双極症の動画図書館:双極症の治療薬・番外編① 睡眠薬との上手な付き合い方

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長

薬剤師

藤田剛(窓師)

双極症の治療薬・番外編① 睡眠薬との上手な付き合い方

最初にお伝えしたいこと
双極症では、睡眠は単なる「休息」ではありません。気分の波を知り、再発を防ぐための重要な手がかりです。ただし、眠れないときに睡眠薬だけを増やせばよいとは限りません。とくに「眠らなくても平気」「寝なくても活動できる」という変化は、躁・軽躁のサインである可能性があります。

睡眠薬は、双極症そのものを治療する中心薬ではありません。しかし、睡眠を整え、つらい不眠を和らげ、生活リズムを立て直すために重要な役割を持つことがあります。この番外編では、睡眠薬を「怖い薬」または「眠れないときに足せばよい薬」と単純化せず、役割と注意点を整理します。

双極症の診療ガイドラインは触れられていませんが、多くの双極症の当事者の方にとって睡眠と睡眠薬は大きなテーマではないかと思います。このコラムでは双極症の方にとっての睡眠薬の位置づけと睡眠薬に関するQ&Aを概説します。

目次

1.なぜ双極症では睡眠が大切なのでしょうか

睡眠と気分の波は、双極症において密接に関係しています。睡眠時間が短くなったり、就寝・起床時刻が大きくずれたりすることが、気分の変化に先立って現れる場合があります。

とくに注意したいのは、次の2つを区別することです。

状態本人の感じ方考えられること
眠れなくて困っている疲れているのに眠れない。翌日がつらい。不眠症状、うつ状態、不安、生活リズムの乱れ、薬や身体疾患の影響などを検討します。
眠らなくても平気睡眠が少なくても元気。活動できる。むしろ調子が良いと感じる。躁・軽躁状態の可能性があります。睡眠薬の追加だけでなく、気分状態全体の評価が必要です。

双極症では、「何時間眠れたか」だけでなく、「眠れないことをつらいと感じているか」「睡眠が少ないのに活動性が上がっていないか」も大切な情報です。

国立精神・神経医療研究センターの一般向け情報でも、「睡眠時間が短くても平気」「寝なくても元気に活動を続けられる」ことは、躁状態のサインとして挙げられています。

2.睡眠薬は、双極症の「主役の薬」ではありません

双極症の薬物療法の中心は、気分安定薬や抗精神病薬です。睡眠薬は、主に不眠を和らげたり、睡眠リズムを整えたりするために補助的に用いられます。

そのため、睡眠が悪化したときには、「睡眠薬が足りない」と考える前に、次の点も確認する必要があります。

  • 躁・軽躁、うつ、混合状態など、気分状態が変化していないか
  • 夕方以降のカフェインやアルコールが増えていないか
  • 就寝・起床時刻がずれていないか
  • 昼寝が長くなっていないか
  • 服用している薬の影響がないか
  • 睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群などの睡眠障害が隠れていないか
  • 甲状腺疾患、痛み、頻尿など身体的な原因がないか

睡眠薬の位置づけ
睡眠薬は「双極症の再発を直接防ぐ薬」とは限りません。ただし、睡眠を確保することで生活リズムを整え、気分の安定を支える役割が期待されます。

3.睡眠薬には、いくつかの種類があります

日本で使われる主な睡眠薬は、作用の仕組みによっていくつかに分けられます。どの種類が適しているかは、寝つきの悪さ、途中で目が覚める、朝早く目が覚める、翌朝の眠気などを踏まえて選ばれます。

種類主な仕組み・特徴主な注意点
オレキシン受容体拮抗薬覚醒を維持するオレキシンという神経伝達物質の働きを抑え、睡眠への移行を促します。スボレキサント、レンボレキサント、ダリドレキサント、ボルノレキサントなどがあります。翌朝の眠気、悪夢、金縛りのような症状などがみられることがあります。他の薬との相互作用にも注意が必要です。
メラトニン受容体作動薬体内時計に関係するメラトニンの働きを利用し、睡眠リズムを整えます。代表例はラメルテオンです。即効性を強く感じにくいことがあります。飲み方や併用薬によって効果が変わるため、処方どおりに使います。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬GABAという抑制性の神経伝達を強め、脳の活動を鎮めます。寝つきや中途覚醒などに応じて、作用時間の異なる薬があります。眠気、ふらつき、転倒、記憶への影響、耐性、身体依存、離脱症状などに注意します。急に中止しないことが重要です。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z薬)ベンゾジアゼピン受容体に作用する薬で、ゾルピデム、エスゾピクロンなどがあります。眠気、ふらつき、健忘、睡眠中の異常行動などに注意します。ベンゾジアゼピン系と同様に、長期使用や中止方法を医師と相談します。

