双極症の動画図書館[深掘り]分かるようでわからない寛解状態――双極症の「普通」って何?


NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長 薬剤師 藤田剛(窓師)
「今は寛解状態ですね」と言われても、分かるようで分からないことがあります。 寛解とは、元気いっぱいになることでしょうか。 気分がまったく動かなくなることでしょうか。 それとも、病気になる前と同じ生活に戻ることでしょうか。
双極症の気分の状態には躁/軽躁状態、うつ状態、混合状態、そして寛解状態の4つの状態があります。今回は寛解状態について深掘りしてゆきます。

双極症の動画図書館について

NPO法人ネット心理教育ピアサポートでは『双極症の動画図書館』として、双極症についての信頼性の高い情報をYoutube動画、Web解説コラムとして提供しています。

いきなり結論
- 寛解は、躁やうつの目立った症状が落ち着いている状態です。
- 寛解にも、日常的な小さな気分の波はあります。
- 「普通」とは、毎日同じ気分でいることではありません。
- 寛解は治癒と同じではありません。再発予防の治療や生活上の工夫が大切です。
- 一日の気分より、睡眠・活動・判断・生活への影響を含めた数日から数週間の流れを見ます。
「寛解」と言われても、何を指すのか分かりにくい
双極症には、躁状態・軽躁状態・うつ状態などの大きな波があります。 その一方で、目立った躁やうつがなく、比較的穏やかに過ごせる時期もあります。 このような状態を、一般に寛解状態と呼びます。
ただし、寛解は「いつも気分が一定」「疲れない」「嫌なことがあっても落ち込まない」 という意味ではありません。 人の気分は、病気がなくても日々少しずつ動くからです。
寛解とは「波が完全になくなること」ではなく、
小さく揺れながらも、自分の生活へ戻ってこられる状態です。
躁やうつには「気分エピソード」の定義がある
双極症では、気分が一時的に上がったり下がったりしただけで、 すぐに躁状態やうつ状態と判断されるわけではありません。
躁病エピソード、軽躁病エピソード、抑うつエピソードには、 症状の内容と数、続いた期間、普段からの変化、生活への影響などを含む基準があります。 「エピソード」とは、こうした変化が一定のまとまりをもって続く状態です。
現在、躁・軽躁・抑うつエピソードの基準を満たしていないときには、 経過を表す言葉として「寛解」が用いられます。 DSM-5-TRという診断基準では、さらに「部分寛解」と「完全寛解」を区別します。
| 状態 | おおまかな意味 | 知っておきたいこと |
|---|---|---|
| 気分エピソード | 躁・軽躁・抑うつなどの基準を満たす症状のまとまりがある | 症状の数だけでなく、期間、普段からの変化、生活への影響なども含めて判断します。 |
| 部分寛解 | 直前のエピソードの症状が一部残っている、または目立った症状がない期間が2か月未満 | 「かなり良くなったけれど、まだ少し症状が残る」という状態も含まれます。 |
| 完全寛解 | 過去2か月、目立った徴候や症状がみられない | 普通の喜怒哀楽や小さな気分の波まで、すべて消えるという意味ではありません。 |
「2か月」は自己判断のための単純な線引きではありません。
これはDSM-5-TRで用いられる経過の記載方法です。 寛解の定義は、診断基準や研究目的によって少し異なります。 実際の評価では、症状、期間、生活機能、これまでの経過などを総合して判断します。
寛解状態は「治癒」や「完治」とは違う
