双極症の動画図書館:第21回 双極症の治療全体を見渡す――薬・睡眠・記録・相談・再発予防を一つの地図に

双極症の動画図書館 第21回
双極症の治療について調べ始めると、薬、睡眠、生活リズム、心理教育、記録、家族との連携など、多くの情報が出てきます。「結局、何が治療なのでしょうか」と戸惑う方もいるかもしれません。
大切なのは、どれか一つだけを選ぶことではありません。薬物療法を重要な柱としながら、睡眠と生活、記録、相談、再発予防を組み合わせます。今回は、治療の細部に入る前に、全体を見渡すための「地図」を作ります。
最初に要点
- 双極症では、薬物療法が治療の重要な柱です。
- 薬だけでなく、睡眠・生活リズム、記録、相談、再発予防も組み合わせます。
- 治療の目的と優先順位は、躁・うつの急性期と、安定した維持期で変わります。
- 生活を完璧に整えることが目標ではありません。できる範囲で小さく調整します。
- 治療方針は、主治医と情報や希望を共有しながら一緒に考えます。
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解説

このコラムについて
このコラムは、自分の状態や治療を理解するための一般的な情報です。診断や、個別の薬の選択・用量調整を行うものではありません。薬を自己判断で増減・中止せず、症状、効果、副作用について主治医や薬剤師に相談してください。

1.治療は「一つの正解」ではなく、「五つの柱」の組み合わせです
双極症は、躁状態・軽躁状態とうつ状態だけでなく、睡眠、活動量、判断、仕事や人間関係など、生活のさまざまな部分に影響します。そのため、治療も一つの方法だけで完結しにくい病気です。
日本うつ病学会の診療ガイドラインでは、薬物療法を基本としながら、生活習慣の調整や心理社会的支援も検討し、寛解後は維持療法へ移って再発予防を目指す、という全体像が示されています。
| 治療の柱 | 主な役割 | 確認すること |
|---|---|---|
| 薬 | 今の症状を和らげ、再発を予防する | 効果、副作用、飲み方、検査 |
| 睡眠・生活 | 気分の安定を支える土台をつくる | 睡眠時間、起床時刻、予定、負荷 |
| 記録 | 変化や自分のパターンに気づく | 気分、睡眠、活動量、服薬、出来事 |
| 相談 | 情報を共有し、治療を調整する | 困りごと、希望、次回までの方針 |
| 再発予防 | 早期サインに気づき、早めに対応する | 自分のサイン、連絡先、対応手順 |
五つを毎日完璧に行う必要はありません。「今はどこが支えになっているか」「どこが少し手薄か」を見つけ、次の一歩を一つ選ぶための地図として使います。

2.治療の目的は、病気の時期によって変わります
同じ人でも、強い躁状態やうつ状態にある時と、症状が落ち着いている時では、必要な治療が違います。
| 時期 | 主な目的 | 優先しやすいこと |
|---|---|---|
| 急性期 | 躁・うつの症状を和らげ、安全を守る | 受診、薬物療法、休息、刺激や負荷の調整 |
| 回復期 | 生活を少しずつ取り戻す | 睡眠、活動量、復学・復職などの段階的調整 |
| 維持期 | 安定を保ち、再発を予防する | 継続治療、心理教育、記録、早期対応計画 |
症状が強い時は、考える力や判断力が一時的に低下することがあります。その場合は、まず安全と症状の改善を優先します。状態が落ち着いた後に、本人の希望や価値観をあらためて確認し、治療計画へ反映していくことが大切です。
3.薬物療法は、治療の重要な柱です
薬には、躁やうつの症状を和らげる役割と、状態が落ち着いた後の再発・再燃を予防する役割があります。どの薬が適しているかは、現在の状態、これまでの経過、効果、副作用、身体の病気、妊娠の可能性、本人の希望などによって変わります。
「安定したので薬はもう要らない」と自己判断で中止すると、再発につながる場合があります。一方で、副作用を我慢し続ける必要もありません。薬が負担になっている時は、黙って中止するのではなく、何が困るのかを具体的に伝え、主治医や薬剤師と調整方法を考えます。
薬について伝えると役立つこと
- 飲み始めてから、何が良くなったか
- 眠気、ふらつき、体重、口渇、手の震えなど、困っている変化
- 飲み忘れやすい時間帯、費用、生活上の負担
- 市販薬、サプリメント、他科の処方薬
- 妊娠を考えている、または妊娠の可能性があること

4.睡眠と生活は、治療を支える土台です
睡眠の変化は、気分の波に先立って現れることがあります。いつもより眠らなくても平気になる、寝つけない、長く寝ても起きられない、といった変化は、主治医へ伝える価値のある情報です。
ただし、「規則正しい生活をしなければならない」と自分を責める必要はありません。症状が強い時に生活を整えることは簡単ではなく、生活調整は治療を受けるための条件でも、本人だけの責任でもありません。
- まず起床時刻または就床時刻のどちらか一つを確認する
- 予定を詰め込みすぎず、回復のための余白を残す
- 楽しい予定でも、続きすぎていないか振り返る
- 小さな調整を、体調に合わせて無理なく続ける
眠れない日が続く、眠らなくても活動できる、活動量や話す量が急に増えた、昼夜逆転が強くなった場合は、早めに主治医へ相談してください。

