双極症の本・資料16選:初心者、当事者・家族、働く人、支援者・専門家のための総合読書ガイド

執筆

薬剤師
NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
藤田剛(窓師)
内容確認

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長
認定専門公認心理師
社会福祉士
国際双極症学会 評議員
木野内南(布団ちゃん)
はじめに――なぜ、この書籍ガイドを作ったのか
最初に、私の正直な気持ちをお伝えします。
双極症に関する書籍は、決して安価ではありません。
しかも、双極症の本を実際に手に取って比べようとしても、ある程度大きな書店でなければ、十分な品ぞろえがないことが多いのが現実です。近くに、そのような書店がない方もいるでしょう。
インターネット書店では、双極症に関する本を数多く見つけることができます。しかし、購入前に画面から得られる情報は、書名、著者、出版社の紹介文、目次、購入者のレビューなどに限られます。実際にページをめくり、文章の難しさや情報量、図の多さ、自分が知りたい内容が載っているかを確かめることには限界があります。
いわゆる「立ち読み」が難しいのです。
また、表紙や紹介文に「双極症を解説します」と書かれていても、それだけでは、
- 初めて双極症を学ぶ人のための本なのか
- 当事者の日常生活に役立つ本なのか
- 家族や支援者向けの本なのか
- 医療者や心理職のための専門書なのか
を判断しにくいことがあります。
私自身も、そのような状況の中で模索しながら、双極症に関する本を購入してきました。
ある本からは、病気や治療について深く学ぶことができました。一方で、実際に読んでみると「自分が今求めていた内容とは少し違ったかな」と感じたこともあります。
このコラムは、そうした私自身の経験をもとに、読者の知識の段階や、知りたいこと、購入する目的に合う本を見つけやすくすることを目指して執筆しました。
紹介しているのは、原則として私が実際に読了した書籍、または内容を確認できた資料です。そのため、双極症に関するすべての本を網羅したものではありません。また、個々の書籍の優劣を決めるランキングでもありません。
書籍は高価で、購入前に中身を確認することも簡単ではありません。地域によっては、大きな書店が近くになく、図書館にも双極症の本が十分に所蔵されていないことがあります。
そうした現実を踏まえ、これから双極症について本から学びたいと考える方が、自分に合う一冊に出会える可能性を少しでも高めたい。その思いから、この書籍ガイドを作成しました。
気になる本があれば、最初からすべてを読み切ろうとせず、目次を眺めたり、必要な章から読んだりしてみてください。本は、正しく生きるための宿題ではありません。自分の病気や生活を理解するための、数ある道具の一つです。
書籍への敬意を込めて
最後に、私の書籍に対する思いをお伝えします。
私は、書籍にはウェブ上の短い記事とはまた異なる、多くの人の時間と努力、そして思いが込められていると感じています。
一冊の本が読者のもとに届くまでには、著者だけでなく、編集者、監修者、校閲者、装丁や制作に携わる方、出版社をはじめ、多くの人が関わっています。
その背景には、
「この内容には、書籍として世に問う価値がある」
という、著者や制作に携わった方々の信念があるのではないでしょうか。
もちろん、読者によって必要とする情報は異なります。文章の難しさ、情報量、目的、現在の体調によって、同じ本でも「とても役立った」と感じる人もいれば、「今の自分が求めていた内容とは少し違った」と感じる人もいるでしょう。
しかし、それは必ずしも、その本の価値が低いということではありません。その時の読者の目的と、その本が担っている役割が一致していたかどうかという面もあります。
そのため、このコラムでは、書籍を単純な「良い・悪い」や順位で評価するのではなく、
- どのような読者を想定した本なのか
- 何を知りたい時に役立つのか
- どの程度の予備知識が必要なのか
- どのような場面で手に取るとよいのか
という視点から整理しました。
ここで紹介したすべての書籍には、それぞれ異なる目的と役割があります。このコラムが、本を評価するためではなく、一冊の本と、それを必要としている読者を結ぶための案内になればと願っています。
そして、一冊一冊の書籍を世に送り出してくださった著者と制作関係者の皆さまに、あらためて敬意と感謝を申し上げます。
- 短く、やさしく全体像を知りたい:『これだけは知っておきたい双極症 第3版』
- 1冊で幅広く学び、家族とも共有したい:『本人と家族のための双極症サバイバルガイド』
- 無料で信頼できる資料を読みたい:日本うつ病学会『双極症とつきあうために Ver.11』
- 生活リズムを実際に記録して整えたい:『双極症のための社会リズム療法ワークブック』
- 仕事・復職について考えたい:『躁うつの波と付き合いながら働く方法』
- 心理教育を実施したい:『双極性障害の心理教育マニュアル』
