双極症の動画図書館:27回 双極症の情報を安全に読む――発信元・更新日・根拠を確かめ、治療の相談材料にする

双極症の動画図書館 第27回
双極症について調べると、診療ガイドライン、医療機関の解説、当事者向け資料、SNS、体験談、動画、生成AIなど、さまざまな情報が見つかります。情報が多いほど安心できるとは限らず、正反対の説明を前に迷うこともあります。
大切なのは、すぐに「正しい・間違い」と決めることではありません。誰が、いつ、誰に向けて、何を根拠に発信した情報かを確認し、自分の治療へ取り入れるかは主治医などと相談します。体験談も医学情報も、それぞれの役割を知ると安全に活用しやすくなります。
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最初に要点
- 発信元、著者・監修者、更新日、対象者、根拠を確認します。
- ガイドライン、一般向け資料、ニュース、体験談は役割が違います。
- 「絶対」「全員」「これだけで治る」など、極端な断定には慎重になります。
- SNSや生成AIの回答は入口として使い、元となる一次情報まで確認します。
- 治療や薬を変える前に、「自分の場合はどうか」を主治医・薬剤師などへ相談します。
このコラムについて
このコラムは、健康・医療情報を読むための一般的なヒントです。特定の情報源が常に正しい、または常に間違っていると判定するものではありません。診断や治療方針、薬の変更・中止は、個別の状態を確認できる医療者と相談してください。

1.「疑う」は、否定することではありません
医療情報を安全に読む時の「疑う」とは、最初から嘘だと決めつけることではありません。どの範囲まで確かめられている情報か、誰に当てはまる情報かを一度立ち止まって確認することです。
臨床研究の結果は、多くの場合「ある集団では、平均するとこの傾向があった」という統計的な情報です。薬が効く人と効きにくい人がいるように、研究結果が一人ひとりへ同じ形で現れるとは限りません。一方、例外があるからといって研究全体が無意味になるわけでもありません。
最初の三つの質問
- 誰が言っているのか
- いつ発信・更新されたのか
- 何を根拠にしているのか
2.発信元と、情報を出す目的を確認します
公的機関、学会、大学、医療機関の情報は、作成主体や責任の所在が比較的分かりやすい情報源です。ただし、組織名だけで判断せず、著者・監修者、参考文献、問い合わせ先、利益相反や広告の有無も確認します。
| 確認する点 | 見る場所の例 |
|---|---|
| 運営主体 | サイト概要、運営者情報、組織の正式名称 |
| 著者・監修者 | 氏名、所属、専門分野、資格 |
| 根拠 | 参考文献、元の研究、ガイドラインへのリンク |
| 目的・利害 | 広告、商品販売、スポンサー、アフィリエイト表示 |
| 責任の所在 | 問い合わせ先、訂正方針、利用規約 |
販売目的があることだけで情報が誤りとは限りません。ただし、説明が商品の購入や特定の治療だけへ誘導していないか、利益と不利益の両方を示しているかを慎重に見ます。

3.更新日と「誰向けか」を確認します
医療情報には、今も変わりにくい基本知識と、薬の安全性情報や制度のように更新される情報があります。公開日だけでなく、改訂日、追記、最新版へのリンクも確認します。
また、海外の情報は参考になりますが、承認されている薬、医療制度、保険、相談窓口が日本と異なることがあります。専門家向けの添付文書や論文は、専門知識を前提としており、一般向け資料とは読み方が違います。
日付を見る時のポイント
- 公開日と最終更新日は別か
- 古いページから最新版へ案内されているか
- 引用しているガイドラインや薬の情報は現行版か
- 制度や連絡先は現在も利用できるか

4.情報源には、それぞれ違う役割があります
情報源は、単純な順位表だけでは整理できません。知りたいことに合った種類を選びます。
| 情報の種類 | 役立つこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 診療ガイドライン | 複数の研究を整理した標準的な道しるべ | 個人の治療を自動的に決めるものではない |
| 公的・学会の一般向け資料 | 病気や治療を理解する入口 | 簡潔化され、個別の事情までは扱わないことがある |
| 原著論文・一次情報 | 研究方法と結果を直接確認できる | 一つの研究だけでは結論できず、専門的な評価が必要 |
| 医療機関の解説 | 実際の受診や治療の流れを知る | 医療機関ごとの方針や対象が含まれる |
| 当事者・家族の体験談 | 共感、生活上の具体例、相談のきっかけ | 一人の経験を全員へ一般化できない |
公的情報は比較的信頼しやすい一方、更新が遅かったり、個別の暮らしへ柔軟に当てはめにくかったりすることがあります。体験談は具体的ですが、医学的な裏づけが十分とは限りません。両方を対立させず、役割を分けて使います。

