世界で開発中のうつ病・双極症の新しい薬(2026年6月15日版)






双極症の動画図書館・補足コラム

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 薬剤師 藤田 剛(窓師)

精神科領域の治療では常に新しい薬が開発されています。このコラムでは2026年6月15日現在日本および世界でどのような新薬が開発途中にあるのか、うつ病と双極症について調べてみました。情報が膨大でしたので、このコラムに載せたのは最小範囲です。さらに詳細を知りたい方は参照元のリンクや学術情報を辿ってください。

新薬については開発メーカーのIR情報などよりわかる範囲で世界と日本の上市目標年を表示しましたが、開発が遅延あるいは中止になることが多いことをご了承ください。

作成日:2026年6月15日|対象:当事者・ご家族・支援者・医療福祉関係者

この記事の要点

  • うつ病・治療抵抗性うつ病では、サイケデリック系、グルタミン酸系、睡眠覚醒系などの新しい薬が開発されています。
  • 双極症では、双極I型の躁状態、双極うつ、自殺リスクを伴う重症うつなどを対象にした薬が研究されています。
  • 日本国内で開発段階が確認しやすい候補として、双極I型躁状態の KarXT、双極症のうつ症状の ABBV-932 があります。
  • 多くの薬はまだ治験中です。上市予定は公表されていないものが多く、表中の時期は「最短の目安」または「推定」です。
  • このコラムは2026年6月15日現在の公開されている情報をもとに取りまとめましたが、検索漏れがあるかもしれませんのでご了承ください。
目次

1. 新薬情報を見るときの前提

新しい薬の情報は、希望につながります。一方で、治験中の薬は、まだ有効性と安全性が確定していません。海外で開発が進んでいても、日本で承認されるとは限りません。

新薬は必ずしもあなたにとって今服用している薬に比較して優れているものとは限りません。治療においては主治医の指示に従ってください。

特に双極症では、うつ症状がつらい時期に「抗うつ効果のある薬」に期待したくなることがあります。しかし、双極症では、うつを改善するだけでなく、躁状態や軽躁状態、混合状態を悪化させないかを見る必要があります。

大切な注意

この記事は一般的な心理教育・情報提供です。個別の治療判断ではありません。薬を変更したい、やめたい、試したいと思ったときは、自己判断せず、必ず主治医に相談してください。

2. うつ病・治療抵抗性うつ病で開発中の薬

うつ病領域では、従来のSSRIやSNRIとは異なる作用機序の薬が目立っています。治療抵抗性うつ病とは、一般に複数の治療を行っても十分な改善が得られにくい状態を指します。

