双極症の動画図書館:第14回寝る時間・起きる時間を整える――睡眠時間だけでなく、時刻の安定も大切です

予定を入れすぎない工夫
――「余白」は生活を守るための安全スペース

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 公認心理師

木野内南(布団ちゃん)

NPO法人ネット心理教育ピアサポート

理事長 薬剤師 藤田剛(窓師)

双極症の動画図書館|第14回 解説コラム

双極症では、調子が上がっている時ほど「これもできそう」「今なら動けそう」と感じて、予定を増やしすぎることがあります。 その一方で、予定が詰まりすぎると睡眠や疲労が乱れ、気分の波を大きくするきっかけになることもあります。

第14回では、予定を減らすことを「怠け」ではなく、体調を守るための現実的な工夫として整理します。 大切なのは、予定をゼロにすることではありません。睡眠、疲労、予定量を一緒に見ながら、自分の生活に戻れる余白を作ることです。

目次

診断は医療機関で

この記事は、双極症について学ぶための一般的な心理教育情報です。診断や治療方針の決定は、主治医や医療機関で行われます。 自己判断で薬を変更・中止しないでください。

強い不眠、著しい気分の高まりや落ち込み、自傷他害のおそれ、生活に大きな支障が出ている場合は、心理教育だけで抱えず、早めに主治医、医療機関、地域の相談窓口に相談してください。

双極症の動画図書館について

NPO法人ネット心理教育ピアサポートでは、双極症の方に信頼できる情報をYoutube動画、Web解説コラムとして総合的に提供する目的で「双極症の動画図書館」の構築を進めています。詳細は以下のコラムをご覧ください。

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この記事でわかること

  • 予定の入れすぎが、軽躁や疲労のサインになることがある理由
  • 「予定の数」だけでなく、準備・移動・回復時間まで見る考え方
  • 優先順位をつけて、予定を断る・延期する・短くする工夫
  • 周囲や主治医と共有しておきたい「止める合図」

動画はこちら

第14回「予定を入れすぎない工夫」をYouTubeで見る

いきなり結論:予定の入れすぎは、軽躁や疲労のサインになることがあります

調子が上がっている時ほど、予定を増やしすぎることがあります。 「やりたいことが増える」「人と会いたくなる」「連絡や企画が増える」こと自体がすべて悪いわけではありません。 ただし、いつもの自分より予定が急に増えている時は、軽躁に近いサインや、あとから疲労を強める要因になることがあります。

予定を減らすことは、怠けではありません。再発予防、つまり気分の波が大きくなりすぎる前に生活を守る工夫です。 双極症の治療では、薬物療法だけでなく、睡眠や生活リズム、早期サインへの気づきも大切にされています。詳しくは、 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023や、一般向け資料 「双極症とつきあうために Ver.11」も参考になります。

第14回の合言葉

「余白を作る」「重要な予定から優先順位をつける」「調子がよい時ほど睡眠と疲労を見る」

“できそう”が続く時ほど注意します

軽躁に近い時は、頭が回る、動ける、予定を入れられる、という感覚が出ることがあります。 本人にとっては「調子がよい」「今ならできる」という良い変化に見えやすいため、止まりにくくなります。

そこで大切なのは、「やる気があるか」ではなく、「いつもの自分より詰め込みすぎていないか」を見ることです。 特に、睡眠時間が短くなっているのに平気、予定を増やしても疲れを感じにくい、周囲から“少し飛ばしすぎでは”と言われる、という時は立ち止まる合図になります。

見直したいサイン具体例考えたい対応
予定が急に増える会議、外出、約束、企画を一気に入れる今週必須の予定だけに絞る
睡眠が短くなる寝る時間が遅い、睡眠が短くても平気予定より先に睡眠を確認する
決断が速くなる契約、買い物、転職、引っ越しなどを急ぐ大きな決断は一度保留し相談する

予定の数だけでなく、回復時間も見ます

予定が多いかどうかは、数だけでは決まりません。 予定そのものは1つでも、移動、準備、人と会う負荷、終わった後の疲れが大きい場合があります。 逆に、同じ予定でも、場所や時間帯、相手、準備の量によって負荷は変わります。

予定表を見る時は、「予定の開始時刻」だけでなく、前後の余白も見てみましょう。 移動の前に準備時間があるか。終わった後に休む時間があるか。翌日に疲れが残りそうか。 このように見ると、予定量を現実に近い形で判断しやすくなります。

予定を見る時の項目チェックすること
準備資料作成、服薬、身支度、連絡などに時間が必要か
移動移動時間、混雑、乗り換え、天候の負荷があるか
対人負荷初対面、長時間、緊張する相手との予定か
回復時間終わった後に休む時間を確保できるか
翌日への影響翌日の睡眠・仕事・家事に影響しそうか