※薬の分類や商品名をすべて覚える必要はありません。まずは、自分の薬がどの種類に属し、何を目的に処方されているのかを確認できれば十分です。

4.双極症では、抗精神病薬が「眠るため」に使われることがあります

双極症の実際の診療では、一般的な睡眠薬だけでなく、抗精神病薬が夜間に処方されることがあります。 とくに、躁・軽躁に伴う興奮、焦燥、考えの加速、易刺激性などが不眠の背景にある場合、 抗精神病薬によって気分状態や覚醒の高まりを鎮め、その結果として眠りやすくすることがあります。

ここで大切なのは、「睡眠薬として承認されている薬」と「睡眠を支える目的で使われる薬」は同じではない、という点です。
抗精神病薬は、基本的には統合失調症、躁状態、双極症などの精神症状を治療する薬です。 不眠症そのものに対する標準的な睡眠薬として位置づけられているわけではありません。

現場では知られていても、学術的には整理されにくい領域です

抗精神病薬の鎮静作用を利用して夜間に処方することは、精神科の臨床現場では珍しくありません。 一方、睡眠医学の診療ガイドラインや、不眠症だけを対象とした臨床試験では、抗精神病薬は中心的な治療薬として扱われていません。

これは「現場で使われていない」という意味ではありません。 むしろ、双極症では不眠だけを切り離して評価できないことが多く、 眠れない原因となっている躁症状、焦燥、興奮を治療するという臨床判断が優先されるためです。

学術文献では「不眠症に対する抗精神病薬」として論じられにくくても、 双極症の診療では「気分状態を整えた結果として睡眠を改善する」という使われ方があります。

第一世代抗精神病薬が使われる場合

第一世代抗精神病薬のうち、鎮静作用の比較的強い薬が夜間に処方されることがあります。 日本では、レボメプロマジンやクロルプロマジンなどがその例です。

ただし、これらを単純に「強い睡眠薬」と理解するのは適切ではありません。 処方目的には、眠気を促すことだけでなく、躁状態、焦燥、興奮、易刺激性などを和らげることが含まれる場合があります。

第二世代抗精神病薬が使われる場合

第二世代抗精神病薬にも、眠気が生じやすい薬があります。 双極症そのものに対する治療効果を期待して処方され、その鎮静作用が夜間の睡眠にも役立つ場合があります。 しかし、少量だから副作用がないとは限りません。

薬の位置づけ主な目的睡眠との関係
一般的な睡眠薬寝つき、中途覚醒、早朝覚醒などの不眠症状を改善する睡眠・覚醒機構へ直接働きかけます。
抗精神病薬躁、興奮、焦燥、易刺激性、精神病症状などを治療する背景症状を鎮めることや鎮静作用により、結果として眠りやすくなることがあります。
気分安定薬気分の波を整え、再発を予防する気分状態が安定することで、長期的に睡眠が整うことがあります。

なぜ睡眠目的だけで安易に使わないのでしょうか

抗精神病薬には、眠気やふらつきだけでなく、体重増加、血糖・脂質異常、便秘、口渇、起立性低血圧、 錐体外路症状、アカシジア、遅発性ジスキネジア、心電図への影響など、薬ごとに重要な副作用があります。

とくに第一世代抗精神病薬では、強い鎮静、起立性低血圧、抗コリン作用、錐体外路症状などに注意が必要です。 高齢者、転倒リスクのある人、心疾患や便秘、排尿障害などがある人では、より慎重な判断が求められます。

「眠れるから自分で増やす」「眠れない夜だけ別の抗精神病薬を追加する」といった使い方はしないでください。
抗精神病薬は薬ごとに作用時間、副作用、併用上の注意が異なります。用量変更は主治医の指示に従ってください。

主治医に確認してよいこと

  • この薬は、睡眠だけを目的に処方されていますか?
  • 躁・軽躁、焦燥、興奮を抑える目的もありますか?
  • 睡眠薬ではなく抗精神病薬を選んだ理由は何ですか?
  • 毎日飲む薬ですか、頓服ですか?
  • どのくらいの期間使う予定ですか?
  • 翌朝の眠気、ふらつき、転倒にどう注意すればよいですか?
  • 体重、血糖、脂質、心電図などの検査は必要ですか?
  • 減量や中止はどのように進めますか?

