双極症の動画図書館:第16回 浪費が心配な時


NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長
認定専門公認心理師
社会福祉士
国際双極症学会 評議員
木野内南(布団ちゃん)

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
薬剤師
藤田剛(窓師)
解説:木野内 南(布団ちゃん)〔認定専門公認心理師・社会福祉士・国際双極症学会評議員〕
制作:NPO法人ネット心理教育ピアサポート
双極症では、躁状態や軽躁状態の時期に、買い物、契約、アプリへの課金、投資などが急に増えることがあります。その時の本人には、「今なら大丈夫」「これは必要」「今すぐ決めたい」と、とても合理的に感じられる場合があります。
大切なのは、あとから自分を責め続けることではありません。気分が上がると判断と行動のスピードが変わりうることを前提に、安定している時から「止まれる仕組み」を準備することです。第16回では、待つ・制限する・相談するの3本柱で整理します。
診断と治療は医療機関で
この記事は、双極症について学ぶための一般的な心理教育情報です。浪費や契約の増加だけで躁・軽躁と診断することはできません。診断と治療方針は主治医や医療機関で判断します。自己判断で薬を変更・中止しないでください。強い不眠、著しい気分の高まり、判断力の低下、急激な借金、自傷他害のおそれなどがある場合は、心理教育だけで対応せず、早めに主治医・医療機関へ相談してください。

双極症の動画図書館について
NPO法人ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について信頼できる情報を、短い動画とWeb解説コラムで届ける「双極症の動画図書館」を制作しています。第1回から順番に見ても、今気になるテーマから見てもかまいません。
この記事でわかること
- 買い物や契約の変化を、金額以外のサインから見る方法
- 即決を避ける「待つルール」の作り方
- カード・アプリ・限度額で使いすぎにくくする方法
- 本人の意思を尊重しながら、相談相手と支援ルールを作る方法
- すでに契約や借金がある時の公的な相談先
いきなり結論:浪費対策は、責めるより「仕組み化」です
浪費が心配な時は、「止まれる仕組み」を先に作ります。
躁・軽躁の時期には、買い物や契約の判断が速くなり、リスクを小さく見積もることがあります。「意志の力だけで止める」よりも、待つ・制限する・相談するを組み合わせた方が、判断と生活を守りやすくなります。

買い物・契約の増加は、気分の波のきざしになることがあります
見るのは、使った金額だけではありません。いつもの自分と比べて、頻度・スピード・衝動性が変わっていないかを確認します。
| 見るポイント | 変化の例 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 頻度 | 毎日のように注文する。複数のサブスクを短期間で契約する。 | 普段より回数が増えていないか。 |
| スピード | 比較せず即決する。説明を十分に読まず契約する。 | 「今日中」「今すぐ」に強く引かれていないか。 |
| 金額・規模 | 高額商品、投資、借入、大きな契約に進む。 | 普段の予算や返済能力を超えていないか。 |
| 衝動性 | 必要性より、買うこと自体に高揚感がある。 | 翌日も同じ判断になるか。 |
| 他の変化 | 睡眠が減る、予定や連絡が増える、話す量が増える。 | 買い物以外にも、気分の波のサインが重なっていないか。 |
一つだけの変化で病状を決めつける必要はありません。ただし、睡眠の減少や活動量の増加と一緒に支出が増えている場合は、主治医へ伝える価値があります。日本うつ病学会の診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023や、一般向け資料「双極症とつきあうために Ver.11」でも、躁・軽躁の症状理解と再発の早期発見が扱われています。

1その場で決めない「待つルール」を作ります
判断が速くなっている時は、「今すぐ決める」こと自体がリスクになります。高額な買い物、契約、投資、借入などは、内容に応じて24時間から数日待つルールを作ります。
- 買わずに「ほしい物リスト」へ入れる
- 翌日に、価格・必要性・保管場所・維持費を見直す
- 一定額以上は、一人で即決しない
- 契約書や利用規約を保存し、第三者と確認する
- 睡眠不足の日は、新しい契約や投資判断をしない
待つことは我慢ではありません。気分の波がある時にも、自分の判断を守るための時間です。

