双極症の動画図書館[深掘り]躁状態で「困った結果につながりやすい活動」に熱中するとき

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長 薬剤師 藤田剛(窓師)

浪費・性的な行動・大きな事業計画を、本人の責任だけにしないために

双極症の躁状態や軽躁状態では、気分が高揚したり、活動性が高まったりするだけでなく、普段なら慎重に考える行動へ勢いよく取り組んでしまうことがあります。

問題なのは本人の性格ではありません。 病状によって危険性を小さく感じ、行動を止めにくくなることがあります。この記事では、よくみられる行動、気づくための視点、事前に作れる予防策を解説します。

DSM-5-TRでは、躁病エピソードの症状の一つとして、好ましくない結果につながる可能性が高い活動に熱中することが挙げられています。代表的な例は、制御しにくい買い物、慎重さを欠いた性的な行動、現実的な検討が不十分な事業への投資などです。

ただし、この記述は「本人が無責任である」「性格に問題がある」という意味ではありません。

躁状態では、睡眠時間が減っても元気に感じる、考えが次々に浮かぶ、自信が大きくなる、話す量や行動量が増えるといった変化が重なります。その結果、危険性よりも「今すぐ実行する価値」のほうが強く感じられることがあります。

この記事での表現について

DSM-5-TRの日本語訳には、「性的無分別」「ばかげた事業への投資」といった、当事者には否定的に聞こえうる表現があります。本記事では、人を評価するのではなく、行動の状態を説明するため、次のように言い換えます。

  • 普段より慎重さが弱まった性的・対人行動
  • 現実的な検討が十分でない事業や投資
  • 結果として生活上の問題につながりやすい行動

大切なのは、行動した人を責めることではなく、いつもの自分との違いと、行動が拡大していく過程に気づくことです。

目次

双極症の動画図書館について

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1.どのような状態を指すのでしょうか

単なる「衝動」とは限りません

躁状態でみられる行動は、その場の思いつきだけとは限りません。

  • 何日もほとんど眠らず、商品や投資先を探し続ける
  • 次々と新しい人へ連絡する
  • 複数の事業計画を同時に進める
  • 資金を集めるため、借入れや契約を重ねる

このように、むしろ非常に精力的で、目的に向かって熱心に行動しているように見えることがあります。

本人には、次のように感じられる場合があります。

「今しかチャンスがない」
「自分なら必ず成功できる」
「多くの人を助けられる」
「止めようとする人のほうが間違っている」

そのため、周囲が危険性を説明しても、本人には「邪魔をされている」「理解してもらえない」と感じられる場合があります。

一つの行動だけで双極症とは判断できません

買い物をしすぎたことや、大きな事業へ挑戦したことが一度あっただけで、躁状態や双極症と判断されるわけではありません。

躁病エピソードは、普段とは明らかに異なる気分の高揚や易怒性、エネルギー・活動性の増加が一定期間続き、睡眠欲求の減少、多弁、考えの加速、自尊心の高まりなど、複数の症状がまとまって現れる状態です。

診断で確認されること

診断は、一つの行動ではなく、症状の組み合わせ、持続期間、生活への影響、普段との違い、薬剤や身体疾患の影響などを総合して、医師が判断します。

2.困った結果につながりやすい行動の例

以下の事例は、理解を助けるために作成した架空の例です。特定の人を示すものではありません。

① 買い物・契約・投資など、金銭に関する行動

どのような変化が起こるのでしょうか

躁状態では、欲しい物や投資対象の価値を普段以上に高く評価しやすくなります。一方で、支払い能力、損失の可能性、解約条件、家族への影響、数か月後の生活費などへの注意が弱くなることがあります。

「ぜいたくをしたい」という理由だけではありません。

  • 仕事に必要だ
  • 将来への投資だ
  • 安いうちに買わなければならない
  • この投資で家族を楽にできる

このように、本人にとっては筋が通っている理由が伴うこともあります。

事例1:ネット通販が止まらなくなった

普段は月数千円程度しかネット通販を使わない人が、数日間で衣類、家電、健康器具、趣味の道具などを次々に購入しました。本人は「これから新しい生活を始めるために全部必要」と説明しています。しかし、開封していない商品が増え、利用限度額を超えたため、別のカードにも申し込み始めました。

事例2:急に高額な投資を始めた

投資経験がほとんどなかった人が、「相場の仕組みを完全に理解した」と感じ、預金の大部分を一つの商品へ投入しました。家族が止めると、「自分の才能を信じていない」と怒り、さらに借入れをして資金を増やそうとしました。

事例3:多数の契約を結んだ

副業を始めるためとして、高額な講座、事務所、通信機器、広告、コンサルティングなどを短期間に契約しました。それぞれには一応の目的があります。しかし、全体の支出額や、毎月の固定費がいくらになるかは把握できていませんでした。

