双極症の心理教育:NGワードを超えて「なぜ」を考える第1回 躁/軽躁状態の人への言葉かけを考える

「言ってはいけない言葉」を覚えるのではなく、お互いに見えている景色の違いを知る心理教育

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長

認定専門公認心理師

社会福祉士

国際双極症学会 評議員

木野内南(布団ちゃん)

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長

薬剤師

藤田剛(窓師)

うつの人に言ってはいけない言葉、躁の人に言ってはいけない言葉。ネットや巷にはそういった情報がたくさん溢れています。ではどうしてその言葉を言ってはいけないのでしょうか? このコラムのシリーズでは、この点について深く分析してゆきます。

双極症の方は、躁/軽躁状態、抑うつ状態、混合状態、寛解状態と気分の状態が変化します。気分の状態に応じて周囲がかける言葉も違ってきます。言葉がけとは単に一方通行の言葉の投げ付けではありません。言葉を発する側、言葉を受け止める側、この双方のコミュニケーションに齟齬が生じた時「言ってはいけない言葉」が生まれるのではないでしょうか? そんな視点からこのシリーズを読んでいただければ幸いです。

今回は、躁/軽躁状態の人への言葉がけを考えます。

NGワードを超えて、「なぜ」を学ぶ――躁・軽躁状態の人への言葉かけを考える

うつの人に「頑張れ」は言ってはいけない。

そんな話を聞いたことがある方は多いでしょう。

でも、少し考えてみてください。

なぜ、その言葉は良くないのでしょうか。
そして、本当にどんな場面でも言ってはいけないのでしょうか。

実は、答えはそれほど単純ではありません。

同じ言葉でも、抑うつ状態では重荷になり、寛解状態では励ましになり、躁・軽躁状態では活動をさらに加速させる「アクセル」になることがあります。また、信頼関係のある家族からの一言と、職場の同僚や初対面の人からの一言でも、受け止め方は変わります。

大切なのは、禁句を字面だけで覚えることではありません。言葉はいくらでもあり、すべてを暗記することはできません。

重要なのは「なぜ」です。

なぜ、その言葉をかけたくなったのか。
なぜ、善意の言葉が相手には違う意味で聞こえたのか。
なぜ、今は負担になる言葉が、別の時には支えになるのか。

理由を理解できれば、決まり文句に頼らず、その場に応じて自分の言葉を選べます。思いがうまく伝わらなかったときにも、どう言い直し、どう関係を修復すればよいかが見えてきます。

このシリーズは、誰かを「正しい側」と「間違った側」に分けるためのものではありません。周囲の人にも当事者にも、それぞれの事情と、それぞれに見えている景色があります。

言葉を学ぶのではなく、相手の見えている景色を学ぶ。

第1回では、躁・軽躁状態を取り上げます。いくつかの場面を通して、「あなたなら何と言うか」を一緒に考えてみましょう。

躁・軽躁状態では、どのようなことが起こるのでしょうか

躁・軽躁状態では、気分が高揚したり、活動性や自信が高まったり、話す量や考えが増えたり、睡眠が少なくても平気だと感じたりすることがあります。楽しい気分だけでなく、いら立ちや怒りっぽさが目立つ場合もあります。

軽躁状態は躁状態より程度が軽いとされますが、本人には「調子が良い」「ようやく本来の自分に戻った」と感じられることがあります。本人が困っていない一方で、家族など周囲の人が「いつもと違う」と先に気づくこともあります。

ただし、明るい、活動的、よく話すというだけで躁・軽躁状態と決めつけることはできません。普段との違い、変化の程度、持続期間、生活への影響などを含め、医療者が総合的に判断します。

当事者から見えている景色

  • 久しぶりに頭がよく働いている。
  • ようやく自分らしさを取り戻した。
  • 今なら多くのことができそうだ。
  • 自分でも少し上がっている気はするが、まだ大丈夫だと思う。
  • 周囲はなぜ自分を止めるのだろう。
  • 自分の考えや感情を、すべて病気のせいにされたくない。