学術的な位置づけについて
不眠症に対する抗精神病薬の有効性を支持する質の高い研究は限られており、一般的な不眠症ガイドラインでは通常、第一選択にはなりません。 一方、双極症では、不眠が躁・軽躁、焦燥、興奮などの一部として現れることがあるため、 抗精神病薬を使う臨床的合理性があります。この違いを理解することが重要です。

5.「睡眠薬は依存するから怖い」は本当でしょうか

睡眠薬について、もっとも多い不安の一つが「依存」です。ただし、すべての睡眠薬を同じように考えるのは正確ではありません。

身体依存とは

身体依存とは、薬を継続して使ううちに身体が薬のある状態に適応し、急に減らしたり中止したりしたときに、不眠、不安、震え、発汗などが現れる状態です。

とくにベンゾジアゼピン系やZ薬では、使用量、使用期間、体質などによって、耐性や身体依存、離脱症状が問題になることがあります。

「頼っている」ことと「依存症」は同じではありません

医師の指示どおりに薬を使い、必要な睡眠を確保していることを、それだけで依存症と呼ぶわけではありません。

一方で、次のような状態は医師に相談したいサインです。

  • 指示された量では足りず、自分で増やしている
  • 薬がないことへの不安が非常に強い
  • 日中の眠気やふらつきがあっても使い続けている
  • 中止しようとすると、強い不眠や不安が出る
  • 複数の医療機関から同じ種類の薬を処方してもらっている

急にやめないでください
ベンゾジアゼピン系やZ薬を長く使っている場合、自己判断で急に中止すると、反跳性不眠(以前より強い不眠)、不安、焦燥、震えなどが起こることがあります。減量や中止は、主治医と相談しながら段階的に進めます。

6.睡眠薬は、いつまで飲むのでしょうか

睡眠薬の使用期間に、全員共通の答えはありません。短期間の使用で済む人もいれば、気分状態や生活環境を考慮しながら長く使う人もいます。

判断するときには、次のような点を確認します。

  • 不眠の原因が改善しているか
  • 気分が安定しているか
  • 生活リズムが整っているか
  • 日中の眠気、ふらつき、転倒などがないか
  • 薬の効果が続いているか
  • 減量したときに症状が悪化しないか

日本睡眠学会の「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」でも、睡眠薬を安全かつ有効に使い、必要に応じて適切に休薬することが重視されています。

「長く飲んでいるから悪い」「早くやめるほど良い」と単純に考えるのではなく、現在の利益と不利益を定期的に見直すことが大切です。

7.頓服は、どのように使えばよいのでしょうか

頓服とは、毎日決まって飲むのではなく、必要なときに使う薬です。睡眠薬が頓服として処方される場合もあります。

頓服を安全に使うためには、次の点をあらかじめ確認します。

  • 何時までに飲むのか
  • どのような状態になったら使うのか
  • 1回量と1日の上限量
  • 追加してよい間隔
  • 服用後に必要な睡眠時間
  • 翌朝に運転や危険作業がある場合の注意
  • 連日必要になった場合の相談時期

頓服を使う日が増えていること自体が、気分状態や生活リズムの変化を示すことがあります。「最近、毎晩必要になっている」と感じたら、次の診察を待たず相談してもよいでしょう。

8.飲む時間と飲み方も重要です

睡眠薬は、種類によって適切な服用時刻や食事との関係が異なります。一般に「就寝直前」と指示された薬は、服用後に家事や仕事を続けず、そのまま床に入ることが基本です。

  • 服用後にスマートフォンや仕事を長く続けない
  • 夜中に起きて活動する予定があるときは、服用の可否を確認する
  • 自己判断で追加服用しない
  • アルコールと一緒に飲まない
  • 翌朝に眠気やふらつきが残るときは、運転や危険作業を避ける