優先順位を決めて、予定を整理しましょう

全部を大事にしようとすると、負荷が大きくなります。 「やる・やらない」だけで考えると苦しくなるので、まずは予定を3つに分けてみます。

分類考え方
今週どうしても必要医療、生活、仕事上の締切など、延期しにくい予定受診、重要な手続き、締切のある仕事
後に回せる今週でなくても困りにくい予定急ぎではない打ち合わせ、買い物、資料整理
短くできる・断れる参加時間や回数を減らせる予定長時間の会合を短時間にする、別日にする

断る、延期する、短くすることも、体調を守る選択です。 「迷惑をかけるから全部やる」ではなく、「倒れないために調整する」と考えると、少し選びやすくなります。

周囲と“止める合図”を共有しておきます

予定の入れすぎは、自分では気づきにくいことがあります。 特に軽躁に近い時は、本人には「良い調子」に見えやすいため、周囲の気づきが助けになる場合があります。

信頼できる人に、「予定が増えすぎているように見えたら教えてほしい」と、あらかじめ伝えておく方法もあります。 ただし、伝え方が強すぎると責められたように感じることがあります。 事前に、どんな言葉なら受け取りやすいかを決めておくと安心です。

共有しておくこと
止める合図「少し予定が増えているように見えるよ」
確認する項目睡眠時間、予定数、疲労感、連絡量
相談先主治医、家族、支援者、信頼できる友人
避けたい言い方「また躁になっている」「やめなさい」と決めつける言い方

主治医にも、予定量や睡眠の変化を伝えると相談しやすくなります。 生活リズムの安定を重視する考え方は、双極症の心理教育や対人関係・社会リズム療法(IPSRT)でも大切にされています。 IPSRTについては、Ellen Frankらによる研究でも、双極症における生活リズムの安定に着目した心理療法として報告されています(Frank, 2000Frank, 2005)。

主治医に伝える時のメモ

診察で相談する時は、完璧な記録でなくて大丈夫です。 「いつから」「何が増えたか」「睡眠や疲労はどうか」を短く伝えるだけでも、状態を共有しやすくなります。 日本うつ病学会の睡眠・覚醒リズム表のような記録表を使うと、睡眠や日常行動の変化を見える形にしやすくなります。

項目メモ例
予定量今週、外出予定を5件入れた。普段は2件くらい。
睡眠3日続けて睡眠が4時間台。でも昼間は動けている。
疲労予定後に疲れが強く、翌日寝込んだ。
判断新しい企画を急に始めたくなっている。
相談したいこと軽躁の兆しか、予定を減らした方がよいか相談したい。

つらさが強い時は、予定調整だけで抱えないでください

予定の入れすぎが続き、強い不眠、気分の高まり、イライラ、衝動的な決断、自傷他害のおそれなどがある場合は、生活上の工夫だけで対応しようとせず、早めに主治医や医療機関へ相談してください。 緊急性がある時は、地域の救急相談や医療機関につながることも大切です。

相談先を探す時は、厚生労働省の「まもろうよ こころ」も参考になります。

まとめ:余白は、生活を守るための安全スペースです

  • 予定の入れすぎは、軽躁や疲労のサインになることがあります。
  • 調子がよい時ほど、睡眠・疲労・予定量を一緒に見ましょう。
  • 予定の数だけでなく、準備、移動、人と会う負荷、回復時間も見ます。
  • 断る・延期する・短くすることも、体調を守る選択です。
  • 自分では気づきにくい時のために、周囲と“止める合図”を共有しておく方法もあります。

予定を入れすぎないことは、再発予防の現実的な工夫になります。 無理が続く時は、早めに予定を調整し、必要なら主治医や相談先につながってください。

次回は「疲れた時の休み方」

次回は、第15回「疲れた時の休み方」です。 予定や活動のあとに疲れが出た時、どのように休み、どのように生活を戻していくかを考えます。

次回:疲れた時の休み方

もっと学びたい方へ

ネット心理教育ピアサポートでは、双極症について当事者・家族向けに学べる動画や資料を公開しています。 気になるところから、無理のない範囲でご覧ください。

参考文献・参考資料

  1. 日本うつ病学会. 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023.
  2. 日本うつ病学会 双極症委員会. 双極症とつきあうために Ver.11. 2024.
  3. 日本うつ病学会. 一般の方・当事者向け資料.
  4. 日本うつ病学会. 睡眠・覚醒リズム表.
  5. Frank E, et al. Interpersonal and social rhythm therapy: an intervention addressing rhythm dysregulation in bipolar disorder. Dialogues Clin Neurosci. 2000.
  6. Frank E, et al. Two-year outcomes for interpersonal and social rhythm therapy in individuals with bipolar I disorder. Arch Gen Psychiatry. 2005.
  7. Colom F, Vieta E. 双極性障害の心理教育マニュアル. 秋山剛, 尾崎紀夫 監訳. 医学書院; 2012.
  8. 厚生労働省. 睡眠対策健康づくりのための睡眠ガイド2023.
  9. 厚生労働省. まもろうよ こころ.
  10. NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 当事者ができること(F3).
  11. NPO法人ネット心理教育ピアサポート. ゼミ参加者向けマニュアル 病気について(F1).

※本記事は心理教育を目的とした一般情報です。診断・治療方針は主治医と相談してください。

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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