双極症の治療薬② 気分安定薬編 ーー炭酸リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン、カルバマゼピンの違いを知る


NPO法人ネット心理教育ピアサポート 理事長
薬剤師
藤田剛(窓師)
4つの気分安定薬、炭酸リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン、カルバマゼピンの違いを知る
「気分安定薬」は、双極症の薬物療法を支える重要な薬です。ただし、すべての薬が躁状態、抑うつ状態、再発予防のすべてに同じように効くわけではありません。
このコラムでは、代表的な4つの気分安定薬について、役割、注意したい副作用、必要な検査、妊娠を考える場合の注意点を一般向けに解説します。
診療ガイドラインに掲載されている双極症の治療薬
診療ガイドラインには気分安定薬4種類、抗精神病薬9種類が掲載されています。双極症の躁状態、抑うつ状態、再発予防の3つについて、それぞれ効果が期待できるかどうかを一覧表にまとめました。
今回はこのうち気分安定薬について解説します。


最初に知っておきたいこと
- 薬ごとに、得意とする病期や症状が異なります。
- 「新しい薬ほどよい」「薬の数が少ないほどよい」とは一概にいえません。
- 薬の効果と副作用には個人差があります。
- 血液検査は、副作用の早期発見や安全な量の確認に役立ちます。
- 症状が安定しても、自己判断で急に中止しないことが重要です。
コラム「双極症の治療薬」シリーズの構成
- 総論:「双極症の薬ってどんなもの?」
- 気分安定薬編(リチウム・ラモトリギン・バルプロ酸など) 今回
- 抗精神病薬編(ラツーダ・ビプレッソ・ジプレキサなど)
- 副作用・血液検査・妊娠・薬のやめ方Q&A
1.気分安定薬とは
「気分安定薬」は、単一の薬理作用を持つ厳密な一種類の薬を指す言葉ではありません。双極症の躁状態や抑うつ状態を改善し、気分エピソードの再発を防ぐ目的で用いられる薬を、臨床上まとめて呼ぶ名称です。
日本の双極症診療では、慣例的に炭酸リチウム、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリギン、カルバマゼピンが気分安定薬として扱われます。
炭酸リチウムは元素であるリチウムを含む薬です。残る3剤は、もともとてんかん治療薬として開発されましたが、双極症への効果が確認され、気分安定薬として用いられています。
気分安定薬は感情をなくす薬ではありません
目的は自然な喜怒哀楽をなくすことではなく、生活へ大きな影響を及ぼす病的な躁・軽躁・抑うつの波を小さくし、安定した状態を保ちやすくすることです。
2.4つの気分安定薬は、役割が少しずつ違う
次の表は一般的な位置づけを簡略化したものです。実際の処方は、病型、現在の病期、過去に効いた薬、副作用、身体疾患、妊娠の可能性、本人の希望などを考えて決められます。
| 一般名・代表商品名 | 主に期待される役割 | 日本での承認上の位置づけ | 特に注意すること |
|---|---|---|---|
| 炭酸リチウム リーマスなど | 躁状態、双極性うつ、再発予防で広く検討 | 躁病・躁うつ病の躁状態。うつ状態・維持期は承認適応外 | 血中濃度、腎機能、甲状腺、脱水、相互作用、中毒 |
| バルプロ酸ナトリウム デパケン、セレニカなど | 躁状態。再発予防でも使用 | 躁病・躁うつ病の躁状態。長期維持は承認適応外 | 肝機能、高アンモニア血症、血液障害、体重、妊娠 |
| ラモトリギン ラミクタールなど | 特に抑うつ側の再発・再燃予防 | 気分エピソードの再発・再燃抑制。急性期治療は有効性・安全性未確立 | 重い皮膚障害、ゆっくり増量、中断後の再開、相互作用 |
| カルバマゼピン テグレトールなど | 躁状態に用いることがある | 躁病・躁うつ病の躁状態 | 皮膚・血液・肝障害、低Na血症、多数の相互作用 |
承認適応外=使ってはいけない、ではありません
添付文書に承認された効能がない使用法でも、研究、診療ガイドライン、過去の治療経過を踏まえて医師が必要と判断して用いることがあります。反対に、承認されている薬でも、すべての人に適するわけではありません。
