双極症の動画図書館:第20回 うつ状態での過ごし方――「がんばる」より、自分を守ることを優先する

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長

認定専門公認心理師

社会福祉士

国際双極症学会 評議員

木野内南(布団ちゃん)

薬剤師

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長

藤田剛(窓師)

双極症の動画図書館 第20回

双極症のうつ状態では、気分が沈むだけではありません。体が動かない、考えがまとまらない、決められない、好きなことを楽しめない、といった変化も起こります。

この時期に大切なのは、気合いで元に戻そうとすることではありません。負担を減らし、安全を確保し、治療を続けながら回復を待てる環境をつくることです。

最初に結論

  • うつ状態は、怠けや努力不足ではなく、病気の波です。
  • 予定と役割を「今日必要なこと」まで小さくします。
  • 睡眠・食事・水分・服薬・受診など、生活と治療の土台を優先します。
  • 重要な決断は急がず、回復してから扱います。
  • 死にたい気持ちや自傷の衝動がある時は、一人で抱えず相談します。
うつ状態では、無理を減らし、安全と回復を優先します。

このコラムについて

このコラムは、自分の状態を理解するための一般的な情報です。診断は医療機関で行います。薬を自己判断で増減・中止せず、症状や治療については主治医と相談してください。

診断や治療の判断は、主治医・医療機関へ相談してください。
目次

1.うつ状態は「怠け」ではありません

うつ状態では、意欲だけでなく、体力、集中力、判断力も落ちることがあります。「やりたいのに動けない」「簡単なことも決められない」という状態は、本人の努力不足だけでは説明できません。

そのため、「もっと気合いを入れなければ」と自分を責めるほど、つらさが強くなることがあります。まずは「今は病気の波の中にいるかもしれない」と捉えます。いつもと違う状態が続く時や悪化している時は、主治医に伝えましょう。

「できない自分」を責めるのではなく、状態の変化として見ます。

2.予定と役割を小さくする

普段と同じ量をこなそうとすると、心身の負担が増えることがあります。やることを「今日、どうしても必要なこと」に絞りましょう。

  • 先送りする:今日でなくてもよい連絡や家事は後日にする。
  • 頼む:家族、友人、同僚、支援者に一部をお願いする。
  • 形を変える:出席をオンラインにする、家事を簡単な方法にする。
  • 小さく数える:起きた、薬を飲んだ、水分を取った、連絡できた、を「できたこと」として扱う。

「休むこと」は、何もしなかったことではありません。回復のために負荷を下げた、という大切な行動です。

大きな決断は、できれば回復してから

退職・退学、別離、引っ越し、大きな契約など、生活への影響が長く続く決断は、うつ状態の自己評価や将来予測に影響される場合があります。可能であれば結論を保留し、主治医や信頼できる人と一緒に整理します。

ただし、保留によって安全、住まい、治療、期限のある手続きなどに大きな不利益が出る場合は、何もしないままにしません。「最終決定」と「今必要な最小限の対応」を分け、支援を借りて進めます。

今日必要なことに絞り、先送り・代替・支援を考えます。

3.生活と治療の基本を守る

すべてを完璧に整える必要はありません。まずは、回復を支える最低限の土台を守ります。

項目最低限の目安相談したい変化
服薬・受診自己判断で止めず、難しい時は相談する飲めない、通院できない、副作用がつらい
睡眠起床・就床の時刻を大きく崩しすぎない眠れない、昼夜逆転、長く寝てもつらい
食事・水分食べやすい物・飲みやすい物で補う食べられない、水分が取れない、急な体重変化
記録気分・睡眠・服薬を一言だけ残す悪化が続く、普段と明らかに違う

記録も負担になる時は、「気分0~10」「睡眠時間」「服薬できたか」のうち、一つだけでも十分です。

完璧さではなく、睡眠・食事・水分・服薬・受診の最低限を優先します。

4.危険なサインは、一人で抱えない

「死にたい」「消えたい」「自分を傷つけたい」という気持ちがある時は、一人で耐える必要はありません。主治医、医療機関、地域の相談窓口、身近な人のうち、つながりやすいところへ早めに連絡してください。

今すぐ安全確保を優先したい時

  • 具体的な方法や場所、時期を考えている
  • 実行するための準備をしている
  • 今すぐ自分を傷つけてしまいそう
  • 自分や他の人の安全を保てない

一人にならず、危険になり得る物から距離を取り、身近な人、主治医・医療機関、地域の救急へ連絡してください。差し迫った危険がある場合は、119番など緊急の支援を利用してください。

厚生労働省「まもろうよ こころ」では、電話やSNSなど、利用しやすい相談先を探せます。

具体的な方法を考えている時や準備をしている時は、緊急性があります。

5.今日を過ごすための「3段階」

  1. 安全と治療:危険を避け、服薬・受診・相談につなげる。
  2. 最低限の生活:水分、食事、睡眠、清潔などから必要なものを一つ。
  3. 余力があれば小さな行動:カーテンを開ける、着替える、短い連絡をする。

第3段階までできない日があっても、第1段階を守ることが最優先です。調子のよい日の基準で、うつ状態の自分を採点しないようにしましょう。

まとめ

うつ状態では、がんばる量を減らし、回復を待ちます。予定や役割を小さくし、生活と治療の土台を守ります。重要な決断は急がず、危険なサインがある時は一人で抱えず相談してください。

知識は、自分を責めるためではなく、自分を理解し、守るために使うものです。

うつ状態では、がんばる量を減らして回復を待ちます。

参考文献・参考資料

  1. 日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』
  2. 日本うつ病学会 双極症委員会『双極症とつきあうために Ver.11』2024年
  3. NPO法人ネット心理教育ピアサポート『ゼミ参加者向けマニュアル 病気について(F1)』
  4. NPO法人ネット心理教育ピアサポート『ゼミ参加者向けマニュアル 当事者ができること(F3)』
  5. 厚生労働省『まもろうよ こころ

次は、どこを学びますか?

「双極症の動画図書館」は、最初から順番に見なくても大丈夫です。今の自分に必要なテーマからご覧ください。短い動画で確認したい方は動画を、もう少し詳しく知りたい方はWeb解説コラムをご利用ください。

今の自分に必要なテーマから学べます。

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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