双極症の動画図書館:23回 薬はなぜ続けるの?――調子がよい時にも薬の役割があります

双極症の動画図書館 第23回

症状が落ち着くと、「もう治ったのだから、薬は必要ないのでは」と感じることがあります。毎日の服薬を負担に思ったり、副作用が気になったりすることもあります。薬をやめたいと思うこと自体は、不自然なことではありません。

双極症で薬を使う目的には、今ある躁・うつ症状を和らげることと、落ち着いた後の再発・再燃を減らすことがあります。今回は、薬を続ける意味と、続けにくい時にどう考えればよいかを整理します。

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目次

動画はこちら

まず、振り返り質問への回答と、考えるヒントです

動画の最後に示した二つの質問を、本文に入る前に解説します。先にこのWeb解説コラムをご覧になっている方は、まず図の2つの質問について考えてみてください。

自分が薬を続けにくくなる場面を知ることが、具体的な対策の入口になります。

Q1.調子が良くなったあとも、薬を続けることがあるのはなぜでしょうか?

回答:双極症の薬には、今出ている症状を和らげる役割だけでなく、再発・再燃を減らすために続けて使う役割があります。そのため、調子が良くなった時期にも治療が続くことがあります。

「調子が良いから、もう大丈夫」と感じること自体は自然です。ただし、中止や減量によって再発の危険が変わることや、急な中止で問題が起こる薬もあります。やめる・減らすという希望も含めて、主治医と相談して決めることが大切です。

Q2.あなたが薬をやめたくなったり、飲み忘れたりしやすいのは、どんな時でしょう?

この問いには一つの正解はありません。例えば、次のような視点で考えられます。

  • 眠気、体重増加、ふるえなどがつらい
  • 治ったように感じ、薬の必要性が分からなくなる
  • 病気や服薬を思い出すこと自体がつらい
  • 忙しい、生活時間が不規則、外出先で飲みにくい
  • 費用、薬の数、通院、周囲の目などが負担になっている

飲み忘れが多い場合は、アラーム、一包化、服薬カレンダーなどを検討できます。副作用や負担感も、我慢せず主治医や薬剤師に相談してよいテーマです。

最初に要点

  • 双極症の薬物療法には、今の症状を和らげる役割と、再発・再燃を減らす役割があります。
  • 症状が落ち着いている時にも、安定を保つための維持療法が続くことがあります。
  • すべての薬が二つの役割を同じように持つわけではありません。自分の薬の目的を確認しましょう。
  • 「やめたい気持ち」と「飲み忘れ」は分けて考えると、対策を選びやすくなります。
  • 中止や減量は自己判断で行わず、副作用や負担を含めて主治医・薬剤師に相談します。
薬は、今の症状を和らげ、これからの再発を減らすために使われます。

このコラムについて

このコラムは、服薬の目的を理解するための一般的な情報です。薬の適否、用量、飲み方、中止方法は、薬の種類と一人ひとりの状態によって異なります。自己判断で増減・中止せず、主治医や薬剤師に確認してください。

診断や薬の変更は、主治医・医療機関へ相談してください。

1.薬物療法には「今」と「これから」を支える役割があります

双極症の薬物療法は、目的によって大きく二つに分けて考えられます。

目的役割確認すること
急性期治療今ある躁状態・うつ状態の症状を和らげる症状の変化、効果、副作用、安全
維持療法症状が落ち着いた後の再発・再燃を減らす安定した期間、早期サイン、長期的な副作用と生活

ここで注意したいのは、一つひとつの薬が、急性期治療と維持療法の両方に同じように使われるとは限らないことです。今の処方の中で、どの薬が何を目的に使われているかは、主治医や薬剤師に確認できます。

薬物療法は、今の症状と将来の再発の両方を見ながら使われます。

2.調子が良い時に続けるのは、安定を保つためです

症状がない時は、薬が何もしていないように感じるかもしれません。しかし、症状が目立たない時期にも、再発・再燃を減らすための役割が続いていることがあります。

日本うつ病学会の診療ガイドラインでは、双極症は再発・再燃を繰り返すことがあり、維持療法が重要であるとされています。薬物療法を継続した集団では、中止した集団より、その後の再発・再燃が少なかったという研究結果もまとめられています。

研究結果の読み方

これは集団を比較した統計的な傾向です。「続ければ絶対に再発しない」「中止すれば必ず再発する」という意味ではありません。自分の場合の見通しは、これまでの経過、薬の効果と副作用、生活、希望などを合わせて主治医と考えます。

また、安定は薬だけで生まれるものではありません。睡眠、生活リズム、心理教育、周囲の支援なども関係します。それでも、安定しているから薬の役割がなくなったとは限らないため、処方の意味を確認してから判断します。

3.薬は一生続けるのですか?

