双極症の動画図書館:第29回 家族や周囲にどう伝える?――病名だけでなく「早期サイン」と「お願い」を具体的に

双極症の動画図書館 第29回

双極症のことを家族、友人、職場、学校などへ伝える時、「どこまで話すのか」「言わないほうがよいのか」と迷うことがあります。病名だけを伝えても、相手には具体的な支え方が分からないこともあります。

全員に、病歴のすべてを話す必要はありません。何のために、誰へ、どこまで伝えるかを自分で選び、自分に出やすい早期サインと、してほしいこと・避けてほしいことを生活の言葉で共有すると、協力につながりやすくなります。

目次

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このコラムについて

このコラムは、健康・医療情報を読むための一般的なヒントです。特定の情報源が常に正しい、または常に間違っていると判定するものではありません。診断や治療方針、薬の変更・中止は、個別の状態を確認できる医療者と相談してください。

最初に要点

  • 伝える相手、目的、範囲は自分で選びます。
  • 病名より、「いつもと何が違うか」を具体的に伝えます。
  • 「調子が悪い時は助けて」ではなく、行動にできるお願いを1つか2つに絞ります。
  • 共有先、共有方法、緊急連絡先、見直す時期を決めます。
  • 安全や差別への不安がある相手へは、一人で無理に伝えず支援者に相談します。

1.まず「誰に、何のために」を決めます

伝えるかどうかは、基本的に本人が決めます。誰にも同じ内容を話す必要はありません。相手と目的によって、伝える範囲を変えられます。

相手の例伝える目的の例共有する内容の例
家族・パートナー変化に早く気づき、相談へつなぐ早期サイン、声かけ、受診の目安、連絡先
信頼できる友人返信や予定が難しい時の理解を得る返信を急かさない、予定を減らすなどのお願い
職場の窓口安全に働くための調整を相談する仕事上の影響、必要な配慮、連絡窓口
学校の支援窓口修学上の配慮を相談する学習上の困りごと、必要な調整、医療機関の書類の有無

その相手が秘密を守れるか、話したことで安全が脅かされないかも考えます。家庭内暴力、強い偏見、職場での不利益な取扱いなどが心配な時は、一人で伝えず、主治医や地域の相談機関、職場の産業保健スタッフなどと先に方法を考えます。

全員に話す必要はありません。安全とプライバシーを考え、必要な範囲を選びます。

2.病名よりも、「いつもとの違い」を伝えます

早期サインは、大きく調子を崩す前に現れる、その人なりの変化です。「双極症です」という病名だけより、自分に出やすい変化を具体的に伝えると、周囲は声をかけるタイミングを判断しやすくなります。

  • 気分が高まる前の例:眠れない日が続く、予定や連絡が増える、話し続ける、買い物が増える
  • 気分が落ち込む前の例:動けず返信できなくなる、食事や入浴が難しくなる、自分を強く責める
  • 両方に関わる例:睡眠時間がいつもと違う、酒量が増える、薬を飲み忘れる、学業や仕事のリズムが崩れる

例は人によって異なります。「このサインがあるから軽躁だ、うつだ」と周囲が診断するのではなく、「普段と違うことが起きている」と気づく手がかりとして使います。

病名だけでなく、自分に起こりやすい「いつもとの違い」を共有します。

3.「お願い」は、相手が行動できる言葉にします

「調子が悪い時は助けて」だけでは、相手は何をすればよいか分かりません。「何が起きたら」「誰が」「何をするか」に分けて、小さな行動にします。

サインしてほしいこと避けてほしいこと
眠れない日が続く予定を減らすよう声をかけ、主治医への連絡を勧めてほしい「元気だから大丈夫」と予定を増やさないでほしい
返信できなくなる返事を急かさず、必要な連絡を1通にまとめてほしい何度も連絡したり、怠けていると責めたりしないでほしい
普段と違う買い物や行動が増える「最近、眠れている?」と事実から声をかけてほしい「また軽躁だ」と決めつけたり、怒鳴ったりしないでほしい

お願いを一度にたくさん決めると、本人にも相手にも負担です。まずは「予定を減らす声かけ」「受診を勧める」など、重要な1つか2つから始めます。

責める言葉ではなく、周囲が行動にできる「お願い」を決めます。

4.比較的落ち着いている時に、短く伝えます

調子が大きく崩れている時や、相手が急いでいる時は、大切なことを話すのに向かないことがあります。比較的落ち着いている時に、人目を避けられる場所で話します。口頭が難しければ、メモやメッセージでも構いません。

伝え方の例

家族へ:「気分の波を大きくしないために治療中です。眠れない日が続いたら、予定を減らすよう声をかけてほしいです」

友人へ:「調子が落ちると返信できなくなることがあります。返事を急かさず、数日待ってもらえると助かります」

病名を今は伝えない場合:「体調のために通院中です。詳しい病名は今は話しませんが、睡眠が崩れると体調に影響するので、遅い時間の予定を避けたいです」

共有範囲を確認する時:「この話は、今は○○さんまでにしてください。別の人へ伝える必要が出たら、先に私に確認してください」

相手はすぐに理解できないかもしれません。一度ですべてを説明しようとせず、相手の反応を見ながら段階的に話します。不適切な言葉や干渉が続く時は距離を取り、別の信頼できる人や専門職へ相談します。

