第7回 双極症の躁とうつの兆しに気づくーー気分だけでなく「行動の変化」も見る

双極症の動画図書館|第7回 解説コラム

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 木野内南(布団ちゃん)

双極症では、気分の波が大きくなる前に、睡眠・活動・連絡・判断・お金の使い方など、 日常の行動に変化があらわれることがあります。 第7回では、躁や軽躁、うつの兆しを「いつもの自分との違い」として見る方法を学びます。

大切なのは、自分で診断することではありません。 気づいた変化を責める材料にするのではなく、主治医に伝えるための材料にすることです。

目次

診断は医療機関で

この記事は、双極症について学ぶための一般的な心理教育情報です。 診断や治療方針の決定は、主治医や医療機関で行われます。 自己判断で薬を変更・中止しないでください。

強い不眠、著しい気分の高まりや落ち込み、自傷他害のおそれ、 生活に大きな支障が出ている場合は、早めに主治医、医療機関、 地域の相談窓口に相談してください。

この記事でわかること

  • 躁・軽躁とうつの兆しを「行動の方向」で見る考え方
  • うつの兆しとして見えやすい「減る・遅れる・避ける」
  • 躁・軽躁の兆しとして見えやすい「増える・速くなる・広がりすぎる」
  • 気づいた変化を主治医に伝えるための短いメモの作り方

動画はこちら

第7回「躁とうつの兆しに気づく」をYouTubeで見る

いきなり結論:兆しは「行動の方向」に出ることがある

躁とうつの兆しは、気分だけでなく、行動の方向として見えることがあります。 うつの兆しは、減る・遅れる・避けるという方向に出ることがあります。 躁や軽躁の兆しは、増える・速くなる・広がりすぎるという方向に出ることがあります。

状態の方向行動の変化
うつの兆し減る・遅れる・避ける外出が減る、返信が遅れる、人に会う予定を避ける
躁・軽躁の兆し増える・速くなる・広がりすぎる予定が増える、決断が速くなる、人間関係や仕事が広がりすぎる

ここで見るのは、「これは躁だ」「これはうつだ」と自分で決めつけることではありません。 いつもの自分と比べて、どちらの方向に変わっているかを見ます。

見るのは「いつもの自分との違い」

気分の波に気づくとき、変化の大きさだけを見ると、かえって分かりにくいことがあります。 たとえば、同じ「外出が少ない」でも、もともと外出が少ない人と、普段は外出が多い人では意味が違います。 そのため、比べる相手は他人ではなく、普段の自分です。

見るポイントは、睡眠、活動、連絡、判断、お金の使い方などです。 周囲の人が先に変化に気づくこともあります。 そのときも、本人を責めるより、事実を短く記録して、相談につなげることが大切です。

  • 決めつけない
  • 責めない
  • 相談につなげる

うつの兆し:減る・遅れる・避ける

うつの兆しは、気分より先に、毎日の行動に出ることがあります。 キーワードは、減る・遅れる・避けるです。

キーワード見えやすい変化具体例
減る外出・会話・家事・仕事・趣味が少なくなるいつもより外に出ない、好きだったことに手が伸びない
遅れる起床・返信・支払い・決断が遅くなる返信できない、支払いを後回しにする、決められない
避ける人・予定・相談・受診準備を避けたくなる約束をキャンセルしたくなる、相談する準備ができない

これは怠けや甘えではありません。 「いつもの自分よりどう変わったか」を見るためのサインです。

躁・軽躁の兆し:増える・速くなる・広がりすぎる

躁や軽躁の兆しは、本人には「元気なだけ」「調子がいいだけ」と感じられることがあります。 そのため、周囲から見ると変化が分かりやすくても、本人は気づきにくいことがあります。

キーワードは、増える・速くなる・広がりすぎるです。

キーワード見えやすい変化具体例
増える予定・連絡・SNS投稿・買い物が増える予定を次々入れる、投稿やDMが増える、買い物が増える
速くなる話し方・考え・決断が速くなる話が止まらない、考えが次々浮かぶ、即決が増える
広がりすぎる仕事・人間関係・契約などが大きく広がりすぎる新しい企画を一気に始める、人間関係を急に広げる