5.「根拠がある」にも段階があります
エビデンスとは、判断の根拠となる研究結果などのことです。複数の質の高い研究をまとめた情報と、一例だけの報告では、確かさの程度が違います。ただし、研究の種類だけで機械的に判断するのではなく、対象者、比較方法、結果の大きさ、限界も見ます。
一般の読者が論文をすべて評価する必要はありません。まず新しい診療ガイドラインや公的な一般向け資料を入口にし、重要な判断だけ元の資料へ戻る方法が現実的です。情報確認に時間をかけすぎて疲れてしまう時は、信頼できる窓口を数個に絞って構いません。
6.体験談は「ヒント」であり「処方箋」ではありません
体験談には、診察では聞きにくい生活の工夫、孤立を和らげる言葉、医療者へ相談するきっかけなど、公的資料にはない価値があります。その経験を否定する必要はありません。
一方で、診断、病型、併存症、年齢、薬の量、生活環境は人によって違います。「この人には合った」と「自分にも安全で有効」は同じではありません。体験談から得た疑問は、次のように相談材料へ変換できます。
相談への変換例
×「SNSで危険と書いてあったので、薬をやめます」
○「この薬で強い眠気が出たという体験談を見ました。私にも眠気がありますが、薬との関係や対応をどう考えますか」
7.極端な断定と、行動を急がせる情報に注意します
分かりやすい言葉ほど広がりやすい一方、医療には個人差や不確実性があります。次のような表現がある時は、根拠と販売目的を特に確認します。
- 「絶対」「全員」「100%」「すぐに治る」
- 「医師は隠している」「これだけが本当の治療」
- 「今すぐ薬をやめるべき」「受診は不要」
- 利益だけを強調し、副作用や限界を説明しない
- 不安を強くあおった直後に、高額な商品や契約へ誘導する
文章が穏やかでも誤りはあり、強い表現でも内容がすべて誤りとは限りません。表現だけで決めず、発信元、根拠、複数情報との一致を確認します。
8.SNS・動画・生成AIは、一次情報への入口として使います
SNSや短い動画は、情報を知るきっかけになります。ただし、前後の条件が省略されやすく、同じ内容が繰り返し表示されることで、多数意見のように感じることもあります。見出しや短い投稿だけで判断せず、リンク先の全文を確認します。
生成AIの回答は、質問の整理や検索語を考える助けになりますが、回答そのものを診療ガイドラインや原著論文と同じ一次情報とはみなしません。提示された文献やURLが実在するか、内容が回答と一致するか、最新版かを実際に開いて確認します。
自分の考えに合う情報ばかり集めてしまう傾向は、誰にでもあります。これを認知バイアス、つまり判断の偏りといいます。反対の説明も一つ確認し、共通している点と異なる点を分けると整理しやすくなります。
9.要約「ネットで情報検索するときの注意点」
今回追加したスライド9では、ネット検索の確認点を一枚の表にまとめています。「すべて疑う」とは、すべてを嘘だと決めつけることではありません。いったん立ち止まり、次の点を確かめるという意味です。
| チェックポイント | 確認すること |
|---|---|
| まず立ち止まる | 自分が知っている内容と大きく異なる情報は、特に慎重に確認します。 |
| 情報源の信頼性 | 公的機関、学会、大学などは比較的信頼しやすい情報源です。個人ブログやSNSでは、発信者の専門性、実績、根拠を確認します。 |
| 複数の情報源と更新日 | 一つだけで決めず、別の信頼できる情報源と比べ、公開日・更新日も確認します。 |
| 誇張・あおり・感情的表現 | 「絶対」「すぐに治る」「最先端」などの言葉だけで信じず、根拠と条件を確認します。 |
| 広告・販売目的 | 広告やアフィリエイトの表示、特定の商品・治療への強い誘導がないかを見ます。 |
| SNS・生成AI | 投稿や回答を入口として使い、元になった一次情報を実際に開いて確認します。 |
| 認知バイアス | 人は自分に都合のよい情報を信じやすいことを意識し、反対の説明も一つ確認します。 |
すべての情報を完璧に調べる必要はありません。体調が悪い時、夜間、気分が高まっている時などは、検索が止まらなくなることがあります。時間を決める、リンクを保存して翌日に見る、家族や支援者と一緒に確認するなど、情報の精査に手間や時間をかけすぎないことも大切です。