一部の睡眠薬では、食事の直後に飲むと効き始めが遅くなることがあります。具体的な飲み方は、薬袋、電子添文、薬剤師からの説明を確認してください。

9.寝酒は睡眠薬の代わりになりません

アルコールを飲むと寝つきやすく感じることがあります。しかし、睡眠の後半が浅くなったり、途中で目が覚めたりしやすくなります。

また、睡眠薬とアルコールを併用すると、強い眠気、ふらつき、転倒、呼吸への影響、記憶障害や異常行動などの危険が高まる可能性があります。

睡眠薬を服用する夜の飲酒は避けてください。
飲酒習慣があり、急にやめることが難しい場合は、責められることを心配せず、主治医や薬剤師に伝えてください。

10.薬だけではなく、眠りやすい条件を整えます

睡眠薬を使っている場合でも、生活リズムを整えることは重要です。ただし、眠れないことを本人の努力不足と考える必要はありません。

  • 起床時刻を大きくずらさない
  • 朝に光を浴びる
  • 夕方以降のカフェインを控える
  • 長い昼寝や夕方以降の仮眠を避ける
  • 眠くなってから床に入る
  • 寝床で長時間スマートフォンを見続けない
  • 毎日の睡眠時間と気分を簡単に記録する

慢性的な不眠では、認知行動療法(CBT-I:不眠に対する考え方と行動を整える治療)が有効な場合があります。双極症では気分状態にも配慮しながら実施する必要があるため、主治医に相談してください。

11.すぐに相談したい変化

  • 睡眠時間が急に短くなったのに、疲れを感じず活動性が上がっている
  • 予定、買い物、連絡、発言が急に増えた
  • 眠れない日が続き、焦燥感や死にたい気持ちが強まった
  • 薬を飲んだ後の記憶がない
  • 睡眠中に歩く、食べる、外出するなどの異常行動が疑われる
  • 翌朝の強い眠気、ふらつき、転倒がある
  • いびき、呼吸停止、日中の強い眠気がある
  • 自己判断で服用量が増えている

強い希死念慮、自傷の切迫、意識障害、呼吸の異常、転倒による外傷などがある場合は、通常の予約日を待たず、医療機関や救急へ相談してください。

12.診察で主治医や薬剤師に聞いてよいこと

  • この睡眠薬は、寝つき・中途覚醒・早朝覚醒のどれを改善する目的ですか?
  • 毎日飲む薬ですか、頓服ですか?
  • 何時までに飲めばよいですか?
  • 最低何時間、睡眠時間を確保する必要がありますか?
  • 翌朝の運転や仕事で注意することはありますか?
  • 他の薬やアルコールとの相互作用はありますか?
  • どのくらいの期間で効果を判断しますか?
  • 将来減らす場合、どのように減らしますか?
  • 最近の不眠は、躁・軽躁やうつのサインではありませんか?

13.よくある質問――睡眠薬で迷いやすい場面

睡眠薬については、薬の説明を読んでも、自分の状況にどう当てはめればよいか分からないことがあります。 ここでは、当事者の方からよく聞かれる疑問をまとめます。

Q1.睡眠薬に「強い薬」「弱い薬」はありますか?

睡眠薬を単純に「強い・弱い」で並べることはできません。寝つきを助けるのが得意な薬、途中で目が覚めることを減らす薬、朝方まで作用しやすい薬、体内時計に働きかける薬など、得意な役割が異なるからです。

また、同じ薬でも、年齢、体質、併用薬、食事、睡眠時間、気分状態によって効き方が変わります。「強い薬がほしい」ではなく、「寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「朝に眠気が残る」など、困っている現象を具体的に伝える方が、薬を選ぶ手がかりになります。

Q2.躁状態では眠らなくても平気です。どのタイミングで服薬を判断すればよいですか?

双極症では、「眠れなくてつらい」ことと、「眠らなくても平気で元気に活動できる」ことは意味が異なります。後者は躁・軽躁の始まりである可能性があります。

服薬の判断を、本人が眠気を感じるかどうかだけに任せると遅れることがあります。主治医と、普段の睡眠時間から何時間短くなったら連絡するか、何日続いたら頓服を使うか、活動性・買い物・連絡・予定の増加など、どのサインを組み合わせて判断するかを事前に決めておきましょう。

「眠らなくても平気」は、睡眠薬だけの問題とは限りません。
躁・軽躁の治療として、気分安定薬や抗精神病薬の調整が必要なことがあります。予約日を待たず、早めに主治医へ連絡してよい変化です。

Q3.睡眠薬を飲んでも眠れません。追加して服用してよいですか?