薬剤候補対象メーカー・開発企業主な作用機序世界の開発状況日本の開発フェーズ上市目安ひとこと解説
COMP360治療抵抗性うつ病Compass Pathwaysシロシビン。主に5-HT2A受容体を介するサイケデリック補助療法Phase III
第III相で陽性結果が公表され、米国申請が視野に入っています。
公開確認困難
COMP360としての日本企業治験は確認困難。国内では研究者主導のシロシビン療法研究が別途あります。
米国:最短で2027年頃の可能性。日本:未定少数回投与と心理的サポートを組み合わせる治療です。実施施設や規制対応が大きな課題です。
BPL-003治療抵抗性うつ病AtaiBeckley / Beckley Psytech鼻腔内5-MeO-DMT系。短時間型サイケデリックPhase III準備〜開始段階
第II相で速効性・持続性が示唆され、第III相計画が進んでいます。
世界:2030年以降が現実的。日本:未定投与セッションが比較的短くなる可能性がありますが、日本での導入はまだ見通せません。
HLP003
旧CYB003
大うつ病性障害の補助療法Helus Pharma
旧Cybin
重水素化シロシン類似薬。サイケデリック補助療法Phase III
PARADIGMプログラムで投与が進んでいます。
世界:最短で2028〜2029年頃。日本:未定既存抗うつ薬への追加療法として開発されています。実施体制の整備が重要です。
azetukalner
XEN1101
大うつ病、双極うつXenon PharmaceuticalsKv7カリウムチャネル開口薬Phase III
大うつ病、双極うつ、てんかんでグローバル第III相試験が進行中です。
精神科領域は公開確認困難
日本では同成分のてんかん領域治験が確認されます。
世界:2028年以降の可能性。日本:未定従来抗うつ薬とは異なるイオンチャネル系です。双極うつで成功すれば重要度が高い候補です。
osavampator
NBI-1065845 / TAK-653
抗うつ薬で不十分な大うつ病Neurocrine Biosciences / TakedaAMPA受容体ポジティブアロステリックモジュレーターPhase III
大うつ病の補助療法として第III相試験が登録されています。
国内フェーズは確定困難
日本を除く地域の権利がNeurocrine側にあるため、日本は武田薬品の方針確認が必要です。
世界:2028年以降の可能性。日本:未定グルタミン酸系の中でもAMPA受容体を調整する薬です。速効性と忍容性が注目されます。
seltorexant不眠症状を伴う大うつ病Johnson & Johnson / Janssenオレキシン2受容体拮抗薬Phase III
不眠症状を伴う大うつ病への補助療法として第III相試験が行われています。
世界:2027〜2028年以降の可能性。日本:未定「眠れないうつ」に焦点を当てた薬です。すべてのうつ病ではなく、症状群を選ぶ可能性があります。
blixeprodil
GM-1020
大うつ病Gilgamesh Pharma経口NMDA受容体拮抗薬Phase IIa
第II相aで陽性トップラインが発表されています。
世界:2030年以降が目安。日本:未定ケタミン以後の速効型抗うつ薬候補です。まだ早期段階です。
liafensine
DB104
治療抵抗性うつ病。ANK3陽性群などDenovo Biopharmaセロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン三重再取り込み阻害薬Phase IIb
バイオマーカーで対象を絞る試験で有望な結果が報告されています。
世界:2030年前後以降。日本:未定「効きやすい人を選ぶ」精密医療の候補です。遺伝子検査の実装が課題です。

3. 双極症で開発中の薬

双極症では、躁状態を抑える薬、双極うつを改善する薬、自殺リスクを伴う重症うつを対象にした薬などが開発されています。特に日本では、国内治験が確認できる候補を分けて見ることが大切です。

薬剤候補対象メーカー・開発企業主な作用機序世界の開発状況日本の開発フェーズ上市目安ひとこと解説
KarXT
xanomeline-trospium
双極I型の躁状態、混合性の特徴を伴う躁状態Bristol Myers Squibb
旧Karuna Therapeutics由来
ムスカリンM1/M4受容体作動薬。D2遮断中心ではない新しい発想Phase III
双極I型躁状態の第III相試験が行われています。
Phase III
BMS日本の治験情報で、双極I型躁状態の試験が確認できます。
世界・日本:最短で2028〜2030年頃の可能性日本で最も追いやすい双極症パイプラインの一つです。悪心、便秘、口渇などの副作用確認が重要です。
KarXT 併用療法リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン服用中の双極I型躁状態Bristol Myers Squibb気分安定薬への上乗せPhase IIIPhase III
BMS日本の治験情報で併用療法の試験が確認できます。
世界・日本:最短で2028〜2030年頃の可能性既存の気分安定薬に追加する形での有用性が見られるかがポイントです。
azetukalner
XEN1101
双極I型・II型の双極うつXenon PharmaceuticalsKv7カリウムチャネル開口薬Phase III
グローバルで双極うつ第III相が進行中です。
双極うつでは公開確認困難世界:2028年以降の可能性。日本:未定双極うつで成功すれば大きな意味があります。日本での精神科領域の開発確認が次のポイントです。
ABBV-932
RGH-932
双極症のうつ症状AbbVie / Gedeon RichterDRD2/DRD3モジュレーター。D3受容体を含むドパミン系調整Phase II
双極うつで第II相。全体では主要評価項目未達、双極I型サブグループでシグナルが示されています。
Phase II
AbbVie日本の開発パイプラインに双極性障害 第II相試験として掲載されています。
世界・日本:2030年以降が現実的日本で開発段階が確認できる貴重な候補です。ただし有効性は今後の確認が必要です。
NRX-101自殺念慮・自殺行動を伴う重症/治療抵抗性双極うつNRx PharmaceuticalsD-cycloserine+lurasidone。NMDA系と抗精神病薬の組み合わせPhase IIb/III相当
自殺リスクを伴う双極うつでBreakthrough Therapy指定を受けています。
世界:早くても2029〜2030年以降。日本:未定対象が非常に重症で重要な領域です。急性の自殺リスクでは薬剤情報よりも安全確保が最優先です。
RAP-219双極I型の躁状態Rapport TherapeuticsTARPγ8選択的AMPA受容体負性調節薬Phase II
双極躁で第II相試験が行われ、トップライン結果は2027年前半が予定されています。
世界:2030年以降が目安。日本:未定グルタミン酸系を躁状態に応用する新しい発想です。まだ早期の候補です。
AL001双極I型などAlzamend Neuroリチウム・イオン性共結晶。脳内移行を狙うリチウム製剤Phase II
双極I型を対象にした第II相試験が開始されています。
世界:2030年以降が目安。日本:未定リチウムの有効性を活かしつつ副作用負担を下げる可能性が検討されています。腎機能、甲状腺、血中濃度管理の観点は引き続き重要です。

