うつ症状? それはうつ病? 双極症? それとも… ①(うつの症状はうつ病以外でもいろいろな要因で起こります)

双極症の動画図書館|深掘りシリーズ
NPO法人ネット心理教育ピアサポート 薬剤師 藤田 剛(窓師)
ネット心理教育ピアサポートでは随所で「単にうつ症状だけではうつ病とみなしてはいけない」という話をしてきました。しかし多くの場合、うつ病なのか?双極症なのか?という文脈の中で説明範囲をとどめざるを得ませんでした。その理由は、情報量がかなり大きくなってしまうためです。しかし重要性が高いテーマであり、きちんとまとめておいたほうが良いと考え、このコラムを書きました。
今後、数回にわたって解説する予定です。
うつ症状から考えるルートマップ
「うつ病かも」と思ったとき、まず何を見ればよいのでしょうか
気分が落ち込む。何をしても楽しくない。疲れやすい。眠れない。食欲がない。集中できない。自分を責めてしまう。
こうした「うつの症状」が続くと、多くの人はまず「うつ病かもしれない」と考えます。
それは、とても自然なことです。ただし、ここで大切なのは、うつの症状がある=すぐにうつ病と決まるわけではないということです。
うつ状態は、うつ病だけでなく、双極症、身体の病気、薬の影響、アルコールや薬物の影響、強いストレス反応、不安症、トラウマ反応、発達特性に伴う疲弊など、さまざまな背景で起こることがあります。
この記事では、当事者やご家族が「自分で診断する」ためではなく、主治医や相談先に自分の状態を伝えやすくするためのルートマップとして、うつ症状の見方を整理します。
この記事の位置づけ
この記事は、医学情報の一般的な解説です。診断や治療方針は、症状の経過、生活への影響、身体の状態、薬の影響、過去の気分の波などを踏まえて、医師などの専門家が総合的に判断します。
最初に大事なこと:診断名よりも「分岐」を見る
うつ症状があるとき、いきなり病名を決めようとすると、かえって混乱することがあります。
大切なのは、次の順番で見ることです。
自殺リスク、幻覚・妄想、食事や水分が取れない、強い躁状態など
仕事、家事、学業、人間関係、睡眠、食事などへの影響を見る
体の病気、薬の変更、飲酒量の増加、睡眠不足などを確認する
眠らなくても平気、活動量が増える、話し続ける、買い物や予定が増えるなど
うつだけでなく、背景にある困りごとも整理する
※この図は自己診断のためではなく、受診時に状態を整理して伝えるための目安です。
この順番で考えると、うつ症状の背景が少し見えやすくなります。
① まず「いま危険な状態ではないか」を見る
最初に確認したいのは、病名ではありません。いま安全かどうかです。
たとえば、次のような状態がある場合は、できるだけ早く相談・受診が必要です。
- 死にたい気持ちが強い
- 自殺の方法や準備を考えている
- 食事や水分がほとんど取れない
- 眠れない状態が続き、消耗している
- 幻覚や妄想がある
- 急に活動的になり、止まらない
- 怒りっぽさや衝動性が強く、トラブルが増えている
このようなときは、「これは何の病気か」を一人で考え続けるより、まず安全を確保することが大切です。
相談先としては、主治医、精神科・心療内科、地域の相談窓口、救急相談、身近な家族や支援者などがあります。
つらさが強いときに助けを求めることは、弱さではありません。
それは、自分を守るための大切な行動です。
② 2週間以上続き、生活に支障があるかを見る
次に見るのは、うつ症状の「長さ」と「生活への影響」です。
一時的な落ち込みは、誰にでもあります。失敗、喪失、対人関係、仕事や家庭の問題などで、気分が沈むことは自然な反応です。
しかし、次のような状態が続く場合は、専門家に相談する目安になります。
- 気分の落ち込みがほぼ毎日続く
- 以前は楽しめていたことが楽しめない
- 眠れない、または眠りすぎる
- 食欲が落ちる、または食べすぎる
- 疲れやすく、体が重い
- 集中力や判断力が落ちる
- 自分を責める気持ちが強い
- 「消えてしまいたい」と思う
- 仕事、家事、学業、人間関係に支障が出ている
特に、こうした状態が2週間以上続く場合は、「気の持ちよう」だけで片づけない方がよいでしょう。
この段階で考える候補には、うつ病があります。
ただし、ここで止まらないことが大切です。なぜなら、うつ病のように見える別の状態があるからです。
③ 身体疾患・薬・アルコールなどの影響を考える
うつ症状があると、こころの病気だけを考えがちです。
しかし、身体の病気や薬の影響で、うつ状態のように見えることがあります。
| 分岐 | 背景として考えること |
|---|---|
| 体の病気 | 甲状腺の病気、貧血、慢性疼痛、感染症、睡眠時無呼吸など |
| 薬の影響 | ステロイド、一部のホルモン薬、睡眠薬・抗不安薬、薬の変更後など |
| アルコール・薬物 | 飲酒量の増加、依存、離脱、違法薬物、市販薬の乱用など |
| 睡眠不足 | 夜更かし、交代勤務、昼夜逆転、過労など |
このような場合、こころの治療だけでなく、身体面の評価や生活の見直しが必要になることがあります。
特に、急に気分が落ちた場合、体重が大きく変わった場合、動悸やだるさなど身体症状が強い場合、薬を変えた後に不調が出た場合は、主治医に伝えてください。
「これはメンタルの問題だけ」と決めつけないことが大切です。
④ 過去に躁・軽躁らしい時期がなかったかを見る
うつ症状から病気を考えるうえで、特に重要なのがこの分岐です。
過去に躁状態や軽躁状態があったかどうか。
ここを見落とすと、双極症がうつ病のように見えることがあります。
躁状態・軽躁状態とは、簡単に言うと、普段とは違って気分や活動量が上がりすぎる状態です。
たとえば、次のような時期がなかったでしょうか。
- あまり眠らなくても平気だった
- 普段より話し続けた
- アイデアが次々に出た
- 仕事や予定を入れすぎた
- 自信が強くなりすぎた
- 買い物、投資、ギャンブル、性的行動、飲酒などが増えた
- 怒りっぽくなった
- 周囲から「いつもと違う」と言われた
