双極症の動画図書館:第17回 人間関係でトラブルが増えるとき


NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長
認定専門公認心理師
社会福祉士
国際双極症学会 評議員
木野内南(布団ちゃん)

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
薬剤師
藤田剛(窓師)
解説:木野内 南(布団ちゃん)〔認定専門公認心理師・社会福祉士・国際双極症学会評議員〕
制作:NPO法人ネット心理教育ピアサポート
双極症では、躁状態や軽躁状態、あるいは混合状態の時期に、話す量、連絡の頻度、口調、相手との距離感が普段と変わることがあります。本人には「早く伝えたい」「もっと話したい」「なぜ分かってくれないのだろう」と自然に感じられていても、相手には連絡が多い、圧が強い、距離が近すぎると受け取られることがあります。
大切なのは、人間関係のトラブルをすべて性格の問題として責めることでも、すべて病気のせいにして終わらせることでもありません。いつもの自分との違いに早く気づき、相手の安全と境界線を尊重しながら、次の再発予防へつなげることです。
診断と治療は医療機関で
この記事は、双極症について学ぶための一般的な心理教育情報です。話しすぎ、連絡の増加、怒りっぽさだけで躁・軽躁・混合状態と診断することはできません。診断と治療方針は主治医や医療機関で判断します。自己判断で薬を変更・中止しないでください。強い不眠、著しい気分の高まり、興奮、現実検討の低下、自傷他害のおそれなどがある場合は、心理教育だけで対応せず、早めに主治医・医療機関へ相談してください。
双極症の動画図書館について
NPO法人ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について信頼できる情報を、短い動画とWeb解説コラムで届ける「双極症の動画図書館」を制作しています。第1回から順番に見ても、今気になるテーマから見てもかまいません。
この記事でわかること
- 人間関係の変化を、気分の波の早期サインとして見る方法
- 「いつもより多い・速い・近い」を確認するポイント
- SNSやメッセージを送る前に立ち止まる具体策
- トラブル後の謝罪・修復と、再発予防の分け方
- 暴力・威嚇・ハラスメントなど、危険がある時の安全確保
いきなり結論:人間関係の変化は、波に早く気づく手がかりです
人間関係の変化は、気分の波に早く気づく手がかりになります。
話しすぎる、強く言いすぎる、急に距離を詰める、夜中に何度も連絡する。こうした変化が普段と比べて増えた時は、失敗を責め続けるよりも、睡眠・予定・活動量の変化と一緒に確認します。連絡前に一呼吸置く、送信時間を決める、相談相手を決めるなど、トラブルを大きくしない仕組みが役立ちます。

まずは「いつもより多い・速い・近い」を見ます
躁状態や軽躁状態では、活動量や思考のスピードが上がり、話す量や連絡の頻度が増えることがあります。本人には、好意、熱意、正義感、使命感として感じられる場合があります。一方で、相手は急に距離を詰められた、返事を急かされた、圧をかけられたと感じることがあります。
| 見るポイント | 変化の例 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 多い | 話が止まらない。長文や連続メッセージが増える。複数の相手へ一斉に連絡する。 | 普段の回数や文章量と比べて増えていないか。 |
| 速い | 返事を待てない。話題が次々に移る。相手の説明が終わる前に結論を出す。 | 考える時間や相手の返答を待つ余裕が減っていないか。 |
| 近い | 知り合って間もない人へ個人的な話を多くする。急に会う約束や共同計画を進める。 | 相手の同意や関係の段階を確かめているか。 |
| 時間帯 | 深夜・早朝に連絡する。相手の仕事中や休息中にも返信を求める。 | 送信時間と返信を待つルールが守れているか。 |
| 他の変化 | 睡眠が減る、予定が増える、買い物が増える、声が大きくなる。 | 対人行動以外の早期サインが重なっていないか。 |
一つの行動だけで病状を決めつける必要はありません。ただし、睡眠の減少や活動量の増加と同時に、連絡や対人トラブルが増えている場合は、主治医へ伝える価値があります。日本うつ病学会の診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023と、当事者・家族向け資料「双極症とつきあうために Ver.11」は、躁・軽躁の症状理解と再発の早期発見を考える際の基礎資料になります。

怒りっぽさや強い言い方にも注目します
躁・軽躁は、明るく楽しい高揚だけで現れるとは限りません。イライラ、焦り、待てなさ、反論したくなる気持ちとして現れることがあります。混合状態では、活動性や焦燥感が高い一方で、つらさや落ち込みが強いこともあります。
| きっかけ | 普段との違い | 立ち止まる方法 |
|---|---|---|
| 返信が遅い | 短時間に何度も追送する。無視されたと断定する。 | 返信期限を自分で決めず、次の連絡まで時間を置く。 |
| 予定が変わる | 強い言葉で責める。理由を聞く前に関係を切ろうとする。 | その場で結論を出さず、休憩してから事実を確認する。 |
| 意見が違う | 議論を終えられない。相手を説得するまで続ける。 | 「今日はここまで」と区切り、下書きに残す。 |
| 自分が否定されたと感じる | 人格攻撃や公開の場での反論へ進む。 | 第三者に文面を見てもらい、公開投稿は翌日まで待つ。 |
言い方が強くなった時は、対人関係だけを見ず、睡眠不足、疲労、予定の詰め込み、服薬の変化も確認します。国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト:双極性障害」でも、周囲が「いつもの本人と違う」と気づくほどの変化や、社会生活への影響が説明されています。

