双極症の動画図書館:第28回 双極症と妊娠・出産・家族のこと――あきらめる前に、相談と準備を始める

双極症の動画図書館 第28回
大きな疑問や不安
双極症があると、「薬を飲んでいて妊娠できるのだろうか」「出産後に調子を崩さないだろうか」「子どもに必ず遺伝するのだろうか」と、不安になることがあります。家族や周囲から、病気だけを理由に家族形成を否定され、傷つくこともあるかもしれません。
一人で悩まない
妊娠・出産・子育ては、一人で結論を出すテーマではありません。妊娠する本人の希望を中心に、パートナーや家族、精神科、産科、小児科・新生児科、薬剤師、地域の支援者が必要に応じて相談チームをつくります。早めに相談すると、薬、受診体制、産後の睡眠、育児支援などの選択肢を落ち着いて整理できます。
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最初に要点
- 妊娠については、妊娠前から精神科と産科へ相談できます。
- 妊娠が分かっても、薬を自己判断で急に減らしたり中止したりしません。
- 薬は「安全か危険か」の二択ではなく、薬の影響と再発の影響を一緒に検討します。
- 産後は再発に注意が必要な時期です。睡眠と支援体制を出産前から準備します。
- 遺伝要因は関係しますが、子どもが必ず発症するという意味ではありません。
- 妊娠・出産・授乳・家族形成について、本人の価値観を一律に否定しません。

このコラムについて
このコラムは、双極症と妊娠・出産・授乳・家族形成について考えるための一般情報です。個別の薬の継続・変更・中止、妊娠や授乳の可否を決めるものではありません。現在の症状、これまでの再発、薬の種類と量、妊娠週数、身体の状態、本人の希望によって判断は変わります。

1.妊娠を考え始めた時から相談できます
相談は、妊娠が決まってから始めるものではありません。「いつか子どもを持つかもしれない」「まだ決めていないが、可能性は残しておきたい」という段階でも構いません。妊娠前の相談をプレコンセプションケアと呼びます。これは、妊娠前から心身の健康と将来の希望を一緒に考えることです。
早めに相談すると、次のことを時間をかけて確認できます。
- 現在の症状と、これまでの躁・うつ・混合状態の経過
- 薬を続ける利点、妊娠・胎児・新生児・授乳への影響
- 薬を変更または中止した場合の再発リスク
- 精神科と産科の受診先、緊急時の連絡方法
- 妊娠中の健診、検査、生活リズム
- 出産後の睡眠確保、家事・育児の分担、利用できる支援
妊娠する本人だけでなく、パートナーに双極症がある場合も、服薬や生活、家族としての支援について相談できます。

2.薬は「安全か危険か」の二択ではありません
妊娠中の薬については、薬による影響だけでなく、薬を減らす・やめることで双極症が再発する影響も考えます。病状が悪化すると、睡眠、食事、受診、事故や自傷の危険、妊婦健診や育児への参加などに影響することがあります。
そのため、一般に次の二つを並べて検討します。
| 検討する側面 | 確認する例 |
|---|---|
| 薬を使う場合 | 妊娠時期、用量、胎児・新生児への影響、必要な検査、授乳との関係 |
| 薬を変える・減らす場合 | 再発歴、変更の速度、代替治療、悪化時の対応、本人と家族の生活への影響 |
同じ薬でも、病状、妊娠の時期、用量、併用薬、授乳希望などで判断が変わります。主治医には、処方薬だけでなく、市販薬、サプリメント、漢方薬も伝えてください。
薬の情報は更新されます
日本では2026年6月、炭酸リチウムの添付文書から「妊婦または妊娠している可能性のある女性」を一律の禁忌とする記載が削除されました。ただし、これは「誰でも安全に使える」という意味ではありません。精神科と産科・新生児科が連携し、必要な説明、血中濃度測定などの管理ができる体制で、個別に使用を判断することが求められています。
このように薬の評価や添付文書は変わることがあります。古いネット情報だけで結論を出さず、最新の添付文書と専門家の判断を確認してください。
3.妊娠が分かった時も、まず落ち着いて相談します
予定外の妊娠や、薬を飲んでいる間の妊娠が分かった時も、驚いて薬を急に中止しないでください。まず処方した精神科へ連絡し、産科にも薬の名前・量・服用時期を伝えます。お薬手帳や薬の一覧が役立ちます。
相談までに確認できると役立つのは、最終月経、妊娠検査薬を使った日、薬の名前と一日の量、最近の睡眠と気分です。正確に分からない項目があっても、相談を遅らせる必要はありません。
4.授乳の希望も、妊娠中から共有できます
薬が母乳へ移る程度や、赤ちゃんへの影響は薬ごとに異なります。母乳だけ、ミルクだけ、混合栄養のどれが正しいという話ではありません。本人の病状、必要な治療、睡眠の確保、赤ちゃんの状態、本人の希望を合わせて考えます。
授乳を希望する場合は、精神科・産科・小児科へ早めに伝えます。授乳のために治療を我慢したり、無理に夜間対応を一人で担ったりする必要はありません。