自己判断で追加しないでください。薬によって、効き始めるまでの時間、効果が続く時間、追加可能な間隔、1日の上限が異なります。最初の薬が後から効き、追加分と重なって、強い眠気、ふらつき、転倒、呼吸への影響が起こる可能性があります。

あらかじめ「何分・何時間待つか」「追加できるか」「追加できる場合は何錠までか」「改善しない場合の連絡先」を確認してください。指示がない場合は、医療機関または薬剤師へ相談します。

Q4.前向性健忘が怖いです。どのような副作用ですか?

前向性健忘とは、薬を飲んだ後の出来事を覚えていない状態です。たとえば、服用後に家族と話した、スマートフォンを操作した、食事をした、買い物をしたなどの行動を、翌朝に思い出せないことがあります。ベンゾジアゼピン系やZ薬などで報告されています。

予防のため、就寝直前に服用し、服用後は家事、仕事、スマートフォン操作、飲食などを続けず、そのまま床に入ります。十分な睡眠時間を確保できない夜や、途中で起きて仕事をする可能性がある夜の服用については、事前に確認してください。

記憶の抜け、もうろう状態、睡眠中の異常行動があった場合は、次回受診を待たず主治医へ連絡してください。
本人が覚えていないことがあるため、家族や同居者が気づいた行動も重要な情報です。

Q5.睡眠薬を飲んでも夜中に目が覚めます。効いていないのでしょうか?

寝つきは改善していても、中途覚醒に対する作用が十分でない可能性があります。また、睡眠時無呼吸症候群、頻尿、痛み、むずむず脚、飲酒、うつ状態など、薬以外の原因も考えられます。

「効かなかった」だけでなく、寝つくまでの時間、目が覚めた回数、再び眠れたか、朝の目覚め、日中の眠気を伝えましょう。

Q6.毎日飲むと効かなくなりますか?

薬の種類によって異なります。ベンゾジアゼピン系やZ薬では、連用により耐性や身体依存が問題になることがあります。一方、すべての睡眠薬で同じ程度に起こるわけではありません。

効果が弱くなったと感じても、自分で増量せず、睡眠の状態、服用時刻、飲酒、併用薬、気分の変化を含めて相談してください。

Q7.睡眠薬を毎日飲んでも大丈夫ですか?

「毎日飲むこと」だけで良い・悪いを判断することはできません。病状や薬の種類によっては、毎日決められた時刻に服用することで睡眠リズムを支える場合があります。一方で、長期使用では効果と副作用、依存、転倒、認知機能、翌朝への持ち越しなどを定期的に見直す必要があります。

毎日飲んでいることを隠したり、反対に自己判断で休薬したりせず、「今も必要か」「減量を検討する時期か」を主治医と確認しましょう。

Q8.睡眠薬を飲むと「自然な睡眠」ではなくなりますか?

睡眠薬によって睡眠の構造への影響は異なります。しかし、「薬を使わない睡眠だけが正しい」と考える必要はありません。不眠が続くこと自体が、日中の機能や気分の安定を損なうことがあります。

薬を使う利益と不利益を比較しながら、生活リズムの調整や不眠に対する認知行動療法なども組み合わせます。

Q9.睡眠薬を飲み忘れ、夜中に気づきました。今から飲んでよいですか?

薬によって異なります。起床までの時間が短いと、翌朝の眠気やふらつきが強くなることがあります。また、薬によっては十分な睡眠時間を確保できない場合に服用しないよう注意されているものがあります。

夜中に気づいたときの対応を、処方時に確認しておきましょう。分からない場合は自己判断で服用せず、薬袋や患者向医薬品ガイドを確認し、必要に応じて薬剤師へ相談します。

Q10.朝になっても眠気が残ります。薬が強すぎるのでしょうか?

薬の作用が翌朝まで残っている可能性がありますが、睡眠時間不足、服用時刻、他の眠くなる薬、飲酒、睡眠時無呼吸症候群、うつ状態なども関係します。

運転や危険作業を避け、自己判断で減量する前に相談してください。眠気が出た時刻や、何時間眠ったかを記録すると調整に役立ちます。

Q11.悪夢や金縛りのような症状があります。薬の副作用でしょうか?