- 専門的な確認をしたい:『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』と『双極症 第4版』
文字量を抑えて全体像をつかみたい方には入門書が向きます。家族と一緒に幅広く学びたい方には、情報量の多いガイドブックが役立ちます。 ご自身の体調、集中力、知りたいテーマに合う本を選ぶことが大切です。
目的別に選ぶ早見表
| 今、知りたいこと | 最初の候補 | 次に読む候補 | 読み方のポイント |
|---|---|---|---|
| 診断後、まず全体像を知りたい | これだけは知っておきたい双極症 | 双極症とつきあうために | 最初から全部覚えず、症状・治療・相談先を先に確認します。 |
| 本人と家族で一緒に学びたい | 本人と家族のための双極症サバイバルガイド | みんなの双極症 | 同じ章を読んでも、本人と家族の受け止め方が違うことがあります。 |
| 再発予防・セルフケアを深めたい | もっと知りたい双極症 | 社会リズム療法ワークブック | 睡眠、活動、気分、対人関係を記録し、診察で共有します。 |
| 仕事との付き合い方を考えたい | 躁うつの波と付き合いながら働く方法 | こころの科学「双極症と生きる」 | 復職の時期や勤務上の配慮は、主治医・職場・支援者と検討します。 |
| 心理療法・家族支援を学びたい | 対人関係・社会リズム療法でラクになる本 | CBT、FFT、心理教育の専門書 | 専門書は「自分で治療するため」ではなく、治療の考え方を理解する資料です。 |
| 専門家として体系的に確認したい | 診療ガイドライン 双極症2023 | 双極症 第4版 | ガイドライン、専門書、原著論文の役割を分けて参照します。 |
1.初心者向け:まず病気の全体像をつかむ
これだけは知っておきたい双極症 第3版
初心者本人・家族症状、原因、診断、治療、再発予防、家族の関わりを、図と短い文章で整理した入門書です。 「双極症を初めて知った」「長い文章を読むのがつらい」という方の最初の1冊に向いています。
ウルトラ図解 双極性障害
図解中心本人・家族病気の概略、症状、診断、治療、生活上の注意点を、オールカラーの図解で確認できます。 文章だけでは頭に入りにくい方や、家族と一緒に全体像を眺めたい方に適しています。
2.当事者・家族向け:生活の中で双極症とつきあう
双極症とつきあうために Ver.11
無料本人・家族学会資料日本うつ病学会が作成した一般向けの解説資料です。症状、治療、生活上の注意、家族への説明を簡潔に確認できます。 睡眠・覚醒リズム表、ライフチャート、ソーシャル・リズム・メトリックなどの関連資料も学会サイトから利用できます。
本人と家族のための双極症サバイバルガイド
本人・家族総合ガイド診断、治療、薬との付き合い方、再発予防、家族、仕事、女性のライフステージまで幅広く扱う実用書です。 416ページと情報量は多いものの、必要な章を辞書のように参照でき、長く手元に置きやすい本です。
もっと知りたい双極症 第2版
基礎の次本人・家族入門書を読んだ後に、症状、治療薬、セルフケア、再発予防、原因解明の研究をもう一段深く学ぶ本です。 『これだけは知っておきたい双極症』の続編として読むと、内容を整理しやすくなります。
みんなの双極症――日常の悩みから最新知識まで
本人・家族Q&A医学的な説明だけでなく、主治医との関係、人間関係、仕事、恋愛、妊娠・子育てなど、生活に近い疑問をQ&A形式で扱います。 「一般論は読んだが、自分の困りごとと結びつかない」と感じる方に読みやすい本です。
ちょっとのコツでうまくいく! 躁うつの波と付き合いながら働く方法
仕事・復職当事者双極症の当事者として働いてきた経験と、支援現場の知見をもとに、仕事を続けるための具体的な工夫を紹介します。 マンガとワークを通して、自分の気分の波や職場での対処をまとめる「双極トリセツ」を作れる点が特徴です。
3.生活リズム・対人関係:読むだけでなく、実際に取り組む
対人関係・社会リズム療法でラクになる「双極性障害」の本
一般向け生活リズム対人関係・社会リズム療法(IPSRT)の考え方を、一般向けに短く説明した本です。 睡眠、日課、対人関係、ライフイベントが気分の波にどう関係するかを知る入口になります。
双極症のための社会リズム療法ワークブック
ワークブック2025年刊日々の生活リズムと対人関係を記録し、体内時計の安定と気分の波の予防に取り組むための実践書です。 読むだけでなく記録を続け、主治医や支援者と共有しながら使うと、より活用しやすくなります。
4.心理療法・心理教育:支援の方法を体系的に学ぶ
ここからは、主に医療者・心理職・支援者・心理教育の実施者向けです。当事者や家族が読んではいけないという意味ではありませんが、 専門用語や治療者向けの記述が多いため、必要な章を選んで読む方が負担が少なくなります。
双極性障害の心理教育マニュアル――患者に何を、どう伝えるか