周囲の人から見えている景色

  • 寝込んでいた頃より元気になって安心した。
  • 本人が楽しそうなので応援したい。
  • 以前と似た変化があり、再発ではないか心配だ。
  • 早く気づかせてあげれば、悪化を防げるかもしれない。
  • 遠回しに言っても通じないので、はっきり言うしかない。
  • 止めると怒られそうで、どう話せばよいか分からない。

この二つの景色は、どちらも本人たちにとって現実です。だからこそ、善意や事実だけでは言葉がうまく届かないことがあります。

ケースから考える言葉のすれ違い

ケース1 「躁なんじゃない?」と言われた

本人は最近、睡眠時間が短くなり、話す量や予定が増えています。自分でも「少し上がっているかもしれない」と感じています。

家族も同じ変化に気づきました。悪化する前に知らせたほうがよいと考え、こう言いました。

「あなた、躁なんじゃない?」
本人も家族も「躁かもしれない」と思っています。それなのに、なぜ関係が悪くなるのでしょうか?
周囲の気持ち
本人が気づいていないと困る。早く伝えれば、受診や休養につながるかもしれない。回りくどく言わず、事実をはっきり教えてあげたい。
当事者の気持ち
自分でも可能性は考えている。しかし、相手から断定されると、「今の考えも感情も全部、病気として片づけられた」「もう対等な相手として話を聞いてもらえない」と感じることがある。
どちらも「躁かもしれない」と思っているのに、なぜすれ違うのでしょうか

問題は、躁かどうかについて意見が一致しているかどうかだけではありません。

「躁なんじゃない?」という言葉は、質問の形をしていますが、声の調子や場面によっては、本人には診断、反論の封じ込め、人格への評価として聞こえることがあります。

また、本人にとって「躁かもしれない」と自分で考えることと、他者から「あなたは躁だ」と位置づけられることは同じではありません。後者では、自分の言葉の信用を失い、主導権を奪われるように感じる場合があります。

周囲は症状について話しているつもりでも、本人は「自分という人間を病気だけで見られた」と受け取る。このずれが、怒りや拒絶につながります。

「正しいことを言ったのに伝わらない」のではありません

「躁の可能性がある」という見立てが妥当でも、それを伝える目的、タイミング、関係性、言い方によって、会話の結果は変わります。

目的は、相手に「躁だと認めさせること」ではなく、変化を一緒に確認し、必要なら安全確保や医療相談につなげることです。

別の伝え方の例
「自分でも少し上がっている感じはある?」
「ここ3日、睡眠が4時間くらいで、予定も急に増えているように見える。自分ではどう感じている?」
「躁だと決めつけたいのではないけれど、以前の調子を崩す前と似ていて心配している。主治医に相談する目安を一緒に確認しない?」

「躁」という結論から入るのではなく、観察できる具体的な変化を共有します。そして、本人の自己評価を尋ねます。「私はこう見えて心配している」という自分側の気持ちとして伝えることも大切です。

関係が悪くなってしまったときのフォロー
「躁だと決めつけて、あなたの話を聞かないつもりではなかった。悪化してつらくなるのが心配で、言い方が強くなってしまった。今どう感じているか、改めて聞かせてほしい」と伝え直します。

ケース2 「元気になってよかった。その調子!」

しばらく抑うつ状態で休んでいた人が、急に明るくなりました。新しい計画を次々と楽しそうに語っています。

久しぶりの笑顔を見て、どんな言葉をかけたくなりますか?
「元気になってよかった! その調子だね」
周囲の気持ち
つらかった時期を知っているから、回復を心から喜びたい。水を差したくない。
当事者には、こう聞こえることがあります
「今の状態は問題ない」「もっと活動してよい」「周囲もこの勢いを肯定している」。
なぜ、すれ違うのでしょうか
周囲は明るさを喜んでいます。しかし、回復なのか躁・軽躁状態への移行なのかは、見た目だけでは分かりません。「その調子」が活動を増やす後押しになる場合があります。
別の伝え方の例
「明るい顔を見られてうれしいよ。最近の睡眠や予定の入り方はどう?」
「元気そうに見えるけれど、自分では今の調子をどう感じている?」
フォロー
「元気なことを否定したいわけではないよ。以前との変化が大きく見えて、体調も少し心配になった」と、喜びと心配の両方を伝えます。