ここは、とても大切なポイントです。 寛解は、双極症そのものが完全になくなり、今後は再発しないという意味の「治癒」や「完治」とは異なります。
寛解は、あくまで現在、躁やうつの目立った症状が落ち着いている状態を表す言葉です。 双極症では、寛解後にも再発・再燃する可能性があります。 そのため、症状が落ち着いた後も、薬物療法、通院、心理教育、睡眠や生活リズムの調整などを続ける 「維持療法」が重要になります。
ただし、「治癒ではない」、「完治ではない」という説明を、 「ずっと苦しいまま」「よい生活は送れない」という意味に受け取る必要はありません。 適切な治療と、自分に合った再発予防の工夫によって、 長く安定した生活を続けている人もいます。
寛解したからといって、自己判断で薬を減らしたり中止したりしないでください。
薬の調整を考える場合は、これまでのエピソード、再発歴、副作用、生活状況などを主治医と確認しながら進めます。
寛解は「無風状態」ではない
私たちは「普通の気分」と聞くと、水平な一直線を思い浮かべがちです。 けれども、実際の気分は一直線ではありません。 寛解状態にも小さな気分の波があることを示す図 中央の安定範囲の中を小さな波が上下し、上下の外側に躁やうつの大きな波の領域が示されています。 大きく上がった状態:躁・軽躁の可能性 大きく下がった状態:うつの可能性 自分にとっての安定範囲 小さな波があっても、安定範囲へ戻ってこられる 図:寛解は「波がない一直線」ではなく、小さな波が自分の安定範囲に収まっているイメージです。 境界は人によって異なり、図のように明確に線引きできるものではありません。
たとえば、次のような変化は誰にでもあります。
- うれしいことがあって、気分が上がる
- 嫌なことがあり、しばらく落ち込む
- 楽しい予定の前に、少し眠りにくくなる
- 忙しい日が続き、疲れて活動量が下がる
- よく眠れた日は、いつもより動きやすくなる
こうした変化があるだけで、直ちに躁・軽躁・うつのエピソードになるわけではありません。 大切なのは、変化の強さ、続いた期間、いくつの変化が重なっているか、生活への影響です。
「普通」は、人によって違う
「普通」を、世間の平均と同じ状態だと考えると苦しくなることがあります。 毎日たくさんの人と会うのが自然な人もいれば、一人で静かに過ごす時間が必要な人もいます。 必要な睡眠時間、話す量、仕事のペース、休日の過ごし方も人それぞれです。
双極症における「普通」は、次のように考えると分かりやすいかもしれません。
他人と同じ状態ではなく、
自分が無理をしすぎず、判断力を保ち、生活を続けられる範囲。
周囲の人より元気かどうかではなく、 自分のいつもの状態から、どのように変わったかを見ることが大切です。
寛解していても、症状や困りごとが少し残ることがある
医療者から「寛解」と言われても、本人には次のような困りごとが残る場合があります。
- 疲れやすい
- 集中力や判断力が戻りきらない
- 朝に動き出しにくい
- 睡眠が安定しにくい
- 不安や楽しみにくさが残っている
- 以前と同じ仕事量や家事量には戻れない
明確な気分エピソードの基準を満たさないものの、少し残っている症状は 残存症状と呼ばれます。 また、症状が落ち着くことと、仕事・家事・対人関係などの 生活機能が回復することは、必ずしも同時ではありません。
「寛解と言われたのに、まだつらい」と感じても、おかしなことではありません。 寛解は「すべて元どおりになった」という合格判定ではなく、 安定した生活を少しずつ取り戻していく時期でもあります。
小さな波と、再発の兆しをどう見分ける?