5.職場や学校では、「機能上の困りごと」と「必要な配慮」を中心に

職場や学校では、病歴のすべてを広く説明するのではなく、必要な窓口へ、仕事や学習にどのような影響があり、どのような調整があれば続けやすいかを伝えます。

  • 上司、人事、産業医、産業保健スタッフ、障害学生支援窓口など、まず指定の相談窓口を確認します。
  • 残業や夜勤の調整、通院時間の確保、休憩場所、課題の期限、連絡窓口の一本化など、具体的な配慮を相談します。
  • 情報の利用目的、共有する人、保管方法、必要な書類を確認します。
  • 配慮の内容や手続は、組織、仕事・修学の内容、本人の状況によって異なります。口約束だけでなく、決まった内容を書面で確認すると安心です。

病歴や診療情報は、特に配慮を要する個人情報です。情報を渡す時は、必要性と共有範囲を確認し、分からない時は組織の窓口や外部の支援機関に相談してください。

6.「サインとお願い」の一言メモを作ります

話した内容は、体調や環境に合わせて見直します。まずは1枚に納まる範囲で構いません。

共有方法と緊急連絡先を書き、本人の同意を基本に定期的に見直します。

このメモを共有する人:____________

共有する目的:____________

私に出やすい早期サイン:____________

してほしいこと:____________

避けてほしい言葉・対応:____________

主治医への相談を勧める目安:____________

主治医・医療機関:____________

夜間・休日・緊急時の連絡先:____________

本人の同意がなくても安全確保を優先する状況:____________

見直す日:____年__月__日

メモは本人の同意なく広く共有しません。ただし、命や身体に差し迫った危険がある時は、プライバシーより安全確保を優先します。救急車が必要な命・身体の危険は119番、事件や暴力など警察の緊急対応が必要な時は110番へ連絡します。

まとめ

家族や周囲への伝え方は、全部を話すか、何も話さないかの二択ではありません。伝える相手と目的を自分で選び、必要な範囲で、早期サインと具体的なお願いを共有します。相手によって伝える範囲を変えて構いません。

「何が起きたら、どう助けてほしいか」を一言メモにし、連絡先、共有範囲、見直す日も決めます。安全が心配な相手へは一人で無理に話さず、信頼できる人や支援者と一緒に伝え方を考えてください。

伝える範囲、早期サイン、してほしいこと、緊急時の連絡方法を決めます。

振り返り質問への回答と考えるヒント

動画の最後に考えていただく二つの質問を振り返ります。

自分なら、誰に、どのサインとお願いを伝えるか考えてみましょう。

Q1.家族や周囲に伝える時、病名だけでなく「サイン」と「お願い」を具体的に共有するのはなぜでしょうか?

回答:病名だけを伝えても、周囲の人には「具体的に何をすればよいか」が分かりにくいことがあります。そこで、本人に起こりやすい早期サインと、してほしいこと・してほしくないことを具体的に共有すると、実際の場面で協力しやすくなります。

例えば「眠れていない時は予定を減らすよう声をかけてほしい」「強く責めるのは避けてほしい」など、生活の言葉で伝えることができます。

Q2.あなたが周囲に「こういう時は声をかけてほしい」「これは避けてほしい」と伝えるなら、どんな内容でしょう?

この問いには一つの正解はありません。例えば、次のような視点で考えることができます。

  • 誰にどこまで話すかは本人が決めて構いません。
  • 家族、友人、職場など、相手によって伝える範囲を変えてもよいでしょう。
  • 「お願い」は一度にたくさん決めず、一つか二つから始めても十分です。

参考文献・参考資料

  1. 日本うつ病学会 双極症委員会『双極症とつきあうために Ver.11』2024年
  2. 日本うつ病学会『診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』2023年
  3. 厚生労働省「こころの耳」『管理職が知っておくべき個人情報保護と安全配慮義務とは?
  4. 個人情報保護委員会『医療・介護関係事業者において取り扱う「要配慮個人情報」の例
  5. 厚生労働省『合理的配慮指針
  6. 日本学生支援機構『大学等における合理的配慮の基本的な考え方
  7. 総務省消防庁『119番緊急通報
  8. 警察庁『事件・事故に関する110番と相談窓口

使える制度、必要書類、相談窓口、対応時間は変更されることがあります。公開時および利用時に、各機関の最新情報をご確認ください。


次は、どこを学びますか?

「双極症の動画図書館」は、最初から順番に見なくても大丈夫です。今の自分に必要なテーマからご覧ください。

今の自分に必要なテーマから学べます。

双極症の動画図書館シリーズについて

双極症の動画図書館シリーズは、YouTube動画とWeb解説コラムで構成しています。

  • YouTube動画はテーマごとに要点を5分程度の短い動画でまとめています。
  • Web解説コラムはYouTube動画と対応して、動画の解説、補足説明をしています。

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この記事を書いた人

NPO法人ネット心理教育ピアサポート 代表
双極性障害、ADHD当事者で薬剤師。
起業と株式上場経験あり。

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