「待つルール」のテンプレート
金額:[ ]円以上は、その場で決めない
待つ時間:最低[ ]時間/日待つ
相談する契約:投資・借入・定期購入・高額商品・その他[ ]
相談相手:[ ]
睡眠の条件:睡眠が[ ]時間未満の日は、新しい契約をしない
金額や待ち時間に「正解」はありません。普段の生活費、収入、過去の経験を踏まえ、主治医や支援者とも相談して決めます。
2カード・アプリ・限度額で、使いすぎにくくします
二つ目は、意志の力ではなく環境を変えることです。安定している時に、支払いまでの手順を少し増やしておくと、「気づいたら使っていた」を減らせます。
| 場所 | できる工夫 | ポイント |
|---|---|---|
| クレジットカード | 持ち歩く枚数を減らす。利用限度額を下げる。利用通知を設定する。 | カード会社ごとに設定方法が異なります。 |
| 通販サイト | 保存済みカード情報を外す。アプリからログアウトする。ワンクリック購入を解除する。 | 購入までに一手間を入れます。 |
| ゲーム・アプリ | 購入時の認証を必須にする。月額上限やペアレンタルコントロールを使う。 | 端末・サービスの設定を確認します。 |
| 生活費 | 固定費口座と自由に使う口座を分ける。週単位で予算を確認する。 | 生活に必要なお金を先に守ります。 |
| 記録 | 家計簿アプリ、カード通知、通帳で支出を見える化する。 | 細かく完璧に記録するより、急な変化に気づくことが目的です。 |
家族が本人に知らせずカードや口座を管理することは、対立や権利侵害につながる場合があります。原則として、本人の同意のもとで、必要最小限・期間限定・見直し可能な方法を選びます。判断力の低下が著しく、生活や財産への危険が大きい場合は、家族だけで抱えず、医療・福祉・法律の専門職へ相談してください。

3相談相手と、先にルールを決めておきます
買い物や契約が増えている時に、周囲から突然「お金を使うな」と言われると、本人は責められた、支配されたと感じることがあります。安定している時に、本人の希望を中心に、次の点を決めておきます。
- いくら以上の買い物を相談するか
- 投資、借入、定期契約など、必ず相談する種類
- 誰に、どの方法で連絡するか
- どのような変化があれば主治医へ連絡するか
- 支出制限を始める条件と、解除・見直しの条件
| 避けたい言い方 | 話し合いやすい言い方 |
|---|---|
| また無駄遣いしている。 | 今週、買い物の回数が普段より増えているように見えるよ。 |
| 躁だから判断できない。 | 睡眠が減って、決めるスピードも速くなっているように見える。いったん待つルールを使わない? |
| カードを全部取り上げる。 | 以前一緒に決めた方法で、今週だけ限度額や支払い方法を見直してみない? |
| なんで相談しなかったの。 | 今からできることを一緒に整理しよう。契約書や利用履歴を確認してみよう。 |

