけないことが大切です。

避けたい言い方伝えやすい言い方
また躁なんじゃない?最近、落ち込みもあるのに連絡や投稿が増えていて、しんどそうに見えるよ。
怒りっぽいだけでしょ。イライラが強くてつらそうだから、主治医に相談する材料として一緒に整理しようか。
そんな決断、絶対だめ。今は大きな決断を少し先送りして、安全に相談してから考えよう。

まとめ:“落ちているのに落ち着かない”は相談するサイン

まとめ:“落ちているのに落ち着かない”は相談するサイン
  • 混合状態では、うつ状態に焦り・イライラ・衝動性が重なることがあります。
  • 「落ちているのに落ち着かない」という感覚は、相談するサインです。
  • 動けているように見えても、本人の中ではとても苦しいことがあります。
  • 強い衝動がある時は、大きな決断を先送りし、相談を優先します。
  • 自分で躁なのか、うつなのか考えすぎず、今の状態を主治医と共有してください。

次回は、「自分の波を記録する意味」について見ていきます。

もっと学びたい方へ

ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について当事者・家族向けに学べる動画や資料を公開しています。 気になるところから、無理のない範囲でご覧ください。

参考文献・参考資料

  1. 日本うつ病学会. ガイドライン検討委員会:ガイドライン掲載ページ.
  2. 日本うつ病学会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.
  3. 日本うつ病学会 双極症委員会. 双極症とつきあうために Ver.11. 2024.
  4. American Psychiatric Association. DSM-5-TR resources.
  5. American Psychiatric Association. Mixed Features Specifier.
  6. Colom F, Vieta E. 双極性障害の心理教育マニュアル. 秋山剛, 尾崎紀夫 監訳. 医学書院; 2012.
  7. NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 病気について(F1).
  8. NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 当事者ができること(F3).

※本記事は心理教育を目的とした一般情報です。診断・治療方針は主治医と相談してください。

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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