心理教育実施者向けバルセロナ・プログラムを基盤に、病気、治療、再発サイン、生活上の対処を、どの順序でどう伝えるかを示した代表的な実践書です。 心理教育の設計思想を学ぶうえで重要ですが、薬物療法や制度の記述は新しいガイドラインで補う必要があります。
双極性障害の認知行動療法
CBT臨床家向け認知行動療法(CBT)の治療全体像、再発サインへの対処、服薬、社会的問題への介入を、事例を交えて解説した専門書です。 双極症にCBTをどう適用するかを体系的に学びたい臨床家向けの基礎文献です。
双極性障害のための認知行動療法ポケットガイド
CBT実践ガイド追加掲載誘因の把握、薬との付き合い、症状への対処など、CBTの実践ポイントを比較的コンパクトに確認できます。 大部の専門書に入る前の手引きや、支援場面で要点を振り返る資料として使いやすい本です。
双極性障害の家族焦点化療法
FFT家族支援者向け家族焦点化療法(FFT)を、心理教育、コミュニケーション訓練、問題解決の三つの柱から解説します。 家族を「治療の責任者」にするのではなく、本人と家族が病気に巻き込まれすぎず協働する方法を学ぶ専門書です。
5.専門家・支援者向け:診療、研究、多職種の視点を確認する
日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023
診療ガイドライン専門家診断、各病期の治療、心理社会的支援、周産期、副作用モニタリングなどを体系的に確認するための診療ガイドラインです。 当事者向けの読み物ではありませんが、「現在の標準的な考え方を確認する資料」として重要です。
双極症 第4版――病態の理解から治療戦略まで
専門書臨床・研究双極症の歴史、疫学、症状、診断、治療、薬理、ゲノム・脳画像・病態研究までを広く扱う総合専門書です。 臨床と研究の両面を一人の著者の視点で統合して学びたい医療者・研究者に適しています。
こころの科学 238号「双極症と生きる」
追加掲載当事者・家族多職種医師だけでなく、当事者、家族、心理・福祉・看護などの立場から、リカバリー、妊娠・出産、就労、共同意思決定、セルフケア、生活リズムと怒りを扱う特集号です。 一冊の教科書とは異なり、双極症とともに生きることを多角的に考えたい方に向いています。
おすすめの読み進め方
当事者会・心理教育ゼミで使う場合
| 用途 | おすすめ資料 | 使い方 |
|---|---|---|
| 参加前の導入 | これだけは知っておきたい双極症 | 章を指定せず、気になる部分だけ読んでもらいます。 |
| 無料の事前学習 | 双極症とつきあうために | 共通資料として配布し、わからなかった点を話し合います。 |
| 本人と家族の共有 | 双極症サバイバルガイド | 同じ章を読み、「本人に役立った点」「家族に役立った点」を分けます。 |
| 生活リズムの実践 | 社会リズム療法ワークブック | 記録を評価や監視に使わず、生活のパターンを一緒に見つけます。 |
| 講師・ファシリテーター | 心理教育マニュアル+診療ガイドライン | 古い治療情報は最新のガイドラインと照合し、日本の制度に合わせます。 |
古い本を読むときに確認したいこと
- 古い本=価値がない、ではありません。心理教育、CBT、FFTなどの基本的な考え方を学ぶうえで、現在も重要な本があります。
- 薬物療法は更新されやすい領域です。承認薬、推奨、妊娠・授乳、モニタリングなどは、最新の添付文書や診療ガイドラインで確認してください。
- 病名や診断基準の表現も変わります。「躁うつ病」「双極性障害」「双極症」は、出版時期によって使われ方が異なります。
- 日本の社会制度は別途確認が必要です。障害福祉、就労支援、休職・復職、経済的支援は、制度改正や地域差があります。
- 体験談は大切ですが、個人差があります。他の人に合った方法が、そのまま自分に合うとは限りません。
書籍やウェブ情報は、診断や治療方針を個人で決めるためのものではありません。 薬を自己判断で変更・中止せず、疑問や希望を主治医や薬剤師に伝えるための資料として活用してください。 強い不眠、著しい気分の高まりや落ち込み、衝動性の増加、自傷・他害のおそれがある場合は、読書よりも受診や安全確保を優先してください。
おわりに――本は「正しく生きるための宿題」ではありません
双極症について学ぶことは、自分を監視したり責めたりするためではありません。 「自分にはどのような波があるのか」「何が助けになるのか」「診察で何を相談したいのか」を考えるための道具です。
最初から難しい本を読み切る必要はありません。目次を見る、図を眺める、必要な章だけ読む、家族や支援者に先に読んでもらう。 どのような読み方でも構いません。今の自分に合う一冊が、病気と生活を整理する小さな手がかりになれば幸いです。
本記事について
既公開の「双極症に関する書籍14冊を一挙にご紹介」と「双極症の本をどう選ぶ? 当事者・家族・支援者におすすめの4冊」を統合し、 『双極性障害のための認知行動療法ポケットガイド』および『こころの科学 238号「双極症と生きる」』を追加しました。
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