双極症の動画図書館:第18回 怒りっぽさ・イライラへの対処


NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長
認定専門公認心理師
社会福祉士
国際双極症学会 評議員
木野内南(布団ちゃん)

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
薬剤師
藤田剛(窓師)
双極症では、気分が上がった時に明るく活動的になるだけでなく、焦り、待てなさ、怒りっぽさ、刺激への反応の強さが現れることがあります。また、落ち込みと焦り・イライラが重なる混合状態では、本人のつらさが強くなり、衝動的な行動へ進みやすい場合があります。
大切なのは、イライラをすべて性格のせいにして自分を責めることでも、相手への影響をすべて病気のせいにすることでもありません。睡眠、疲労、予定、刺激、気分の波を確認し、反応する前に安全な「間」を作ることです。
診断と治療は医療機関で
この記事は、双極症について学ぶための一般的な心理教育情報です。イライラや怒りだけで、躁状態・軽躁状態・混合状態と診断することはできません。診断と治療方針は主治医や医療機関で判断します。自己判断で薬を変更・中止しないでください。強い不眠、著しい気分の高まり、興奮、現実検討の低下、自傷他害のおそれなどがある場合は、心理教育だけで対応せず、早めに主治医・医療機関へ相談してください。
双極症の動画図書館について
NPO法人ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について信頼できる情報を、短い動画とWeb解説コラムで届ける「双極症の動画図書館」を制作しています。第1回から順番に見ても、今気になるテーマから見てもかまいません。



この記事でわかること
- イライラを、性格だけでなく気分の波のサインとして見る視点
- 睡眠不足・疲労・予定の詰め込み・過刺激の確認方法
- その場を離れる、通知を切る、返信を遅らせる具体策
- 本人と周囲で共有する「止まる合図」と相談の目安
- 強い怒りや自傷他害のおそれがある時の安全確保
いきなり結論:イライラは、刺激を減らし、休み、相談するサインです
イライラが強い時は、刺激を減らし、休み、早めに相談するサインとして扱います。
双極症では、躁状態・軽躁状態・混合状態の時期に、怒りっぽさや焦りが目立つことがあります。「自分が悪い」と責めるだけで終わらせず、睡眠不足、疲労、予定の詰め込み、音・人混み・SNSなどの刺激を確認します。その場を離れる、反応を遅らせる、相談相手へ連絡するという順番を、安定している時に決めておくと役立ちます。

イライラは、躁・軽躁や混合状態のサインになることがあります
双極症の「上がる」状態は、いつも楽しい高揚として現れるわけではありません。日本うつ病学会の当事者・家族向け資料「双極症とつきあうために Ver.11」でも、躁エピソードの症状として、気分の高揚だけでなく、興奮や怒りっぽさが示されています。
落ち込みがある一方で、焦り、落ち着かなさ、イライラ、頭の中の活動性が強い時は、混合状態の可能性も含め、早めに主治医へ伝えることが大切です。ただし、日常の怒りや不満がすべて症状というわけではありません。普段の自分と比べて変化が大きいか、睡眠や活動量の変化が重なっているか、生活や人間関係に支障が出ているかを見ます。
| 確認すること | 変化の例 | 相談につなげたい目安 |
|---|---|---|
| 普段との差 | 小さなことに強く反応する。声や言葉が強くなる。待つことが難しい。 | 周囲から「いつもと違う」と言われる変化が続く。 |
| 睡眠 | 寝る時間が短い。眠れないのに活動を続ける。 | 不眠が続き、怒りや興奮も強まっている。 |
| 活動量 | 予定、連絡、仕事、外出が急に増える。 | 休めず、止めようとしても行動が続く。 |
| 落ち込みとの重なり | つらい、消えたい気持ちがあるのに、焦りや衝動性も強い。 | 自傷の考え、危険な衝動、強い絶望がある。 |
| 生活への影響 | 口論、物に当たる、危険運転、仕事や家庭でのトラブル。 | 自分や周囲の安全が保てない。 |

「何に怒ったか」だけでなく、その前の状態を見ます
イライラすると、原因になった相手や出来事だけに意識が向きやすくなります。しかし、同じ出来事でも、寝不足や疲労が重なると反応が強くなることがあります。予定を詰め込んでいた、人混みや音で疲れていた、SNSの刺激を受け続けていたなど、怒りの直前より少し前から振り返ることがポイントです。
| 土台になりやすい状態 | 自分への質問 | 最初にできる調整 |
|---|---|---|
| 睡眠不足 | 昨夜は何時間眠ったか。数日続けて短くなっていないか。 | 夜の予定・連絡・画面を見る時間を減らし、主治医へ相談する。 |
| 疲労 | 休憩なしで動いていなかったか。食事や水分が抜けていないか。 | 座る、横になる、水分を取る、予定を減らす。 |
| 予定の詰め込み | 移動や対人予定が連続していないか。 | 延期・短縮・断る選択を使い、回復時間を確保する。 |
| 感覚的な刺激 | 音、光、人混み、会話が多すぎなかったか。 | 静かな場所へ移り、刺激源から距離を取る。 |
| 情報刺激 | SNS、ニュース、議論を長時間続けていなかったか。 | 通知を切り、アプリを閉じ、返信を翌日に回す。 |
「相手が悪いか、自分が悪いか」をすぐ決める前に、「今の自分は話し合える状態か」を確認します。

