双極症の動画図書館:25回 主治医に何を伝えればいい?――診察では「変化」と「生活への影響」を伝えます

双極症の動画図書館 第25回
診察室に入ると、何から話せばよいか分からなくなったり、聞かれたことに答えるだけで時間が終わったりすることがあります。診察後に「本当に伝えたかったことを言えなかった」と気づく方も少なくありません。
診察で必要なのは、気分を完璧に説明することではありません。睡眠、服薬、副作用、生活の変化などから、「いつから・何が変わり・どう困っているか」を短く伝えると、主治医と状況を共有しやすくなります。
双極症の動画図書館シリーズについて
双極症の動画図書館シリーズは、YouTube動画とWeb解説コラムで構成しています。
- YouTube動画はテーマごとに要点を5分程度の短い動画でまとめています。
- Web解説コラムはYouTube動画と対応して、動画の解説、補足説明をしています。


動画はこちら
このWeb解説コラムと合わせてご活用ください。

最初に要点
- 気分だけでなく、睡眠、服薬、副作用、仕事・家事などへの影響も伝えます。
- 「いつから・何が・どの程度・生活にどう影響したか」が整理の基本です。
- 飲み忘れや自己調整も、責められるためではなく治療判断に必要な情報です。
- 全部を説明しようとせず、「今日一番相談したいこと」を最初に伝えます。
- 診察メモは短くて構いません。大切な変化を数項目書くだけでも役立ちます。

このコラムについて
このコラムは、診察で状態を伝えるための一般的なヒントです。診断や治療方針を自分だけで決めるためのものではありません。症状の悪化や安全上の心配がある場合は、次回予約を待たず、主治医や医療機関へ相談してください。

1.診察は「上手に話せるか」を試す場ではありません
体調が悪い時には、考えをまとめたり、順番に説明したりすること自体が難しくなります。話がまとまらなくても、言葉が出てこなくても、それは本人の努力不足ではありません。
主治医が知りたいのは、きれいに整えた説明よりも、前回の診察から何が変わったかです。分からないことは「分かりません」、覚えていないことは「はっきり覚えていません」と伝えて構いません。
最初の一言の例
「うまく整理できていないのですが、一番困っているのは____です」
「前回から変わったことを、メモを見ながら話してもよいですか」
2.診察で共有したい五つの情報
毎回すべてを詳しく話す必要はありません。変化があった項目や、今困っている項目を中心に伝えます。
| 項目 | 伝える内容の例 | 具体的な言い方 |
|---|---|---|
| 気分・考え | 高まり、落ち込み、焦り、怒り、考えの速さ | 「一週間前から、考えが次々浮かびます」 |
| 睡眠 | 睡眠時間、就寝・起床時刻、眠気、疲労 | 「睡眠が6時間から3時間に減りました」 |
| 服薬・副作用 | 飲み忘れ、自己調整、眠気、体重、ふるえなど | 「今月は3回、朝の薬を忘れました」 |
| 生活への影響 | 仕事、学業、家事、外出、買い物、人間関係 | 「先週は仕事を2日休みました」 |
| 周囲から見た変化 | 家族や同僚から言われたこと、普段との違い | 「家族から、話す量が増えたと言われました」 |
3.睡眠は、気分と並ぶ大切な手がかりです
双極症では、睡眠の変化が気分の波に先立って現れたり、状態の変化と一緒に現れたりすることがあります。そのため「眠れますか」だけでなく、次の点も共有すると役立ちます。
- 何時に寝て、何時に起きているか
- 実際に眠っている時間はどの程度か
- 眠れないのか、眠る必要を感じないのか
- 短い睡眠でも疲れを感じない状態があるか
- 寝すぎる、朝に起きられない変化があるか
- 日中の眠気や疲労で生活に支障があるか
一晩眠れなかっただけで、躁状態やうつ状態と決まるわけではありません。睡眠の変化が何日続いているか、普段と比べてどうか、生活にどう影響しているかを主治医と確認します。

4.服薬状況は、実際のとおりに伝えます
飲み忘れや自己調整を話すと、叱られるのではないかと心配になることがあります。しかし、実際の服薬状況が分からないと、薬が十分に効いていないのか、飲めていないために効果を判断できないのかを区別しにくくなります。
正確な回数を覚えていない時は、「週に1~2回くらい」「朝の分を忘れやすい」など、おおよそでも構いません。続けにくい理由も治療を調整するための情報です。
- 眠気や体重増加などがつらい
- 薬の数や飲む回数が多い
- 生活時間が不規則で忘れやすい
- 薬の必要性に納得できていない
- 費用、通院、周囲の目などが負担になっている
市販薬、サプリメント、健康食品、飲酒も、薬の効き方や眠気などに関係する場合があります。分かる範囲で共有し、薬を自己判断で変更・中止しないようにします。

5.症状の名前より、生活への影響を具体的に伝えます
「躁かもしれない」「うつが悪化した」と自分で診断名を決める必要はありません。実際に起きた変化を伝える方が、主治医が状態を評価する材料になります。
| 抽象的な表現 | 具体的な表現の例 |
|---|---|
| 最近、調子が悪い | 一週間前から朝に起きられず、仕事を2日休んだ |
| 少し元気すぎる | 睡眠が2時間減り、夜中の買い物とSNS投稿が増えた |
| 集中できない | 会議で話を追えず、同じ資料を3回読み直した |
| 薬がつらい | 午前中の眠気が強く、運転が不安になった |
回数や時間を正確に測れなくても、「以前より増えた」「週の半分くらい」「家事が一つできなくなった」といった比較でも役立ちます。

