双極症の動画図書館:双極症(双極性障害)で使われる薬で、体重増加が起こりやすいものは?ーー薬ごとの「平均的な傾向」と、安全な受け止め方


NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
薬剤師
藤田剛(窓師)
公表されている情報をもとにこのコラムは作成しましたが、当事者ごとの薬の効果・副作用は異なることをご理解の上、本コラムをお読みください。
診断と治療は医療機関で
この記事は、双極症について学ぶための一般的な心理教育情報です。 診断や治療方針の決定は、主治医や医療機関で行われます。 自己判断で薬を変更・中止しないでください。強い不眠、著しい気分の高まりや落ち込み、自傷他害のおそれ、生活に大きな支障が出ている場合は、 心理教育だけで対応せず、主治医、医療機関、地域の相談窓口に早めに相談してください。 緊急性がある時は、救急受診や地域の緊急相談も検討してください。
はじめに:このコラムを読む前の注意事項
- 体重が気になっても、薬を自己判断で減らしたり、中止したり、別の薬に替えたりしないでください。症状の再燃や離脱症状につながることがあります。
- このコラムは、薬の優劣や「太る薬ランキング」を決めるものではありません。治療効果、再発予防、眠気、相互作用、妊娠・身体疾患なども含めて、薬は総合的に選ばれます。
- 体重変化には、薬の作用だけでなく、症状による活動量の変化、睡眠、食欲、食事、飲料、甲状腺機能、むくみ、併用薬などが関係します。体重増加を本人の努力不足と考えないことが大切です。
- 体重への影響は個人差が大きく、平均的に「少ない」とされる薬でも増える人はいます。反対に、平均的に「多い」とされる薬でもほとんど変化しない人もいます。
このコラムの情報と出典は、こう解釈してください
- 「高い・中程度・低い」は厳密な順位ではありません。研究ごとに対象者、診断、用量、期間、併用薬が異なるため、星の数のように精密な比較はできません。
- 添付文書は、国内で確認された副作用や必要な注意を知るための重要な資料です。ただし、薬同士の体重増加の大小を公平に比較するための資料ではありません。
- 診療ガイドラインは、有効性と安全性をまとめ、実際の診療でどう考えるかを示します。「この薬が全員に最善」という意味ではありません。
- メタ解析(複数の研究を統合する方法)は平均的な傾向をつかむのに役立ちますが、統合失調症や単極性うつ病の研究を含むことがあります。双極症の一人ひとりに、そのまま当てはまるとは限りません。
- このコラムでは、日本うつ病学会「双極性障害(双極症)2023」と国内添付文書を優先し、薬ごとの比較研究を補助的に使っています。抗うつ薬の比較は、主に単極性うつ病などのデータです。
薬の効果も体重変化も、一人ひとり異なります
「薬が効く」といっても、実際には効き方に個人差があり、よく効く人もいれば、十分な効果を感じにくい人もいます。同じように、平均的に体重が増えやすい傾向がある薬を使っても、必ず体重が増えるとは限りません。
大切なのは、定期的に体重を測定・記録し、その推移を主治医と一緒に確認することです。薬の効果と、副作用の一つである体重増加の現れ方は、集団の平均値だけではなく、あなたに起きている個別の経過として考える必要があります。
体重が増えたときには、薬の影響だけでなく、症状、睡眠、食欲、活動量、食事、飲料、むくみ、甲状腺機能、併用薬など、ほかの要因も含めて検討します。また、「何kg増えたら問題と考えるか」は一律ではありません。開始時の体重に対する割合、増え方の速さ、血糖・脂質などの検査値、生活上の困りごとを合わせて判断します。本文で示す5%以上の増加は、自己中止の基準ではなく、主治医と対応を相談する目安です。
薬を継続するか、用量を調整するか、別の薬を検討するかは、治療効果と負担の両方を確認したうえで、あなたと主治医が一緒に判断します。
要点
- 平均的には、オランザピンは体重増加への注意が特に必要です。
- クエチアピンとバルプロ酸も、体重が増えやすい側に位置します。
- アリピプラゾール、ルラシドン、ラモトリギンは比較的影響が少ないとされますが、増加が起こらない保証ではありません。