1 反応する前に「間」を作ります
怒りが強い時に、正しい説明や話し合いを急いでも、言葉が強くなり、問題が大きくなることがあります。まずは、感情を完全になくすことではなく、行動までの時間を延ばします。
- その場を離れ、別の部屋や静かな場所へ移る
- スマートフォンの通知を切り、メッセージは下書きにする
- 返信、決断、投稿、電話を「今はしない」と決める
- 深呼吸、水を飲む、座るなど、短くできる行動を使う
- 運転、危険な作業、大きな契約や決断を避ける
深呼吸などは、必ず気持ちを落ち着かせる方法ではありません。合わない時は無理に続けず、距離を取る、横になる、支援者へ連絡するなど、自分に合う方法へ切り替えます。
その場を離れる時の短い言い方
「今は落ち着いて話すのが難しいので、いったん離れます。」
「返信は今夜はせず、明日の[ ]時ごろに見直します。」
「あなたを無視するためではなく、言いすぎないために時間を取ります。」
「[家族/支援者/主治医]に相談してから、次の対応を決めます。」
相手が距離を求めている時は、戻る時刻を一方的に決めて接触を続けず、相手の境界線を尊重します。

2 イライラの強さに応じて、対応を変えます
自分の状態を0から10で表す方法は、細かな感情を正確に測定するためではなく、行動の切り替えを決める目印として使います。数字が合わない方は、「青・黄・赤」などの色分けでもかまいません。
0〜3:小さな違和感疲れや刺激を確認する。休憩、食事、水分、予定調整を行う。
4〜6:反応が強い話し合い・SNS・運転・大きな判断を止め、その場を離れる。相談相手へ連絡する。
7〜10:自分で止めにくい一人で抱えず、主治医・医療機関・地域の相談先へ連絡する。危険があれば安全確保を最優先にする。
イライラ記録の簡単な型
日時:[ ]
強さ:[ ]/10
直前の出来事:[ ]
その前の状態:睡眠[ ]時間/疲労[ ]/予定[少・普・多]
刺激:音/人混み/SNS/仕事/家庭/その他[ ]
実際にした行動:[ ]
役立った対処:[ ]
次回の受診で伝えること:[ ]
日本うつ病学会の双極症委員会の資料ページには、気分・睡眠・生活リズムを振り返るためのライフチャートや睡眠・覚醒リズム表も掲載されています。
3 主治医には「怒った内容」より、変化の組み合わせを伝えます
診察では、口論の細部をすべて再現する必要はありません。気分の波を評価するために、普段との違いと時間経過を簡潔に伝えます。
診察で伝えるメモの例
- いつからイライラが強くなったか:[ ]
- 睡眠:普段[ ]時間 → 最近[ ]時間
- 活動・予定:普段より[少ない/同じ/多い]
- 怒りの強さ:最大[ ]/10
- 起きた行動:強い言葉/連続連絡/物に当たる/運転/その他[ ]
- 落ち込み、焦り、死にたい気持ち:[なし/あり/説明 ]
- 自分や相手を傷つけそうな感覚:[なし/あり]
- 服薬:処方どおり/飲み忘れ/自己調整があった
- 周囲から言われた変化:[ ]
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト:双極性障害」でも、本人だけでなく周囲から見て「いつもと違う」と分かる変化や、生活への影響が説明されています。
症状の理解と、相手への責任は分けて考えます
怒りっぽさに病気の影響があったと理解することは、自分を一方的に責めず、治療と再発予防へつなげるために重要です。一方で、相手が受けた恐怖や傷つきが消えるわけではありません。
「症状の説明」は、暴言・暴力・威嚇を正当化するものではありません。
必要な時は謝罪や修復を考えます。ただし、相手には距離を置く、連絡を受けない、第三者を介するという選択があります。本人の治療と、相手の安全・境界線の両方を尊重します。
- 興奮が続いている間は、謝罪や説明を何度も送らない
- 相手が接触を断っている時は、直接連絡を続けない
- 職場や施設では、正式な相談・報告経路を使う
- 暴力やハラスメントが関係する時は、本人同士だけで解決しようとしない
ご家族・周囲の方へ:説得より、安全と短い声かけを優先します
強いイライラや興奮がある時に、長い説明や正論で説得しようとすると、やり取りが激しくなることがあります。診断名を決めつけず、見えた変化を短く伝えます。
| 避けたい言い方 | 伝えやすい言い方 |
|---|---|
| また躁になっている。落ち着いて。 | 昨夜ほとんど眠っておらず、声も普段より大きいように見える。 |
| そんなことで怒るのはおかしい。 | 今はお互い安全に話すのが難しいので、いったん離れるね。 |
| 病気なんだから我慢して。 | つらさは理解したい。ただし、暴言や暴力からは距離を取る。 |
| 今すぐ謝って。 | まず落ち着ける環境と医療への連絡を優先し、後で修復を考えよう。 |
- 危険を感じたら、近づきすぎず、出口をふさがない
- 一人で押さえ込んだり、危険な物を奪い取ろうとしたりしない
- 子どもや高齢者など、巻き込まれやすい人を安全な場所へ移す
- 主治医・医療機関・支援者へ、睡眠と行動の変化を具体的に伝える
- 支える側も、その場を離れ、相談し、休む権利がある
強い怒りや危険がある時は、早めに相談します
自分や相手を傷つけそうな時、物に当たる・危険運転など衝動的な行動が増えている時、眠れない状態が続く時、怒りや焦りを自分で止めにくい時は、早めの相談が必要です。これは弱さではなく、波が大きくなる前に自分と周囲を守る行動です。
安全を最優先にする状態
今まさに自分や他者へ危害が及ぶおそれがある、武器になり得る物を持っている、激しい興奮や混乱で安全な移動・会話が難しい、意識障害やけががある場合は、本人同士の話し合いを続けず、警察・救急など緊急の支援を利用してください。緊急ではない場合も、主治医、精神科医療機関、地域の精神保健福祉センターなどへ早めに相談します。
相談先を探す場合は、国立精神・神経医療研究センターの「相談しあう・支えあう」や、厚生労働省の「まもろうよ こころ:困った時の相談方法・窓口」から、公的機関や各種相談先を確認できます。