6.家族や周囲から見た変化も、参考になることがあります
本人には気づきにくい変化を、家族や周囲が先に気づくことがあります。例えば、話す量、連絡や買い物、睡眠、活動量、身だしなみなどの変化です。
家族の見方が常に正しいとは限らず、本人の感じ方と違うこともあります。「家族からこう言われたが、自分ではこう感じている」と両方を伝えて構いません。家族に同席してもらう場合は、誰に何を共有するかを事前に相談できます。
ただし、自傷・他害、大量服薬、著しい判断力の低下など、安全に関わる状況では、普段の情報共有の希望より安全確保が優先されることがあります。
7.「今日一番相談したいこと」を最初に伝えます
診察時間が限られている時に、経過を最初からすべて説明すると、本当に相談したい話題まで進めないことがあります。診察の冒頭で優先事項を伝える方法があります。
今日一番相談したいこと:______________
いつから:______________
何が変わったか:______________
生活にどう影響したか:______________
今日確認したいこと:______________
「今日は三つ相談したいことがあります。まず一番困っているのは睡眠です」と最初に全体を伝える方法もあります。残りを次回に回す場合は、いつ相談するか確認しておきます。

8.そのまま使える「五項目の診察メモ」
空欄があっても構いません。前回の診察から変わった点を中心に、短い言葉で記入します。
今回、一番困っていること:______________
1.気分:高まり/落ち込み/焦り/怒り/変化なし/その他____
2.睡眠:就寝__時 起床__時 睡眠__時間 眠気・疲労____
3.服薬・副作用:飲み忘れ__回 自己調整の有無__ 困りごと____
4.生活:仕事・学業・家事・外出・買い物・SNS等の変化____
5.周囲から見た変化:______________
いつから・どの程度:______________
今日確認したいこと:______________
細かな記録を毎日続けることが負担になる場合は、受診前に思い出せる範囲を書くだけでも十分です。メモは治療を採点するためではなく、相談を助ける道具です。
9.診察の最後に、次回までの方針を確認します
- 薬は今までどおりか、変更があるか
- 生活や睡眠で、何を観察・記録するか
- どの症状が出たら、予約日を待たずに連絡するか
- 検査や次回受診はいつか
- 今回話せなかったことを、いつ相談するか
共同意思決定(SDM)とは、医療者の医学的情報と、本人の生活・希望を持ち寄って治療を一緒に考えることです。「選択肢は何ですか」「それぞれの利点と不利益は何ですか」「私の生活では何を重視すべきですか」と質問して構いません。
次回の予約を待たずに相談したい場合
- ほとんど眠れない、または短い睡眠でも平気な状態が続く
- 著しい気分の高まり・落ち込み、判断や行動の大きな変化がある
- 薬を大量に飲んだ、自己判断で大きく増減・中止した
- 副作用が疑われ、安全な生活を続けにくい
- 死にたい気持ち、自傷・他害のおそれがある
差し迫った危険がある場合は一人で対応せず、医療機関、地域の救急、119番などを利用してください。
まとめ
診察では、気分だけでなく、睡眠、服薬と副作用、生活への影響、周囲から見た変化も重要な情報になります。すべてを完璧に説明する必要はありません。
「いつから・何が変わったか・どう困っているか」を短く整理し、一番困っていることから相談します。記録や診察メモを使い、最後に次回までの方針と連絡の目安を確認しましょう。

振り返り質問への回答と考えるヒント
動画の最後に示した二つの質問を振り返ります。

Q1.診察では、気分以外にどんな情報を伝えると、主治医が状態を理解しやすくなるでしょうか?
回答:診察では、気分の変化だけでなく、睡眠、服薬、副作用、仕事や家事への影響、家族や周囲から見た変化なども重要な情報になります。特に「いつから」「何が変わったか」「生活にどう影響したか」を短く伝えると、状況を共有しやすくなります。
全部を完璧に説明する必要はありません。大事な変化をいくつかメモして持参するだけでも役立ちます。
Q2.次の診察で「これだけは伝えたい」と思うことを一つ挙げるとしたら、何でしょう?
この問いには一つの正解はありません。例えば、次のような視点で考えられます。
- 「睡眠が2時間減った」「薬を3回忘れた」「仕事を2日休んだ」など、具体的な事実は伝わりやすい材料です。
- 家族に「最近いつもと違う」と言われた、という情報も役立つことがあります。
- 一番困っていることを最初に伝える方法もあります。
例えば、「一週間前から睡眠が2時間減り、日中も疲れない状態が続いています。今日はこの変化を一番に相談したいです」と伝えられます。自分にとって今一番大切なことを一つ選ぶだけで十分です。
参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』2023年
- 日本うつ病学会 双極症委員会『双極症とつきあうために Ver.11』2024年
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト『双極性障害(躁うつ病)』
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)『患者向医薬品ガイド』
- NICE. Shared decision making. NICE guideline NG197. 2021.
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート『ゼミ参加者向け資料 B1・F2・F3』

次は、どこを学びますか?
次の第26回では、「診察時間を上手に使うコツ」を扱います。診察前の準備、質問の優先順位、診察後の確認を、より具体的に整理します。
「双極症の動画図書館」は、最初から順番に見なくても大丈夫です。今の自分に必要なテーマからご覧ください。




NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長
認定専門公認心理師
社会福祉士
国際双極症学会 評議員
木野内 南(布団ちゃん)

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
薬剤師
藤田 剛(窓師)