- リチウムは体重増加が語られやすい薬ですが、双極症を対象としたメタ解析では平均変化は小さく、統計学的に有意ではありませんでした。個人差や甲状腺機能などは別に確認が必要です。
- 大切なのは、薬を恐れて中止することではなく、開始前から体重と代謝を確認し、早めに相談できる形をつくることです。
1.双極症治療薬の体重への影響:全体像
下表は、国内ガイドライン、添付文書、双極症を対象にした研究、抗精神病薬の比較研究を合わせた大まかな目安です。薬効分類をまたいだ厳密な順位表ではありません。
| 薬剤 | 分類 | 平均的な傾向 | 読み方・注意点 |
|---|---|---|---|
| オランザピン ジプレキサなど |
第2世代抗精神病薬 | 高い | 国内ガイドラインでも、抗精神病薬の中で体重増加リスクが高い側とされています。日本では糖尿病または糖尿病の既往がある人は禁忌です。血糖、脂質、体重の確認が特に重要です。 |
| クエチアピン徐放錠 ビプレッソ |
第2世代抗精神病薬 | 中程度〜高め | 国内ガイドラインでは「中程度」に位置づけられています。長期使用では体重や脂質への注意が必要です。普通錠と徐放錠では、国内の双極症に対する承認適応が異なります。 |
| バルプロ酸ナトリウム デパケンなど |
気分安定薬 | 中程度 | 食欲や体重が増える人がいます。開始後の比較的早い時期から変化することもあります。肝機能など、体重以外の検査も必要です。 |
| リチウム リーマス |
気分安定薬 | 小さい〜個人差 | 近年の双極症のメタ解析では、平均体重増加は約0.46kgで統計学的に有意ではありませんでした。ただし、口渇に伴う高カロリー飲料、甲状腺機能低下、むくみなどの確認は重要です。 |
| アリピプラゾール エビリファイなど |
第2世代抗精神病薬 | 比較的低い | 平均的には少ない側ですが、国内試験や添付文書にも体重増加は記載されています。「体重中立」と決めつけず、経過を確認します。 |
| ルラシドン ラツーダ |
第2世代抗精神病薬 | 比較的低い | 双極うつ病の臨床試験では、平均的な体重・血糖・脂質の変化は小さいと報告されています。アカシジア(じっとしていられない感じ)など、別の副作用にも注意します。 |
| ラモトリギン ラミクタール |
気分安定薬 | おおむね体重中立 | 体重への平均的な影響は小さいとされています。ただし、重い皮膚症状を避けるためのゆっくりした増量など、体重とは別の重要な注意があります。 |
※「比較的低い」「体重中立」は、体重増加が絶対に起こらないという意味ではありません。用量、期間、併用薬、年齢、治療前の体重などで変わります。
2.抗精神病薬を詳しく見る
日本うつ病学会のガイドラインは、糖尿病・耐糖能異常につながる体重増加のリスクについて、オランザピンを「高い」、クエチアピンとリスペリドンを「中程度」、アリピプラゾールを「ごくわずか」と整理しています。ルラシドンは、双極うつ病の試験で代謝面への影響が小さいことが報告されています。
「体重が少ない薬に替えればよい」と単純には決められません
同じ「双極症」でも、躁状態、うつ状態、混合性の特徴、維持期では薬の役割が異なります。たとえば、ある薬で症状と睡眠が安定している場合、体重だけを理由に急に変更すると、再発の不利益が大きくなることがあります。副作用と治療効果の両方を見ながら、共同意思決定(SDM:患者と医療者が一緒に選ぶ方法)で考えます。
国内の承認適応にも注意
抗精神病薬の比較表には、リスペリドンやパリペリドンが掲載されることがあります。しかし、日本の双極症治療では適応外使用となる場面があります。また、クエチアピンは普通錠と徐放錠で承認適応が異なります。「研究で使われた」「ガイドラインに掲載された」「国内で保険適用がある」は同じ意味ではありません。
3.抗うつ薬の体重増加リスク:双極症では特別な注意が必要
双極症で抗うつ薬を「一切使わない」という意味ではありません。ただし、日本うつ病学会のガイドラインは、躁転や急速交代化の可能性を考慮し、少なくとも抗うつ薬の単剤使用は避けるべきとしています。
双極症と診断される前にうつ病として治療されていた人や、別の適応で抗うつ薬を服用している人もいます。そこで参考として体重への傾向を示しますが、下表は主に単極性うつ病・一般診療の研究に基づきます。双極症での処方を勧める表ではありません。