「イライラ対処カード」を作りましょう
私に出やすい早期サイン:
[声が大きい/待てない/連絡増加/物に当たりたい/その他 ]
一緒に出やすい変化:
[睡眠減少/予定増加/焦り/落ち込み/浪費/その他 ]
最初に減らす刺激:
[音/人混み/SNS/会話/仕事/その他 ]
離れる場所:
[ ]
反応を待つ時間:
[ ]
自分に合う短い対処:
[水分/横になる/散歩/通知を切る/その他 ]
相談する人:
[ ]
主治医・医療機関へ連絡する条件:
[ ]
緊急時に周囲へしてほしいこと:
[ ]
カードは、安定している時に本人・家族・支援者・主治医と相談して作ります。本人を監視したり、一方的に行動を制限したりする目的ではなく、本人と周囲の安全を守る共有プランとして使います。
まとめ:イライラを「早めに休むサイン」として扱います
- イライラは、性格だけでなく、躁・軽躁・混合状態などの気分の波と関係することがあります。
- 何に怒ったかだけでなく、その前の睡眠、疲労、予定、刺激を確認します。
- その場を離れる、通知を切る、返信を遅らせるなど、反応する前に間を作ります。
- 症状の理解と、相手の安全・境界線への責任は分けて考えます。
- 自分で止めにくい怒り、不眠、衝動、自傷他害のおそれがある時は、早めに医療や支援へつながります。
イライラは、ただ我慢し続けるものでも、自分の性格そのものでもありません。自分の状態を知らせる情報として使い、早めに刺激を減らし、休み、相談することで、トラブルや病状の悪化を小さくできる可能性があります。

次回は「大きな決断はいつする?」
次回、第19回は「大きな決断はいつする?」です。退職、転職、離婚、大きな契約など、生活への影響が大きい判断を、気分の波がある中でどのように扱うかを考えます。
もっと学びたい方へ
ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について当事者・家族向けに学べる動画、資料、ゼミを公開しています。気になるところから、無理のない範囲でご覧ください。

参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.
- 日本うつ病学会 双極症委員会. 双極症とつきあうために Ver.11. 2024.
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト. 双極性障害(躁うつ病).
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト. 相談しあう・支えあう.
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 病気について(F1).
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 当事者ができること(F3).
- Colom F, Vieta E. 双極性障害の心理教育マニュアル. 秋山剛, 尾崎紀夫 監訳. 医学書院; 2012.
- 厚生労働省. まもろうよ こころ:困った時の相談方法・窓口.
※本記事は、添付スライドとスピーカーノートを基に、Web解説コラムとして内容を補足・再構成した一般的な心理教育情報です。個別の診断、治療、服薬変更、危険時の対応を代替するものではありません。
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