服薬期間に、全員に共通する一つの答えはありません。長期の維持療法が必要な場合もあれば、薬の種類や組み合わせを見直す場合もあります。

主治医は、例えば次の点を考えて治療期間や内容を判断します。

  • これまでの躁・うつの回数、強さ、間隔
  • 入院、自傷・他害、浪費など安全や生活への影響
  • 薬を使った時の効果と、過去に減量・中止した時の経過
  • 副作用、身体疾患、検査値、妊娠・出産に関する希望
  • 仕事、家庭、支援環境、本人が大切にしたいこと

「いつまで必要ですか」「今の薬は急性期用ですか、再発予防用ですか」と質問して構いません。期間が決められない場合も、「次にいつ見直すか」を確認すると、見通しを持ちやすくなります。

4.急な中止では、何が問題になるのでしょうか?

自己判断で薬を急に中止すると、躁・うつ症状が再び現れたり、悪化したりすることがあります。また薬によっては、離脱症状(中止に伴って出る不調)や、反跳(抑えられていた症状が一時的に強く現れること)が起こる場合があります。

必要な減量の速さや観察項目は、薬によって異なります。国際的なガイドラインでも、長期治療を中止する時は再発の早期サインと対応を話し合い、段階的に減量しながら経過を見ることが勧められています。

「薬をやめたい」と主治医へ伝えることと、自分で急にやめることは別です。希望や理由を伝え、減量する場合は具体的な手順と、症状が変化した時の連絡方法を確認します。

中止や減量は、薬ごとの方法を確認して計画的に進めます。

5.続けにくい理由を分けると、対策が見つかりやすくなります

服薬を続けられないことを「本人の意志が弱い」と考える必要はありません。続けにくさには、いくつもの理由があります。理由が違えば、必要な対応も違います。

続けにくい理由相談・工夫の例
副作用がつらい症状、始まった時期、生活への影響を伝え、用量・服用時刻・薬の選択肢を相談する
必要性に納得できない各薬の目的、期待できる利益、中止した場合のリスク、見直す時期を聞く
飲み忘れる服薬回数、生活時間、一包化、ピルケース、アラームなどを相談する
薬の数や飲み方が複雑処方を整理できるか、医師・薬剤師に確認する
費用や通院が負担医療機関の相談窓口、精神保健福祉士、薬剤師へ相談する
服薬への抵抗感がある否定せず、何がつらいのかを言葉にして医療者と共有する

複数の理由が重なることもあります。まず「一番つらい理由」を一つ選ぶだけでも、相談しやすくなります。

続けにくい理由を分けて、理由に合った方法を考えます。

6.飲み忘れは「仕組み」で減らせることがあります

飲み忘れは誰にでも起こり得ます。注意力だけに頼らず、生活の中に仕組みを作ります。

  • 一包化:同じ時間に飲む薬を一つの袋にまとめてもらう
  • ピルケース・服薬カレンダー:飲んだかどうかを目で確認する
  • アラーム:スマートフォンや時計で服薬時刻を知らせる
  • 生活動作と組み合わせる:食事、歯磨きなど、毎日の行動と結びつける
  • お薬手帳・薬局をまとめる:処方全体を確認しやすくする

一包化やピルケースが全員に合うわけではありません。湿気や光に弱い薬、服用時刻を分ける必要がある薬もあります。自分で入れ替える前に、薬剤師へ確認すると安心です。

飲み忘れた時はどうすればよいですか?