4. この表の読み方

上市目安はあくまで予定であり、開発遅延あるいは開発中止になることもあります。

第III相試験に進んでいても、結果が十分でなければ承認申請に進めません。承認されても、日本では薬価収載や使用条件の整備が必要です。そのため、上市時期は大きく変わることがあります。

フェーズの意味

  • 第I相:主に安全性や薬物動態を確認する段階です。
  • 第II相:対象疾患の患者さんで、有効性の手がかりや用量を確認する段階です。
  • 第III相:承認申請に向けて、有効性と安全性を大規模に確認する段階です。
  • 承認申請:規制当局が、有効性・安全性・品質などを審査する段階です。
  • 上市:承認後、実際に医療現場で使えるようになることです。

5. 当事者・ご家族へのメッセージ

当事者の方へ

新しい薬のニュースを見ると、「自分にも効くかもしれない」と感じることがあります。その希望は大切です。ただし、治験段階の薬は、まだ使える薬ではないことも多いです。

今つらいときにできることは、未来の新薬を待つことだけではありません。睡眠、生活リズム、服薬、記録、主治医への相談など、今できる対策も、回復の土台になります。

ご家族・周囲の方へ

新薬の情報は希望になります。一方で、「もうすぐ治る薬が出る」と言い切ると、本人にプレッシャーを与えることがあります。

大切なのは、期待を持ちながらも、今の治療と生活を支えることです。「一緒に主治医に聞いてみよう」「最新情報は確認しながら見よう」という姿勢が、安心につながります。

参考文献・情報源

以下は2026年6月15日時点で確認した情報です。開発状況は変更される可能性があります。

  1. Compass Pathways. COMP360 psilocybin for treatment-resistant depression: Phase 3 program updates. Compass Pathways news release
  2. AtaiBeckley / Beckley Psytech. BPL-003 clinical development information. AtaiBeckley release
  3. Helus Pharma. HLP003 development status. Helus Pharma HLP003
  4. Xenon Pharmaceuticals. Azetukalner clinical trials. Xenon clinical trials
  5. Neurocrine Biosciences. Osavampator/NBI-1065845 clinical development. ClinicalTrials.gov NCT06963021
  6. Johnson & Johnson. Seltorexant for MDD with insomnia symptoms. ClinicalTrials.gov NCT06559306
  7. Bristol Myers Squibb Japan. KarXT clinical trials for bipolar I disorder. BMS日本 治験情報
  8. AbbVie Japan. 日本の開発パイプライン:ABBV-932. AbbVie日本 開発パイプライン
  9. Gedeon Richter. Update on Phase II study of ABBV-932/RGH-932. Gedeon Richter news
  10. NRx Pharmaceuticals. NRX-101 development updates. NRx Pharmaceuticals release
  11. Rapport Therapeutics. RAP-219 development updates. Rapport pipeline
  12. Alzamend Neuro. AL001 pipeline. Alzamend pipeline

この記事は、ネット心理教育ピアサポートによる心理教育・啓発目的の資料です。医療判断や診断、処方の代替ではありません。症状や薬について不安がある場合は、主治医や薬剤師に相談してください。

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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