5.産後は「睡眠を守る仕組み」を先に作ります
出産後は、睡眠の分断、身体の回復、ホルモンの変化、育児の負担などが重なります。双極症では産後に再発しやすくなるため、「調子を崩してから頑張る」のではなく、出産前から具体的な計画を作ることが大切です。
| 準備すること | 具体例 |
|---|---|
| 睡眠 | 夜間対応を交代する、一定時間は別室で休む、ミルクや搾乳も含めて検討する |
| 役割分担 | 授乳以外の家事・育児を家族が担当する、外部サービスを使う |
| 早期サイン | 睡眠が減る、活動や連絡が増える、考えが止まらない、動けない、涙が続く |
| 連絡先 | 精神科、産科、地域の相談窓口、夜間・休日の連絡先を一枚にまとめる |
| 受診 | 産後早期の診察日、家族が異変に気づいた時の連絡方法を決める |
睡眠を確保することは、育児を放棄することではありません。本人と赤ちゃんの安全を守るための治療計画の一部です。

6.家族は「判断する人」ではなく「相談を支える人」です
家族やパートナーの役割は、妊娠・出産の可否を決めたり、本人を監視したりすることではありません。本人の希望を聴き、生活上の負担を分け、変化に気づいた時に早めの相談を助けることです。
- 「病気があるから無理」と結論を押しつけない
- 薬を飲む・飲まないことを家族だけで決めない
- 睡眠、家事、育児、通院の負担を具体的に分担する
- 元気な時に、早期サインと連絡先を本人と一緒に決める
- 家族自身も支援者や相談窓口を利用する
本人と家族の意見が違う時は、「あなたは間違っている」ではなく、「私はこの点が心配です」と事実と気持ちを分けて伝えると相談しやすくなります。
7.遺伝は「必ず発症する」という意味ではありません
双極症には遺伝要因が関係します。しかし、一つの遺伝子だけで発症が決まる病気ではありません。多くの遺伝的な要因に、生活環境、睡眠、ストレスなどさまざまな要因が重なって発症に関係すると考えられています。
したがって、親に双極症があっても、子どもが必ず発症するわけではありません。また、現在の一般診療で、将来の発症を個人単位で確実に予測できる遺伝子検査は確立していません。不安が強い場合は、主治医や遺伝カウンセリングの専門家へ相談できます。
家族歴の情報は、家族形成を否定するためではなく、必要な時に早く支援へつながるために使います。

8.そのまま使える「妊娠・出産の相談メモ」
すべてを一度に決める必要はありません。分かるところだけ書き、診察で一緒に埋めてください。
現在の希望:いつか考えたい/妊娠を希望/妊娠が判明/授乳を希望/まだ決めていない
今の薬・サプリメント:______________
これまで薬を変えた時の体調:______________
再発時に最初に出やすいサイン:______________
精神科と産科の情報共有:できている/これから相談
産後の睡眠を守る方法:______________
夜間対応・家事・育児を頼める人:______________
調子が変わった時の連絡先:______________
主治医へ聞きたいこと:______________
次回予約を待たずに相談する目安
- 赤ちゃんが眠っている時にも眠れず、ほとんど睡眠が取れない
- 急に活動・会話・連絡・買い物が増え、考えが止まらない
- 強い落ち込み、死にたい気持ち、自傷の考えがある
- 幻聴、妄想、強い混乱などがあり、現実の判断が難しい
- 自分や赤ちゃんを安全に守れないと感じる
本人を一人にせず、赤ちゃんの安全も確保して、精神科・産科・地域の救急相談へ連絡してください。差し迫った危険がある場合は119番を利用してください。
まとめ
双極症があることだけを理由に、妊娠・出産・子育てを一律にあきらめる必要はありません。一方で、薬、再発、睡眠、支援体制には個別の準備が必要です。妊娠を考え始めた段階から主治医へ伝え、精神科と産科で情報を共有します。
妊娠が分かっても、薬を自己判断で急に中止しません。産後は睡眠と支援を先に確保し、早期サインと相談先を周囲と共有します。遺伝への不安も一人で抱えず、専門家へ相談して構いません。大切なのは、本人の希望を中心に、相談と準備を少しずつ始めることです。