対応は、薬の種類、飲み忘れた時間、次の服用までの間隔によって異なります。原則として、自己判断で二回分をまとめて飲まず、処方時の説明書や患者向医薬品ガイドを確認し、分からなければ薬局・医療機関へ相談してください。

何度も忘れる場合は、隠さず伝えることが大切です。主治医は、実際の服薬状況が分からないと、効果が不十分なのか、飲めていないためなのかを区別しにくくなります。

注意力だけに頼らず、自分に合う仕組みを医療者と考えます。

7.副作用を我慢することが「薬を続けること」ではありません

薬の効果だけでなく、副作用と生活への影響も治療判断の一部です。眠気、ふらつき、体重変化、ふるえ、口渇、便秘、性機能の変化など、困っていることは相談できます。

伝える時は、次のように具体化すると役立ちます。

症状:__________

いつから:__________

一日の中で強い時間:__________

生活で困ること:__________

自分が希望すること:続け方を工夫したい/量を相談したい/別の選択肢を知りたい

副作用と思っていた症状が、病気そのもの、身体疾患、他の薬、睡眠不足などと関係している場合もあります。原因を一人で決めつけず、経過を共有して評価します。

8.「やめたい」と主治医に言っても構いません

薬をやめたいと話すと叱られるのではないか、と心配する方もいます。しかし、やめたい理由は治療を調整するために重要な情報です。

診察では、次のように伝えられます。

「薬をやめたい気持ちがあります。理由は____です」

「この薬は、今の症状と再発予防のどちらを目的にしていますか」

「続ける利益と、減らす・やめる場合のリスクを教えてください」

「減量できるとしたら、どのような条件と手順になりますか」

「調子が変わった時は、どの段階で連絡すればよいですか」

医療者が持つ医学的な情報と、本人が持つ生活・希望の情報を共有して治療を考えることを、共同意思決定(SDM)と呼びます。相談した結果、現時点では継続が勧められることもあります。その場合も、理由、見直す時期、負担を減らす方法を確認できます。

9.自分の薬について確認しておきたいこと

確認項目記入欄
薬の名前 
この薬の目的今の症状/再発予防/睡眠など
期待する効果 
困っている副作用・負担 
必要な検査血液検査、体重、血圧など
飲み忘れた時の対応 
次に見直す時期 

薬ごとの電子添文(医療者向けの公式情報)や患者向医薬品ガイドは、PMDAの医療用医薬品情報検索から確認できます。ただし、記載は専門知識を有する人を対象に記述されていることに注意してください。自分だけで解釈して中止・変更せず、疑問を医師や薬剤師へ持っていくために使います。

まとめ

薬を続ける理由は、症状があるからだけではありません。症状が落ち着いた後も、再発・再燃を減らし、生活を守るために薬の役割が続くことがあります。

一方で、副作用や負担を我慢し続けることが治療ではありません。続ける意味と、続けにくい理由の両方を考え、主治医・薬剤師と共有することが大切です。

薬の役割と負担の両方を確認し、変更・中止は主治医と相談します。

早めの受診・相談が必要な場合

  • 強い眠気、意識の変化、ふらつきなどで安全が保てない
  • 発疹、発熱、呼吸の苦しさなど、重大な副作用が疑われる
  • 眠れない日が続く、眠らなくても平気になるなど、躁・うつの兆候が強まる
  • 薬を大量に飲んでしまった、または飲んでしまいそう
  • 死にたい気持ち、自傷・他害のおそれがある

症状は薬によって異なります。差し迫った危険がある場合は一人にならず、医療機関や地域の救急へ連絡してください。必要な場合は119番など緊急の支援を利用してください。

参考文献・参考資料

  1. 日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』2023年
  2. 日本うつ病学会 双極症委員会『双極症とつきあうために Ver.11』2024年
  3. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)『医薬品や医療機器等の情報を調べる
  4. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)『患者向医薬品ガイド
  5. NICE. Bipolar disorder: assessment and management. CG185. Updated 2025.
  6. Keramatian K, Chithra NK, Yatham LN. The CANMAT and ISBD Guidelines for the Treatment of Bipolar Disorder: Summary and a 2023 Update of Evidence. Focus. 2023;21(4):344-353.
  7. NPO法人ネット心理教育ピアサポート『ゼミ参加者向け資料 F2・F3』

次は、どこを学びますか?

次の第24回では、「薬で困った時の相談」を扱います。眠気、体重変化、ふるえなど、薬による困りごとを診察でどう伝えるか、具体的に整理します。

「双極症の動画図書館」は、最初から順番に見なくても大丈夫です。今の自分に必要なテーマからご覧ください。

執筆・製作責任者

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長

認定専門公認心理師

社会福祉士

国際双極症学会 評議員

木野内南(布団ちゃん)

薬剤師

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長

藤田剛(窓師)

https://www.shinrikyoiku.com/

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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