- 後から振り返ると、やりすぎだったと思う
ここで難しいのは、軽躁状態が本人にとって「元気な時期」「調子が良い時期」に見えることです。
そのため、うつ状態のときだけ受診すると、過去の軽躁が医師に伝わらないことがあります。結果として、双極症の可能性が見えにくくなることがあります。
もし思い当たる時期がある場合は、診察のときに次のように伝えるだけでも役に立ちます。
「うつの時期だけでなく、以前に眠らなくても活動的だった時期があります」
「周囲から、いつもと違ってテンションが高いと言われたことがあります」
「調子が良いと思っていた時期に、予定や買い物が増えすぎたことがあります」
これは、診断を自分で決めるためではありません。
主治医が判断するための大切な情報を渡すためです。
⑤ 強いストレスや環境変化との関係を見る
うつ症状は、病気だけでなく、強いストレスや環境変化の中で出てくることもあります。
たとえば、次のような出来事です。
- 仕事や学校での強いストレス
- 人間関係のトラブル
- 家族の問題
- 介護や育児の負担
- 失業、転職、引越し
- 大切な人との別れ
- 経済的な不安
- 長期間の孤立
このような背景がはっきりしている場合、適応障害やストレス反応として整理されることがあります。
ただし、ここで注意したいのは、原因がはっきりしているから軽い、というわけではないことです。
現実の問題が大きいとき、こころと体は本当に消耗します。その結果、眠れない、食べられない、動けない、考えられない、という状態になることがあります。
「理由があるから病気ではない」と決めつける必要はありません。つらさが続き、生活に支障が出ているなら、相談してよい状態です。
⑥ 不安・トラウマ・強迫・発達特性なども見る
うつ症状があるとき、実は「うつ」だけが主役ではないこともあります。
たとえば、次のような場合です。
| 目立つ困りごと | 背景として考えること |
|---|---|
| 心配が止まらない | 不安症 |
| 動悸や息苦しさの発作がある | パニック症 |
| 人前や評価が強く怖い | 社交不安症 |
| つらい記憶がよみがえる | PTSDなどのトラウマ反応 |
| 確認や洗浄がやめられない | 強迫症 |
| 不注意や衝動性で疲れ果てている | ADHDなどの発達特性に伴う二次的な抑うつ |
| 感覚過敏や対人疲労が強い | 自閉スペクトラム症などに伴う疲弊 |
このような場合、うつ症状だけを治療しようとしても、背景にある困りごとが残ることがあります。
そのため、診察では「落ち込み」だけでなく、不安、パニック、トラウマ、強迫、発達特性、対人関係、睡眠、生活リズムなども伝えることが役に立ちます。
まとめ:うつ症状から考える短縮ルートマップ
最後に、今回の内容を短いルートマップにまとめます。
早めに相談・受診。緊急対応が必要なこともあります。
次の分岐へ進みます。
うつ病エピソードの可能性を含めて考えます。
休養、記録、相談先の確保を考えます。
身体面も含めて評価します。
気分の波や背景要因をさらに整理します。
双極症の可能性を主治医に伝えます。
うつ病、不安症、適応障害、PTSDなども含めて考えます。
※「ある/ない」は診断の答えではなく、主治医に伝える情報を整理するための手がかりです。
おわりに:病名を急がなくても、相談してよい
うつ症状があるとき、私たちはつい「自分は何の病気なのか」と急いで答えを出したくなります。
でも、最初から正しい病名にたどり着くことは、簡単ではありません。
特に、双極症のうつ状態、身体疾患によるうつ状態、薬の影響、強いストレス反応、不安症や発達特性が重なっている場合は、整理に時間がかかることがあります。
だからこそ大切なのは、自己判断で病名を決めることではなく、自分に起きていることを、できるだけ具体的に伝えることです。
- いつから続いているのか
- 眠れているのか
- 食べられているのか
- 生活にどんな支障があるのか
- 過去に、元気すぎる時期はなかったか
- 薬や体調の変化はなかったか
- 強いストレスはなかったか
こうした情報は、診断や治療方針を考えるうえで、とても大切な手がかりになります。
次回予告
次回は、実際に受診前に使える「診断前チェックマップ」として、主治医に伝える項目を整理していきます。
参考資料
- 厚生労働省. うつ病|こころの病気について知る. https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/know/know_01.html
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト. うつ病. https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?%40uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト. 双極性障害(躁うつ病). https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?%40uid=RM3UirqngPV6bFW0
- 国立精神・神経医療研究センター病院. 双極性障害(双極症). https://hsp.ncnp.go.jp/clinical/disease.php?%40uid=5tADp7AJixPWggia
- NICE. Bipolar disorder: assessment and management. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK547001/
- NICE. Depression in adults: treatment and management. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK583074/
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