| 薬剤 | 分類 | 一般的な傾向 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| ミルタザピン リフレックス、レメロン |
NaSSA | 比較的増えやすい | 食欲増加や眠気を伴うことがあります。体重減少や不眠がある人には、その作用が治療上の利点になる場合もあります。 |
| アミトリプチリン トリプタノール |
三環系抗うつ薬 | 比較的増えやすい | 古くから体重増加が報告されています。抗コリン作用、眠気、心電図など、体重以外の注意も多い薬です。 |
| パロキセチン パキシルなど |
SSRI | やや増えやすい | 長期では、他の一部のSSRIより体重増加がみられやすいという研究があります。中止時の離脱症状にも注意が必要です。 |
| セルトラリン ジェイゾロフト |
SSRI | 中間的・個人差 | 近年の大規模研究では比較の基準薬とされました。長期では少し増える人もおり、「ほぼ影響なし」とは言い切れません。 |
| デュロキセチン/ベンラファキシン サインバルタ/イフェクサー |
SNRI | 差は小さいが個人差 | 「代謝が上がるため太りにくい」と単純には説明できません。2024年の大規模研究では、薬剤間の平均差は小さい一方、デュロキセチンなどで5%以上増加する確率に差がみられました。 |
※抗うつ薬の体重変化は、うつ症状の改善で食欲が戻る影響、服薬継続率、治療期間などが混ざります。薬理作用だけで説明しきれません。
4.体重と代謝を、どうモニタリングするか
モニタリングは、体重増加を完全に防ぐものではありません。しかし、同じ条件で定期的に測定・記録することで、あなた自身の体重の推移が見えやすくなります。その記録を主治医と共有すると、薬の影響なのか、ほかの要因が関係しているのかを検討し、食事・活動・検査・薬の調整などの対応につなげやすくなります。
自宅での体重測定
- 開始前、または今の時点の体重を記録します。
- 開始・増量後は、可能なら週1回程度、同じ曜日・同じ時間帯・近い服装で測ります。安定後の頻度は主治医と相談します。
- 1回の数字だけでなく、数週間の流れを見ます。日々の水分量、便通、月経、むくみでも体重は動きます。
- 日本うつ病学会ガイドラインでは、治療開始後に5%以上の体重増加があれば、薬の変更も含めた対応を考慮することが提案されています。これは自己中止の基準ではなく、相談の目安です。
医療機関で確認される主な項目
| 項目 | 何を見るか | 補足 |
|---|---|---|
| 体重・BMI・腹囲 | 増加の程度と速度 | 治療前の値があると比較しやすくなります。 |
| 血糖・HbA1c | 糖尿病、耐糖能異常 | オランザピンやクエチアピン、肥満・脂質異常症などのリスクがある場合は、より注意深く確認されます。 |
| 脂質 | 中性脂肪、LDL・HDLコレステロール | 体重が大きく変わらなくても、脂質が変化することがあります。 |
| 肝機能・腎機能・甲状腺機能 | 薬ごとの安全性、体重変化の別の原因 | バルプロ酸、リチウムなどは、それぞれ必要な検査が異なります。 |
早めに医療機関へ連絡したい症状
- 強い口渇、多飲、多尿、頻尿
- 強いだるさ、吐き気、意識がぼんやりする
- 短期間で急に体重が増え、むくみや息苦しさがある
- 体重への不安から、薬を飲まない日が増えている
特に意識障害、呼吸困難、著しい脱水が疑われる場合は、通常の予約日を待たず、救急を含む受診を検討してください。
5.主治医・薬剤師への相談ポイント
「太るのが嫌です」だけでも、十分に相談してよい内容です。責められることではありません。数字と生活上の困りごとを一緒に伝えると、話し合いやすくなります。
相談例
「薬を始めた時は60kgで、今は63kgです。約5%増えています。食欲と眠気も強くなりました。薬の効果は感じていますが、体重と血糖が心配です。検査や対応について一緒に考えてもらえますか」
持参すると役立つ記録
- 薬の開始日・増量日
- 開始前と現在の体重
- 週ごとの体重推移
- 食欲、眠気、活動量
- 口渇、多尿、むくみ
確認したいこと
- この薬の治療上の目的