10.治療情報は「自分の場合はどうか」と相談します
信頼できるガイドラインでも、個別の診断、これまでの経過、併存症、妊娠可能性、他の薬、仕事や家庭の事情まで自動的に判断することはできません。情報を治療へ取り入れる時は、ページや画像を保存し、気になった箇所と質問を短くメモします。
診察へ持っていく「情報確認メモ」
情報の題名・URL:______________
発信元・更新日:______________
気になった主張:______________
自分に起きていること:______________
確認したいこと:私の場合は当てはまるか/選択肢は何か/急ぐ必要があるか
疑問を持つことは、治療への反抗ではありません。情報を一緒に確認することは、納得できる治療を考える共同意思決定(SDM)の一部です。

情報を見て、すぐ治療を変えたくなった時
薬を急に中止・増減することや、必要な受診を中断することには危険が伴う場合があります。情報だけで変更せず、主治医・医療機関・薬剤師へ相談してください。症状の急な悪化、強い不眠、著しい気分の高まりや落ち込み、自傷・他害のおそれがある場合は、情報検索より安全確保と早めの受診を優先します。
まとめ
双極症の情報は、信じるか否定するかを急がず、まず位置づけを確認します。発信元、更新日、対象者、根拠、広告・販売目的を見て、別の信頼できる情報源とも比べます。
ガイドラインは標準的な道しるべ、一般向け資料は理解の入口、体験談は共感や生活のヒントです。どれか一つだけですべてを決めるものではありません。気になった情報は保存し、「自分の場合はどうか」を主治医などへ確認しましょう。

振り返り質問への回答と考えるヒント
動画の最後に示した二つの質問を振り返ります。

Q1.ネットやSNSの双極症情報を見る時、どんな点を確認するとよいでしょうか?
回答:双極症については、ガイドライン、当事者向け資料、医療機関の解説、体験談など、さまざまな種類の情報があります。それぞれ役割が違うため、「誰が書いたか」「いつの情報か」「何を根拠にしているか」を確認すると判断しやすくなります。
体験談は共感や生活のヒントになることがありますが、その人に合った治療が自分にも同じように当てはまるとは限りません。治療に関わる情報は、主治医との相談材料として使うことが大切です。
Q2.最近見た情報の中で、「自分の場合はどうだろう」と主治医に確認してみたいことはありますか?
この問いには一つの正解はありません。例えば、次のような視点で考えられます。
- 「これだけで治る」「この薬は全員に危険」など、極端な断定は慎重に読みます。
- 古い情報では、現在の治療や制度と異なることがあります。
- 疑問を否定する必要はありません。気になった情報をメモして、診察で確認する方法があります。
例えば、「この薬は長く飲まない方がよい、という投稿を見ました。投稿の根拠と、私が続ける利点・不利益をどう考えればよいですか」と質問できます。
参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』2023年
- 日本うつ病学会 双極症委員会『双極症とつきあうために Ver.11』2024年
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト『双極性障害(躁うつ病)』
- World Health Organization. Using the internet and the media to get health information. Updated 2022.
- World Health Organization. Global principles for identifying credible sources of health information. 2022.
- Yatham LN, et al. CANMAT and ISBD 2018 guidelines for the management of patients with bipolar disorder. Bipolar Disorders. 2018.
- NICE. Bipolar disorder: assessment and management. CG185. Published 2014; updated 2025.
- NPO法人ネット心理教育ピアサポート『情報リテラシー資料』
次は、どこを学びますか?
次の第28回では、「双極症と妊娠・出産・家族のこと」を扱います。妊娠を考え始めた段階から相談する理由、薬と再発予防、睡眠や産後の支援体制について整理します。
「双極症の動画図書館」は、最初から順番に見なくても大丈夫です。今の自分に必要なテーマからご覧ください。

双極症の動画図書館シリーズについて
双極症の動画図書館シリーズは、YouTube動画とWeb解説コラムで構成しています。
- YouTube動画はテーマごとに要点を5分程度の短い動画でまとめています。
- Web解説コラムはYouTube動画と対応して、動画の解説、補足説明をしています。







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