一部の睡眠薬では、悪夢、鮮明な夢、入眠時や覚醒時に体が動かしにくい感覚などがみられることがあります。ただし、ストレス、睡眠不足、気分状態、他の睡眠障害も原因になります。

いつから始まったか、薬を変更した時期と一致するか、どのくらいの頻度かを記録して相談してください。

Q12.以前は効いていた薬が効かなくなりました。増やせばよいですか?

自分で増量しないでください。耐性だけでなく、躁・軽躁、うつ、ストレス、生活リズム、カフェイン、飲酒、身体疾患などによって眠れなくなっている可能性があります。

「薬が弱くなった」と決めつけず、眠れない原因を見直す必要があります。

Q13.睡眠薬をやめたいです。自分で少しずつ減らしてもよいですか?

とくにベンゾジアゼピン系やZ薬を連用している場合、自己判断での急な減量・中止は避けてください。反跳性不眠、不安、焦燥、震えなどが現れることがあります。

減量の速度や順序は、薬の種類、量、使用期間、気分の安定度によって異なります。主治医と計画を立てます。

Q14.市販の睡眠改善薬やサプリメントを一緒に使ってよいですか?

自己判断で併用しないでください。市販の睡眠改善薬には、眠気を起こす抗ヒスタミン成分が含まれることが多く、処方薬と重なると眠気、口の渇き、便秘、排尿困難、ふらつきなどが強くなる可能性があります。

サプリメントや漢方薬も、相互作用がないとは限りません。商品名や成分が分かる写真を薬剤師に見せると確認しやすくなります。

Q15.お酒の代わりに睡眠薬を飲めばよいですか? また、一緒に飲んでもよいですか?

寝酒は睡眠の質を悪くし、夜中に目が覚めやすくします。睡眠薬とアルコールを併用すると、強い眠気、ふらつき、転倒、記憶障害、呼吸への影響などの危険が高まります。

睡眠薬を服用する夜の飲酒は避けてください。飲酒を自分で止めにくい場合も、責められることを恐れず相談してください。

Q16.旅行や出張のときだけ、いつもと違う飲み方をしてよいですか?

時差、移動時間、飲酒、翌朝の運転などが関係するため、普段と違う使い方を自己判断で行わないでください。夜中に到着する場合、翌朝が早い場合、海外へ行く場合は、事前に主治医や薬剤師へ相談します。

Q17.睡眠薬ではなく、抗精神病薬を夜に飲むよう言われました。なぜですか?

双極症では、不眠だけでなく、躁・軽躁、焦燥、興奮、易刺激性、考えが次々に浮かぶ状態などが眠れない背景にあることがあります。その場合、背景症状を治療する目的で抗精神病薬が選ばれ、その鎮静作用によって眠りやすくなることがあります。

これは、抗精神病薬が一般的な睡眠薬と同じという意味ではありません。使用目的、期待する効果、体重増加、代謝異常、起立性低血圧、錐体外路症状、アカシジアなど、確認すべき副作用も異なります。

Q18.家族は薬を飲むよう勧めますが、本人は眠くないので飲みたくありません。

躁・軽躁では、本人は調子が良いと感じ、睡眠不足を問題と思わないことがあります。一方、家族は活動量、話し方、買い物、連絡の増加などの変化に先に気づく場合があります。

家族だけで服薬を強制したり、本人だけで中止を決めたりせず、事前に作った再発予防計画や主治医の指示を確認してください。本人と家族の見え方の違いも、診察で伝えてよい情報です。

Q19.大きないびきや睡眠時無呼吸がある場合、睡眠薬を飲んでもよいですか?

大きないびき、睡眠中に呼吸が止まる、息苦しくて目が覚める、朝の頭痛、十分に寝たはずなのに疲れが取れない、日中の強い眠気などがある場合は、睡眠時無呼吸症候群が隠れていることがあります。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬には、筋肉の緊張を緩めたり、中枢神経の働きを抑えたりする作用があります。そのため、睡眠時無呼吸症候群のある人では、上気道が狭くなりやすくなったり、無呼吸から目覚める反応が弱くなったりして、無呼吸や低酸素状態を悪化させることがあります

ただし、「睡眠時無呼吸があれば、ベンゾジアゼピン系を全員が絶対に使えない」という意味ではありません。
睡眠時無呼吸の重症度、CPAPなどの治療状況、薬の種類・用量、ほかの病気や併用薬によって判断は異なります。すでに服用している薬を自己判断で中止したり、急に減らしたりせず、主治医または薬剤師に相談してください。