② 普段より慎重さが弱まった性的・対人行動

どのような変化が起こるのでしょうか

躁状態や軽躁状態では、社交性や自信が高まり、人との距離が急速に近くなることがあります。また、性的な関心が強くなったり、「相手も自分に好意を持っている」と強く感じたりすることがあります。

問題となる可能性があるのは、性的な関心そのものではありません。次のような安全への注意が弱くなることです。

  • 相手の同意を十分に確認できているか
  • 性感染症や妊娠への対策が取られているか
  • 既存のパートナーとの関係に影響しないか
  • 個人情報や画像を安全に扱えているか
  • 相手から金銭的・性的に利用されていないか

事例1:短期間に複数の人と親密になった

普段は慎重に交際相手を選ぶ人が、数日間で複数の人と連絡先を交換し、その日のうちに会うようになりました。本人は「ようやく本当の自分を出せるようになった」と感じていますが、相手の素性や安全性を十分に確認していません。

事例2:SNSで個人的な画像を送った

SNSで知り合った相手から褒められ、自分の私的な写真や性的な画像を送りました。その後、画像を拡散すると脅され、金銭を要求されました。

事例3:急に重要な関係を変更した

知り合って間もない人を「運命の相手」と確信し、同居、結婚、離婚、転居などの大きな決断を急いで進めようとしました。周囲が「少し待とう」と提案すると、強く反発しました。

③ 事業・仕事・社会活動への過度な熱中

どのような変化が起こるのでしょうか

躁状態では、本人の能力や経験とかけ離れた計画を立てることがあります。ただし、すべての計画が完全に非現実的とは限りません。

もともとの専門知識、仕事上の実績、社会的なつながりがある人ほど、計画の一部には実現可能性があります。そのため、周囲も異変に気づきにくいことがあります。

計画の内容だけでなく、意思決定の過程を確認します

  • 睡眠を削って進めていないか
  • 同時に多数の計画を始めていないか
  • 資金、人員、期間を具体的に検討しているか
  • 批判や助言を受け入れられるか
  • 失敗した場合の備えがあるか
  • 家族や組織に無断で約束していないか

事例1:複数の事業を同時に始めた

突然、「会社を三つ立ち上げる」と宣言し、法人設立、事務所契約、採用活動、資金調達を同時に始めました。本人はほとんど眠らずに資料を作成していますが、収支計画や実務を担当する人は決まっていません。

事例2:組織を代表して大きな約束をした

所属する団体の承認を得ないまま、外部の人に対して、大規模なイベント、共同研究、資金援助などを約束しました。本人は「団体のために動いている」と考えていますが、実行するための予算や人員がありません。

事例3:善意から活動を拡大しすぎた

困っている人を助けたいという気持ちから、昼夜を問わず相談を受け、寄付や物品を提供し、多数の企画を立ち上げました。活動そのものには社会的な価値があります。しかし、本人の睡眠や生活費が失われ、家族や他のスタッフも対応しきれなくなっています。

善意や使命感がある活動でも注意が必要です

「人を助けたい」「社会を変えたい」という思い自体を否定する必要はありません。ただし、病状によって速度や規模が大きくなると、本人と周囲の双方が疲弊することがあります。

④ そのほかに注意したい行動

  • スピードを出す、長時間運転するなどの危険な運転
  • 飲酒量の増加や、普段使わない薬物の使用
  • SNSへの大量投稿、攻撃的な発信、個人情報の公開
  • 突然の退職、離婚、転居などの大きな決断
  • 高額な贈り物や寄付
  • 知人や著名人への大量の連絡
  • 他人の仕事や生活への過度な介入
  • 自分には特別な能力や使命があるという確信に基づく行動

これらの行動が一つあるだけで、躁状態とは限りません。普段との違い、睡眠、行動の速度、複数の症状の重なり、生活への影響を一緒に見ることが大切です。

3.「結果」だけで判断しない

大きな買い物や事業が、たまたま成功することもあります。逆に、十分に検討して行った投資や事業が失敗することもあります。

そのため、「損をしたから躁状態だった」「成功したから躁状態ではなかった」と、結果だけで判断することはできません。

確認する視点具体的な問い
普段との差いつもの自分なら、同じ決断をしただろうか
睡眠睡眠時間が減っているのに、疲れを感じていないか
速度「今日中」「今すぐ」と、決断を急いでいないか
規模金額、人数、契約数が急速に大きくなっていないか
同時進行複数の計画を一度に始めていないか
修正可能性他人の意見を聞き、計画を変更できるか
秘密家族や支援者に隠して進めていないか
生活への影響生活費、仕事、人間関係、安全が損なわれていないか

