双極症の心理教育:NGワードを超えて「なぜ」を考える 第4回 「伝わるコミュニケーション」を考える

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 副理事長

認定専門公認心理師

社会福祉士

国際双極症学会 評議員

木野内南(布団ちゃん)

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長

薬剤師

藤田剛(窓師)

うつの人に言ってはいけない言葉、躁の人に言ってはいけない言葉。ネットや巷にはそういった情報がたくさん溢れています。ではどうしてその言葉を言ってはいけないのでしょうか? 

このコラムのシリーズでは、「なぜいけないのか」について深く分析してゆきます。

双極症の方は、躁/軽躁状態、抑うつ状態、混合状態、寛解状態と気分の状態が変化します。気分の状態に応じて周囲がかける言葉も違ってきます。言葉がけとは単に一方通行の言葉の投げ付けではありません。言葉を発する側、言葉を受け止める側、この双方のコミュニケーションに齟齬が生じた時「言ってはいけない言葉」が生まれるのではないでしょうか? そんな視点からこのシリーズを読んでいただければ幸いです。

今回は、このシリーズの最終回として、心理学的な理論分析を踏まえたコミュニケーションの考え方を解説します。「一つ一つの言葉が使ってよいのか悪いのか」を超えて、どのような人間関係が全ての人にとっての幸せなのか、一つの答えとして提示します。

ここから先は、読んでいただいた方それぞれの解釈になると思いますが、出発点としてとらえていただければこれ以上の喜びはありません。

NGワードを超えて、「伝わるコミュニケーション」を考える――シリーズまとめ

「伝わるコミュニケーション」を考えてみよう

正しい一言を探すのではなく、関係性・メッセージ・言葉・受け取り方・確認・修復を一つの流れとして考える

これまで、躁・軽躁状態、抑うつ状態、寛解状態における言葉のすれ違いを考えてきました。

「躁なんじゃない?」
「頑張れ」
「もう元気そうだね」

どれも、言葉だけを見れば単純です。しかし、その言葉が問題になる理由は同じではありません。

「躁なんじゃない?」では、本人も周囲も躁の可能性に気づいているのに、診断されたような感覚や、発言の信用を奪われた感覚が関係を傷つけました。

「頑張れ」では、周囲は励ましているのに、本人には「今までの努力では足りない」「できないのは努力不足だ」と聞こえることがありました。

「もう元気そうだね」では、回復を喜ぶ言葉が、「もう配慮は必要ない」「早く社会復帰しなければならない」という圧力として聞こえることがありました。

本当に問題だったのは、特定の単語だけではありません。

話し手が伝えようとしたこと、選んだ言葉、受け手が読み取った意味、二人の関係性、病状、過去の経験が重なり、言葉の意味が作られていました。

つまり、考えるべきなのは「NGワード」ではなく、コミュニケーションがどのように作られ、どこですれ違ったかです。

目次

コミュニケーションは「言うこと」だけではありません

コミュニケーションを、次のような流れとして考えてみましょう。

図1:コミュニケーションの循環フロー 【話し手】 【受け手】 ① 二人の関係性・距離感・過去の合意 ② 伝えたいメッセージを考える ③ メッセージを載せる言葉を選ぶ ④ 言葉から意味を解釈する (病状等) ⑤ 感情・表情・反応を示す ⑥ 「どう伝わったか」を確認する ⑦ 言い直し・聞き直し・修復する
話し手と受け手の関係性・距離感

伝えたいメッセージを考える

メッセージを載せる言葉を選ぶ

受け手が言葉から意味を読み取る

受け手が反応する

話し手が「伝わったか」を確認する

必要なら言い直す・聞き直す・修復する

多くの場合、私たちは「何と言えばよいか」だけに注目します。しかし、言葉の前にも後にも、大切な過程があります。

ここからは、これまでのケースをなぞりながら、この流れを一つずつ考えます。

STEP 1 話し手と受け手の関係性・距離感を考える

同じ言葉でも、誰が、誰に、どのような関係の中で言うかによって意味が変わります。

  • 長年一緒に暮らしてきた家族
  • 病気について共有してきた友人
  • 職場の上司や同僚
  • 医療者や支援者
  • 病気をほとんど知らない知人

例えば、「少し上がってきたように見えるけど、どう?」という言葉でも、本人と早期兆候を一緒に確認してきた家族から言われる場合と、病気について詳しくない職場の人から突然言われる場合では、受け止め方が違います。