3.炭酸リチウム――幅広い病期で検討される代表薬
躁状態、双極性うつ、再発予防が期待できる双極症治療を代表する気分安定薬です。ただし、定期的な血中濃度測定が必要です。
躁状態だけでなく、双極性うつや再発予防でも重要な選択肢として検討されます。
特徴
- 幅広い病期で用いられます。
- 過去によく効いた人では、長期治療の中心になることがあります。
- 安全で効果的な濃度の幅が比較的狭いため、血清リチウム濃度を測定します。
比較的よくみられる副作用
- 手の細かなふるえ
- のどの渇き、尿の回数増加
- 吐き気、下痢
- 眠気、だるさ
- 体重増加
- 甲状腺機能低下
脱水、発熱、大量の発汗、下痢、食事・水分不足、極端な食塩制限、腎機能の変化、併用薬により血中濃度が上がることがあります。
リチウム中毒を疑って早めに相談したい症状
- ふるえが急に強くなる
- 繰り返す嘔吐・下痢
- 足元がふらつく
- ろれつが回りにくい
- 強い眠気、ぼんやりする、混乱する
自分で量を調整せず、処方した医療機関へ連絡してください。
一部の解熱鎮痛薬、利尿薬、血圧の薬はリチウム濃度を上げることがあります。市販薬を含め、新しい薬を使う前に医師・薬剤師へ確認します。
安全に使うポイント
- 血中リチウム濃度測定は服薬開始時だけでなく、継続的に行う必要がある
- 血中濃度採血の時刻について指示を守る
- 極端な水分・食塩制限を自己判断で行わない
- 発熱、下痢、嘔吐、食事が取れない状態を放置しない
- 他院の薬や市販薬を使う前に確認する
4.バルプロ酸ナトリウム――躁状態でよく用いられる薬
躁状態再発予防で使用肝機能検査妊娠への注意
躁状態の治療で用いられる代表的な気分安定薬です。維持期にも用いられますが、日本の添付文書には、躁状態に対する3週間を超える長期使用について明確な臨床試験のエビデンスが得られていないと記載されています。
特徴
- 活動性や興奮が高い躁状態で使用されます。
- 混合的な症状や急速な気分変化で検討されることがあります。
- 抗精神病薬と併用されることがあります。
比較的よくみられる副作用
- 眠気、だるさ
- 体重・食欲の増加
- 手のふるえ
- 吐き気、胃部不快感
- 脱毛
重要な副作用と検査
- 肝障害:特に開始後早期は肝機能検査が重要です。
- 高アンモニア血症:強い眠気、意識変化、嘔吐などが現れることがあります。
- 血液障害:血小板などを血液検査で確認します。
- 膵炎:強い腹痛や繰り返す嘔吐は早めに相談します。
妊娠を考える可能性がある場合
胎児への重大な影響が知られています。妊娠する可能性がある方では、治療上の必要性、他の選択肢、避妊、妊娠計画について事前に十分な説明を受けます。妊娠が分かっても自己判断で急に中止せず、速やかに精神科・産婦人科へ相談してください。
5.ラモトリギン――抑うつ側の再発予防を重視する薬
再発・再燃抑制抑うつ側を重視ゆっくり増量発疹に注意
日本では「双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制」の効能で承認されています。特に抑うつエピソードを繰り返しやすい人の維持療法で検討されます。
急性期のうつ状態をすぐ改善する薬として承認されたものではありません
添付文書では、双極性障害の急性期治療に対する有効性・安全性は確立していないとされています。一方、診療ガイドラインでは双極性うつの選択肢として検討されることがあります。処方目的は主治医へ確認してください。
比較的よくみられる副作用
- 頭痛
- めまい、ふらつき
- 眠気
- ものが二重に見える
- 吐き気
開始時の量や増量速度が安全性に大きく関係します。開始早期には、まれに重い皮膚障害が起こるため、少量からゆっくり増やします。
すぐに医療機関へ連絡が必要な症状
- 新しく現れた発疹
- 発熱を伴う発疹
- 口、目、陰部など粘膜のただれ
- 顔やリンパ節の腫れ
- 全身の強いだるさ
何日か中断した後、自己判断で以前の量から再開すると皮膚障害の危険が高まる可能性があります。服用できなかった期間がある場合は、再開前に処方医・薬剤師へ相談します。バルプロ酸などの併用薬で増量方法や維持量が大きく変わるため、他の人の量と比較しないことも重要です。