小さな波と再発の兆しの間に、誰にでも当てはまる明確な境界線があるわけではありません。 気分だけでなく、睡眠、活動、判断、生活への影響を組み合わせて見ます。
| 見るポイント | 日常的な小さな波の例 | 早めに相談したい変化の例 |
|---|---|---|
| 睡眠 | 一晩だけ眠りにくい。翌日は眠気や疲れを感じる。 | 睡眠時間が減った状態が数日続くのに、眠気や疲れを感じない。 |
| 活動量 | 楽しい予定があり、いつもより少し活動的になる。 | 予定や仕事を次々に増やし、休憩を取れなくなる。 |
| 気分 | 嫌なことがあり、理由の分かる落ち込みがある。 | 強い落ち込みや焦りが続き、日常生活にも影響する。 |
| 会話・連絡 | 親しい人と話が弾む。 | 話が止まらない、連絡が急増する、周囲が入りにくくなる。 |
| お金・判断 | 予定していた範囲で買い物をする。 | 高額な買い物、契約、投資などを急いで決める。 |
| 生活 | 疲れて一日休み、少しずつ戻る。 | 食事、入浴、服薬、連絡などが数日以上難しくなる。 |
一つの変化だけで決めつけない
- いつもの自分と比べて変わったか
- その変化が何日続いているか
- 複数の変化が同時に起きているか
- 仕事、家事、対人関係、お金などに影響が出ているか
- 家族や身近な人から「いつもと違う」と言われていないか
寛解期は、毎日を厳しく監視する時期ではない
再発予防は大切です。 しかし、毎日の気分を細かく監視して、 「少し楽しいから躁かもしれない」「今日は疲れたからうつかもしれない」と 警戒し続けるのも苦しいものです。
寛解期の目的は、ただ再発を恐れて静かに暮らすことではありません。 小さな波があっても戻ってこられる生活をつくり、 自分に合った活動や人間関係を少しずつ取り戻すことも大切です。
記録する場合も、すべての感情を「症状」として記録する必要はありません。 睡眠時間、活動量、疲労感、予定の数、お金の使い方など、 自分にとって変化が表れやすい項目を簡単に振り返る方法があります。
早めに主治医や支援者へ相談したい変化
寛解状態の時には、以下のポイントに注意してください。
- 睡眠が少ないのに平気な状態が続く
- 考えや言葉が止まりにくい
- 予定、買い物、契約、連絡が急に増える
- 強い落ち込み、焦り、絶望感が続く
- 「消えたい」「死にたい」という気持ちが現れる
- 食事、清潔、服薬などの日常生活が難しくなる
- 周囲から、いつもと違うと繰り返し言われる
早めに相談することは、再発したと決めつけることではありません。 今の状態を一緒に確認し、大きな波になる前に対応を考えるための行動です。
まとめ――「普通」とは、揺れないことではない
- 寛解とは、躁やうつの目立った症状が落ち着いている状態です。
- DSM-5-TRでは、過去2か月に目立った徴候や症状がない状態を「完全寛解」と表します。
- 完全寛解でも、普通の喜怒哀楽や小さな気分の波はあります。
- 寛解は治癒ではなく、再発予防の治療や生活上の工夫を続けることが大切です。
- 症状の寛解と、生活機能の回復は同じではありません。
- 一日ごとの気分より、数日から数週間の流れと生活への影響を見ます。
「普通」とは、誰かと同じになることではありません。
小さく揺れながらも、自分らしい生活へ戻ってこられること。
それが寛解を理解する、一つの手がかりです。
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参考文献・参考資料
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). American Psychiatric Association Publishing; 2022.
- First MB, Williams JBW, Karg RS, Spitzer RL. Structured Clinical Interview for DSM-5 Disorders, Research Version (SCID-5-RV): User’s Guide. American Psychiatric Association Publishing; 2015. 資料
- Tohen M, Frank E, Bowden CL, et al. The International Society for Bipolar Disorders (ISBD) Task Force report on the nomenclature of course and outcome in bipolar disorders. Bipolar Disord. 2009;11(5):453-473. doi:10.1111/j.1399-5618.2009.00726.x. PubMed
- 日本うつ病学会 気分障害の治療ガイドライン検討委員会 双極性障害委員会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023. PDF
- Keramatian K, Chithra NK, Yatham LN. The CANMAT and ISBD Guidelines for the Treatment of Bipolar Disorder: Summary and a 2023 Update of Evidence. Focus (Am Psychiatr Publ). 2023;21(4):344-353. doi:10.1176/appi.focus.20230009. 本文
- Grover S, Sahoo S, Chakrabarti S, Avasthi A. Prevalence and clinical correlates of residual symptoms in patients with bipolar disorder in remission. Indian J Psychiatry. 2020;62(3):295-305. doi:10.4103/psychiatry.IndianJPsychiatry_610_19. 本文
大切な注意
このコラムは、双極症について理解するための一般的な心理教育を目的としています。 診断や治療方針を決めるものではありません。 寛解や再発の評価は、症状、持続期間、生活への影響、これまでの経過などを含めて行われます。 気になる変化が続く場合や、薬の変更・中止を考える場合は、自己判断せず主治医や医療機関へご相談ください。 強い希死念慮、自傷他害のおそれ、著しい不眠や興奮がある場合は、早めに医療機関や地域の緊急相談窓口へつながってください。
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