第1回のケース:「躁なんじゃない?」

家族は、以前と似た変化に気づき、早く知らせようとしました。しかし本人には、「あなたの考えは病気の発言だから信用しない」と聞こえることがありました。

なぜ問題になったのでしょうか

「躁の可能性がある」という内容だけが問題なのではありません。相手に状態を指摘することが許される関係なのか、本人がどのような伝え方を望んでいるのか、二人の間に過去の合意があるのかが影響します。

距離が近ければ何を言ってもよいわけではありません。むしろ家族やパートナーの言葉は、近いからこそ深く刺さることがあります。

関係性について確認できること
  • この話題を自分が伝えてよい関係だろうか。
  • 今、この場で伝える必要があるだろうか。
  • 本人は誰から、どのように伝えられることを望んでいるだろうか。
  • 状態が安定している時に、伝え方を相談できるだろうか。

STEP 2 伝えたいメッセージそのものは妥当か

言葉を言い換える前に、そもそも伝えようとしているメッセージが妥当かを考える必要があります。

伝えたいメッセージ考え方
「睡眠時間が短くなっているので、状態の変化が心配だ」観察できる変化に基づき、安全や再発予防を考えている
「もう元気なのだから、以前と同じように働くべきだ」寛解と社会機能の回復を同一視し、本人の状態を十分に確認していない可能性がある

後者は、どれほど柔らかい言葉に言い換えても、メッセージ自体に問題があれば、本人を追い詰める可能性があります。

図2:メッセージ(内層)と言葉(外層)の分離 【外層】選び取る「言葉」 【内層】 伝えたい本質 (心配・事実・目的) × 誤解を生みやすい言葉 「また躁なんじゃない?」 ◯ 伝わりやすい言葉 「睡眠が短いみたい。」 「自分ではどう感じる?」 ※ 内側の「本当のメッセージ」が正しくても、外側の「言葉選び」によって受け取り方は変わります
第2回のケース:「気分転換に外へ出たら?」

「少し外へ出れば改善するはず」というメッセージを含む場合、本人のつらさや活動能力を単純化することになります。

なぜ問題になったのでしょうか

外出の提案自体が悪いとは限りません。しかし、「外へ出ないから治らない」「動けばよくなる」という理解が背景にあるなら、心理教育としても見直す必要があります。

第3回のケース:「家では普通にできているのに、なぜ仕事に戻れないの?」

この言葉の背景には、「家で活動できるなら、職場でも働ける」という前提があります。しかし、一度できることと、責任を伴う活動を毎日安定して続けることは同じではありません。

メッセージを点検する質問
  • 私は何を伝えたいのだろう。
  • それは観察した事実なのか、私の推測や期待なのか。
  • 病気や回復についての理解に誤りはないだろうか。
  • 相手のためのメッセージか、それとも自分の不安を解消するための要求か。
  • 今すぐ伝える必要があることか。

STEP 3 メッセージを載せる言葉を選ぶ

伝えたい内容が妥当でも、言葉の選び方によっては届きません。

伝えたいこと伝わりにくい例伝わりやすくする例
睡眠の変化が心配「また躁なんじゃない?」「ここ3日、睡眠が4時間くらいに見える。自分ではどう感じている?」
少しでも楽になってほしい「頑張って外に出たら?」「今は外出は難しそう? カーテンを開けるだけならどうかな。断っても大丈夫だよ」
復職の見通しを考えたい「もう元気なんだから働けるよね」「今できることと、毎日続けるにはまだ負担なことを分けて確認しない?」

言葉を柔らかくするだけでは足りません。具体的な観察、自分の立場、本人への質問、選択の余地、目的が含まれていると、意図が伝わりやすくなります。

診断名や評価より、具体的な変化を伝える

「躁だ」「怠けている」「もう普通だ」と人物や状態を一言で評価するより、「睡眠が短くなった」「一度はできるが翌日に強く疲れる」と具体化するほうが、話し合いにつながります。