主治医には「支出」と「睡眠・活動」をセットで伝えます
浪費や契約の増加は、治療と無関係な家庭内の問題として隠したくなることがあります。しかし、躁・軽躁の行動変化を評価するうえで重要な情報です。金額だけでなく、前後の変化も一緒に伝えます。
診察で伝えるメモの例
- 支出:普段は月[ ]円程度 → 1週間で[ ]円
- 内容:通販/課金/投資/借入/契約/その他[ ]
- 頻度:普段[ ]回 → 最近[ ]回
- 睡眠:普段[ ]時間 → 最近[ ]時間
- 活動:予定・仕事・連絡・外出が増えた/変化なし
- 周囲の気づき:[ ]
- 服薬:処方どおり/飲み忘れ/自己調整があった
早めに医療機関へ相談したい状態
ほとんど眠らずに活動が続く、借入や高額契約が止まらない、家族との強い対立がある、現実的でない投資・事業計画に進んでいる、著しい興奮・攻撃性・自傷他害のおそれがある場合は、通常の予約日を待たず主治医・医療機関へ連絡してください。
すでに買ってしまった・契約してしまった時
まず、責めることより、事実を整理します。早く相談するほど選択肢が残ることがあります。
- 記録を残す:契約日、金額、事業者名、支払い方法、メール、画面、契約書を保存します。
- 追加の支払いを急がない:新たな借入で埋めようとせず、支払期限と状況を確認します。
- 事業者へ連絡する:解約・返品・停止の条件を確認します。電話した日時と内容も記録します。
- 公的窓口へ相談する:契約トラブルは消費生活相談、借金は法律・多重債務相談も利用します。
クーリング・オフは、すべての買い物に使える制度ではありません。
対象となる取引や期間は契約形態によって異なり、インターネット通販などの通信販売には、法律上のクーリング・オフ制度が原則ありません。返品条件や取消しの可能性を自己判断せず、早めに消費者ホットライン188へ相談してください。
主な相談先
- 消費者ホットライン「188」:近くの消費生活センター・相談窓口につながります。
- 国民生活センター「全国の消費生活センター等」:地域の窓口を確認できます。
- 法テラス「借金に関するよくある相談」:債務整理など、法律上の選択肢を確認できます。無料法律相談には収入・資産等の条件があります。
- 金融庁「貸付自粛制度」:新たな借入を抑えるための制度です。原則として本人の意思に基づく申告であり、影響や手続きを確認して利用を検討します。
※生命・身体の危険や著しい躁状態が疑われる時は、消費生活相談だけでなく、医療機関への連絡を優先してください。
ご家族・周囲の方へ:管理より「支えられた意思決定」を
浪費によって生活が脅かされると、周囲も強い不安や怒りを感じます。ただし、本人の判断をすべて奪うことが、常に最善とは限りません。本人の意思を尊重しながら、必要な情報・時間・相談相手を用意して判断を支える「支えられた意思決定」の考え方が大切です。
- 病名や性格で決めつけず、見えている行動の変化を伝える
- 安定している時に、本人が受け入れやすいルールを一緒に作る
- 管理方法は必要最小限にし、期限と見直し条件を決める
- 契約・借金・病状悪化を家族だけで抱えず、医療・福祉・法律の窓口を使う
- 支える側の生活と心身も守る
浪費対策カードを作っておきましょう
私に出やすい変化:
[買い物回数/課金/投資/契約/借入/その他 ]
一緒に出やすいサイン:
[睡眠減少/予定増加/連絡増加/イライラ/自信の高まり/その他 ]
待つルール:
[ ]
制限する方法:
[カード限度額/通知/ログアウト/口座分け/その他 ]
相談する人:
[ ]
主治医へ連絡する条件:
[ ]
緊急時の相談先:
[ ]
まとめ:自分を責めず、早めに止まれる仕組みを
- 買い物・契約の増加は、躁・軽躁の行動変化として現れることがあります。
- 金額だけでなく、頻度・スピード・衝動性・睡眠の変化を見ます。
- 「待つ」「制限する」「相談する」を組み合わせます。
- 金銭管理は本人の意思を尊重し、必要最小限・期間限定で見直します。
- すでに契約や借金がある時は、早めに医療・消費生活・法律の相談先を使います。
浪費は、意志の弱さや人間性だけで説明できる問題ではありません。双極症の波と関係する場合は、治療と生活支援の両方から考える必要があります。失敗を隠して一人で抱え込むより、事実を整理し、早めに助けを借りることが生活を守る第一歩です。

次回は「人間関係でトラブルが増えるとき」
次回、第17回は「人間関係でトラブルが増えるとき」です。気分の波によって言葉や連絡の量、距離感が変わる時に、どう気づき、どう立ち止まるかを考えます。
もっと学びたい方へ
ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について当事者・家族向けに学べる動画、資料、ゼミを公開しています。気になるところから、無理のない範囲でご覧ください。

参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.
- 日本うつ病学会 双極症委員会. 双極症とつきあうために Ver.11. 2024.
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 病気について(F1).
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 当事者ができること(F3).
- Colom F, Vieta E. 双極性障害の心理教育マニュアル. 秋山剛, 尾崎紀夫 監訳. 医学書院; 2012.
- 消費者庁. 消費者ホットライン.
- 国民生活センター. クーリング・オフ(テーマ別特集).
- 日本司法支援センター(法テラス). 借金に関するよくある相談.
- 金融庁. 貸付自粛制度について.
※本記事は、添付スライドとスピーカーノートを基に、Web解説コラムとして内容を補足・再構成した一般的な心理教育情報です。個別の診断、治療、服薬変更、契約・債務整理等の判断は、医療・法律・消費生活の専門窓口へ相談してください。
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