特に、睡眠が短いのに平気と感じるときは、早めに主治医へ相談する手がかりになります。

気づくための4つの観察ポイント

変化に気づくために、細かく分析しすぎる必要はありません。 まずは、生活の中で見えやすい4つのポイントを短く確認します。

観察ポイントうつの方向躁・軽躁の方向
睡眠寝ても疲れる、起きられない寝なくても平気、睡眠時間が短くなる
活動動けない、予定を減らす予定を入れすぎる、活動量が増える
連絡返信できない、連絡を避ける連絡が増えすぎる、SNS投稿が増える
判断決められない、先延ばしになる急ぎすぎる、即断即決が増える

大切なのは、「普段と比べて、どちらの方向に変わっているか」です。

気づいたら、短くメモして主治医に伝える

変化に気づいたら、完璧な記録を作ろうとしなくて大丈夫です。 「睡眠が短いのに平気」「返信できない」など、事実を短く書くだけでも役立ちます。

日付と、いつもの自分との違いを一言で残すと、診察で伝えやすくなります。

メモ例

  • 6/10 睡眠3時間でも平気。予定を3つ追加した。
  • 6/12 返信できず、外出もできなかった。

主治医に伝えるメモのテンプレート

日付睡眠行動の変化困っていること相談したいこと
例:6/103時間でも平気予定を3つ追加した止めどころが分からない軽躁の兆しか相談したい
例:6/12長く寝ても疲れる返信できない、外出できない仕事や生活が滞っているうつの悪化か相談したい

薬の変更や中止は、必ず主治医と相談してください。

ご家族・周囲の方へ

双極症の兆しは、本人よりも周囲が先に気づくことがあります。 ただし、「躁になっている」「うつになっている」と決めつけると、本人が責められたように感じることがあります。

伝えるときは、評価ではなく事実に近い言い方が役立ちます。

避けたい言い方伝えやすい言い方
また躁になっているんじゃない?最近、睡眠が短いのに予定が増えているように見えるよ。
怠けているだけでは?最近、返信や外出がつらそうに見えるよ。受診で相談できそう?

本人を責めるためではなく、早めに相談につなげるために、落ち着いて事実を共有することが大切です。

まとめ

  • 躁とうつの兆しは、気分だけでなく行動の変化として見えることがあります。
  • うつの兆しは「減る・遅れる・避ける」という方向に出ることがあります。
  • 躁・軽躁の兆しは「増える・速くなる・広がりすぎる」という方向に出ることがあります。
  • 見るのは、他人との比較ではなく「いつもの自分との違い」です。
  • 気づいた変化は、責めるためではなく、主治医に伝える材料にします。

次回は、気づいた変化を主治医に伝える方法について見ていきます。

もっと学びたい方へ

双極症については、1本の動画だけですべてを理解するのは難しい部分があります。
この「双極症の動画図書館」では、当事者向けの心理教育を短い動画で少しずつ学べる形にしています。関連コラムや今後の動画も、ぜひあわせてご覧ください。

参考文献・参考資料

  1. 日本うつ病学会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.
  2. 日本うつ病学会 双極症委員会. 双極症とつきあうために Ver.11. 2024.
  3. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision: DSM-5-TR. American Psychiatric Association Publishing; 2022.
  4. Colom F, Vieta E. 双極性障害の心理教育マニュアル. 秋山剛, 尾崎紀夫 監訳. 医学書院; 2012.
  5. NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 双極症全般について(B1).

※本記事は心理教育を目的とした一般情報です。診断・治療方針は主治医と相談してください。

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この記事を書いた人

NPO法人。ネット心理教育では、双極性障害の知識や治療法の情報をYouTube動画とZoomのグループワークで広めています。心理教育とは、病気や治療に関する知識を身につけ『生きる力』にするための心理療法の一つです。

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