6.カルバマゼピン――躁状態に用いられることがある薬
躁状態薬物相互作用血液・肝機能検査発疹に注意
躁病・躁うつ病の躁状態に対して承認されています。現在はリチウム、バルプロ酸、抗精神病薬などとの比較や、併用薬、身体状態を考えて選択されます。
特徴
- 躁状態や興奮が強い状態で用いることがあります。
- 多くの薬の代謝に影響するため、飲み合わせ確認が特に重要です。
- 服用開始後に自分自身の代謝を速め、血中濃度や効果が変化することがあります。
比較的よくみられる副作用
- 眠気、めまい、ふらつき
- ものが二重に見える
- 吐き気
- 低ナトリウム血症によるだるさ、頭痛、意識変化
重要な副作用
- 重い皮膚障害
- 白血球・血小板減少、再生不良性貧血などの血液障害
- 肝障害
- 心臓の刺激伝導への影響
発熱、のどの痛み、発疹、口内炎が続く場合
血液障害や重い薬疹の初期症状である可能性があります。放置せず、処方した医療機関へ相談してください。
経口避妊薬、抗凝固薬、感染症治療薬など多くの薬の効き方へ影響します。他院の薬、市販薬、サプリメントを含めて医師・薬剤師へ伝えます。
7.なぜ血液検査が必要なのか
検査は副作用が起きている人だけが受けるものではありません。症状がなくても安全に続けるために必要な場合があります。
| 薬 | 主に確認される項目 | 目的 |
|---|---|---|
| 炭酸リチウム | 血清濃度、腎機能、甲状腺機能、カルシウムなど | 有効濃度と中毒回避、長期的影響の確認 |
| バルプロ酸 | 肝機能、血球・血小板、必要に応じアンモニア・血中濃度 | 肝障害、血液障害、高アンモニア血症 |
| ラモトリギン | 症状・併用薬に応じた検査。皮膚・全身症状の観察 | 重い皮膚障害・全身性副作用 |
| カルバマゼピン | 血球、肝・腎機能、Na、必要に応じ血中濃度 | 血液・肝障害、低Na血症、濃度依存性副作用 |
- 自分の薬で必要な検査を知っている
- 次の採血時期を確認している
- 血中濃度測定時の服薬・採血時刻を確認している
- 他院や薬局へ、気分安定薬を服用していることを伝えている
8.妊娠・授乳を考えるとき
妊娠中は、薬による胎児への影響だけでなく、薬を中断したことによる躁・うつの再発、妊娠中・産後の本人と子どもの安全も含めて考えます。妊娠を希望する場合は、妊娠成立前から精神科と産婦人科へ相談することが重要です。
| 薬 | 主な考え方 |
|---|---|
| 炭酸リチウム | 2026年6月、日本の添付文書で妊婦・妊娠可能女性の「禁忌」が削除されました。ただし、治療上やむを得ない場合を除き投与しないという慎重な扱いで、無条件に安全になった意味ではありません。 |
| バルプロ酸 | 催奇形性や出生児の発達への影響が知られています。妊娠する可能性がある方では、使用の必要性と代替薬を慎重に検討します。 |
| ラモトリギン | 妊娠中に血中濃度が変化することがあります。治療上の必要性と妊娠中・産後の用量調整を個別に検討します。 |
| カルバマゼピン | 胎児への影響や他薬との併用を含めて検討します。妊娠前から相談が必要です。 |
妊娠が分かっても自己判断で中止しない
急な中断で病状が悪化することがあります。できるだけ早く主治医へ連絡し、利益とリスクを一緒に検討してください。

9.気分安定薬はどのように選ばれるのか
- 現在が躁状態、抑うつ状態、維持期のどこか
- 躁とうつのどちらを繰り返しやすいか
- 過去に効いた薬と副作用
- 自殺リスク、精神病症状、混合症状、急速交代
- 腎臓、肝臓、甲状腺、心臓などの身体状態
- 併用薬との相互作用
- 妊娠・授乳の希望
- 採血や服薬方法を継続できるか
- 本人が重視する効果と避けたい副作用
一般に最も優れた薬ではなく、その人の病状と生活にとって、効果と負担のバランスがよい薬を探します。
効果が不十分、副作用がつらい場合でも、原因が薬そのものとは限りません。服用時刻、飲み忘れ、他の薬、睡眠、飲酒、身体疾患を確認し、量の調整、追加、変更を検討します。緊急性がなければ、医師が経過を見ながら段階的に調整します。
10.よくある質問
Q1.一番強い薬はどれですか?
