双極症の動画図書館:第10回自分の波を記録する意味――「正確さ」よりも、主治医と共有できる小さなメモ

第10回 自分の波を記録する意味|双極症の動画図書館
双極症の動画図書館|第10回 解説コラム

NPO法人ネット心理教育ピアサポート
理事長 薬剤師 藤田剛(窓師)
双極症では、気分や体調の変化が、数日から数週間、時にはもっと長い時間の中で動いていくことがあります。 そのため、診察の日の気分だけでは、波の全体像が見えにくいことがあります。
今回は、気分・睡眠・活動量・服薬・出来事を短く記録する意味を整理します。 記録は、完璧に自分を管理するためではありません。 自分の変化に気づき、主治医に伝えやすくするためのメモです。
診断は医療機関で
この記事は、双極症について学ぶための一般的な心理教育情報です。 診断や治療方針の決定は、主治医や医療機関で行われます。 自己判断で薬を変更・中止しないでください。
強い不眠、著しい気分の高まりや落ち込み、自傷他害のおそれ、生活に大きな支障が出ている場合は、 心理教育だけで対応しようとせず、早めに主治医・医療機関・地域の相談窓口に相談してください。 今すぐ安全が心配な場合は、救急受診や救急要請を含めて、安全を優先してください。

双極症の動画図書館について
NPO法人ネット心理教育ピアサポートでは、双極症の方に信頼できる情報をYoutube動画、Web解説コラムとして総合的に提供する目的で「双極症の動画図書館」の構築を進めています。詳細は以下のコラムをご覧ください。


この記事でわかること
- 双極症で「その時だけ」では波が見えにくい理由
- まず記録したい、気分・睡眠・活動量の見方
- 服薬や出来事を記録しておく意味
- 診察前に主治医へ伝えやすくする短い記録の作り方
今日の結論:記録で波を知る
双極症では、徐々に変化していく気分や体の変化をとらえることが重要です。 しかし、診察の時に今までの経過を思い出そうとしても、うまく思い出せないことがあります。
記録は、時間に沿った気分や体調の変化をとらえるのに役立ちます。 気分、睡眠、服薬、出来事を少し残すだけでも、波のパターンが見えやすくなります。 大切なのは、完璧な記録ではなく、続けられる記録です。

双極症は「その時だけ」では見えにくい病気です
双極症の波は、診察の日だけで判断しようとすると見えにくいことがあります。 その日に少し調子がよくても、前の週に強い不眠が続いていたかもしれません。 その日に落ち着いて話せても、数日前には予定を入れすぎていたかもしれません。
双極症では、気分の変化が数日、数週間、時にはもっと長い時間で動きます。 だからこそ、日々の小さな変化を少し残しておくことが、診察で役に立ちます。

| 診察の日だけで見た場合 | 記録がある場合 |
|---|---|
| 「今日は落ち着いているので大丈夫そう」に見える | この1〜2週間の睡眠・活動量・気分の変化を一緒に確認しやすい |
| つらかった時期を思い出しにくい | いつから、何が、どのくらい変わったかを伝えやすい |
| 本人も周囲も「気のせいかも」と流しやすい | 小さな変化が積み重なった時に気づきやすい |
まず見るのは、気分・睡眠・活動量です
記録を始める時は、たくさんの項目を並べなくても大丈夫です。 まずは、気分・睡眠・活動量を見ます。
気分の上下だけでなく、寝る時間、起きる時間、睡眠時間も大切です。 睡眠は、双極症の波を考えるうえで重要な手がかりになります。 また、予定が増えた、動けなくなった、連絡が増えたなど、活動量の変化も見ていきます。