1 連絡前に「一呼吸置くルール」を作ります
気分が上がっている時やイライラが強い時は、送信ボタンまでの時間が短くなりがちです。安定している時に、連絡の種類ごとにルールを決めておきます。
- 感情が強い文章は、すぐ送らず下書きへ保存する
- 深夜・早朝には送らず、翌日の決めた時刻に見直す
- 同じ相手への追送は、一定時間あける
- 長文は、要点を3つまでに絞る
- 退職、絶縁、告発、公表など大きな決断を伴う連絡は、第三者へ相談する
「送らない」のではなく、「落ち着いた自分がもう一度選べる時間を作る」と考えます。
連絡ルールのテンプレート
夜間の送信停止時間:[ ]時から[ ]時まで
感情が強い文面を待つ時間:最低[ ]時間/翌朝まで
追送するまでの時間:[ ]時間
相談が必要な連絡:退職/絶縁/公開投稿/告発/その他[ ]
文面を確認してもらう人:[ ]
ルールは、相手に我慢を求めるものではありません。自分と相手の両方を守るための仕組みです。
2 SNSや連絡量の変化を記録します
記録の目的は、自分を監視したり、すべての発言を病気扱いしたりすることではありません。普段との違いを具体化し、主治医や支援者へ伝えやすくすることです。
| 記録する項目 | 簡単な記録例 | 見たい変化 |
|---|---|---|
| 投稿・メッセージ数 | 普段5件 → 今日は30件 | 量が急に増えていないか。 |
| 時間帯 | 午前2時から4時に連続送信 | 睡眠時間と重なっていないか。 |
| 内容 | 議論、批判、急な親密さ、共同計画 | 普段より強い・近い内容になっていないか。 |
| 睡眠 | 普段7時間 → 3時間 | 連絡増加より前に睡眠が減っていないか。 |
| 周囲の反応 | 「少し休んだ方がいい」と言われた | 複数の人から同じ指摘がないか。 |
ライフチャートや睡眠・覚醒リズム表など、気分と生活の変化を一緒に記録できる資料は、日本うつ病学会 双極症委員会の資料ページから確認できます。

主治医には「対人トラブル」と「睡眠・活動」をセットで伝えます
人間関係の出来事は、診察で話すには恥ずかしい、治療とは関係ないと感じることがあります。しかし、話す量、連絡量、口調、距離感の変化は、気分の波を評価する重要な生活情報です。相手の名前や細かな議論内容をすべて説明する必要はありません。普段との差を簡潔に伝えます。
診察で伝えるメモの例
- 睡眠:普段[ ]時間 → 最近[ ]時間
- 連絡量:普段[ ]件 → 最近[ ]件
- 時間帯:夜間・早朝の連絡が増えた/変化なし
- 口調:強い言葉、議論、追送が増えた/変化なし
- 距離感:急な親密さ、会う約束、共同計画が増えた
- 周囲から言われたこと:[ ]
- 服薬:処方どおり/飲み忘れ/自己調整があった
- 自分が困っていること:[ ]
3 謝罪だけで終わらせず、修復と再発予防を分けます
トラブル後は、強い後悔から何度も謝罪を送ったり、反対に「病気だったから仕方がない」と説明したくなったりします。ここでは、相手への修復と自分の再発予防を分けて考えます。
- 安全を確認する:暴力、威嚇、自傷他害のおそれがある時は、話し合いより安全確保を優先します。
- やり取りをいったん止める:興奮が続く中で説明や反論を重ねないようにします。
- 事実を整理する:何を言ったか、相手にどのような影響があったかを確認します。
- 必要な謝罪を簡潔に伝える:言い訳を重ねず、相手が距離を置く選択も尊重します。
- 早期サインを振り返る:睡眠、予定、連絡量、イライラ、服薬の変化を確認します。
- 次の仕組みを決める:送信ルール、相談相手、受診の目安を更新します。
症状を理解することと、相手の傷つきを軽く扱うことは別です。
病気の影響を知ることは、自分を必要以上に責めず、再発予防へ進むために重要です。同時に、相手には返信しない、距離を置く、関係を続けないという選択があります。謝罪や説明を受け入れることを相手へ求めない姿勢も、関係の境界線を守るうえで大切です。

