双極症の動画図書館:第19回 大きな決断はいつする?

双極症の動画図書館|第19回 Web解説コラム

双極症の動画図書館 第19回 大きな決断はいつする 5分で解説
双極症の動画図書館|第19回「大きな決断はいつする?」

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長

認定専門公認心理師

社会福祉士

国際双極症学会 評議員

木野内南(布団ちゃん)

薬剤師

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長

藤田剛(窓師)

気分の波に巻き込まれず、自分の未来を守るために

仕事を辞める。学校を辞める。引っ越す。高額な買い物をする。大切な人との関係を終わらせる――。人生には、大きな決断が必要な場面があります。

双極症では、気分が高まっているときにも、落ち込んでいるときにも、結論を急ぎたくなることがあります。大切なのは、決断を禁止することではありません。気分の波が判断に影響していないかを確かめ、自分が納得できる条件を整えてから決めることです。

筆者の経験から
「躁やうつのときは、大きな決断をしないこと」とよく言われます。では、何が「大きな決断」なのでしょうか。私自身、そのときは大きな決断をしているつもりがないまま物事を進め、後になって人生に大きな影響が残る決断だったと気づいたことが、数回ありました。「大きな決断」は、決めるその瞬間には大きいと気づけないことがあります。だからこそ、決断の内容だけでなく、「元に戻せるか」「生活への影響が長く続くか」という視点で確かめることが大切だと考えています。

今回の要点

  • 大きな決断は、できれば気分の波が落ち着いてから行います。
  • 合言葉は「今日決めない」。いったん保留し、理由を書きます。
  • 睡眠・時間・相談の3点を確認します。
  • 保留は逃げではなく、生活と未来を守るための工夫です。
  • ただし、安全確保や期限のある手続きは、先延ばしせず支援を求めます。
気分の波が強い時は結論を急がず、いったん保留します。

このコラムについて
ここでお伝えするのは、自分の状態を理解するための一般的な情報です。診断や治療は医療機関で行います。薬を自己判断で変更・中止せず、主治医に相談してください。

この記事は一般的な心理教育情報です。診断・治療は医療機関へご相談ください。
目次

1.「大きな決断」とは、戻しにくい決断

ここでいう大きな決断とは、実行したあとに元へ戻すことが難しく、生活への影響が長く続く可能性のある決断です。

領域
仕事・学業退職、退学、転職、起業、急な進路変更
住まい転居、住宅の購入、同居・別居
お金高額購入、多額の寄付、借金、投資、契約
人間関係離婚・別離、絶縁、衝動的な告白や対立
情報発信個人情報の公開、攻撃的な投稿、取り消しにくい発信
治療通院の中断、服薬の中止・増減・変更

どれも「してはいけない決断」という意味ではありません。決める時期と手順を整える価値が大きい決断です。特に治療の変更は、離脱症状(急な中止で起こる心身の変化)や再発につながる可能性があるため、主治医と相談して進めます。

仕事・住まい・お金・人間関係など、生活への影響が大きい決断を扱います。

2.気分が上がっているとき:決断が速くなりやすい

躁状態や軽躁状態では、考えや行動のスピードが上がり、次のような変化がみられることがあります。

  • 「今しかない」「絶対にうまくいく」と感じる
  • 自信がいつもより強くなり、リスクを小さく見積もる
  • 睡眠が少ないのに、疲れを感じにくい
  • 買い物、連絡、契約、SNS投稿などが増える
  • 周囲の心配を、邪魔や反対だと感じる

このようなときの合言葉は、「今日決めない」です。一晩眠る。支払い・契約・送信のボタンを押さない。理由をメモにして誰かに見せる。短い保留でも、考えを見直す余地が生まれます。

「決断する力がない」のではありません。より自分らしく決められる時期まで、決断を守っておくという考え方です。

合言葉は「今日は決めない」。眠り、話し、メモに残します。

3.気分が落ちているとき:未来を狭く見やすい

うつ状態では、「もう無理」「自分だけが悪い」「これからも変わらない」と感じることがあります。選択肢が見えにくくなり、すべてを終わらせる方向へ結論を急ぎたくなる場合もあります。

その考えが本人の本来の価値観ではない、と決めつけることはできません。ただ、うつ状態が見通しや自己評価に影響している可能性はあります。つらさが強いときほど、退職や別離などの決断より、休息・治療・相談を先に置いてみてください。

期限がある場合は、「今すぐ最終決定する」以外の方法も探せます。たとえば休職、締切の延長、回答の保留、第三者を交えた話し合いなどです。

「決めないこと」の不利益にも注意します
一方で、決断を恐れるあまり、必要な時期に必要な決断ができなくなることもあります。特にうつ状態では、自信が持てない、失敗が怖い、考えること自体がつらいといった理由から、治療の相談、休職や復職の手続き、生活上の申請、支払いなどを先延ばしにしてしまう場合があります。