単純な強さの順位はありません。躁状態に向く薬、抑うつ側の再発予防に向く薬、幅広い病期で検討する薬があり、目的が異なります。
Q2.症状がなくなったので、もう必要ないのでは?
維持期にも再発予防を目的として続けることがあります。「薬を含む治療が効いて安定している」場合があります。中止希望は理由を主治医へ伝えて相談します。
Q3.副作用はどこまで我慢すべきですか?
無条件に我慢する必要はありません。一時的な症状、生活に影響する症状、危険な副作用の兆候を分けて考え、具体的に医師・薬剤師へ伝えます。
Q4.飲み忘れたら2回分を飲みますか?
原則としてまとめて飲みません。薬ごとに対応が異なるため事前に確認します。特にラモトリギンを数日以上中断した場合は、再開前に相談します。
Q5.採血が正常なら副作用はありませんか?
発疹、ふらつき、強い眠気、認知の変化など、検査値だけでは判断できない副作用もあります。検査と日々の体調の両方を確認します。
Q6.自分の薬がこの説明と違う使われ方をしています。間違いですか?
ガイドラインと添付文書は出発点ですが、実際の治療は過去の効果、副作用、身体状態、組み合わせを踏まえて個別調整されます。処方目的を主治医へ尋ねてください。
まとめ
- 気分安定薬は、双極症の気分の波を小さくし、再発を防ぐ中心的な薬です。
- 4剤では、役割と注意点が異なります。
- 薬の名前だけでなく、何を目的に処方されているかを確認しましょう。
- 副作用や検査への疑問は、自己判断で中止せず医師・薬剤師へ相談します。
- 妊娠を希望する場合や妊娠が分かった場合は早めに相談します。
細かな名称や副作用をすべて暗記する必要はありません。まず、自分の薬が躁状態、抑うつ状態、再発予防のどの目的で処方され、どの検査や注意が必要かを確認してみましょう。
参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会.日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023
- 日本うつ病学会 双極症委員会.双極症とつきあうために Ver.11
- PMDA.炭酸リチウム錠 電子化された添付文書(2026年6月改訂)
- PMDA.炭酸リチウムの「使用上の注意」改訂(2026年6月16日)
- PMDA.バルプロ酸ナトリウム徐放錠 電子化された添付文書(2026年3月改訂)
- PMDA.ラモトリギン錠 電子化された添付文書
- PMDA.カルバマゼピン製剤 電子化された添付文書
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート.「双極症の治療薬」コラム用資料.2026年.
添付文書は改訂されることがあります。実際の使用では最新の電子化された添付文書と医師・薬剤師の説明をご確認ください。
医療情報としての注意
本記事は一般的な情報です。個別の薬剤選択、用量、服用方法、中止・変更、妊娠中の治療は主治医・薬剤師へご相談ください。
強い発疹、意識の変化、歩行困難、激しい嘔吐、自殺したい気持ちの高まりなどがある場合は、通常の次回受診を待たず医療機関へ連絡してください。
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