5.記録は「採点」ではなく、変化に気づく道具です
記録の目的は、よい生活ができたかを採点することではありません。自分では気づきにくい変化を見える形にし、限られた診察時間で主治医へ伝えやすくすることです。
毎日詳しく書くことが負担なら、次のうち一つだけでも構いません。
- 睡眠時間、就床時刻、起床時刻
- 気分を「低い・いつも通り・高い」の3段階で記録
- 服薬できたか
- 普段と違う行動や大きな出来事を一言
記録を続けられない時期があっても、失敗ではありません。受診前の数日だけ記録する、家族や支援者に変化を教えてもらう、といった方法もあります。
6.治療はチームで進めます
治療チームの中心にいるのは当事者本人です。主治医だけでなく、薬剤師、看護師、公認心理師、精神保健福祉士などが、それぞれ異なる面から支えます。本人が希望する場合は、家族、友人、職場や学校の支援者とも、必要な範囲で情報を共有できます。
家族へ何を伝えるかは、本人の意思とプライバシーに配慮して決めます。支援者がいない場合も、それは本人の不足ではありません。医療機関や地域の相談窓口と、利用できる支援を一つずつ探します。
診察で使える短い伝え方
「前回から、睡眠が__時間から__時間に変わりました」
「薬で__は良くなりましたが、__が困っています」
「次回までに、__をどうしたらよいか確認したいです」
「私が治療で大切にしたいのは、__です」
このように、医療者が持つ医学的な情報と、本人が持つ生活・希望の情報を持ち寄って方針を決める考え方を、共同意思決定(SDM)と呼びます。

7.再発予防は「安定している時」に準備します
再発予防は、再発を完全になくすという約束ではありません。変化を早めに見つけ、大きく崩れる前に治療や生活を調整しやすくするための備えです。
| 私の早期サイン | 例:睡眠が短くなる、連絡が増える、買い物が増える、朝起きられない |
|---|---|
| 最初にすること | 例:予定を減らす、記録する、家族へ知らせる |
| 連絡する相手 | 主治医、医療機関、支援者、家族など |
| 緊急時の行動 | 受診先、夜間・休日の連絡先、安全確保の方法 |
自分の早期サインがまだ分からなくても問題ありません。これまでの経過を主治医や身近な人と一緒に振り返り、少しずつ見つけていきます。
8.五つの視点で、今の治療を見直してみる
次の表は、治療の優劣を判定するものではありません。次回の受診で相談したいことを一つ選ぶために使います。
| 視点 | できていること | 相談したいこと |
|---|---|---|
| 薬 | ||
| 睡眠 | ||
| 記録 | ||
| 相談 | ||
| 再発予防 |
全部を一度に変えず、一つだけ相談する。それで十分です。
まとめ
双極症の治療では、薬物療法を重要な柱としながら、睡眠・生活、記録、相談、再発予防を組み合わせます。どれかが手薄でも、自分を責める必要はありません。全体像を持つことで、「今の自分に必要な次の一歩」を選びやすくなります。
知識は、自分を責めるためではなく、自分を理解し、守るために使うものです。

振り返りクイズ:解答例と考え方
Q1.なぜ「薬だけ」でなく、睡眠・生活・記録・相談なども組み合わせるのでしょうか?
解答例:薬は症状の改善と再発予防の重要な柱ですが、双極症は睡眠、生活リズム、ストレス、活動量などとも関係します。記録によって変化に早く気づき、主治医や支援者と共有することで、治療を早めに調整しやすくなるからです。
「薬か生活か」という二者択一ではありません。それぞれに異なる役割があり、組み合わせることで全体を支えます。
Q2.五つの視点で見た時、できていることと、少し手薄なことは何でしょう?
解答例:「薬は続けられている。睡眠は少し乱れている。記録はしていない。主治医には副作用をまだ話せていない。早期サインは家族と共有できている」のように、事実を並べてみます。
評価や反省をする必要はありません。手薄なところのうち、今いちばん負担が少なく、役に立ちそうな一つを選びます。例えば「次の受診で睡眠時間を伝える」だけでも、具体的な一歩です。

早めの受診・相談を考えたい変化
- 眠れない日が続く、または眠らなくても平気になる
- 気分の高まりや落ち込みが急に強くなる
- 浪費、攻撃性、衝動的な行動など、自分や周囲の安全が心配になる
- 食事や水分が取れない、服薬や通院が難しい
- 死にたい気持ち、自傷・他害のおそれがある
自分や他の人の安全を保てない、今すぐ自分を傷つけてしまいそう、といった差し迫った危険がある場合は、一人にならず、身近な人、医療機関、地域の救急へ連絡してください。必要な場合は119番など緊急の支援を利用してください。
参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』2023年
- 日本うつ病学会 双極症委員会『双極性障害(躁うつ病)とつきあうために Ver.11』2024年
- Yatham LN, et al. CANMAT and ISBD 2018 guidelines for the management of patients with bipolar disorder. Bipolar Disord. 2018;20(2):97-170.
- Keramatian K, Chithra NK, Yatham LN. The CANMAT and ISBD Guidelines for the Treatment of Bipolar Disorder: Summary and a 2023 Update of Evidence. Focus. 2023;21(4):344-353.
- NICE. Bipolar disorder: assessment and management. CG185.
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート『ゼミ参加者向け資料 F2・F3』
次は、どこを学びますか?
第21回は治療編の入口です。ここから、薬の種類、効果と副作用、睡眠・生活リズム、記録、再発予防など、気になるテーマを選んで深く学べます。
「双極症の動画図書館」は、最初から順番に見なくても大丈夫です。今の自分に必要なテーマからご覧ください。

執筆・製作責任者

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長
認定専門公認心理師
社会福祉士
国際双極症学会 評議員
木野内南(布団ちゃん)

薬剤師
NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
藤田剛(窓師)
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