「今日は最終結論を出さない」と「必要な対応を何もしない」は同じではありません。決断を延ばした場合に困ること、回答期限、今だけでも必要な最小限の行動を確認し、一人で難しいときは主治医、家族、支援者、相談窓口などに手伝ってもらいましょう。

つらさが強い時は、最終決定より休息と相談を優先します。

4.決める前の「睡眠・時間・相談」

確認すること自分への問い具体的な工夫
睡眠十分に眠れているか。寝不足が続いていないか。まず睡眠を確保し、睡眠時間と気分を記録する。
時間数日後も同じ考えか。今日、急に強くなった考えではないか。期限を決めて保留し、後日メモを読み返す。
相談一人だけで決めていないか。異なる視点を聞いたか。主治医、家族、友人、支援者など信頼できる人に話す。

相談相手は、本人の代わりに決める人ではありません。気分の変化や見落としている選択肢を一緒に確認する人です。意見が一致しなくても、「なぜそう考えるのか」を材料として残すことが役立ちます。

睡眠・時間・相談を確認し、保留できることと今すぐ必要な行動を分けます。

5.そのまま使える「決断メモ」

決断メモ

  • 決めようとしていること:
  • 今すぐ決めたい理由:
  • 決めた場合の利点:
  • 起こりうる不利益・戻しにくい点:
  • 決めない/延期する場合の利点と不利益:
  • ほかに選べる方法:
  • 最近の睡眠時間と気分の変化:
  • 数日後に読み返す日:
  • 相談する人:
  • 安全や締切のため、今すぐ必要な行動:

メモは、正解を出す試験ではありません。「今の自分が、何を大切にしているか」を後から確かめるための記録です。普段から「大きな決断をするときの自分のルール」を、主治医や家族と共有しておく方法もあります。

6.保留しないほうがよいこと

「大きな決断を保留する」と「危険を放置する」は別です。次の場合は、決断の検討よりも安全確保と相談を優先します。

  • 死にたい気持ちが強い、自分や他人を傷つけるおそれがある
  • ほとんど眠れない状態が続き、活動や興奮が強まっている
  • 浪費、契約、運転、対人トラブルなど、差し迫った危険がある
  • 暴力や虐待などから離れ、安全な場所へ移る必要がある
  • 解雇、退学、契約などの回答期限が迫っている

まず主治医や医療機関、身近な支援者、地域の相談窓口へ連絡してください。生命の危険が差し迫っている場合は、ためらわず119番へ。犯罪や暴力による緊急の危険は110番へ連絡します。期限がある手続きは、一人で結論を出さず、支援者や専門窓口と「期限を守るための最小限の対応」を考えます。

7.自己決定を守るための「保留」

双極症があるからといって、本人の決定がすべて病気によるものになるわけではありません。また、家族や医療者が本人の希望を一律に退けてよいわけでもありません。

大切なのは、本人が理解できる情報を得て、選択肢を比べ、必要な支援を受けながら決められることです。これは意思決定支援、つまり「本人が自分で決めるための支援」という考え方です。保留は自己決定を奪うためではなく、むしろ自己決定を守るために使います。

まとめ

  • 大きな決断は、気分の波が強いときほど急がないことが大切です。
  • 上がっているときは判断が速くなり、落ちているときは未来を狭く見やすくなることがあります。
  • 「睡眠・時間・相談」を確認し、決断メモに残します。
  • 保留は逃げではありません。生活と未来、そして自分らしい選択を守る工夫です。
  • 安全上の危険や期限があるときは、早めに医療・支援につながります。
保留は逃げではなく、自分の生活と未来を守る工夫です。

次回予告
第20回は「うつ状態での過ごし方」です。つらい時期に何を優先し、どのように一日を組み立てればよいかを考えます。

動画・解説コラム・ゼミや活動から、自分に合う学び方を選べます。

参考文献・参考資料

  1. 日本うつ病学会『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極症2023』。
  2. 日本うつ病学会 双極症委員会『双極症とつきあうために Ver.11』2024年。
  3. NICE. Bipolar disorder: assessment and management (CG185).(躁・軽躁から回復するまで重要な決断を避けるよう助言することを含む)
  4. NPO法人ネット心理教育ピアサポート『ゼミ参加者向けマニュアル 病気について(F1)』。
  5. NPO法人ネット心理教育ピアサポート『ゼミ参加者向けマニュアル 当事者ができること(F3)』。

※本コラムは心理教育を目的とした一般情報です。診断・治療方針は、個別の状況を把握している主治医とご相談ください。内容は公開後も確認し、必要に応じて更新する「Living Library(育ち続ける図書館)」の方針で作成しています。

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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