- 必要な血液検査と時期
- 生活面で無理なくできる対策
- 薬を続ける利点と変更する不利益
- 代替薬や用量調整の可能性
窓師のコメント
薬の効果と体重増加の現れ方は、一人ひとり異なります。体重や血液検査を記録しても、薬そのものの影響がなくなるわけではありませんが、あなた自身の変化を早く見つけ、主治医や薬剤師と具体的に相談できます。体重の数字だけでなく、薬によって得られている安定や生活上の利点も一緒に振り返ることが大切です。
まとめ
双極症の治療薬には、平均的に体重が増えやすい薬と、影響が少ない薬があります。しかし、体重が増えやすい薬で必ず増えるわけではなく、影響が少ない薬でも増える人はいます。薬の効果と副作用は、集団の平均だけでなく、あなた自身に起きている経過として確認することが大切です。
体重が増えた原因、どの程度の増加を問題と考えるか、服薬を継続するかどうかは、一つの数字だけでは決められません。定期的な体重・検査値の記録と、治療によって得られている効果、生活上の負担を合わせて、あなたと主治医が一緒に判断します。
自己判断で薬を止めず、体重の推移を記録し、治療のメリットと負担を主治医・薬剤師と共有する。これが、体重の問題と治療の安定を両立させる基本です。
主な出典・参考文献
- 日本うつ病学会.日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.特にCQ3-2、CQ7-3、CQ7-5。
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA).オランザピン製剤 電子化された添付文書.
- Pillinger T, et al. Comparative effects of 18 antipsychotics on metabolic function in patients with schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis. Lancet Psychiatry. 2020;7(1):64-77.
- Gomes-da-Costa S, et al. Lithium therapy and weight change in people with bipolar disorder: A systematic review and meta-analysis. Neurosci Biobehav Rev. 2022;134:104266.
- Grootens KP, et al. Weight changes associated with antiepileptic mood stabilizers in the treatment of bipolar disorder. Eur J Clin Pharmacol. 2018;74(12):1481-1489.
- Kato T, et al. Double-blind, placebo-controlled study of lurasidone monotherapy for the treatment of bipolar I depression. Psychiatry Clin Neurosci. 2020;74(12):635-644.
- Petimar J, et al. Medication-Induced Weight Change Across Common Antidepressant Treatments: A Target Trial Emulation Study. Ann Intern Med. 2024;177(8):993-1003.
- Serretti A, Mandelli L. Antidepressants and body weight: a comprehensive review and meta-analysis. J Clin Psychiatry. 2010;71(10):1259-1272.
添付文書や診療ガイドラインは改訂されます。処方の判断には、閲覧時点の最新情報と個別の診療情報が必要です。
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