ケース3 睡眠を削って活動している

本人は夜遅くまで作業を続け、数時間しか眠っていません。それでも「全然眠くない。今が一番はかどる」と話しています。

努力している姿を見て、何と言いたくなるでしょうか?
「すごく頑張っているね」
「寝なくても平気なら、今のうちに進めよう」
周囲の気持ち
努力を認めたい。本人が平気だと言うなら信じたい。
当事者には、こう聞こえることがあります
「睡眠を減らしても問題ない」「この勢いは能力の表れだ」。
なぜ、すれ違うのでしょうか
睡眠欲求の低下は躁・軽躁状態でみられることがあります。努力を認めることと、睡眠不足を肯定することは別です。
別の伝え方の例
「集中できているんだね。ただ、ここ数日の睡眠時間は確認しておきたい」
「今日は終える時間を決めない?」
フォロー
「頑張りを止めたいのではなく、長く続けられるように睡眠を守りたい」と目的を具体的に伝えます。

ケース4 大きな計画や買い物を始めようとしている

本人が急に、新しい事業や高額な買い物の話を始めました。自信に満ち、すぐ決断しようとしています。

夢を応援したい気持ちと、止めたい気持ち。どう伝えますか?
「最高のアイデアだね。全部やろう!」
「また病気が始まった。絶対にダメ」
周囲の気持ち
応援して喜ばせたい。一方で、以前の失敗を思い出し、今すぐ止めなければと焦る。
当事者には、こう聞こえることがあります
前者は「間違いなく成功する」。後者は「内容を聞く前から、考えを病気として否定された」。
なぜ、すれ違うのでしょうか
無条件に後押しすると決断を加速させる可能性があります。しかし、内容を聞かずに病気と決めつけると、本人は尊厳や自己決定を奪われたと感じます。必要なのは、人格や夢を否定せず、決断の速度を落とすことです。
別の伝え方の例
「面白い考えだね。大事な決断だから、今日は契約せず、明日もう一度整理しよう」
「金額、期限、困った場合の対応を書き出してみない?」
フォロー
「あなたの考えを病気だけで判断したくない。ただ、決断がいつもより速く見えるので、一度保留する方法を相談したい」と説明します。

ケース5 治療や服薬をやめたいと言われた

本人が「こんなに元気なのだから、もう病気ではない。薬も通院も必要ない」と話しました。

対立せずに、治療についてどう話し合いますか?
「元気なら、もう薬はいらないんじゃない?」
「黙って薬を飲みなさい」
周囲の気持ち
薬の負担を減らしたい。または、治療中断が怖く、何としても従わせたい。
当事者には、こう聞こえることがあります
前者は「自己判断でやめてもよい」。後者は「副作用や不安を聞くつもりがない」。
なぜ、すれ違うのでしょうか
調子が良いことと治療が不要であることは同じではありません。一方、服薬や治療への疑問には本人なりの理由があります。結論だけを押しつけると、相談せずに中断するなど、話しにくい関係になることがあります。
別の伝え方の例
「やめたいと思った理由を、まず聞かせてほしい」
「自己判断で変える前に、その気持ちや副作用を主治医に伝える準備を一緒にしよう」
フォロー
「あなたを管理したいのではなく、急に変えて困ることがないようにしたい。治療の決め方を一緒に相談したい」と伝えます。

言葉がすれ違うときに起きていること

周囲がしようとしていること当事者に伝わることがある意味
状態に気づかせる病気だと決めつけられた
悪化を防ぐ行動や考えを支配される
元気を喜ぶもっと活動してよいと認められた
危険な決断を止める話の内容を聞かずに否定された
治療を続けてもらう疑問や副作用を聞いてもらえない

