双極症の動画図書館:22回 双極症の治療は何を目指すの?――症状と生活の両方を守るために

双極症の動画図書館 第22回
治療を続けていると、「薬を飲み続けること自体が目的なのですか」「症状がなくなれば治療は終わるのでしょうか」と疑問に思うことがあります。
双極症の治療が目指すのは、目の前の躁状態やうつ状態を和らげることだけではありません。再発を減らし、生活への影響を小さくし、その人が大切にしたい暮らしを守ることも重要な目標です。今回は、治療の「手段」ではなく「目的」を整理します。
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解説
このコラムについて
このコラムは、自分の状態や治療を理解するための一般的な情報です。診断や、個別の薬の選択・用量調整を行うものではありません。薬を自己判断で増減・中止せず、症状、効果、副作用について主治医や薬剤師に相談してください。
最初に要点
- 急性期は、安全を守り、強い躁・うつの症状を和らげることを優先します。
- 落ち着いた後も、再発・再燃を減らすための維持療法を続けます。
- 症状だけでなく、睡眠、仕事・学業、家庭、人間関係、金銭など生活への影響も見ます。
- 治療の効果は、一日の気分ではなく、波の頻度・強さ・期間と生活の変化から長い目で評価します。
- 目標は医療者から一方的に与えられるものではありません。本人の希望と医学的な情報を共有し、一緒に決めて見直します。

1.治療には、いくつかの目標があります
「治療の目標」を一つの言葉だけで表すと、本人と医療者の間で意味がずれることがあります。たとえば「安定」という言葉も、医療者は躁・うつ症状が目立たない状態を考え、本人は仕事や家事が無理なくできる生活を考えているかもしれません。
そこで、治療の目標を次のように分けると話し合いやすくなります。
| 目標 | 意味 | 確認する例 |
|---|---|---|
| 安全を守る | 本人や周囲の人への危険を減らす | 自傷・他害、事故、極端な浪費、食事・水分、睡眠 |
| 症状を和らげる | 躁・うつの苦痛と影響を小さくする | 気分、活動量、思考、睡眠、焦り、意欲 |
| 再発を減らす | 安定した期間を保ち、波を小さくする | 波の頻度・強さ・期間、早期サイン |
| 生活を守る | 暮らしへの影響を減らす | 仕事・学業、家庭、人間関係、金銭、住まい |
| 本人らしい暮らしを支える | 大切にしたい役割や希望を取り戻す | 楽しみ、つながり、役割、将来の希望 |
| 治療の負担を調整する | 効果だけでなく副作用や続けやすさも考える | 眠気、体重、費用、通院、服薬の負担 |
「症状が完全になくならなければ失敗」「再発したら治療は無意味」ということではありません。波の回数が減った、強さが小さくなった、回復までの期間が短くなった、生活へのダメージを減らせたことも、大切な変化です。
2.急性期と維持期では、優先する目標が変わります
急性期は、躁状態やうつ状態などの症状が強い時期です。この時期は、まず安全を確保し、症状を和らげ、睡眠や食事などの基本を取り戻すことを優先します。
維持期は、症状が落ち着いた後の時期です。維持療法とは、安定を保ち、再発・再燃を減らすために治療を続けることです。調子が良い時に治療を続ける理由は、「まだ治っていないと責めるため」ではなく、今の生活を守るためです。
| 時期 | 優先する目標 | 話し合うこと |
|---|---|---|
| 急性期 | 安全の確保、症状の改善、睡眠・食事の回復 | 受診、薬、休息、刺激や予定の調整、支援者との連携 |
| 回復期 | 生活を急がず段階的に取り戻す | 活動量、復学・復職、家事、再燃サイン |
| 維持期 | 再発予防、生活の安定、本人の希望 | 継続治療、副作用、心理教育、記録、早期対応計画 |
時期の境目は、いつも明確とは限りません。「今はどの時期と考えるのか」「今の治療で最優先することは何か」を主治医に確認して構いません。

3.「症状が少ない」だけでなく、「生活を守れているか」を見ます
診察室で目立つ症状が少なくても、眠れない、朝起きられない、仕事や家事を続けられない、人間関係や金銭の問題が残っていることがあります。反対に、多少の症状があっても、工夫や支援によって大切な生活を保てている場合もあります。
治療では、症状と生活の両方を確認します。ただし、「仕事に戻ること」や「以前と同じ生活に戻ること」を全員の目標にする必要はありません。本人が大切にしたい生活は、人によって異なります。
生活について主治医へ伝えてよいこと
- 眠れていても、朝に強い眠気が残る
- 症状は落ち着いたが、仕事や家事に必要な集中力が戻らない
- 家族との関係や金銭面の不安が続いている
- 薬の副作用や通院が、生活の負担になっている
- 今後、どのような生活を取り戻したいか
診察では「気分はどうですか」だけでなく、「生活のどこが良くなり、どこがまだ困るか」を伝えると、治療目標を具体化しやすくなります。

4.治療の効果は、長い目で評価します
双極症には気分の波があるため、一日の気分だけで「薬が効いた」「治療が失敗した」と判断することは難しい場合があります。次のような複数の視点で経過を見ます。
- 躁・うつの波が起きる頻度
- 症状と生活への影響の強さ
- 症状が続く期間と、回復までの時間
- 睡眠、活動量、仕事・学業、家庭生活の変化
- 薬や治療による副作用・負担
- 本人が大切にしたいことへ近づいているか
記録は、よい患者であることを証明するためのものではありません。気分、睡眠、活動量、服薬、普段と違う出来事のうち、無理なく続けられるものを一つ選び、診察で共有するための道具です。