睡眠薬を飲んでも熟睡感がない、日中の眠気が強いという場合に、単純に「薬が弱い」「もっと強い薬が必要」とは限りません。睡眠時無呼吸症候群のほか、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害、概日リズム睡眠・覚醒障害など、別の睡眠障害が背景にあることもあります。

家族や同居者から「いびきが大きい」「呼吸が止まっている」と言われたことがあれば、その情報を診察で伝えてください。必要に応じて、睡眠専門外来、呼吸器内科、耳鼻咽喉科などで検査を受けることがあります。

14.自分の睡眠薬を調べるためのチェックシート

多くの方が、処方された薬をインターネットで調べています。調べること自体は悪いことではありません。 ただし、薬の名前だけを検索すると、重い副作用の体験談、薬の強さランキング、個人輸入サイトなどが上位に表示され、かえって不安や誤解が増えることがあります。

次の順番で確認すると、「ネットで調べた情報」と「自分への処方」を結びつけやすくなります。

ステップ1 まず処方内容を特定する

  • 商品名だけでなく、一般名(成分名)を確認する
  • 1錠あたりの量(mg)を確認する
  • 毎日飲む薬か、頓服かを確認する
  • 何時に、何錠飲む処方かを確認する
  • 睡眠以外の目的もあるかを確認する

ステップ2 信頼できる情報源から確認する

  1. 薬袋・お薬手帳:自分に指示された用法・用量を確認します。
  2. 薬剤師から渡された説明書・くすりのしおり:一般向けの作用、副作用、飲み方を確認します。
  3. PMDAの患者向医薬品ガイド:対象薬に作成されている場合、患者向けの重要な注意事項を確認します。
  4. PMDAの電子添文:専門家向け資料です。記載された副作用が、自分に必ず起こるという意味ではありません。
  5. 主治医・薬剤師:一般情報を、自分の病状、併用薬、生活に当てはめて確認します。

ネット情報だけでは分からないことがあります。
同じ薬でも、「不眠に対して処方されたのか」「躁・軽躁や焦燥を落ち着かせるためなのか」「定期薬か頓服か」によって使い方が異なります。電子添文の一般的な用法と、主治医が個別に出した指示を混同しないことが大切です。

診察・服薬指導で確認するチェック欄

薬の商品名                         
一般名(成分名)                         
1錠・1包の量         mg
薬の種類□ 睡眠薬 □ 抗精神病薬 □ 抗不安薬 □ その他(      )
この薬の目的□ 寝つき □ 中途覚醒 □ 早朝覚醒 □ 生活リズム
□ 躁・軽躁 □ 焦燥・興奮 □ 不安 □ その他(      )
睡眠時無呼吸の確認□ 大きないびき □ 呼吸が止まると言われた □ 朝の頭痛
□ 熟睡感がない □ 日中の強い眠気 □ CPAP等で治療中
呼吸への注意この薬は睡眠時無呼吸に影響する可能性がありますか?
                         
服用方法□ 毎日 □ 頓服 / 服用時刻:              
1回量         錠・包
服用後に必要な睡眠時間         時間以上
効き始めを待つ時間         分・時間
効かなかった場合□ 追加不可 □ 追加可 □ 医療機関へ連絡
追加できる場合の間隔・量      時間あけて      錠・包
1日の上限      回/合計      錠・包
夜中に飲み忘れに気づいた場合                         
運転・危険作業□ 禁止 □ 翌朝も眠気があれば禁止 □ その他(      )
飲酒                         
注意する副作用                         
連絡・受診を早める基準                         
夜間・休日の相談先                         

服用後の記録

記録項目記入例自分の記録
服用日時7月29日 23時           
服用前の状態寝つけない/活動性が高い           
薬と量○○錠 1錠           
入眠までの時間約40分           
途中で目覚めた回数1回           
起床時刻・睡眠時間7時/約7時間           
翌朝の状態少し眠い、ふらつきなし           
気になった症状悪夢、記憶の抜けなど           

このシートの使い方
すべてを毎日詳しく記録する必要はありません。薬を新しく始めたとき、変更したとき、効き方に疑問があるとき、躁・軽躁の兆しがあるときに使うと役立ちます。記入した内容は、診察や薬局でそのまま見せて構いません。