STEP 4 受け手は、言葉をそのまま受け取るとは限らない

話し手が込めた意味と、受け手が読み取る意味は同じとは限りません。受け手は、現在の病状や疲労、自己評価、過去の経験、関係性、声の調子、その後に何を求められるかという予測などを通して意味を読み取ります。

「もう元気そうだね」の場合

話し手は「回復してうれしい」と伝えています。しかし、以前その言葉の後に復職を急かされた経験があれば、受け手は「もう休めない」という意味を読み取るかもしれません。

「頑張れ」の場合

話し手は「応援している」と伝えています。しかし、本人がすでに限界まで力を使っている時には、「今の努力では足りない」と聞こえることがあります。

受け手側にも「解釈」があります

これは、受け手が悪い、考え方を直すべきだという意味ではありません。人は誰でも、言葉を自分の状態や経験を通して理解します。

双極症では、躁・軽躁、抑うつ、寛解などの状態によって、自己評価、判断、感受性、反応の速さが変わることがあります。そのため、同じ人でも時期によって言葉の聞こえ方が変わります。

受け手にもできることがあります

状態が許す時には、「こう聞こえた」「今はその言葉が負担だった」「本当は何を伝えたかった?」と確認できます。

ただし、病状が強い時や余力がない時に、受け手へ冷静な解釈や説明を求めすぎるべきではありません。

STEP 5 話し手は「言ったら終わり」にしない

コミュニケーションで重要なのは、言った内容だけではなく、伝えたいメッセージが実際に伝わったかです。

相手の表情が変わった、黙った、怒った、会話を打ち切った場合、すぐに「理解がない」「病気だから怒った」と判断する前に、伝わり方を確かめることができます。

確認する言葉の例
  • 「今の言い方は、どう聞こえた?」
  • 「急かされたように感じたかな」
  • 「私が本当に伝えたかったことと、違う意味で届いたかもしれない」
  • 「あなたには、どんな意味に聞こえた?」
  • 「今は話を続けたほうがいい? 少し時間を置いたほうがいい?」

確認は、相手に「正しく理解しなさい」と求めることではありません。自分の言葉がどのように届いたかを知るための作業です。

STEP 6 伝わらなければ、修復できる

一回のやりとりで、完璧な言葉を選べるとは限りません。大切なのは、一度も間違えないことではなく、伝わらなかったと気づいた時に会話へ戻れることです。

図3:コミュニケーションの修復ループ 一回で パーフェクトで なくてよい ① 言葉を伝える ② 相手の反応を見る ③ 届き方を確認する ④ 意図を言い直す・修復 ⑤ もう一度確認する
修復の基本形
  1. 起きたことを認める:「言い方が強くなった」
  2. 相手への影響を想像する:「責められたように聞こえたかもしれない」
  3. 必要なら謝る:「ごめん」
  4. 本来の目的を伝える:「本当は睡眠の変化が心配だった」
  5. 相手の受け取り方を聞く:「どう聞こえた?」
  6. 次の言い方を一緒に考える:「次はどう伝えればよい?」
「躁なんじゃない?」と強く言ってしまった場合

「躁だと決めつけて、あなたの話を聞かないように感じさせたかもしれない。以前と似た睡眠の変化が心配だった。自分ではどう感じているか聞かせてほしい」

「頑張れ」と急かしてしまった場合

「もう十分に頑張っているのに、さらに努力を求めるように聞こえたかもしれない。どう助ければよいか分からず焦っていた」

「もう元気そう」と言ってしまった場合

「もう全部元どおりだと言いたかったわけではない。回復してきた部分を喜びたかった。まだ負担なことも聞かせてほしい」

相手の反応に腹が立った時

心配して言ったのに怒られた。励ましたのに拒絶された。長く支えてきたのに、理解がないと言われた。そのような時に腹が立つのは不自然ではありません。

やさしい気持ちとは、いつも穏やかでいることではありません

腹が立っても、相手を傷つけることを目的にしないこと。すぐに話せない時は距離を取り、落ち着いてから戻ること。自分にも限界があると伝え、第三者の助けを借りること。それも、やさしさの一部です。