5.治療目標は、本人と主治医が一緒に決めます
医療者は、治療の選択肢、それぞれに期待できる効果、起こり得る副作用やリスクについて説明します。本人は、症状、生活の困りごと、希望、治療で避けたい負担を伝えます。双方の情報を持ち寄って方針を決める考え方を、共同意思決定(SDM)と呼びます。
「医師の言うとおりにすること」と「本人が一人で決めること」の二択ではありません。分からないことを質問し、迷っていることも伝え、納得できる目標を一緒に探します。
ただし、症状が強く、判断力が一時的に大きく低下している時や、差し迫った危険がある時は、安全の確保が優先されることがあります。その場合も、状態が落ち着いた後に本人の希望をあらためて確認し、治療計画を見直すことが大切です。
診察で使える「治療目標メモ」
1.今いちばん困っていること:__________
2.良くなったと感じること:__________
3.守りたい生活・大切にしたいこと:__________
4.治療で負担になっていること:__________
5.次回までの小さな目標:__________
6.目標を見直す時期:__年__月ごろ/次回受診時
全部を埋める必要はありません。「今の治療は何を目指していますか」「私が大切にしたいのは__です」と、一つ伝えるだけでも話し合いの入口になります。

6.目標どうしがぶつかる時は、優先順位を話し合います
実際の治療では、すべての目標を同時に満たせないことがあります。大切なのは、どちらかを我慢して黙ることではなく、何を優先するかを言葉にすることです。
| 迷いやすい場面 | 話し合う視点 |
|---|---|
| 症状は改善したが、眠気が強い | 効果を保ちながら副作用を減らせるか。服用時刻、用量、薬の選択肢を相談する |
| 早く復職したいが、再発も心配 | 復職の時期、業務量、段階的な復帰、休息と受診の確保を相談する |
| 家族は安全を心配し、本人は自立を大切にしたい | 共有する情報の範囲、早期サイン、緊急時だけ助けを求める方法を決める |
| 安定したので治療を減らしたい | 再発リスク、これまでの経過、減量・中止の利益と不利益、観察と対応計画を確認する |
薬や通院を減らしたいという希望も、相談してはいけない話題ではありません。ただし、自己判断で急に変更せず、希望の理由と心配を主治医へ伝え、安全な選択肢を検討してください。
7.治療目標は、一度決めたら固定ではありません
症状、年齢、仕事、家庭、妊娠・出産の希望、身体の病気、支援環境などが変われば、治療で優先したいことも変わります。目標を変えることは、前の目標が間違っていたという意味ではありません。
次のような時は、目標を見直す機会です。
- 躁・うつの症状が強くなった、または再発した
- 症状は落ち着いたが、生活上の困りごとが残っている
- 副作用や通院・服薬の負担が大きくなった
- 復学・復職、転居、結婚、妊娠の希望など生活に変化がある
- 本人が大切にしたいことや優先順位が変わった
定期的に「今の治療目標は何か」「今の自分に合っているか」を確認します。
まとめ
双極症の治療は、目の前の症状を抑えるだけでなく、安全を守り、再発を減らし、生活への影響と治療の負担を調整しながら、本人が大切にしたい暮らしを支えることを目指します。
治療の目標は、症状と生活の両方を守ることです。その時々の状態と希望に合わせて、主治医や医療者と共有し、無理のない段階に分けて見直していきます。

振り返りクイズ:解答例と考え方
Q1.双極症の治療は、症状を抑えること以外に、どんなことを目指しているのでしょうか?
解答例:再発・再燃を減らすこと、睡眠や食事など生活の基本を保つこと、仕事・学業・家庭、人間関係、金銭への影響を小さくすること、治療の副作用や負担を調整すること、本人が大切にしたい暮らしを支えることなどです。
人によって優先順位は違います。また、急性期と維持期でも重点は変わります。
Q2.あなたが「治療がうまくいっている」と感じるのは、どんな生活ができている時でしょう?
考え方の例:「睡眠が大きく崩れず朝に起きられる」「家族と落ち着いて話せる」「無理をしすぎず仕事を続けられる」「好きなことを少し楽しめる」「副作用について主治医と相談できる」など、自分にとって意味のある生活を具体的に考えます。
大きな目標でなくて構いません。「次回受診まで、起床時刻を記録する」「副作用を一つ伝える」など、今できる小さな目標に分けることもできます。
参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』2023年
- 日本うつ病学会 双極症委員会『双極症とつきあうために Ver.11』2024年
- Yatham LN, et al. CANMAT and ISBD 2018 guidelines for the management of patients with bipolar disorder. Bipolar Disord. 2018;20(2):97-170.
- Keramatian K, Chithra NK, Yatham LN. The CANMAT and ISBD Guidelines for the Treatment of Bipolar Disorder: Summary and a 2023 Update of Evidence. Focus. 2023;21(4):344-353.
- NICE. Bipolar disorder: assessment and management. CG185.
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート『ゼミ参加者向け資料 F2・F3』
次は、どこを学びますか?
第22回では、治療が目指すものを整理しました。ここから、薬の効果と副作用、睡眠・生活リズム、記録、再発予防、主治医との相談方法など、今の自分に必要なテーマを選んで学べます。
「双極症の動画図書館」は、最初から順番に見なくても大丈夫です。関心や体調に合わせてご覧ください。

執筆・製作責任者

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長
認定専門公認心理師
社会福祉士
国際双極症学会 評議員
木野内南(布団ちゃん)

薬剤師
NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
藤田剛(窓師)
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