15.まとめ

  • 双極症では、睡眠の変化が気分の波を知る重要な手がかりになります。
  • 「眠れなくてつらい」と「眠らなくても平気」は、意味が異なります。
  • 睡眠薬は双極症治療の補助薬ですが、睡眠と生活リズムを支える重要な役割があります。
  • 睡眠薬には複数の種類があり、効果、副作用、依存のリスクは同じではありません。
  • 双極症では抗精神病薬が夜間に使われることがありますが、一般的な睡眠薬とは目的と副作用が異なります。
  • ベンゾジアゼピン系やZ薬は、自己判断で急に中止しないことが大切です。
  • 睡眠薬とアルコールを一緒に使わないでください。
  • 大きないびき、睡眠中の無呼吸、朝の頭痛、日中の強い眠気がある場合は、睡眠時無呼吸症候群について相談しましょう。ベンゾジアゼピン系睡眠薬では慎重な判断が必要になることがあります。
  • 頓服が増えた、睡眠時間が急に減った、活動性が上がったときは早めに相談しましょう。

睡眠薬を使うことは、意志が弱いことではありません。一方で、薬だけに任せる必要もありません。薬、生活リズム、気分の記録、医療者との相談を組み合わせながら、自分に合う眠り方を探していきましょう。

参考文献

  1. 日本うつ病学会.日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.2023.https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2023.pdf
    双極症の薬物療法、躁・軽躁、うつ、維持療法、心理社会的治療をまとめた日本の診療ガイドラインです。
  2. 厚生労働科学研究班・日本睡眠学会.睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン―出口を見据えた不眠医療マニュアルhttps://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf
    睡眠薬の適正使用、依存、長期使用、減量・休薬、非薬物療法などをQ&A形式で扱っています。
  3. National Institute for Health and Care Excellence. Bipolar disorder: assessment and management(CG185). https://www.nice.org.uk/guidance/cg185
  4. Keramatian K, Chithra NK, Yatham LN. The CANMAT and ISBD Guidelines for the Treatment of Bipolar Disorder: Summary and a 2023 Update of Evidence. Focus (Am Psychiatr Publ). 2023;21(4):344-353. doi:10.1176/appi.focus.20230009. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11058959/
  5. National Institute for Health and Care Excellence. Daridorexant for treating long-term insomnia: draft scope and comments table. 抗精神病薬は不眠症治療として推奨されないという既存ガイドラインの整理を含みます。https://www.nice.org.uk/guidance/ta922/documents/draft-scope-and-provisional-matrix-comments-table-post-referral
  6. 日本呼吸器学会ほか.睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf
    睡眠時無呼吸症候群の病態、症状、診断、治療、運転への影響などをまとめた診療ガイドラインです。
  7. Hsu TW, et al. The Association between Use of Benzodiazepine Receptor Agonists and the Risk of Obstructive Sleep Apnea. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(18):9720. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8467455/
    ベンゾジアゼピン受容体作動薬と上気道筋弛緩、無呼吸時間、低酸素との関連を検討した研究です。

参考サイト

  1. 日本睡眠学会「ガイドライン・声明」 https://jssr.jp/guideline
  2. 日本睡眠学会「睡眠薬の安全で安心な使用法について」 https://www.jssr.jp/basicofsleepdisorders5
  3. 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト:双極性障害(躁うつ病)」 https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?%40uid=RM3UirqngPV6bFW0
  4. 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト:不眠症(睡眠障害)」 https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?%40uid=XpsDJBKfyaGD0mIx
  5. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医療用医薬品 情報検索」 https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
    医薬品の電子添文、患者向医薬品ガイド、安全性情報を確認できます。
  6. 日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」 https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-05.html
    一般向けに、睡眠時無呼吸症候群の症状、原因、診断、治療を解説しています。

情報の更新について
睡眠薬の承認状況、電子添文、相互作用、安全性情報は更新されます。本稿では2026年7月時点で確認できた公的情報を参考にしています。海外と日本では使用できる薬や承認内容が異なる場合があります。

医療情報に関する免責事項

本稿は、双極症と睡眠薬について学ぶための一般的な心理教育資料です。個別の診断、薬の追加、増量、減量、中止を勧めるものではありません。現在の治療を自己判断で変更せず、主治医または薬剤師にご相談ください。

作成:NPO法人ネット心理教育ピアサポート

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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