双極症の動画図書館:第30回――監視ではなく、相談につなぐ協力者として

双極症の動画図書館 第30回
双極症のある人と暮らす家族は、「どこまで声をかけてよいのか」「見守ることと放っておくことは何が違うのか」「危ない時はどうすればよいのか」と迷うことがあります。心配が強いほど、睡眠、薬、買い物、外出などを何度も確認したくなるかもしれません。
家族の役割は、本人を診断したり管理したりすることではありません。本人の選択と尊厳を守りながら、普段との違いを具体的に伝え、必要な時に相談へつなぐ「協力者」になることです。そして、家族自身も一人で抱え込まず、支援を使って構いません。
最初に要点
- 「また躁なの?」と決めつけず、睡眠や行動の変化を具体的に尋ねます。
- 本人が元気な時に、声のかけ方、早期サイン、相談先を一緒に決めます。
- 家族は治療者でも監視役でもありません。できる範囲と境界線を持ちます。
- 家族自身も、主治医、地域の相談機関、家族会などへ相談できます。
- 自傷、他害、暴力、生命の危険が迫る時は、説得より安全確保を優先します。

動画はこちらです
このWeb解説コラムと合わせてご活用ください。
このコラムについて
このコラムは、健康・医療情報を読むための一般的なヒントです。特定の情報源が常に正しい、または常に間違っていると判定するものではありません。診断や治療方針、薬の変更・中止は、個別の状態を確認できる医療者と相談してください。

1.「監視」と「協力」は何が違うのでしょうか
監視は、本人の行動を細かく確認し、家族の判断で制限する方向へ傾きやすい関わりです。協力は、本人の意思を確かめ、観察した事実を共有し、本人と一緒に次の行動を選ぶ関わりです。
| 監視になりやすい関わり | 協力を目指す関わり |
|---|---|
| 「また躁になった」と家族が決める | 「この3日、睡眠が少ないように見える」と事実を伝える |
| 薬を飲んだか繰り返し確認する | 服薬の手助けが必要か、どの方法なら負担が少ないか尋ねる |
| 家族だけで外出や買い物を禁止する | 元気な時に、変化が出た際の対応を本人と相談しておく |
| 本人の代わりにすべて決める | 選択肢を整理し、本人が決められるよう支える |
いつもの意見の違いや家族間の衝突を、すべて病気のせいにしないことも大切です。家族が気づいた変化は診断ではなく、相談のための情報として扱います。

2.声かけは、病名ではなく具体的な事実から
心配を伝える時は、病名で決めつける表現を避け、家族が見聞きした事実を短く伝えます。問いかけた後は、すぐに答えを求めず、本人が考える時間も残します。
- 観察した事実:「ここ3日、寝る時間が午前3時を過ぎているね」
- 家族の心配:「体調が崩れていないか心配している」
- 本人の感じ方を確認:「自分ではどう感じている?」
- 小さな提案:「主治医へ電話する、一緒に早めに受診する、今日は休む、のどれがよさそう?」
「また躁なの?」「どうしてできないの?」ではなく、「最近、眠れている?」「食事や入浴が難しそうだけれど、今できそうなことはある?」と尋ねます。本人が話したくない時は、緊急性がなければ「今は答えなくて大丈夫。話せる時に聞かせて」と一度引くことも協力です。

3.元気な時に「協力の仕方」を相談しておきます
調子が大きく崩れてから初めて話し合うのは、本人にも家族にも負担です。比較的落ち着いている時に、次の項目を一緒に決めておくと、変化に気づいた時の迷いを減らせます。
- 本人が気づきやすい早期サインと、家族が気づきやすい変化
- 受け取りやすい声のかけ方、避けてほしい言葉
- 家族が主治医へ連絡する目安と、連絡前に本人へ伝える方法
- 夜間・休日を含む相談先と、受診に付き添う人
- 睡眠、仕事、運転、買い物などで、一時的な支えが必要になる場面
- 家族だけでは対応しない危険の目安
制限や管理が必要になりそうな項目ほど、本人の同意を得て、目的、期間、見直す時期を具体的にします。本人の同意なく家族が一方的に決める方法は、信頼関係を損ないやすいため慎重に扱います。
4.本人が相談を望まない時
緊急性がない時は、受診を力で押し切るより、心配の根拠を具体的に伝え、負担の少ない選択肢を提案します。「次回予約を少し早める」「電話で相談する」「家族だけが地域の窓口へ相談して対応を考える」など、最初の一歩を小さくできます。
同じ話を何度も迫ると対立が強くなることがあります。「今日はここまでにする。ただし、眠れない日が続く、自分や誰かを傷つける考えが出るなど安全が心配な時は、外部へ連絡する」と境界線を共有しておきます。
5.家族も抱え込まないでください
家族が休むこと、外出すること、仕事や自分の生活を守ることは、本人を見捨てることではありません。家族が疲れ切る前に、役割を分け、相談先を増やします。
- 家族の中で連絡係、通院同行、家事などを一人に集中させない
- 主治医や医療機関へ、家族として困っている具体的な状況を相談する
- 保健所、精神保健福祉センター、地域の相談窓口を利用する
- 家族会や家族向け心理教育で、病気と対応を学び、経験を分かち合う
- 「夜は電話に出ない」「暴言が続く時はその場を離れる」など、できる範囲を決める
相談する時は、「大変です」だけでなく、「この3日、睡眠が少なく、夜中の連絡と買い物が増えた」「私は一晩中対応して眠れていない」のように、期間、変化、家族への影響を伝えると状況を共有しやすくなります。