この表の左右は、どちらか一方が嘘なのではありません。同じ会話の中に、二つの意味が同時に存在しています。

「NGワードを超える」ための5つの視点

  1. 診断名ではなく、観察できる変化から話す。
    「躁だ」ではなく、「睡眠が3日続けて4時間ほどになっている」と伝えます。
  2. 本人の見方を先に尋ねる。
    「自分では今の調子をどう感じている?」と確認します。
  3. 評価ではなく、自分の心配として伝える。
    「あなたがおかしい」ではなく、「私は以前と似た変化に見えて心配している」と話します。
  4. 曖昧な制止より、具体的な提案をする。
    「無理しないで」だけでなく、「契約は明日まで保留しよう」「今日は23時に作業を終えよう」と提案します。
  5. 伝わらなければ、言い直してよい。
    一度の会話で正しく伝えることより、誤解に気づいた後に関係を修復することが大切です。

相手との距離によって、言葉の意味は変わります

長年、本人と一緒に早期兆候を確認してきた家族が「少し上がってきた?」と尋ねる場合と、病気についてほとんど知らない同僚が「また躁なんじゃない?」と言う場合では、同じような言葉でも意味が異なります。

信頼関係があれば何を言ってもよいわけではありません。しかし、過去に本人と相談して決めた合図や、本人が望んでいる伝え方があれば、率直な言葉が役立つこともあります。

状態が安定している時に、伝え方を相談しておく

「調子が上がっているように見えた時、誰から、どのように伝えてほしいか」

「睡眠、話し方、買い物など、どの変化を具体的に教えてほしいか」

「受診を勧める目安や、本人が判断しにくい時の対応」

こうした点を事前に共有しておくと、急な場面で「躁だ」「躁じゃない」という対立だけになることを減らせます。

よく考えると、双極症の人だけに失礼な言葉ではありません

「話を聞く前に決めつける」「感情をすべて属性のせいにする」「本人の意思を無視して従わせる」といった態度は、双極症の人だけでなく、誰に対しても関係を傷つけます。

双極症では、症状と本人の考えを区別しにくい場面があるため、この問題がよりはっきり表れます。しかし、本質は特別な人への特別な作法ではありません。

相手の話を聞き、観察した事実と自分の心配を分け、対等な相手として一緒に考える。

これは、病気の有無にかかわらず大切なコミュニケーションです。

言葉よりも安全を優先する場面もあります

著しい睡眠不足、制御しにくい興奮や攻撃性、多額の浪費、危険運転、現実とかけ離れた確信、本人や周囲の安全が脅かされる行動などがある場合は、言葉選びだけで解決しようとせず、主治医や医療機関へ早めに相談してください。

差し迫った危険がある場合は、安全な距離を取り、地域の救急・警察など緊急の支援を利用することも必要です。周囲の人だけで抱え込まないでください。

まとめ――「躁と言わない」ことが答えではありません

今回覚えてほしいのは、「躁なんじゃない?」は禁句だから言わないというルールではありません。

大切なのは、その言葉で何を伝え、何につなげたいのかを考えることです。

  • 周囲は、心配だから伝えたい。
  • 当事者は、自分の言葉まで病気として扱われたくない。
  • 双方が躁の可能性を感じていても、尊厳や主導権をめぐってすれ違うことがある。
  • 診断名をぶつけるより、具体的な変化を共有し、本人の見方を尋ねる。
  • 伝わらなかった時は、目的と気持ちを説明し直してよい。

心理教育とは、正しい言葉を暗記することではありません。「なぜ」を理解し、その場で考え、話し直せるようになることです。

次回は、抑うつ状態での言葉かけを考えます。「頑張れ」がなぜ苦しく聞こえることがあるのか。そして、どのような「頑張れ」なら支えになることもあるのかを、当事者と周囲の両方の景色から考えていきます。

参考資料

  1. 日本うつ病学会 気分障害の治療ガイドライン検討委員会 双極性障害委員会.『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』.
    https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2023.pdf
  2. Yatham LN, et al. Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments(CANMAT)and International Society for Bipolar Disorders(ISBD)2018 guidelines for the management of patients with bipolar disorder. Bipolar Disorders. 2018;20:97-170.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5947163/
  3. National Institute for Health and Care Excellence. Bipolar disorder: assessment and management(CG185).
    https://www.nice.org.uk/guidance/cg185

※本稿は一般的な心理教育を目的としています。個別の診断や治療方針については、主治医などの医療専門職にご相談ください。また、当事者の感じ方や望む関わり方には個人差があります。

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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