振り返り質問への回答と考えるヒント
動画の最後に考えていただく二つの質問を振り返ります。
Q1.双極症があり、妊娠や出産を考える時に、早めに相談しておくことが大切なのはなぜでしょうか?
回答:妊娠や出産では、薬の使い方だけでなく、再発予防、睡眠の確保、産後の支援体制などを含めて準備することが大切だからです。妊娠が分かってから急いで決めるのではなく、妊娠を考え始めた段階から主治医や産科と相談すると、本人の希望を踏まえて選択肢を整理しやすくなります。
予定外に妊娠が分かった場合も、薬を自己判断で急に中止せず、早めに医療者へ相談することが重要です。家族歴や遺伝についても、「必ず発症する」という単純な話ではないため、不安を一人で抱えず相談して構いません。
Q2.妊娠・出産・子育てや家族のことについて、今のうちに相談しておきたい不安や希望はありますか?
この問いには一つの正解はありません。例えば、次のような視点で考えられます。
- これは「妊娠してよい・いけない」という価値判断をする質問ではありません。
- 薬だけでなく、産後にどう睡眠時間を確保するか、誰に助けを頼めるかも大切な準備です。
- 授乳への希望、仕事や住まい、家族の協力、利用できる制度も相談できます。
- 薬剤ごとの判断は個別性が高いため、主治医・産科・薬剤師などと確認します。
- まだ希望が決まっていなくても、「今は決めていない」と伝えて構いません。
最初の一歩は、「妊娠・出産について、いつか考えるかもしれません。今の薬と準備について教えてください」と主治医へ伝えることでも十分です。
参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』2023年(第6章 周産期)
- 日本精神神経学会・日本産科婦人科学会『こころの不調や病気と妊娠・出産のガイド』2024年
- 日本精神神経学会・日本産科婦人科学会『「双極性障害(双極症)」の診断を受けている方の妊娠・出産・子育てに関してのQ&A』
- 日本精神神経学会・日本産科婦人科学会『こころの薬(精神科の薬)と妊娠・出産・授乳に関するQ&A』
- PMDA『炭酸リチウムの「使用上の注意」の改訂について』2026年
- American College of Obstetricians and Gynecologists. Treatment and Management of Mental Health Conditions During Pregnancy and Postpartum: ACOG Clinical Practice Guideline No. 5. 2023.
- Wesseloo R, et al. Risk of Postpartum Relapse in Bipolar Disorder and Postpartum Psychosis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Am J Psychiatry. 2016;173(2):117-127.
- O’Connell KS, Coombes BJ. Genetic contributions to bipolar disorder: current status and future directions. Psychol Med. 2021;51(13):2156-2167.
薬の添付文書や推奨は更新されることがあります。掲載時点の情報だけで自己判断せず、主治医・産科医・薬剤師と最新情報を確認してください。

次は、どこを学びますか?
次の第28回では、「双極症と妊娠・出産・家族のこと」を扱います。妊娠を考え始めた段階から相談する理由、薬と再発予防、睡眠や産後の支援体制について整理します。
「双極症の動画図書館」は、最初から順番に見なくても大丈夫です。今の自分に必要なテーマからご覧ください。

双極症の動画図書館シリーズについて
双極症の動画図書館シリーズは、YouTube動画とWeb解説コラムで構成しています。
- YouTube動画はテーマごとに要点を5分程度の短い動画でまとめています。
- Web解説コラムはYouTube動画と対応して、動画の解説、補足説明をしています。




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