謝罪文の短い型
先ほど/先日の[具体的な言動]について、あなたに[負担・不安・不快な思い]を与えてしまい、申し訳ありません。
今はやり取りを重ねず、まず落ち着く時間を取ります。返信は必要ありません。
同じことを繰り返さないため、主治医・支援者に相談し、[送信時間/連絡量/相談ルール]を見直します。
相手や状況によっては、謝罪の連絡自体が負担になることがあります。接触を拒否されている場合、職場の正式な手続きがある場合、暴力・ハラスメントが関係する場合は、本人同士で直接連絡せず、専門窓口や第三者へ相談してください。
危険・暴力・ハラスメントがある時は、安全を優先します
病状の有無にかかわらず、暴力、脅迫、つきまとい、性的な侵害、執拗な連絡などがある時は、安全確保が最優先です。周囲は「病気だから我慢しなければ」と考える必要はありません。本人も、興奮や衝動が強まり自分で止めにくい時は、早めにその場を離れ、医療機関や支援者へ連絡します。
緊急性が高い時
今まさに暴力や犯罪被害の危険がある時は110番、けが・急病・意識障害など救急対応が必要な時は119番を利用してください。緊急ではない警察相談は警察相談専用電話「#9110」、ハラスメントなどの人権相談は法務省「みんなの人権110番」が案内されています。配偶者・パートナーからの暴力については、DV相談ナビ「#8008」があります。
死にたい気持ち、自傷の衝動、行き場のない強い苦しさがある時は、一人で抱え込まず、主治医・医療機関へ連絡してください。相談先を探す場合は、厚生労働省の「まもろうよ こころ:困った時の相談方法・窓口」から、電話・SNSなどの窓口を確認できます。
ご家族・周囲の方へ:診断せず、見えた変化を伝えます
周囲から「躁だ」「病気だからおかしい」と決めつけられると、本人は否定されたと感じ、話し合いが難しくなることがあります。診断名で説得するよりも、具体的に見えた変化と、自分が必要とする境界線を伝えます。
| 避けたい言い方 | 伝えやすい言い方 |
|---|---|
| また躁になっている。 | ここ3日、睡眠が短く、深夜の連絡が普段より増えているように見える。 |
| 話が通じない。 | 今はお互いに落ち着いて話すのが難しいので、今日はここで区切りたい。 |
| みんな迷惑している。 | 私は連続した連絡に対応しきれない。次の返信は明日の午後にするね。 |
| 病気なら仕方がない。 | 病気の影響は一緒に考えたい。ただし、暴言や暴力からは距離を取る。 |
- 相手を論破しようとせず、短く具体的に伝える
- 返信できる時間、会える時間、話し合いを終える条件を明確にする
- 危険を感じた時は、本人を一人で説得しようとしない
- 病状悪化を家族だけで抱えず、主治医・医療機関・支援者へ相談する
- 支える側にも距離を置き、休み、相談する権利がある
人間関係の変化カードを作りましょう
私に出やすい変化:
[話しすぎ/連絡増加/強い言い方/急な親密さ/議論/その他 ]
一緒に出やすいサイン:
[睡眠減少/予定増加/浪費/焦り/自信の高まり/その他 ]
送信を待つルール:
[ ]
夜間の連絡ルール:
[ ]
相談する人:
[ ]
主治医へ連絡する条件:
[ ]
周囲にしてほしい声かけ:
[ ]
安全のために距離を取る条件:
[ ]
まとめ:責めるより「早めに気づく」視点で
- 話す量、連絡量、口調、距離感の変化は、気分の波のサインになることがあります。
- 「いつもより多い・速い・近い」と、睡眠・予定の変化を一緒に見ます。
- 連絡前に一呼吸置き、下書き・時間制限・第三者確認を使います。
- 症状を理解することと、相手の傷つきや境界線を軽く扱うことは別です。
- トラブル後は、必要な修復と再発予防を分けて整理します。
- 暴力や危険がある時は、安全を優先し、医療・警察・相談窓口を使います。
人間関係の変化は、つらい出来事である一方、気分の波に早く気づくための重要な情報にもなります。自分を責め続けるのではなく、相手の立場と安全を尊重しながら、次に立ち止まれる仕組みへ変えていきましょう。

次回は「怒りっぽさ・イライラへの対処」
次回、第18回は「怒りっぽさ・イライラへの対処」です。イライラが強い時に何が起きているのか、どう安全に距離を取り、落ち着いてから振り返るかを考えます。
もっと学びたい方へ
ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について当事者・家族向けに学べる動画、資料、ゼミを公開しています。気になるところから、無理のない範囲でご覧ください。

参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.
- 日本うつ病学会 双極症委員会. 双極症とつきあうために Ver.11. 2024.
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト. 双極性障害(躁うつ病).
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 病気について(F1).
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 当事者ができること(F3).
- Colom F, Vieta E. 双極性障害の心理教育マニュアル. 秋山剛, 尾崎紀夫 監訳. 医学書院; 2012.
- 厚生労働省. まもろうよ こころ:困った時の相談方法・窓口.
- 警察庁. ご意見、各種相談・情報提供等(110番・#9110の案内).
- 総務省消防庁. 119番緊急通報.
- 法務省. 常設相談所・みんなの人権110番.
- 内閣府男女共同参画局. DV相談ナビ.
※本記事は、添付スライドとスピーカーノートを基に、Web解説コラムとして内容を補足・再構成した一般的な心理教育情報です。個別の診断、治療、服薬変更、人間関係の法的判断、危険時の対応を代替するものではありません。