コミュニケーションを振り返るためのチェックリスト

言う前に

  • この話をするのに適切な関係とタイミングか。
  • 本当に伝えたいことは何か。
  • そのメッセージ自体は妥当か。
  • 事実と、自分の推測や感情を分けられているか。
  • 相手が答えたり断ったりできる余地があるか。

言葉を選ぶ時に

  • 診断名や評価ではなく、具体的な変化を伝えているか。
  • 「あなたは」ではなく、「私はこう見えて心配」と話せるか。
  • 相手の考えを尋ねているか。
  • 何をしてほしいのかが具体的か。
  • 一度に多くを求めていないか。

言った後に

  • 相手の表情や反応を見たか。
  • 伝えたい意味が届いたか確認したか。
  • 違う意味に聞こえた可能性を考えたか。
  • 必要なら言い直せるか。
  • 今すぐ解決しなくても、後で会話に戻れるか。

話し手だけでも、聞き手だけでも成り立ちません

コミュニケーションには、話し手と受け手がいます。話し手は伝えたいことを整理し、相手に届く形を考えます。受け手は可能な範囲で、自分にどう聞こえたかを伝えます。話し手は言いっぱなしにせず、伝わったかを確認します。受け手も余力があれば、本当の意図を聞き直します。双方が難しい時には、第三者を交えて考えます。

ただし、二人の責任が常に同じという意味ではありません。病状が強い時、安全が脅かされる時、立場に大きな力の差がある時には、医療者や支援者など、より余力や責任のある側が慎重に関わる必要があります。

一回でパーフェクトを目指さなくてよい

このシリーズでお伝えしたかったのは、完璧な言葉の一覧ではありません。

相手を大切に思っていても、言葉を間違えることはあります。正しい知識を持っていても、伝え方に失敗することがあります。受け手も、話し手の意図とは違う意味に受け取ることがあります。

それでも、コミュニケーションは一回で終わりではありません。

  • なぜ、その言葉が問題になったのかを考える。
  • 本当は何を伝えたかったのかを整理する。
  • 相手にはどう聞こえたのかを確かめる。
  • 別の言葉に言い換える。
  • 誤って伝わった時には、説明し、謝り、話し直す。

伝わらなかったことは、関係の終わりではありません。フォローできることを知っているだけで、コミュニケーションは変わります。

コミュニケーションは、話し手だけの技術ではありません。
話し手と受け手の間で意味を作り、確かめ、必要なら作り直していく過程です。

双極症では、病状によって、言葉の伝え方や受け取り方が変わることがあります。だからこそ、「正しい一言」を探し続けるよりも、次のように考えることが大切です。

今、この人には、どのように聞こえただろう。

本当に伝えたかったことは、届いただろうか。

届かなかったなら、もう一度伝え直せるだろうか。

NGワードを覚えることが、このシリーズの目的ではありません。

相手を理解しようとする気持ちを持ち続けること。自分の気持ちや限界も大切にすること。秩序つ、伝わらなかった時に、言い直し、聞き直し、関係を修復できること。

それが、「NGワードを超えて、『なぜ』を学ぶ」ということです。

参考資料

  1. 日本うつ病学会 気分障害の治療ガイドライン検討委員会 双極性障害委員会.『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』.
    https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2023.pdf
  2. 日本うつ病学会.一般の方・当事者向けガイド「双極症とつきあうために」.
    https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/kibun.html
  3. National Institute for Health and Care Excellence. Bipolar disorder: assessment and management(CG185).
    https://www.nice.org.uk/guidance/cg185
  4. National Institute for Health and Care Excellence. Shared decision making(NG197).
    https://www.nice.org.uk/guidance/ng197

※本稿は、双極症に関する一般的な心理教育とコミュニケーションの考え方を示すものです。個別の診断、治療、危機的状況への対応については、主治医などの医療専門職へご相談ください。「死にたい」「受診したくない」など、安全確保を優先すべき場面については、本シリーズとは分けて別途扱います。

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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