6.危険が迫る時は、説得より安全を優先します
次の対応は、双極症のある人を一般に危険とみなすためのものではありません。自傷、他害、暴力、強い混乱など、まれでも緊急性の高い状況で、本人と周囲の安全を守るための対応です。
差し迫った危険がある時
- 本人との距離を取り、子どもや同居者を安全な場所へ移します。
- 怒鳴り合い、言い負かすこと、無理な身体拘束、危険物を一人で取り上げることは避けます。
- 救急車が必要な生命・身体の危険は119番、事件や暴力など警察の緊急対応が必要な時は110番へ連絡します。
- 可能なら、診断名、服薬、直近の睡眠、危険な言動、現在地を簡潔に伝えます。
- 落ち着いた後に、責めるのではなく、連絡先と支援体制を見直します。
今この瞬間に危険がある場合は、この記事より安全確保と緊急通報を優先してください。
緊急ではないものの、死にたい気持ちや自傷への心配がある時は、主治医、地域の精神保健福祉センター、厚生労働省の「こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」などへ早めに相談します。対応時間は地域によって異なります。

7.家族で作る「協力メモ」
全部を一度に決める必要はありません。本人と家族が、話しやすい項目から書いてください。
私に出やすい早期サイン:______________
家族が気づきやすい変化:______________
してほしい声かけ:______________
避けてほしい言葉・対応:______________
相談を提案する目安:______________
主治医・医療機関:______________
夜間・休日の連絡先:______________
家族だけでは対応しない危険の目安:______________
家族自身の相談先・交代できる人:______________
このメモを見直す日:______________
まとめ
家族は、本人を監視する人ではなく、本人の選択と尊厳を守りながら相談につなぐ協力者です。病名で決めつけず、睡眠や行動の変化を具体的な事実として伝えます。元気な時に、受け取りやすい声かけ、早期サイン、連絡先を一緒に決めておくと、変化があった時の迷いを減らせます。
家族自身にも、休息、境界線、相談先が必要です。危険が迫る時は、家族だけで説得や制止を続けず、安全な場所へ移り、医療機関や緊急窓口へ連絡します。家族も本人も、一人で抱え込まないことが大切です。

振り返り質問への回答と考えるヒント
動画の最後に考えていただく二つの質問を振り返ります。

Q1.家族が「監視役」ではなく「協力者」になるとは、どのような関わり方でしょうか?
回答:家族は、本人の行動を細かく監視する役ではありません。普段との違いに気づいた時に、責めるのではなく事実を共有し、必要なら相談につなげる協力者になることができます。
例えば「また躁なの?」ではなく「最近、眠れている?」と尋ねるなど、病名で決めつけず具体的な変化について話す方法があります。また、家族自身が疲れ切ってしまわないよう、家族にも相談先や支えが必要です。
Q2.本人が受け取りやすい声かけと、家族自身が無理をしすぎないための工夫には、何がありそうでしょう?
この問いには一つの正解はありません。例えば、次のような視点で考えることができます。
- 本人にとって受け取りやすい言葉は人によって違います。
- 元気な時に「どう声をかけてほしいか」を一緒に決めておく方法があります。
- 危険が迫る状況では、普段のルールより安全確保を優先します。
参考文献・参考資料
- 日本うつ病学会 双極症委員会『双極症とつきあうために Ver.11』2024年
- 日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』2023年
- National Institute for Health and Care Excellence. Bipolar disorder: assessment and management (CG185). Updated 2025.
- National Institute for Health and Care Excellence. Families and carers.
- 厚生労働省『全国の精神保健福祉センター』
- 厚生労働省『電話相談|自殺対策』
- 総務省消防庁『119番緊急通報』
- 警察庁『事件・事故に関する110番と相談窓口』
相談先や対応時間は変更されることがあります。公開時および利用時に、各機関の最新情報をご確認ください。
知識は、本人や家族を責めるためではなく、互いを理解し、守るために使うものです。
次は、どこを学びますか?
次の第28回では、「双極症と妊娠・出産・家族のこと」を扱います。妊娠を考え始めた段階から相談する理由、薬と再発予防、睡眠や産後の支援体制について整理します。
「双極症の動画図書館」は、最初から順番に見なくても大丈夫です。今の自分に必要なテーマからご覧ください。

双極症の動画図書館シリーズについて
双極症の動画図書館シリーズは、YouTube動画とWeb解説コラムで構成しています。
- YouTube動画はテーマごとに要点を5分程度の短い動画でまとめています。
- Web解説コラムはYouTube動画と対応して、動画の解説、補足説明をしています。






さらにキーワードで検索したい方はこちら!