| 記録する項目 | 見るポイント | 短い書き方の例 |
|---|---|---|
| 気分 | 普段より上がっているか、下がっているか | 気分−2/いつもより焦る/少し高め |
| 睡眠 | 睡眠時間、就寝・起床のずれ、寝ても疲れるか | 3時間でも平気/10時間寝ても疲れる |
| 活動量 | 予定・外出・連絡・家事や仕事が増えたか減ったか | 予定を3つ追加/返信できない/外出なし |
目的は、細かく自分を採点することではありません。 いつもの自分との違いを見つけることです。
服薬と出来事も、波を読む手がかりになります
飲み忘れ、薬の変更、副作用で困ったことは、気分や睡眠に影響することがあります。 そのため、服薬に関する変化も、短く残しておくと相談しやすくなります。
仕事、家族、対人関係、イベントなどの出来事も、あとから振り返る時に役立ちます。 これは「原因探し」をするためではありません。 相談の材料を増やすイメージです。

| 項目 | 記録例 | 主治医に伝えやすくなること |
|---|---|---|
| 服薬 | 飲み忘れ、変更、眠気、手の震え、胃腸症状など | 薬の効果・副作用・飲み方の相談 |
| 出来事 | 仕事の締切、家族の用事、人間関係のトラブル、旅行、イベント | 変化が重なった時期の整理 |
| 生活リズム | 夜更かし、徹夜、昼夜逆転、予定の詰め込み | 再発予防や生活調整の相談 |
「この時期に何が重なっていたか」が見えると、次の対策を考えやすくなります。
記録は短く、主治医に伝えやすい形で
記録は、毎日びっしり書く必要はありません。 丸印、数字、ひと言メモでも十分です。 診察前に「変わったこと3つ」を選ぶだけでも、話しやすくなります。

診察前に選ぶ「変わったこと3つ」
- 睡眠がいつもと違ったこと
- 活動量や連絡の量が変わったこと
- 服薬・副作用・出来事で気になったこと
メモの例
| 日付 | 睡眠 | 気分・活動 | 服薬・出来事 | 相談したいこと |
|---|---|---|---|---|
| 6/10 | 3時間でも平気 | 予定を3つ追加。連絡が増えた | 飲み忘れなし。仕事の締切 | 軽躁の兆しか相談したい |
| 6/12 | 10時間寝ても疲れる | 返信できない。外出なし | 眠気が強い | うつの悪化か、副作用か相談したい |
紙でもアプリでもかまいません。 自分が続けやすい方法を選びましょう。
まとめ:記録は、あなたと主治医をつなぐメモです
- 気分、睡眠、服薬、出来事を記録すると、自分の波に気づきやすくなります。
- 大切なのは、正確さよりも続けやすさです。
- 記録を取らないとつかみにくい変化も、少し残しておくと見えやすくなります。
- 記録は、主治医が双極症の診療を進めるうえで、大切な材料になります。
次回は、「双極症と睡眠はなぜ関係が深い?」について見ていきます。

ご家族・周囲の方へ
記録は、本人を管理したり、責めたりするためのものではありません。 「最近どうだった?」と聞く時も、評価ではなく、事実を一緒に整理する姿勢が大切です。
| 避けたい言い方 | 伝えやすい言い方 |
|---|---|
| ちゃんと記録していないから悪い | 全部でなくていいから、睡眠だけ一緒に見てみようか |
| また波が出ているんじゃない? | 最近、寝る時間と予定の増え方がいつもと違うように見えるよ |
本人が続けやすい形を尊重しながら、必要な時に受診や相談につなげることが大切です。
もっと学びたい方へ
ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について当事者・家族向けに学べる動画や資料を公開しています。 気になるところから、無理のない範囲でご覧ください。
参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会. ガイドライン検討委員会:ガイドライン掲載ページ.
- 日本うつ病学会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.
- 日本うつ病学会 双極症委員会. 双極症関連資料・アプリ紹介.
- Royal College of Psychiatrists. 双極性障害(日本語版).
- Colom F, Vieta E. 双極性障害の心理教育マニュアル. 秋山剛, 尾崎紀夫 監訳. 医学書院; 2012.
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM).
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 双極症全般について(B1).
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 病気について(F1).
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 当事者ができること(F3).
※本記事は心理教育を目的とした一般情報です。診断・治療方針は主治医と相談してください。 薬の変更・中止は、必ず主治医と相談してください。
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