4.事前に作っておきたい「行動を止める仕組み」

躁状態になってから、その場で冷静に判断するのは難しい場合があります。調子が安定している時期に、自分、家族、主治医、支援者などと相談しながら、あらかじめルールを決めておくことが役立ちます。

金銭についてのルール例

  • 一定額以上の買い物は24~72時間待つ
  • 高額な契約は、信頼できる人に一度見てもらう
  • クレジットカードの利用限度額を低めに設定する
  • キャッシング機能を停止する
  • 新しい借入れ、投資、保証人契約は一人で決めない
  • 調子が上がったときに使える金額をあらかじめ決める

仕事や活動についてのルール例

  • 新しい企画は、既存の企画を一つ終えてから始める
  • 組織を代表する約束は、一人で行わない
  • 睡眠が一定時間を下回ったら、新規契約を止める
  • 企画は口頭だけでなく、予算・人員・期間を書き出す
  • 夜間にはメール、契約、SNS投稿を送信しない
  • 下書きを翌朝にもう一度確認する

対人・性的な行動についてのルール例

  • 初対面の人とは、人目のある場所で会う
  • 個人的な画像や住所をすぐに送らない
  • 避妊や性感染症予防を省略しない
  • 同居、結婚、離婚、転居などは即決しない
  • 金銭を要求する相手には、その場で支払わない
  • 信頼できる人に、会う相手や場所を知らせる

「管理」ではなく、「未来の自分を守る仕組み」

これらは本人を管理するためのルールではありません。安定している現在の自分が、調子を崩した将来の自分を守るための仕組みです。

5.周囲の人は、どのように声をかければよいでしょうか

躁状態が疑われるとき、行動を全面的に否定したり、論理で説得し続けたりすると、対立が強くなる場合があります。

まずは評価ではなく、観察できる事実を伝えます。そして、すべてを一度に止めようとするのではなく、決断の速度を落とすことを最初の目標にします。

避けたい言い方伝え方の例
「おかしなことをしている」「この3日間、睡眠が3時間くらいになっているね」
「そんな事業は絶対に失敗する」「今週だけで三つの契約を進めていることが心配です」
「全部やめなさい」「今日は契約せず、主治医に相談するまで保留にできないかな」
「また躁になった」「以前、調子が上がったときと似た変化があるように見えます」

6.早めに医療機関へ相談したい目安

次のような変化がある場合は、予約日を待たず、主治医や医療機関への相談を検討してください。

  • 睡眠時間が大きく減り、それが数日続いている
  • 買い物、投資、契約、借入れが急速に増えている
  • 性的な行動や対人関係が普段と大きく変化した
  • 複数の事業や活動を同時に始めている
  • 家族や支援者の制止に強く怒る
  • 自分には特別な能力、地位、使命があると強く確信している
  • 現実にはない声が聞こえる、事実と異なる確信がある
  • 危険な運転、暴力、自傷などの危険がある
  • 本人や周囲の安全を保てない

薬を自己判断で増減・中止せず、主治医へ現在の睡眠、行動、金銭使用、服薬状況を具体的に伝えてください。

切迫した危険があるとき

本人や周囲の安全を保てない、事故・暴力・自傷の危険が切迫しているなどの場合は、通常の予約を待たず、地域の救急医療機関や公的な相談窓口へ連絡してください。

まとめ

問題なのは「人」ではなく、病状によって行動を止めにくくなることです。

躁状態でみられる「困った結果につながりやすい行動」は、単なる浪費癖や無責任さとして片づけられるものではありません。本人には、その行動が合理的で、価値があり、今すぐ必要なものに感じられることがあります。

  • 普段との違いに気づく
  • 睡眠と行動量を確認する
  • 大きな決断をいったん保留する
  • 安定している時期にルールを作る
  • 早めに主治医や支援者へ相談する

過去の行動を責め続けるだけでは、次の再発予防にはつながりません。

「何が起きていたのか」
「どの時点なら止められたのか」
「次回はどのような仕組みが使えるか」

を本人と周囲が一緒に振り返ることが、生活と尊厳を守るための一歩になります。

注意事項

本記事は、双極症に関する一般的な心理教育を目的としています。個別の診断や治療を行うものではありません。

買い物、性的行動、投資、起業などを行ったことだけで、躁状態や双極症と判断することはできません。気になる変化がある場合は、精神科・心療内科などの医療機関へご相談ください。

参考文献

  1. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision: DSM-5-TR. American Psychiatric Association Publishing; 2022.
  2. American Psychiatric Association. What Are Bipolar Disorders?
  3. World Health Organization. Bipolar disorder.
  4. National Institute for Health and Care Excellence. Bipolar disorder: assessment and management. NICE Guideline CG185.
  5. 厚生労働省.精神障害(精神疾患)の特性(代表例)
  6. 厚生労働省「こころの耳」.用語解説:双極性障害(躁うつ病)

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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